翌朝。呪腕さんが、西の村の頭目を連れてきた。
「このたびの助力、感謝の言葉しかありません。私は西の村を預かる山の翁、百貌のハサ――んんんんんんん!?」
どこかで見たようなハサンがオレたちの顔を見ると大声を上げた。
「なにぃぃいい――――!? 貴様はあの時の――――――!!!!」
オレもまた思い出す。彼女は、砂漠でニトクリスを攫っていたハサンだった。仮面の下の顔を覚えている。あまりの怒りにぷるぷると震えているから仮面がずれてしまっている。
きっと外れるなと思う。それくらいの予測はわけもない。
「おや。既に知り合っていたとはこれは話が早いですな。ははははは――」
――呪腕さん、それはわかっていっているだろう。
笑いが全てを物語っている。
「――断る」
そして、もはや仮面を外した百貌のハサンは全てをぶった切って断ってきた。どうしてそうなったのかを説明するならば、共闘の申し出を断ってきたのだ。
昨日話を通して、もうほとんど共闘という流れになったそうだが、まさか共闘する相手がオレたちであったから彼女は信用できないと断ってきた。
「村人たちの手前、ここで殺さないだけでもありがたく思え」
もてなしはない。食料にも困っているのだから。村人などもう三日はわずかな水と塩しか口にしていないという。確かにそれではもてなすことなどできない。
というか、それでもてなされてしまったらこちらが申し訳がなさすぎる。
そもそも信用なんぞしていないからな! といった百貌のハサンの威嚇に嘆くのは呪腕のハサンだった。素顔を晒してまでの威嚇にただ嘆かわしいと目を細めている。
あれは仕方ないだろう。あちらの異常も、エジプトの事情も何も知らなかったのだから。不可抗力として処理してくれるとありがたいのだが、それが処理できないこともあるのだということもわかるのだ。
彼女はそういう人物だから。観察した限りでは、相当に根に持つタイプだアレ。陰湿で意固地で、恨みがましい。ただ計算高い場所もあるはずだが、こうなってしまうと一筋縄ではいかないから、とりあえず懐柔作戦から行こうと思う。
ああいうタイプは意外に落としてしまえば、かなり扱いやす――いや、可愛いタイプ――あれ?
何やら思考がおかしい気がするがまあいいだろう。ともかく懐柔策として朝からアーラシュに動いてもらっていた。今は夜、準備は万全だ。
待っていろよ百貌のハサン、ふっふっふっふ――。
「先輩が悪い顔してます」
「ああ。ありゃ性悪の顔だな。何か企んでやがる」
――ぐはっ……
マシュ、マシュに悪い顔って言われた。
「よし、鬱だ、死のう……」
「先輩いぃいいい!?」
まあ、冗談はさておき。
「なんだ、何を言われようとも貴様らと共闘などごめんだ。おまえたちのおかげで私は散々だ! 念入りに計画したニトクリス拉致計画を邪魔され、あまつさえ素顔まで晒され……!」
さらに、そんな怨敵に助けられたという役満達成。
「初代様に知られれば間違いなく罰を受けよう! 私は絶対にこやつらとは共闘しない!」
なんだろう、こうあのよくある女騎士を思い出すなぁ。
私は絶対、おまえたちには負けない! って言って、すぐに堕ちちゃうあれ。
「まあまあ、とりあえず落ち着いて。はい、ごはん」
「これが落ちつけるか! っておい、なんだこれは!」
「なにって、ゲテモノ料理ですがなにか!」
「どこにそんなものがあった!」
「アーラシュさんに採ってきてもらいましたがなにか!」
「おーう。村人にふるまってきたぜー。みんなガツガツと食ってるところだ。いやー、たくさんとってきて正解だったな」
「なん……だと……」
懐柔作戦その1、餌で釣ろう(物理)
この村が困窮しているのは朝の時点でわかっていたから、アーラシュさんには食べられそうなゲテモノとベディヴィエールと一緒に探しに行ってもらっていたのだ。
あとはオレが調理した。どんなゲテモノでも栄養は同じ。要はうまく、ゲテモノを隠すこと。味は、調味料とハーブでしっかりと隠してある。
もちろん、食べやすいように細かく切ってぐつぐつに煮込んで柔らかくしたほとんど水のようなスープだ。味はしっかりと出ているが、薄味で量だけは多く作った。
三日も塩と水だけの生活をしていたところにいきなりご飯を食べさせるとショックで死ぬことがあるとさんざん昔ノッブに言われたのだ。
飢餓状態の時は、かゆが良い。本当ならお米を使ったおかゆとかを作りたいのだが、お米がないからスープで我慢して、大量に作ったのだ。
水は、クー・フーリンのルーンでどうにかした。
「……ふ、ふん……このような食事を出したところで共闘すると思ったか」
――チラッチラッとスープを見てたら世話ないな。
「そ、それよりもだ。あやつのことだ」
「何か進展が?」
「いいや。ない。このままでは死ぬだけだろう。あやつに限り口を割るコトはないと思うが……円卓には拷問の達人もいると聞く。あやつが死ぬ前に我らの計画を漏らせば、もはや反撃の機会はなくなるだろうな……」
――ふむ、懐柔作戦その2はこれで決定だな。
話を盗み聞きした限り、反撃作戦の内容を知る者が捕えられているらしい。口ぶりからすると山の翁のはずだ。ならば、その山の翁を助け出せば信じてもらえるかもしれない。
信用とは積み重ねだ。小さなことでもこつこつと積み上げれば、彼女も信用してくれるだろう。いいや、信用させるのだ。
「話は聞かせてもらった!」
だから、インバネスを翻して大仰に言う。
「だれかは知らないがつかまっている仲間がいるのなら助けて見せよう。単独行動に秀でて、複数のサーヴァントを使役しているオレなら戦力になるだろ」
「――ぐ、ぐぐぐぐ……」
これ以上ない助っ人であることがわかるのだろう。彼女は計算高いと呪腕も言っていた。ゆえに、共闘したくないという心と、ここは提案を受けるべしという心が戦いを繰り広げているのだ。
「まあ――まずは事情を説明しましょうか。率直に言いますと山の翁の一人が敵に捕らわれているのです。これがほかの山の翁であれば心配はありませぬ。敵に捕らわれた時点で命を絶っているでしょう。ですが、今回囚われた山の翁は年若く、また、自分で自分を殺せぬ厄介な体質――」
「救い出さないとこちらの情報が洩れる可能性があるのか」
しかも、そのハサンが収容された砦は円卓の砦であり、攻め落とすことが難しいのだという。少数精鋭による侵入も試みたが帰ってきた者はいまだにいない。
それほどまでに厳しいということ。
「よし、任された」
答えなんて決まっている。勝つためには、彼女たちの協力が必要不可欠なのだ。
「二度も我らの窮地を救えば、信用に足るだろう百貌の」
「しかしだな――」
「なら、ベディヴィエール卿を人質にするのはどうかな」
「先輩? ――!! そうです。わたしたちのリーダー格であるベディヴィエール卿を人質にしてください! 具体的には横になるコトしかできないぐらい、厳重な見張りを立てるとか!」
ベディヴィエール卿は未だ眠りの中にある。それほどまでに彼の消耗は酷いのだ。
「う、うむ? ま、まあ、あの円卓の騎士ならばつり合いが取れよう」
「よし、なら行こう」
つかまっているハサンを助けに行く。
百貌のハサンの案内で山道を進む。村の守りにアーラシュとクー・フーリンを残していく。クー・フーリンはルーンで治療をしているとは言えどすぐには動けない。実質的には休んでもらうのだ。
マシュ、呪腕、百貌、式。少数精鋭でオレたちは砦へと向かった。夜の間歩き続け、朝になる頃には砦の裏手へと差し掛かる。
しかも天はこちらに味方したようで、砂嵐が吹き荒れている。
「これなら見つかることはありませんね」
「そうだね。目が痛い」
「大丈夫ですか? 盾の後ろに入りますか。具体的にはこことかどうでしょう」
「ああ、ありがとう」
ハサンたちのおかげで砂嵐でも自分たちの場所を見失わずに済んでいる。彼らがいなかったらと思うとぞっとする思いだ。
「ちょっと待って、サーヴァント反応だ!」
「なんだとぉう!?」
「ドクター? どんな反応?」
「すごいというか、面白い反応?」
「面白い?」
曰く、キラキラしていて、それでいてふわふわしていて、でもがっしりしている。
意味が解らない。ただなんだろう。それを聞いて1人脳内に思い浮かんだサーヴァントがいる。
彼女の姿を思い浮かべた瞬間――、
「きゃああああああああ――っ!」
どこかで聞いた悲鳴が響いた。
「たすけてぇ―――! 誰かなんとかしてぇ――!」
――お師さんの声だこれええ!?
――これは助けに行くしかない。おっぱいが、あいや、お師さんが待っている!
「行くぞおまえら!!」
「躊躇もなしに行くのか! 本当に愚か者だな!」
突撃突撃。そこにいるのが誰かわかっているからこそ、突撃。敵集団を殲滅する。思わず本気を出しかけた。危ない、あと一歩踏み込んでいたら、ちょっと何かが飛んでいたかもしれない。
「うう、ひっく……こわかった……こわかったよう……」
オレに抱き着いてきて、泣きじゃくるお師さん。
――ダビデ、オレは、やったんだ……。
って、ちがーう!! 豊かなおっぱいに気を取られてる暇なんてないんだ
「なんで……人が弱っているときに限って、こうぐわーっと襲ってくるのよぅ……? うぅ、ふぇぇん……」
「いやー、たぶんお師さんだからじゃないかなーと」
「だから、何もしてないのに。ちょっと水場を独り占めしてただけなのに」
「たぶんそれだと思いますお師さん」
「お師匠って呼びなさいって――弟子――!?」
ようやく気が付いた。まったく遅いというか、記憶ちゃんと残っているのがうれしく思う。
ぐずぐず泣いて顔がぐちゃぐちゃなのが、お師さんらしいというかなんというか。でも、嬉しいと思った。この特異点に来てから初めて、嬉しいと思った気がする。
「もぉーーう!! 遅いのよ弟子――! あたしが困ってたら来るのが弟子でしょう!」
「いや、そう言われてもね。これでも急いできたというか。なんというか」
「でもいいわ。うん、ちゃんと来てくれたし。助けてくれたし。そういえばダ八戒は? 李悟浄は? 呂布兎馬は?」
「ダ八戒はいるけど、李悟浄と呂布兎馬はお休み?」
「そっか。それじゃあ、仕方ないわねー。いいわ。新しい弟子もここで見つけたから今回は彼に乗りましょう」
「その弟子は?」
「つかまっちゃった……」
その時のことを思い出したのだろう。ぶわっ、と涙を浮かべるお師さん。これ以上泣かれて服を汚されるのもアレだし。
「とりあえず落ち着いて、ね三蔵ちゃん。はいチーン、しよ、チーン」
鼻をかんであげてぐちゃうぐちゃの顔を拭いて。
「これで良しっと――ん? どうしたのマシュ」
「……いえ、ずいぶんと仲がよろしいんですね」
「まあ、天竺まで旅をしたからね」
彼女とは数か月一緒に旅をした。
思い出される彼女との旅。
風呂、おぱーい。風呂、おぱーい。戦い。
「実に素晴らしい旅であった……」
「…………」
むぅと可愛らしくうなってるマシュ可愛いなぁ。
「あ、その子が弟子が大切な人って言ってたマシュ?」
「た、大切だなんて!!」
「本当に可愛い子ね……ん、マシュもお弟子決定! さあ、行くわよ新弟子たち!」
「行くってどこへ?」
「あたしはこの世界を救うために呼ばれた。だけど、まずは弟子を助けるために砦に行くのよ!」
なんという偶然。オレたちの目的地も砦。
「うん、目的地も一緒だし。行こう」
新しい仲間、三蔵ちゃんも加わって、賑やかになる。
「ホントはえこひいきしちゃダメだけど、あたし、全力で弟子の力になるからね!」
心強い。彼女の強さは良く知っているから。
――あれ? 強さ……。
――ま、まあ、うん。大丈夫大丈夫。
旅の間中、泣いて叫んで、笑っておっぱいが揺れてたのしか覚えてない……。
でも、彼女の強さはそういう武力の強さとかとは別の次元の話だから問題はないだろう。彼女の強さはその太陽のような性格なのだから。
とてもまぶしい彼女という存在そのものこそが彼女の強さだ。
「というわけで、百貌さん、呪腕さん、新しい仲間が増えました」
「な、なんだかわからんが、戦力が増えるのはいいことだ。うん」
「なんとあの三蔵法師とは、いやはや光栄ですなぁ」
「え、なに髑髏、怖い」
「大丈夫ですよお師さん。怖くない怖くない。寧ろ、とてつもなくいい人だから」
「そう?」
そうそう、と言いながら先へ進む。砦はもう目と鼻の先に見えていた。
「あ、そうだ弟子弟子ー」
「なんです?」
「無茶は駄目だからね! このあたしがいる間は、絶対にダメだからね!」
そう人差し指を立てられながらびしぃいと言われてしまった。
お師さんにはやっぱり、かなわないなと思った。
お師さん登場。うちの小説では記憶あり。なぜかって、そっちの方が愉悦できるからに決まっているではありませんか。
しかし、お師さんってすごいなぁ。いるだけで小説の雰囲気が明るくなったよ。しかも、みかこしの声って私脳内再生余裕過ぎて、はかどるはかどる。
いいわー、お師さんいいわー。だから、うちのカルデアにはようきてくれていいんですよ。お師さん。キャスターが飽和してるとかどうでもいいから、うちに来てくださっていいんですよ。
ハロウィンイベント。間違えてキャンディー交換しちゃったぜ。間違えたよ。ええ、間違えました。くそう。
使い道なさ過ぎてまあ、記念品としてとっておくことにします。
ライト版だけあって楽ですが、ドスケベ公が礼装くれません。まあ、もう凸してるんですが、ここまで来たら二枚目凸したい。メイドも凸したい。
だから、速く、ドスケベ公、はよう礼装ちょうだい。