俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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前回までのあらすじ。

 留美とゆっくり話をして、八幡と雪ノ下は彼女を救いたいという思いを強くした。その他の面々も各人なりの悩みや考察を抱えながら合流して、教師を交えての話し合いが始まった。

 三浦の提案に続いて葉山がプランを語り、雪ノ下も自説を主張する。まとまる気配のない話し合いの中、ついに八幡が口を開いた。



14.やっとの思いで彼は何とか自説を通す。

 平塚静に引き連れられて、比企谷八幡と雪ノ下雪乃は引率者向けのログハウスに足を運んでいた。その他の生徒たちは小学生と鉢合わせにならないように、彼ら二人が鶴見留美と会っていた研修室で夕方のための準備に勤しんでいる。

 

 由比ヶ浜結衣が「こっちは任せて」と力強く請け負ってくれた姿を二人は思い出していた。彼女がそう言ってくれたからには、こちらもしっかり支度しなくてはと気合いを入れる。

 

「では……転移門(ゲート)を開くでありんす」

 

 何やら芝居がかったセリフを口にする平塚先生を軽くスルーして、二人はログハウスの二階が別の部屋と繋がる光景を静かに眺めていた。

 

 今回のボランティアは学校行事に準じる形で、教師引率のもとで行われている。運動部と文化部の間にあるわだかまりを解きほぐすために、半ば公的な行事という形にして後々利用しようと考えた平塚先生の取り計らいだ。それが思わぬ形で功を奏した。

 

 私的な活動ではないために、千葉村へと来訪した生徒たちは移動教室と同じ扱いになる。つまり教師の権限によって合同教室を作れる状態にあり、平塚先生は遠く離れた総武高校の教室と、具体的には彼女の管理下にある奉仕部の部室とログハウスの二階とをリンクさせた。

 

「あの時のクイズを思い出すわね」

 

「俺はあの問題を間違えたから、あんま良い記憶じゃないけどな。実際に自分でやってみると、高校に戻る時間が0で済むって便利なもんだな」

 

「貴方が不正解になった問題は大勢に影響を及ぼさなかった上に、最後の問題で一人勝ちしたのだからそれほど気にしなくても良いと思うのだけれど」

 

 相手をたしなめるようなことを言いながらも、自分もまた八幡が出した最後の問題を落としたことを悔しがるような口調で雪ノ下が応じる。同じような部分に拘っているなと苦笑しながら、八幡は自分の思いを口にした。

 

「なんて言うか、例えばお前が98点の答案を見て減点2点を悔やむようなもんじゃね。他の部分は完璧でも、完璧だからこそ悔やむ、みたいな」

 

「なるほど。確かに今回は満点を目指したいところね」

 

「だな。予定通りに行っても不確定要素が残るから、せめてできる範囲は完璧にしとかないとな」

 

 お互いに頷きあった後で教師へと視線を送ると、平塚先生もまた生徒たちに軽く頷き返して身を翻し、階下へと姿を消した。

 

 それを見送った雪ノ下は八幡と並んで部室側の出入り口へと向かい、高校の廊下に続く扉をゆっくりと開いた。

 

 

***

 

 

 時は遡って、青少年自然の家の食堂にて話し合いが過熱していた頃。すぐ横に座る教師の視線に耐えかねて、ついに八幡が口を開いた。

 

「ちょっとお前ら、落ち着けって」

 

 しかし白熱した言い争いを続けている面々に八幡の小さな声は届かなかった。憮然とした表情の彼を見て噴き出しながら、教師が一つ大きな拍手を打つ。

 

「少し落ち着きたまえ。比企谷が何か言いたいことがあるみたいなので、聞いてやってくれないかな」

 

「先生に無理矢理けしかけられただけって気が……まあ良いですけどね」

 

 文句を言いながらも、慣れたポジションに戻れた気がして八幡は普段以上に冷静だった。自分の呼び掛けに応えて全員がぴたりと議論を止める光景を試しに想像してみると、それは何だか自分ではないみたいで落ち着かない。

 

 やはり俺はリア充にはなれないなと、どこか安心したような気持ちで、八幡は今から口にする内容を急いで検討する。葉山隼人の案と雪ノ下の反論。雪ノ下のプランと由比ヶ浜・海老名姫菜の反論。そして自分の計画をどう話すべきかを考えながら、まずは議論の収拾を目的に八幡は口を開いた。

 

「お前らがヒートアップしてるのって、状況が逼迫してきたって考えてるからだよな。確かに時間的な余裕は無くなってきたと思うが、だからってお粗末な案を実行するのも問題だよな?」

 

「それは、俺の案のことかな?」

 

 この期に及んでも笑顔を絶やさない葉山を八幡は疑わしげに眺める。この男のこうした部分が、話していて落ち着かない理由なのだと八幡は思う。下座から燃えるような視線を送ってくる女王様には気付かないフリをして、一つわざとらしくため息をついて八幡は口を開く。

 

「具体的な話はもうちょい後な。今のは単なる一般論だ。昨日の夜には合意できたことなんだが、俺たちには手に負えない状況でも無理矢理介入するって奴はいないよな?」

 

 全員の意思をいちいち確かめて、否定の確認によって八幡はまず主導権を確保する。ぼっちの時に自分がされて嫌だったことを応用しながら八幡は話を進めていった。

 

「じゃあ、急いで介入しないと当事者が危ういからって俺らが焦るのも無しな。冷静に、可能性が一番高いプランを選ぶ必要があると俺は思うんだが」

 

 反論しにくい形で話を進めつつ、八幡はプランの検討段階に入る。とはいえ時間が無いのも確かなので長々と議論をするつもりはなかった。客観的に見ても自案が一番効果的だと考える八幡は、自分のプランを全員に押し付けるつもりで話を進めていた。

 

 

「んじゃ、お待ちかねみたいなので葉山の案から行くか。雪ノ下の協力で得た正確な情報を前に出して、ってのは悪くはないと思うが。結局は、全員を集めて説得するって形と変わらないんじゃね?」

 

「全員に向かって情に訴えたり、道徳の授業にあるような理想論を言い聞かせて説得するのとは違うんじゃないかな。シンプルに真実を明るみに出せば、六年生ぐらいなら納得してくれると俺は思うんだけどな」

 

 おそらく、と八幡は思う。葉山の周囲は恵まれた家庭の子供たちばかりだったのだろう。生まれが良くても性格がねじ曲がることは珍しくないが、少なくとも葉山の前では全員が育ちの良い顔だけを見せていたのだろうと八幡は思った。

 

「大人や世の中を一番舐めてるのが小六ぐらいの連中だぞ。お前が思うほどあいつらが純真だったら、同じ班であからさまにハブるとかするわけねーだろ。真実を出せば錦の御旗になるってのは、ちょっと甘いんじゃね?」

 

「あ、えーと。さっきのゆきのんの反論とは、ちょっと違った面からの意見だよね。ゆきのんはヒッキーの話をどう思う?」

 

 八幡の鋭い口調が他の面々に悪い印象を与えないようにと、少し強引に由比ヶ浜が口を挟んだ。すぐ横では海老名が少し残念そうな表情を浮かべている。

 

 由比ヶ浜とて議論を先延ばしにできる状況ではないと理解しているので、少し目先を変えて話を進めようと考えたのだろう。自分が深い議論に加わるのは難しいと自覚できている由比ヶ浜は、頼れる友人に話を振った。

 

「私たちからすれば驚きの真実でも、多くの小学生たちは既に薄々知っていると思うのよ。だから比企谷くんが言う通り、それが錦の御旗になるとは私も思えないわね」

 

「意外な真実を突き付けるって形にはならねーよな」

 

「それでも、具体的にどんな行為があったのかを明るみにすれば……」

 

「それをされて、当事者が喜ぶと思うか?」

 

 この八幡の指摘にはさすがの葉山も押し黙る。海老名もまた不気味に押し黙っているが、どうやら噴出するまでは放置という扱いを受けている様子だ。

 

 葉山に同情の余地があるとすれば、彼はあまりにも過去に囚われすぎていた。小学生時代の雪ノ下の解決法が深く深く脳裏に焼き付いていた。関係者の全ての行為を究明して、その情報を突き付けて全員に屈服を迫った雪ノ下のやり方を、葉山は今でも鮮やかに思い出すことができる。だがそれは、雪ノ下が当事者だったからこそ可能な方法だったのだ。

 

「つーわけで、まず葉山の案はボツな。さっき雪ノ下が反論してたように、被害者の救済に繋がる保証がないこと。それから今話したように、場の空気も改善できる保証がないことがその理由な」

 

 八幡としては感情的な恨みが残らないようにと敢えて理由を明確にしたのだが、残念ながら彼の意図は葉山には伝わらなかった。下座から攻撃的な視線が飛んでこない辺り、炎の女王には何とか伝わっているらしい。

 

 他人の気紛れな感情に振り回されることが多かった八幡は、ぼっちだった頃にそれを理解することを諦めて論理に傾倒していた。だが人間は感情の動物である。自分なら「そう言われたら納得するしかない」と思える理屈でも、それで他人が納得してくれるとは限らない。

 

 自分よりも国語の成績が良く、難しい話題でも話のテンポが落ちないほどに地頭がよく、常に余裕のある笑みを絶やさず、たとえ弱音を口にしても品を落とすことのない男。リア充の頂点に君臨する葉山が内心では自分の説明を受け入れていないことを、八幡は想像すらしていなかった。

 

「……仕方ないね」

 

 だが、そう答えた葉山に、八幡はこの上ない違和感を覚えた。てっきり「俺もまだまだだな」的な弱音を吐いて、場の雰囲気を悪化させないように取り繕うのではないかと思っていたのだ。自分の知らない誰か別の男を見ているような感覚を覚えて、八幡は慌ててそれを打ち消す。余計なことを考えていられるほど時間の余裕は無いのだ。

 

 

 そうした八幡の内心を知らず、葉山は現実に打ちのめされていた。昨日の夜に「自分の手で解決する」という拘りは捨てたはずだった。午前中の休憩時には「自分のためではなく、被害者当人のために」という気持ちに至ったはずだった。

 

 しかし八幡に自説を却下された今、葉山はそれをなかなか受け入れられずにいた。机上で悟りを開けたと思うことと、現実を前にして悟りを開けることは別物なのだ。そのように自分の現状を客観視して言語化することはできるが、しかしそれでも感情は収まってくれない。

 

 葉山はふと、雪ノ下が部長会議を無事に終えた時のことを思い出した。彼女は実戦で結果を出したのに、自分は計画段階で挫折している。彼我の距離を自覚して、そこで葉山はようやく少し落ち着きを取り戻した。それでも追いかけるしか選択肢は無いと、葉山は自分に言い聞かせる。

 

 

 雪ノ下はそんな葉山の葛藤をある程度まで把握していた。姉には簡単にできることが、そして自分にも何とかできることが彼にはできない。そうした時に浮かべていたのと同じ表情をしていると雪ノ下は思った。

 

 少しだけ八幡に視線を送って、雪ノ下は内心でため息をつく。どうして男の子はこうなのだろうか。

 

 すぐ横に座っている比企谷小町が昨夜言っていた通り、八幡はどうでもいいことだと文句をぶちぶち言うくせに、大事なことや近しい人にとって深刻なことに対しては、何も不平を漏らさず真剣に向き合う傾向がある。

 

 そして葉山もまた、雪ノ下が知る限りでは似たような傾向がある。彼が弱音を吐くのは、彼にとってはどうでもいいことか、あるいは既に彼の中では解決済みのことばかりだったと記憶している。本気で現在進行形で悩んでいる場合に、彼は決して弱音を口にしない。

 

 分かりやすいと言えば分かりやすいが、こうした男の子の傾向は困ったものだともう一度だけ内心でため息をついて、雪ノ下は気持ちを切り替えて話を促すことにした。

 

 

「では次は、私のプランね」

 

 八幡の目をしっかりと見据えながら、雪ノ下は口を開いた。話し合いと銘打っている以上、他の参加者からも意見を募るべきなのだろうが、現状では時間が惜しい。自案の綻びを自覚して、そんなプランに拘るつもりもない雪ノ下は、目だけで八幡に遠慮は無用と伝える。

 

「まあ、あれだ。雪ノ下の負担が大きすぎるって由比ヶ浜の指摘にも頷けるし。海老名さんの、取り調べまがいの行動が取れるほどの権限が俺らには無いって指摘もその通りだよな」

 

「令状とかが簡単に取れたら良いけど、それはそれで怖い気もするし仕方がないよねー」

 

 好みのカードが終わってしまった現実を何とか受け入れて、名前が挙がった機会を捉えて海老名が口を挟む。八幡はそれに応えるべく口を開きかけて、ふと思い付いた仮定の話をそのまま言葉にしてみた。

 

「雪ノ下の尋問なら100%起訴まで行けそうだし、確かに怖いな」

 

「絶対やべーっしょ!」

 

 それに戸部翔が本心から賛同して、葉山の案を却下する前後で生まれた重苦しい空気が少し改善した。この機会を逃すまいと思ったのか、それとも気分で尋ねただけなのか。のんびりした口調で一色いろはが口を開く。

 

「あの〜。さっきからせんぱい、雪ノ下先輩や葉山先輩のプランを否定してますけど〜。他にプランってあるんですか?」

 

「あ、ぼくも八幡の案を聞いてみたいな」

 

 それに戸塚彩加も便乗してくれた。この先どんな話の流れで自説の説明に持っていけば良いのか内心で困っていた八幡は、あざとつ可愛い二人に片や少しだけ、片や大いに感謝しながら話を始めた。

 

 

「んじゃ、雪ノ下の案は一旦保留ってことで。つっても、どう説明したもんかな……」

 

「そういやお兄ちゃん、肝試しの代わりのイベントってどうなったの?」

 

 真面目な議論の場でもあり全員が年上という状況もあってなかなか口を挟めなかった小町が、肉親の気安さで助け船を出す。何だか上手く誘導されているような気持ちになって来た八幡だが、捻くれている場合でもないのでそちらから説明を始める。

 

「体育館に小学生を集めて、班ごとに色んなゲームを体験させるのはどうかと思ったんだが」

 

「貴方のことだから、状況を改善するためのプランと繋がっているのよね?」

 

「ま、ぶっちゃけその通りなんだが。察しが良すぎじゃないですかね?」

 

「それで、あたしたちはどうしたらいいの?」

 

 詳細を述べるまでもなく自分の案に従ってくれそうな奉仕部の二人に苦笑しながら、八幡は説明を続ける。

 

「トランプとか有名なゲームからマイナーなゲームまでを色々と混ぜて、各班が体験するゲームを抽選で決めてもらう形を考えてるんだわ。できれば適当にお前らにも参加してもらって、一緒に楽しくゲームしてるって感じで盛り上げてくれると嬉しいんだが。で、問題の班には、とあるゲームをしてもらおうと思ってる」

 

「それって、何か問題にならないよね。八幡が昨日……」

 

「まあゲームの中での話だからな。事件が起きてもゲームが終われば問題ないだろ」

 

 男子だけで会話をしていた昨夜、八幡が「事件でも起こすか」と口にしたことを思い出して戸塚が心配そうに口を挟んだ。それに対して八幡は反射的にどや顔で答えてしまい、その場の全員が思わず身を引いてしまった。

 

「比企谷くん。犯罪行為はさすがに認めがたいのだけれど」

 

「違うっての。要はゲームの中で、ハブってる連中の友情を破壊してやろうってだけなんだが」

 

 八幡の説明を聞いて、全員が更に半歩引いた状態で彼を眺めている。どう説明すれば伝わるのだろうかと考えながら、八幡は言葉を続ける。

 

「まず、ハブってる連中の繋がりを壊すことができれば、誰かが単独でハブられることもなくなるはずだ。これは別に良いよな」

 

「それって全員をぼっち状態に引きずり下ろすってことだよね。お兄ちゃん、どうやったらそんな発想ができるの?」

 

 補足を加えてくれているのか、それとも単に兄をディスっているだけなのか少し悩んだものの、八幡は深く追求しないことにして話を続ける。

 

「たまたま使えそうなゲームを知ってただけだっての。つっても俺もやったことはないから、詳しい奴に教えて貰うつもりなんだけどな」

 

「えーと、周りの小学生は楽しくゲームをして、その班だけが問題のゲームをするんだよね。ヒキタニくんもそのゲームに加わるってこと?」

 

「そのつもりだ。俺と、あと雪ノ下にも頼みたいんだが」

 

「それで状況を改善できる可能性があるのなら、私は構わないわ。小学生以外には私たち二人だけで良いのかしら?」

 

「小学生を合わせると七人になるからな。人数的には充分だろ」

 

「他の誰かじゃなくて、ヒキタニくんと雪ノ下さんがそのゲームに参加する理由を聞いても良いかな?」

 

「葉山には昨日言ったよな。お前らには向いてないってことと。あと、俺も雪ノ下も子供と一緒になって楽しく遊ぶのは苦手だからな。適材適所で考えただけなんだが」

 

「……意外にお兄ちゃんって、小さな女の子の相手をするの、上手な気がするんだけどなー」

 

 どこまで意図的なのかは不明だが、海老名や葉山が上手く口を挟んでくれたことで、八幡は何とか説明を進めることができていた。小町が小声で何かを呟いていた気もしたのだが、幸いなことに八幡の耳には届かなかった。

 

 とはいえ単発の質問に答えながら話を進める今の形には限度がある。そろそろ腰を据えて全体像を説明したほうが良いかと八幡が思い始めた矢先に、横に座る教師が口を開いた。

 

 

「比企谷。その説明だと皆も納得しないだろうし、ゲームの詳細と君の狙いをきちんと説明したまえ。その前に念の為に確認したいのだが、ゲームの中で小学生を脅すようなことはしないと約束できるかね?」

 

「暴力を背景に脅すとか、問題になるような行動はしませんよ」

 

「ふむ。君の言い方だと、問題にならない範囲では脅すと言っているようにも聞こえるのだが……。聞き方を変えよう。今の被害者と加害者の関係を打ち破るために、君が加害者を虐めるという形はとらないと、約束できるかね?」

 

「虐めに虐めを重ねるようなことは考えていませんよ。それに、あくまでもゲームの中での話ですし」

 

「なるほど。少し話が逸れるかもしれないが、良い機会だから全員に聞いて欲しい。先ほど比企谷が『大人や世の中を一番舐めてるのが小六ぐらい』と言っていたな。では小六ぐらいの子供たちには強引に力尽くで言い聞かせないと、具体的には体罰などを与えないと理解して貰えないと、そう考えてはいないかね?」

 

 教師が静かに一人ずつ全員の顔を確認するが、頷いた者はいなかった。体罰には皆が否定的な気持ちを抱いていると確認できて、平塚先生はほっとしたような表情で話を続ける。

 

「私の個人的な意見だが、体罰でしか解決できないという発想は集団による虐めと同じ発想だ。数を背景にする代わりに、暴力を背景に対象を支配して管理下に置こうとするわけだからな。君たちが大人になって、いつか親になった時にも、このことを覚えていて欲しいと私は思うよ」

 

「子供を支配して自らの管理下に置くことで、自らの所有欲を満たすような形はダメだと。そういうことですね?」

 

「雪ノ下のその解釈は少し極端な気もするが、自分はそんなことをしないと気を付けてさえいれば、それで良い。ここまで教えておけば君と比企谷なら暴走はしないだろうし、以後は詳しい話を打ち合わせたまえ。私はこれ以上口を挟まないことにするよ」

 

 その言葉を最後に傍観者に戻った教師にも自分の意図をしっかり聞かせるつもりで、八幡はゲームの内容と自分の狙いを丁寧に語った。雪ノ下の案に代わって八幡のプランが採用される運びになって、何とか話し合いは円満な決着を迎えた。




次回は月曜か火曜に更新する予定です。
ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。

追記。
細かな表現を修正しました。大筋に変更はありません。(7/15,7/26)
誤字報告を頂いて、礼状→令状に修正しました。ありがとうございました!(4/26)

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