俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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前回までのあらすじ。

 体育祭の運営委員会でも仕事をすることになった八幡は、その喜びを奉仕部の二人に知られぬよう、授業を真面目に受けることで感情を昇華していた。しかしそれは件の二人はおろか、戸塚にもバレバレだったりするのだが。

 初めての委員会には、雪ノ下と由比ヶ浜に加え三浦・海老名という校内屈指の面々が顔を揃えていた。それぞれの支持者を思い浮かべながら、八幡は「これらの勢力が互いに争ったら」と男子にありがちな思考に陥っていた。

 目玉競技を海老名と材木座に任せ、救護に放送と当日の役職を割り振っていく。運動部から出向の現場班には、当日だけ仕事を頼む方向で調整する。

 そんな風に順調に話を進めていた雪ノ下に、城廻が不安をぶつける。雪ノ下に負担を集中させたくないという城廻の思いは八幡と由比ヶ浜にも伝わって、そして運営委員会は動き始めた。



03.もれなく使える面々を集めて彼女は成功に向けて邁進する。

 前回の会議から一日おいた水曜日。放課後の会議室には、月曜日の倍以上の人数が集まっていた。喉を潤しがてら事前の打ち合わせのために集まった奉仕部の三人は、比企谷八幡命名によるベストプレイスを後にして、そこに向かう。

 

 雪ノ下雪乃を先頭に教室に入ると、たちまち不穏な気配が肌を刺した。委員長席に向かって左手下座に固まっている相模南の一派と、向かって右手の下座に集まっている文化祭実行委員会では渉外部門に属していた生徒たちの間に、冷ややかな空気が漂っている。

 

「運動部の委員が間に合わなくても定刻に始める予定ですが、それまでは各自、寛いでいて下さい」

 

 そうした雰囲気を歯牙にもかけず、自席に腰を下ろしながら雪ノ下はそう通達した。そのまま隣に並んで座っている城廻めぐりと平塚静の三人で、普通に打ち合わせを始めている。向かって右手上座に集う生徒会役員から苦笑が漏れた。

 

 左手上座の三浦優美子と海老名姫菜は慣れたもので、並んで座る川崎沙希にも時おり話題を振りながら、由比ヶ浜結衣を交えて雑談に花を咲かせていた。間に挟まれた八幡が居心地悪そうにしている。

 

 文実では奉仕部の三人と一番多くの時間を共にした渉外の生徒たちは、それを見て落ち着きを取り戻していく。先程までは苦労の記憶が先に立っていたが、八幡を見ていると準備に勤しむ充実した日々のことや大成功に終わった文化祭当日の想い出が脳裏に蘇る。相模グループと一緒に仕事をすることに難色を示していたものの、この奉仕部の三人が主導するなら大丈夫だと気を取り直した。

 

 そして面白いことに、渉外の面々が柔らかい雰囲気になったことにいち早く気付いたのは、その原因たる八幡だった。月曜日には「派閥を作ろうともしない」と雪ノ下を評したものの、自らが動かなくとも頭抜けた存在には勝手に派閥ができるんだなと納得顔だ。文実で一緒に苦労した連中やJ組の生徒たちこそが雪ノ下派の中核なのだろうと八幡は思った。

 

 そんな具合に前向きな姿勢の生徒たちが多数を占める教室にあって、相模グループの四人はふて腐れた表情で何やらぼつぼつと話をしていた。おそらく、どうでも良いような話題なのだろう。そこに相模は加わっていない。そばにいる四人や教室の反対側にいる渉外部門の一団や、時には雪ノ下や三浦の様子を窺いながら、落ち着きなく、きょろきょろと視線を動かしている。

 

「ごめん、遅くなった。ぎりぎりセーフ、かな?」

 

 教室の入り口から全員に向かって、爽やかに語りかける葉山隼人。その後ろには戸部翔と、大和と大岡もいる。

 

「遅れるかもしれないと事前に聞いていたのだし、定刻の一分前だから大丈夫よ。貴方たちは向こう側の机に回って欲しいのだけれど?」

 

 そう言って雪ノ下は、自身とは向かい合わせとなる下座の机を指差した。とはいえ上座や下座に大した意味はなく、誰も座っていないから、先日もそこに座らせたからというだけの理由だ。

 

「じゃあ、ぼくらもそっちだね」

 

 にこやかに頷いてそちらに移動する葉山以下の四人に続いて、更に三人の男子生徒が姿を現した。戸塚彩加の後ろには柔道部の城山、しんがりは材木座義輝だ。

 

 自分に向かって手を振ってくる戸塚に、ぎこちなく応えながら。八幡は初回の会議を思い出していた。

 

 

***

 

 

『葉山くんには首脳陣に加わって貰って、当日は放送ともう一つ。肩書きだけになると思うのだけれど、ある役職を担って欲しいと考えています。そして戸塚くんには、現場班の統率を任せたいと思っています』

 

 月曜日の会議に遅れて参加した二人に向かって、雪ノ下はそう告げた。生徒会でも話題になっていたとは後で知ったのだが、「運動部の統率を任せられるのが葉山だけ」という状況を、雪ノ下も城廻も不安視していたらしい。

 

 だから戸塚に白羽の矢を立てて、補佐として大和と大岡を配する。戸塚の成長に期待する雪ノ下の提案を受けて、しかし当の戸塚が少し難色を示した。

 

『あのね……期待されるのは嬉しいし、ぼくが統率するのはいいんだけどね。大和くんと大岡くんは、どっちも部長を辞退したみたいでさ。ただのラグビー部員・野球部員として部長を支えるって言って譲らなかったんだって。両方とも、部活はその形で上手くいってるみたいだし、それはいいんだけどね。二人の部長を差し置いて、って言うのかな。大和くんと大岡くんをいきなり抜擢するのは、ちょっと問題かなって……』

 

 口ごもる戸塚を見て、任される仕事に、その責任の大きさに押し潰されているのかと思った八幡だったが、それは見当違いだとすぐに解った。過小評価していたことを内心で反省しつつ、八幡は戸塚の成長を眩しく、同時に頼もしく思った。

 

『じゃあさ。俺と戸塚で部長二人を説得するのはどうかな?』

 

『うん。葉山くんが協力してくれるなら大丈夫だと思う。あとね、補佐をもう一人推薦したいんだけど……』

 

 そう言って城山を推薦した戸塚には、雪ノ下までもが目を細めていた。役職を与えて成長を促すのが当初の目的だったのだろうが、既に戸塚はそれを全うできる域にまで成長していた。これで現場班のことは大丈夫だと、城廻と頷き合っている雪ノ下の表情が印象的だった。

 

 城山のことは「テニス勝負の時に口を挟んできた奴」という程度の認識だった八幡だが、話を聞くと六月の部長会議の際にも事態の収拾に一役買ってくれたらしい。戸塚と一緒に仕事をするとは何と羨ましいと思わなくもないが、城山の事情を知ってしまうとその気持ちも薄らいでしまった。

 

 強い先輩が卒業した後の弱小クラブを任されて、更にはこの世界に巻き込まれて大会にも出場できなくなって。そんなもやもやした気持ちを解消できたのは、テニス勝負における雪ノ下の発言のお陰だった。だから、雪ノ下や奉仕部の役に立てるのなら、城山はきっと仕事を引き受けてくれるだろう。戸塚の説明を聞いて、八幡はなぜだか妙に嬉しかったのを覚えている。

 

 その理由は、雪ノ下の言動や想いが報われたから。更には自分の行動も、テニス勝負のために費やした労力も報われた気がしたから。それらが他人に影響を及ぼして、相手がこちらに応えてくれたから。だからそれを嬉しく思ったのだろう……などと言語化したら気恥ずかしい気持ちになるに決まっているので、曖昧な形に留めておいたのだが。

 

 実際に城山の姿を見て、八幡は思わずそんなふうに自分の感情を分析してしまった。わちゃくちゃと手足を動かしたい衝動に駆られながら。もしも誰かに頼みごとをする必要に迫られた時には、戸塚に仲介して貰って城山にお願いする選択肢もありだなと思った八幡だった。

 

 

***

 

 

 一同が席に着いて、委員長が口を開く。

 

「さて、では会議を始めます。最初に目玉競技の話をしたいのですが……」

 

 雪ノ下の発言に応えて、まずは海老名が案を述べた。彼女の趣味嗜好を知る面々は、男子生徒向けの目玉競技だと聞いて等しく身構えたのだが、意外なことに「棒倒し」を提案された。言ってはなんだが実に普通だ。

 

「赤組と白組で、それぞれ大将を決めます。大将の棒を立たせ続けるために、数多の男子生徒があの手この手を使って身体で貢献する競技です。愚腐腐……ぐふっ」

 

 ただ、想像力が豊かな者にとっては普通では無かったらしい。警戒という行動は「こちらに毒されている証拠」だと考える海老名は、布教が順調に進んでいることに満足していた。強い拒絶を示す者ほど、それを突き抜けた暁には熱心な信者になってくれるだろう、などと考えながら。

 

 怪しげな笑い声を漏らす海老名の背後から、その首筋に向けて手刀が奔った。

 

「血は……まだ出てないけど、念のために上を向いて落ち着くし。ほら、とんとんって叩いてるから大丈夫だし」

 

 甲斐甲斐しく世話を焼くおかんの姿がそこにはあった。会議室がほっこりする中で、呆れ交じりに雪ノ下が口を開く。

 

「上を向くと血が喉に行ってしまうから、うつむかせて鼻を押さえる方が良いと思うのだけれど。それで、両軍の大将は白組が葉山くん、赤組が戸塚くんで良いのよね。事前に必要なのは赤白のはちまきを人数分と、両軍の陣地に屹立させる大きな棒が一つ。可能なら、両大将には学ランを着用させたいと……なるほど」

 

 海老名のプレゼン資料を受け取って、そのまま冷静に読み上げていく。いつぞや雪ノ下に変な小説を音読させた時のことを思い出しながら、八幡がそれに応えた。

 

「はちまきは確か、開会式から全員が着けてたよな。棒も高校の備品でありそうだから、新しく用意する必要は無さそうだし。学ランも、過去に応援合戦とかがあれば、その時に使ったやつが残ってるんじゃね。この世界に持ち込めてなかったら、別の衣装を考えるとして……」

 

「体育祭で応援合戦をした時は、他の高校から借りてきたみたいだよー。でも学ランならレンタルで大丈夫じゃないかな。一日だけだしね」

 

「体育祭は保護者すら入れないクローズドな催しだからな。レンタルでどれを選んでも、『勝手にうちの学ランを使った』とかそうした文句は出ないだろうから助かるよ」

 

 城廻が友好的な過去を、平塚が世知辛い過去を紹介しながら補足してくれた。事前の支度についての話が一区切りして、続けて由比ヶ浜が競技の内容に触れる。

 

「はちまきが取れたらすぐに結び直すこと、って書いてあるし、リタイアとかは無いんだよね。あたしは放送の担当だけど、棒倒しの時は救護に人を集めたほうがいいのかな?」

 

「そうね。海老名さんも書いているように、演技スキルなどを使って怪我を一切負わない設定にもできるのだけれど。そうすると現実感が無くなる上に、争いがエスカレートしたまま収拾が付かなくなる可能性もあるのよね。幸いこの世界では大怪我をしてもすぐに治るのだし、救護班が怪我人を素早く回収するのが無難という結論には、私も賛成ね」

 

 そんなふうに細かな部分にまで気を配りながら、競技のルールを詰めていく。少人数であれば見落としも出ただろうが、生徒会役員や文実の渉外部門の生徒たち、更には運動部からも様々な場面を想定した意見が出たので、驚くほど短時間で話がまとまった。ちなみに騒がしいサッカー部員は最初から最後まで「海老名さんすげーっしょ!」しか言ってなかったのだが、それはさておき。

 

 

「男子の目玉競技は棒倒しに決定します。次に、女子の目玉競技ですが……」

 

 それに応えて材木座が高笑いをしながら立ち上がった。すぐ隣の戸塚は慣れたものだが、更に横に座っている城山が少し引いている。相模グループも渉外の生徒たちも、特に女子はドン引きだ。それでも一昨日に雪ノ下に褒められた自信がまだ持続しているのか、特徴的な口調ではあるものの途中で言い淀むこともなく。時おり大袈裟な身振りを交えながら無事にプレゼンを終えた。

 

「千葉市民対抗騎馬戦、略してチバセンか。確かにこれ、設定は面白いな」

 

 手元に配られたプレゼン資料をぺらっと捲りながら呟くと、八幡の意見に同調する声がそこかしこから上がった。材木座は得意満面の笑みを浮かべている。

 

「でもなあ……大将騎を複数用意するのも、そいつらがコスプレして鎧を着るのも良いんだが。倒された時に鎧が砕け散ってコスプレが露わになるって、それは倫理委員会とか大丈夫なのか。大丈夫なら是非やって欲しいんだが」

 

 最後に本音を口にする八幡だった。男子生徒の多くが内心で応援しているのを知ってか知らずか、材木座が身を乗り出すようにして口を開く。

 

「ほむん。鎧の下のコスプレは昨年のデザインを再利用するゆえ労力は掛からぬ。PTAに反対されたと言うが、それ以外に反対が出なかったのだから倫理的にも問題あるまい。八幡よ、お主はどんなコスプレを想像しておるのだ。よもや、卑猥なものを?」

 

 この場には持ってこなかった己の初案のことなどは棚に上げて、材木座は重々しい口調でそう言った。たちまち八幡に、教室中の女子生徒から非難の視線が突き刺さる。それは相模グループも例外ではない。

 

「きも」

 

 そのたった二文字からなる言葉が、静かに全員の耳に伝わった。たちまち相模たちに視線が集中するが、いち早く口を開いたのは当事者だった。平然とした口調でこんなことを述べている。

 

「それな、このイメージ画像を送ってきた奴に言ってやって欲しいんだが」

 

「ま、まさか八幡、お主……裏切る気か?」

 

 何やら呟いている材木座を指差しながらメッセージアプリを開いて、添付ファイルを全員に見える形で展開する。千葉の兄妹が活躍する作品の中で、妹の親友(ヤンデレ)がコスプレしている画像なのだが、そこまで判別できる生徒はごく僅か。しかしおへそから下腹部に加えて背中からお尻までが丸見えのその画像を見て、女子生徒が一斉に眉を顰めた。

 

「二人とも、きも」

 

 こうして八幡の行動は、犠牲者を二人に増やすだけに終わった。

 

「でもさ。表に出さないだけで、男子ってみんなこういうのが好きなんだから仕方ないよ。ね、隼人くん?」

 

 何とも言えない場の雰囲気を取りなしたのは、腐った趣味嗜好の持ち主・海老名だった。しかし発言の最後に余計な付け足しがあったせいで、会議室の中は再び騒然としてきた。

 

「それ、『ああ』って答えたら俺まで変な目で見られるし、否定したら姫菜の思う壺だろ。『もしかして、そっちの趣味!?』とか言い出すんだろうし……優美子、頼む」

 

「あーしの手間が増えるから、しばらく大人しくしてるし」

 

 すぱーんという小気味の良い音が響いて、不気味な笑顔を浮かべたまま机に突っ伏した腐女子。どこまで本気だったのかは誰にも分からないが、一連のやり取りのお陰で八幡と材木座への風当たりは緩くなった。

 

 

「本題に戻ります。今の話の間に、城廻先輩に去年のコスプレ案を見せてもらったのですが。巫女・婦警・ナース・メイドの衣装などで、極端に露出が高いものはありませんでした。でも、PTAには反対されたんですよね?」

 

「まあ、男女共通だったからねー」

 

 あんまりと言えばあんまりな理由だが、納得できる話でもある。誰だって気持ちの悪いものは見たくないのだ。ごく稀に、似合いすぎるほど似合う奴もいるのだが……と戸塚に向けて視線がちらちら投げ掛けられる中で。城廻の返事に軽く頭を押さえながら頷いて、雪ノ下がそのまま話を続けた。

 

「では、スカートの丈を長くするなどの変更を加えて、基本はこの案のままでいきましょうか。材木座くんが演技スキルを展開して、倒された大将騎がコスプレ姿になるという設定ですが。この世界ならではという要素もありますし、見た目のインパクトという点でも面白いかもしれませんね」

 

 多くの男子から性的な目で見られるのは勘弁して欲しいが、普段は着る機会のない衣装を身にまとえるのは楽しみと言えば楽しみだ。そんな微妙な女性心理をくすぐりつつ、無難に話をまとめる。そこに由比ヶ浜から声が上がった。

 

「あたし、得点がよく分かんないんだけど……?」

 

 目玉競技はいずれも三〇点だが、どちらか一方が丸取りの棒倒しとは違って、チバセンは点数配分がある。時間内に生き残った大将騎の数に応じて、傾斜配分される形だ。

 

「大将騎は三人ずつだから、二人と三人なら一二点と一八点。一人と三人だったら点数の低い方を切り上げだから、八点と二二点だね。一人と二人なら一〇点と二〇点、同数なら一五点ずつ。相手を全滅させれば、生き残りが一人でも三〇点か。コスプレはともかく、確かにこの設定は面白いね」

 

 塾のバイトで教え慣れているからか、こうした場では口を開く機会が少ない川崎がすらすらと説明してくれた。ほへーと口を開けたまま、由比ヶ浜がこくこくと頷いている。そこに渉外部門の一年から質問が届いた。

 

「それで、大将騎って誰がやるんですか?」

 

 有効票三票ずつで、この場で投票を募った結果。赤組は雪ノ下・由比ヶ浜・城廻が、白組は三浦・海老名・川崎が当選を果たした。

 

 大将騎を務める気が満々で、自分が敗れるとはつゆとも考えていない雪ノ下と三浦。そしてコスプレ姿を晒す程度では動転しない海老名とは違って。由比ヶ浜と城廻と川崎は三者三様の反応を示した。静かに照れた様子の城廻。大声を上げたかと思えばすぐに縮こまったりと挙動不審に照れている由比ヶ浜。ひたすら投票の無効を主張しながら照れている川崎。

 

 会議室の一隅を除いて、その六人には大きな拍手が寄せられていた。

 

 

「それで、うちらは何をすればいいの?」

 

 この教室に来てからずっと、周囲と身内の両方に気を配っていた相模だったが、自分が選ばれなかった不機嫌に突き動かされる形で口を開いた。まばらに残っていた拍手の音がたちまち止んだ。

 

 正直に言えば海老名より下という点も引っ掛かるのだが、それでもあの四人なら仕方が無いと受け止められる。城廻も生徒会長としての知名度を思えば納得できる。しかし地味な存在だとしか思っていなかった川崎にまで負けるのは、相模には受け入れがたいことだった。

 

「当日の仕事と事前の準備とがあるのだけれど、後者から説明するわね。女子の目玉競技がチバセンに決まったので、貴女たちにはコスプレの衣装をお願いしたいと思います。鎧のほうは川崎さんにデザインして貰って、渉外のみんなに頼みたいのだけれど……?」

 

 だが、そんな相模の感情を逆撫でするかのような返事が雪ノ下から届いた。自分が選ばれなかった大将騎が着る衣装を、作らされる。相模がその屈辱に身を震わせている横では、グループの四人も密かに拳を握りしめていた。

 

 文化祭の時も、衣装作りとその手直しを担当した川崎のせいで葉山たちと話す機会を奪われたのだ。端から見れば完全な八つ当たりだが、少なくとも彼女らはそう考えていたし、だから川崎が大将騎に選ばれたり頼りにされている光景を目の当たりにすると忌々しい気持ちになる。

 

 それに認めたくはないが、川崎が地味なのは趣味や交友関係の話で、見た目だけなら相模ですら及ばず三浦たちにも引けを取らないほどだ。きっと当日は衣装映えすることだろう。所詮は地味なお針子さんに過ぎないと陰で侮っていただけに、余計に苛立ちが募る。

 

 そんな五人を尻目に、指名を受けた渉外部門の生徒たちは沸き立っていた。

 

「川崎さんってデザインできるんだね。鎧とか甲冑って難しそうだけど……」

 

「下の弟が喜ぶから、前にちょっと作ってみたんだけどさ。複雑なのは無理だけど、何とかなると思う」

 

「おー、さすがサキサキ!」

 

 由比ヶ浜に続けて海老名にまでサキサキ呼ばわりをされて、ただでさえ照れ気味だった川崎が更に照れている。和気藹々とした雰囲気が部屋中に広がった、その一方では。

 

 文実で実行委員長の不甲斐なさをよく知っている渉外の生徒たちが、自分に投票するわけが無いと、少し考えれば分かりそうなものなのに。ようやくそれに思い至って、相模は更に気持ちを暗くした。そこに雪ノ下の声が届く。

 

「次に、相模さんたちの当日の仕事を説明するわね。慣例に従って審判部を設ける必要があるのだけれど、判定が揉めるような事態はここ数年は起きていないのよ。だから名前だけだと思ってくれたら良いわ。いちおう形としては放送の下部組織に当たるので、当日に何かあれば由比ヶ浜さんと葉山くんに指示を仰いで欲しいのだけれど」

 

 そう言いながら、雪ノ下は三浦の顔をじっと見つめた。相模たちが不満を抱いていることは誰が見ても明らかだし、それを抑えるには由比ヶ浜と葉山の名前を出すのが一番だ。二人を審判部に駆り出す代わりに、当日は何か事が起きない限りは、放送の仕事で一緒に過ごせる。言葉には出さないその提案を、三浦が不承不承ながら受け入れたのを見て、雪ノ下は根回しが無事に済んだと胸をなで下ろしていた。

 

 とはいえ根回しとは本来、事前に済ませておくべきものだ。それに根回しで重要なのは相手が何を求めているのかを見抜くことだが、感情が開けっ広げな三浦が相手なら、そこに苦労を掛けずに済む。葉山と一緒に過ごせるように取り計らえばそれで良く、だからこそ雪ノ下は事前に話を通しておくべきだった。衣装の話とは違って、審判部に相模らを配する案は月曜日から雪ノ下の頭にあったのだから。

 

 以前の雪ノ下なら正論で押し切るだけで良かったし、それ以外は出来なかった。今の雪ノ下は、それだけでは駄目だと思っている。根回しにしろ手打ちにしろ、それらが必要となる場面は多い。だから身に付けなければと考えるのは間違っていない。だが、現時点では出来ていないという厳然たる事実もまた、間違ってはいない。

 

 そして、もう一つの配慮が果たして正しいことなのかも、今なお雪ノ下には判断が付かない。八幡と由比ヶ浜に同じ放送の仕事を与えることは、二人を自分から引き離すことは、もしかしたら間違いではないのか。そんな気持ちがどこからともなく湧き上がってくるが、では何故そんなふうに思うのかと自らに尋ねてみても、返事は杳として知れない。二人が仲を深めるのは、雪ノ下にとっても喜ばしいはずなのに。

 

「放送は三浦さんと戸部くんを中心にして、女子は由比ヶ浜さんと海老名さん、男子は比企谷くんと葉山くんにも加わって貰います。特に男女の目玉競技の時には、盛り上がる実況を期待しています。救護は私と城廻先輩が責任者で、生徒会役員と渉外のみんなに働いて貰う予定です。川崎さんには、衣装に何か問題が起きない限りは当日の仕事は課さないつもりです。現場班の統率は戸塚くんが責任者で補佐に城山くんと大和くんと大岡くん。これで当日の割り振りは以上です」

 

 話と一緒に気持ちを強引に締め括って、雪ノ下はそのまま説明を続ける。今度は事前の仕事の話だ。

 

「葉山くんたち運動部は、毎回参加できるわけではないと思うのだけれど。衣装を担当する委員を除いて、その他の全員で各競技の見直しと当日の流れを確認する予定なので、時々はそれに加わってくれると助かるわね。申請書類の処理などはこちらで対応できると思うし……そんなところかしら?」

 

「ああ、それぐらいなら問題ないよ。ところで、さっきの目玉競技の話なんだけどさ。演技スキルを悪用したら、『棒が動かないように』とか出来るんじゃない?」

 

 雪ノ下への返事に続けて、葉山が妙な話を持ち出してきた。警戒されてるのは俺だよなと自覚がある八幡が、大きく溜息を吐きながらそれに答える。

 

「演技スキルだって万能じゃねーぞ。運営に申請する必要があるから、棒を固定するとかまず却下だろ。まあ、あれだ。そこまで言うんなら『棒倒しで演技スキルは申請しない』って一筆書いてやるよ。それで満足だろ?」

 

「……いや、ちょっと引っ掛かるな。『体育祭で演技スキルは使わない』だったら安心なんだけどさ。どうして『棒倒しで演技スキルは申請しない』なんだい?」

 

「細かいことを言ってると嫌われるぞ。つーか、そこまで深読みされるとは思わなかったわ。『申請しない』と『使わない』って、この場合はほとんど同じ意味だしな。棒倒しに限定したのは、別の競技でスキルを使ったほうが見栄えが良くなるとか、そんなのがあるかもなって思って言っただけなんだが……」

 

「なるほど、確かに言われてみればそうだね。じゃあ『棒倒しで演技スキルは申請しない』で一筆書いてくれるかな?」

 

「書くのは書くのかよ。まあ良いけど、なんでそんなに拘ってるんだ?」

 

「運動部員として、体育祭ではやっぱり負けたくないからね。正々堂々と戦いたいって思っただけだよ」

 

「お前な、運動能力に差があるのに正々堂々も無いだろ。えーっと、ちょっと待ってろよ。『棒倒しで演技スキルは申請しません。比企谷八幡』っと、これで良いか?」

 

「ああ、確かに受け取ったよ。体育祭の当日が楽しみだね」

 

「勝手に言ってろ。あと、海老名さん大丈夫か?」

 

 机の上を血の海にして、海老名が不気味な笑い声を上げながら顔を沈めている。慣れた手つきでハンドタオルを出した三浦が介抱しているのを眺めながら。先程まではそんな気は全く無かったのに、「棒倒しで葉山に一泡吹かせてやる」と考えている自分に気付いた八幡だった。

 

 

「最後に、衣装作りのことなのだけれど。手作り以外にも方法があります。つまり、この世界では衣装もデータに過ぎないので、外部に製作を依頼しても費用がほとんど掛かりません。定価でも現実の十分の一以下ですし、まとめて注文すれば更に値引きが可能だと思います」

 

「じゃあ、うちらが作らなくてもいいってこと?」

 

「でもさ、鎧でも六着だし、コスプレ衣装は別々って話だったよね。あ、あたしはコスプレじゃなくて普通の体操服でもいいんだけどさ……」

 

「雪ノ下さんが作れって言ったんだから、仕方ないじゃん。あ、じゃなくて、注文してもいいってことだよね?」

 

 川崎が往生際の悪いことを言っているが、相模としては自分だけが一方的に川崎を意識しているようで気に入らない。あんたじゃなくて別の誰かに答えて欲しかったのに、という気持ちが表に出たのか、いらいらした口調になってしまった。慌てて取り繕う。

 

「うーん、さがみんはそう言うけど……確かに予算には余裕があるんだけどさ。いくら安いって言っても、それが積み重なったらどうなるか分かんないよ。あたしなら……」

 

「由比ヶ浜さん。そこは相模さんたちに案を出して欲しいのだけれど。せっかく仕事をして貰うのに、何もかもこちらの言う通りだと面白くないでしょう?」

 

 由比ヶ浜が教室の雰囲気を落ち着けつつ、なんだかベテラン主婦のような金銭感覚を垣間見せた。職場見学で運営の仕事場を訪れた時に「会計のことを教えて貰った」と嬉しそうに語っていた姿を思い出しながら、雪ノ下が別の意図を潜めて発言を遮る。

 

「つっても、右も左も分からん状態だったら、考えたくても考えられんだろ。俺も詳しくないから教えて欲しいんだが、クラスTシャツを頼むのとは違うのか?」

 

 そこで八幡が、微妙にわざとらしい口調で話を続けた。内心では「なんとか事前に打ち合わせた通りの話に持ち込めたな」と思いながら言い終えると。それに応えたのは、はやはちの片割れ。

 

「文化祭で俺たちのクラスが注文したのは、駅前のあの店だったよね。あそこなら他の衣装でも頼めると思うけど?」

 

「頼めるのは良いとして、値段的にはどうなんだ?」

 

「あ、あたしが思ったのは『ちょっと高いなー』って。ヒッキーとか、一人一人名前を入れてたし、その分もあったとは思うけどさ。……さがみん、どう思う?」

 

「うち、は、えっと……他のお店にも、見積もりを出してもらう、とか?」

 

「なるほど。衣装をお願いできるようなお店の中には、お客さんに色んな衣装を着て貰うイベントを行っているところもありそうね」

 

「え……あ、うち、心当たりがあるかも!」

 

 かなり露骨な誘導だった気がするのだが、相模は「良いことを思い付いた」とばかりに得意げな表情になっている。さっきから気分の変遷が分かり易い奴だなと思いながら、八幡は並んで座っている二人とこっそり目配せを交わした。

 

「そう。では、見積もりの比較をお願いできるかしら。できれば次の会議を待たずに受け取り次第、部室にでも届けてくれると助かるわね。渉外のみんなも鎧を作るのはひとまず置いて、競技の見直しに加わって下さい。……他に意見が無ければ、今日の会議はここまでとします」

 

 こうして本番の一週間前に各々の分担を確定させて。その後も運営委員会はトラブルに見舞われることもなく、順調に仕事を消化していった。委員たちの盛り上がりは、祭りに期待を膨らませる全校生徒にも伝播して。異様な熱気に包まれて、総武高校は体育祭の当日を迎えた。

 

 

***

 

 

 これは運営委員会の翌日放課後のお話。相模たち五人は、駅から少し離れた場所にあるブライダル会社を訪ねていた。

 

 昨日の会議が終わった直後にさっそく連絡をとってみたところ、先日のイベントはホテルの会場を借りて行ったもので、会社は別にあること。それから、披露宴の衣装に限らず幅広く注文を受け付けていることも教えられた。

 

 会社に入ると、応接室はもちろん廊下の壁にも色んな写真が飾られていた。被写体は一般の人がほとんどで、社外では使わないという約束を交わした上でこうして展示しているのだとか。たしかに、見栄えが良く写真慣れしている著名人よりも、普通の人がどう写っているのかを見るほうがよほど参考になる気がする。そう納得した一同だった。

 

 最近はずっとぎくしゃくしていたが、目新しい体験のお陰か五人の表情は明るい。会社の人は、コスプレの衣装が欲しいというこちらの希望を聞いて、カタログか何かを探しに行っている。だから今は五人だけ。話をするなら今だと相模は思った。

 

 だが、ここで話を出せるならこうまで長引いていない。それに文化祭から日が経ちすぎて、何を謝れば良いのか、何を言って欲しいのかもあやふやになっていた。やっぱり、うちは駄目なんだ。そんなふうに相模が自己嫌悪に浸りかけたところ。

 

「南ちゃん。うちらのせいで、ごめんね」

「あいつの悪い噂を流したのって、南は関係ないのにさ」

「相模が、その、何か言ってくれるかもって。ずっと甘えてたんだよね」

「相模さんだけなら、こんなに悪い扱いを受けないで済むのにね」

 

 文化祭の閉会式にて人目を憚らず醜態を晒したことで、相模個人は大部分の生徒から赦免されていた。それには渉外部門の生徒たちも含まれている。昨日の会議室で冷ややかな対応だったのは、相模の過去の行いに対してではなく、一緒に仕事をするのは気が進まないという未来に対するものだった。

 

 未だに相模を許していない一部の生徒たちは、事実をねじ曲げて八幡の悪評を撒き散らしたことを問題にしていた。だがその行為に相模自身は関与していない。取り巻きが勝手にやったとは、相模グループを少し観察していれば簡単に推測できることだ。

 

 つまり、相模に白い目を向けている生徒たちは、連帯責任として相模を責めているに過ぎない。本命は取り巻きの四人で、彼女らは相模が居ないところでは一層厳しい目を向けられていた。文字通り身から出た錆なので、誰を責めることもできない。

 

 だが、グループ五人でいる時には数の論理が働く。文化祭の二日目に、先に見捨てたのは四人のほうなのに。さも相模が悪いかのように言い繕って、鬱屈を晴らしていた。彼女らには相模の他に、それが出来る相手が居なかったから。だから、相模が「うちが悪いんだ」と思い込んでいるのは重々承知で、それを利用した。

 

 ただ、そもそもの切っ掛けが相模にあるのも確かだ。あの男子生徒を罵倒する相模の話を聞き続けているうちに、四人の中に彼への悪感情が生まれてしまった。当事者の相模が抱くそれをはるかに超えて、四人は彼の言動をひたすら悪いように受け取る習慣が付いてしまった。

 

 きっと、四人なのも影響したのだろう。一人一人であれば、ここまで増幅されなかったかもしれない。いずれにせよ、彼女らは噂を広めることに迷いはなかったし、それが正しい行為だと思い込んでいた。彼に惑わされている生徒たちの目を覚まさせてやるんだと、そんなことすら思っていた。

 

 文化祭を経て、周囲の環境が激変して。そうした思い込みは少しずつ薄れていった。もちろん、それに固執しようとした時期もあった。以前にも増して彼への恨みを燃え上がらせた日もあった。だが、相模で鬱憤を晴らすたびに、それと同時に彼女らの中で形成されていた偽りの何かが、少しずつ壊れていくのが感じ取れた。

 

 相模に対する自分たちの行いが褒められたものではないことは、いつか止めるべきだということは、四人にもとっくに解っていた。

 

 だから昨日の夜、四人は相模に内緒で集まった。彼女らを行動に駆り立てたのは、相模のなんの気ない発言。大将騎に選ばれた六人を祝福する会議室内で、彼女らにとっては居たたまれない雰囲気をぶち壊してくれた、あの一言。

 

『それで、うちらは何をすればいいの?』

 

 飴と鞭で追い立てられるようにして、運営委員になって理解したこと。自分たちは所詮、陰口を叩く程度のことしかできない。あれほど敵視していた男子生徒は、校内有数のトップカーストの連中とも普通に話をして、有益な発言を繰り返しているのに。自分たちはせいぜい「きも」と嘲るぐらいしかできない。

 

 だから、あの連中を向こうに回して相模がそう言ってくれて。「うちら」って複数形を使って自分たちを数に入れてくれたのを耳にして。一歩を踏み出す時期が来たと四人は覚悟した。たとえ相模に見捨てられて、更に厳しい立場に陥ったとしても。これ以上、相模を苛ませるのは嫌だと全員が思った。

 

「そ、そんな、だってうち、駄目なのはうちで、でも何を言えば良いのか分かんなくて。だから、先に言ってくれて助かったって思ってて、謝るのはうちのほうで。けど、なんでだろ。うち今すごく嬉しかったりもしてさ。その、色々と言いたいこととかあるのにいつも言えなくて。だから、あの、良かったらで良いんだけどさ。うち、名前で『南』って呼んで欲しいって……」

 

 悲壮な覚悟で順に口を開いた四人だったが、相模の返事を聞いてぽかんと口を開けたまま身動きが出来ない。この半年に亘る付き合いはなんだったのだろう。今更「名前で呼んで欲しい」とか、それをずっと言い出せなかったとか、それってもう何と言うか、ヘタレにも程があるではないか。

 

 だから四人は、互いに顔を見合わせてぷっと吹き出した。このまま笑い転げたいところだが、頼れるんだか頼れないんだかよく分からないグループのリーダーに、言っておくべき言葉がある。

 

「南を見てると、反省する気持ちも失せてくるよ」

「とは言っても、南には関係のない責任まで押し付けようとはしないからさ」

「うん。南抜きでも、ちゃんと謝る相手には謝ろうと思うし」

「だからこのまま、南と同じグループで居ていいかな?」

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしている相模と、四人はひしと抱き合って。こうして意識の中ではずっと続いていた、彼女らの文化祭がようやく終わった。そして。

 

「あれっ。これ、南じゃない?」

「あ、ホントだ。南と、相手は……?」

「南って和服も似合うんだね。でもこの相手、どこかで見たような?」

「……ねえ南。もしかして、あの罵倒って照れ隠しだったのかな。だったら四人から言いたいことがあるんだけどさ」

 

 いつぞやの写真を見付けられて、結局この日も四人から責められることになる相模だった。

 

 

***

 

 

 その翌日。お昼休みに奉仕部の部室を訪れた五人は、一人の女子生徒と向き合っていた。とはいえ五人でも到底勝てる気がしないのが怖い。取ってきた見積もりを差し出して、反応をおそるおそる窺っていると。

 

「思った以上に金額の開きがあったわね。貴女たちの仕事はとても役に立ったわ。あとは当日、形だけ審判部に居てくれればそれで充分なのだけれど?」

 

「うちら、昨日の夜に話し合ったんだけどさ。ちゃんと謝りたい相手も居るし、やり出した仕事なんだから最後まで関わりたいって思うんだけど……いい、かな?」

 

 好意で言っているのか、それとも期待されていないのか。雪ノ下の真意がどちらであっても、自分たちの意志を伝えようと決めていた彼女らは、相模に返事を一任していた。全員が同じ気持ちだと訴えるかのように、五人は一途な眼差しを雪ノ下に送る。口元を緩めながら答えて曰く。

 

「では、次の会議では貴女たちにも競技の検討に加わって貰います。それと、これは強制では無いのだけれど……」

 

 そう言って一度言葉を切って、ゆっくりと話を続けた。

 

「いつか、貴女たちが謝りたいと思っている相手が困っていたら。一度だけで良いわ。全校生徒を敵に回してでも彼の力になると、それぐらいの意気を示して欲しいわね」

 

「うん。うちら、雪ノ下さんが敵になっても容赦しないから!」

 

 互いに頷き合って、やはり相模が代表してそう答えた。雪ノ下の笑顔に獰猛さが垣間見えて、「あ、これ死んだな」と思った五人だったが。それでも彼女らは、発言を撤回しようとはしなかった。

 




次回は一週間後に更新する予定です。
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