某日、とある場所で3人の人外が一つのミーティアに入っていた。
ある人が見ればそれは『こたつ』というものだとわかるだろうが、生憎と今いるメンバーではその解答にはたどり着かない。
ただ、わかることはこのミーティアは寒さを和らがせるものであることだ。
そんなミーティアに入っている一人の女性がつぶやいた。
「世の中にはサンタ、というものがいるらしいね」
混じりけのない白髪を軽く撫でながら、シャオンの目の前にいる女性、強欲の魔女エキドナが何の前触れもなくそう告げた。
「そうなんですか先生、驚きました」
「それならもう少し表情に出してもらいたい。眉一つ動いてない」
対面に座るシャオンは彼女の言う通り眉一つ動かしていない。それどころか瞬きすらしていなかった。流石に相手の心を読むことが出来ないエキドナでも、驚いていないと即座に判断できるほどに、無表情だ。
「いや、先生がまだそういう存在を信じているとは本当に驚きました」
人によっては煽りにも聞こえる発言。
しかしエキドナはそれを聞いて、小さく肩を竦めるだけだった。長年の付き合いだからわかる、恐らく本心で言っているのだから。
「し、シャオンくん」
エキドナの苦悩とは別に、シャオンの隣から小さな声が聞こえた。
色欲の魔女、カーミラだ。
物欲しげに、彼と、彼の向いた果物に目をやっている。
「ああ、はい。あーん」
「あむぅ」
口を開けている彼女へとシャオンは果物を優しく食べさせる。
「おいしいかい?」
「う、うん。あ、しゃ、シャオンくんにもいま、むく、ね」
お返しというようにカーミラはいそいそと果物の皮を剥き始める。
彼女の本質を知るものであれば、本物かどうか疑うレベルの行為だが、シャオンに対してはその本質が適応されない例外なのだ。
「別に君にそういう感情はないだろうし、惚気てこちらを苛立たせる意図もないだろうけど。ねぇ、流石に人目を憚ってくれないかな?」
「はぁ……」
遠まわしに『いちゃつくなら他所でお願いする』という旨を伝えたのだが、当の本人は首を傾げるのみ。もう一人に至っては照れ臭そうに笑うのみ。
「それで? 意味もなくそんな話をしたわけではないですよね?」
「ああ、どうせだったらサンタをやってみないかい?」
「……理由を尋ねても?」
「簡単だよ、知的好奇心さ。当然だろう?」
せめて慌てふためく、もしくは困った表情を見せてくれるのならばそれで十分。そんな珍しい光景を識ることが出来るのならば今までの光景にすら感謝するだろう。
だが、彼女に待っていたのは驚きと、裏切りだった。ただし、いい意味での。
「ではまずこれをどうぞ」
「これは?」
彼がエキドナに渡したものは白い襟巻だ。どうやら狐をイメージしたようなものだが、
「僕らには必要ないものでしょうが、なんとなく、貴方には似合いそうなので」
「これは驚いた」
エキドナの予想ではプレゼントなど用意していないはずだったのだ。そう、予想していたのだ。
まさか、彼がエキドナ自身の予想を裏切るとは思っていなかったのだ。
つまり、それは彼が彼女の想像を超えていたということだ。彼がなんとなくとはいえ他人に関心を持つようになったのだから。
「ふふっ、案外うれしいものだね」
「それならよかったです」
彼女が喜んでいる理由はプレゼントをもらえたことではないのだが、そんなことすら露知らずにシャオンも微笑む。
「さて、そろそろいくよ。先生」
「それじゃ、応援しているよ。サンタさん?」
他の魔女にはどのような贈り物を贈るのか気にはなるが、今追いかけるのはやめておこう――この喜びを隠しきれない表情は誰にも見せたくないのだから。
■
「いいのかい? カーミラ。あのミーティアから出てきて。寒いだろう?」
「う、うん。すこし、さむい……で、でも! そ、その、シャオンくんと一緒なら大丈夫」
「そっか、ならいいや」
彼女の本心を読み取ることすらせずに、シャオンは目的地へと向かう。するとそこには、色がかった肩ぐらいまでの髪を、二つくくりにしている少女がいた。
斜めに立った棺の中に入れられて、拘束されている少女。暴食のダフネだ。
彼女は目隠しをされているにもかかわらず、しっかりとこちらへ向かって話しかけてきた。
「あれぇ、ヤオヤオとミラミラじゃないですかぁ。なぁにかようですかぁ?」
「プレゼントだよ、勿論、普通のものじゃないけどね」
「……これはぁ、すごいですねぇ」
そう言ってシャオンは彼女へ一つの植物が入った植木鉢を渡す。植物には7つほどの実がなっており、どれもきれいな色をしている。勿論、これもミーティアである。
仕組みなどは省略して説明すると要は、【食べきらない限り決して実を絶やさない植物】である。
「はい、プレゼント。詳しくはエキドナ先生から聞けばわかるよ」
「ドナドナの話はぁ、興味ないですぅ。それよりぃ、ヤオヤオったらぁ、すごいですねぇ。さすがオド・ラグナの――」
「――――」
途端、ダフネの口が閉ざされる。
そして珍しく、笑みが消え、警戒の色を出した。
その原因はシャオンではなく、彼の付き人である、
「カーミラ」
「う、うん」
「びっくりしましたよぉ、ミラミラからこぉんな殺意を向けられるなぁんて」
そう、色欲の魔女のカーミラによるものだったのだから。
窮鼠猫を噛むというべきだろうか?
彼女の戦い方を知っているダフネにとって彼女本人からあそこまで鋭く、香ばしい殺意を向けられたのは初めてだったのだ。
「それで、ダフネ。ミネルヴァって……」
「はぁい。あぁ、そうでしたぁ。ネルネルならこの先にいますよぉ。といっても、そのサンタとやらに会うためにぃ、眠っていますけどぉ」
「……そっか」
呆れたような、それとも彼女らしいとでも思っているのだろうか。だが、正直ダフネにとってはシャオンの考えなおっどうでもいい。それよりも――今はこの友人がわざわざ作ってくれた贈り物を堪能したいのだから。
◇
「母上様と、テュフォンか、たぶん一緒にいるだろうね」
「そ、そうなの?」
「うん。そして僕の予想では、テュフォンは寝ているね」
傲慢の魔女テュフオンと、怠惰の魔女セクメト。そしてシャオンは家族のようなつながりだ。
似ても似つかないが、互いに想いやっていることは端から見てもわかる。見えない繋がりという奴だろうか。
「ふぅ、なんで、そこまで、はぁ予想できているのにぃ、この子が起きている間に、はぁ。会いに来なかったんだい?」
僅かに苛立ちを含んでいるように語り掛けてきたのは怠惰の魔女、セクメトだ。赤紫の髪を尋常でなく伸ばした、気だるげな印象の彼女はじろりと視線をシャオンへと向ける。
自身に向けられたものではないにもかかわらず、カーミラは思わず恐怖からシャオンの背へと身を隠す。
それを見てシャオンはやれやれと笑いながら、答える。
「僕にはみんなが大切ですから」
その返答にセクメトは思わず黙り込む。
対するようにシャオンも何も口にしない。
一体どれくらいたったのだろうか。恐らく数秒、数十秒くらいのはずだがそう感じさせないほどの沈黙の末、ため息交じりにセクメトが沈黙を破った。
「……はぁ、あとで。しっかりと、ふぅ。付き合ってやるんだよ」
「うん、そうしますよ母上様」
その返答にわずかに笑みを浮かべたセクメトは再び惰眠へと向かう。そしてそんな彼女へゆっくりと近づき、
「どうぞ、親愛なる母上様へ」
シャオンはそう告げ、温かそうな毛布を掛けてあげたのだった。
◇
「こ、これで……み、みんなに、わたし、た、よね?」
「いや? まだだよ」
「はい、カーミラ」
「これ、は?」
「一応君に合いそうなものを選んだけど、どう?」
渡されたのは白色の首飾り。
ただし、それにカーミラが触ると色が桃色に変化した。
いったいどんな仕組みなのかはわからないし、興味はない。ただ、”シャオンがカーミラにプレゼントをした”という事実だけで彼女の心音は高鳴り、そして――
「――――――!」
限界を迎えてしまったのだろうか、顔を炎のように赤くしながら走り去っていくのだった。
「あにー」
「テュフォンか、起こしちゃった?」
「ドンカンかー?ウマにけられるぞー」
「どこでそんな言葉を覚えたんだか」
質問から逃げるようにテュフォンは寝息を立てる。流石に起こしてまで詰問する気はない。どうせ自分の先生の仕業なのだろうから。それよりも、用意していた全てのプレゼントを配り終えた感想としては、
「サンタさんだっけ、うん。意外と大変なんだね」
――彼女たちの笑顔が見れたのだから、
「ふふっ、意外と大変で、楽しいものなんだね」
珍しく見た目相応の笑みを浮かべるのだった。
エキドナ:襟巻
ダフネ:ミーティア
ミネルヴァ:綺麗なピアス(穴開ける必要なし)
セクメト;毛布
テュフォン;お兄さんに一つ言うことを利かせる券
カーミラ:首飾り
以上が渡したプレゼント。そしてそれぞれの行方は
エキドナ:5章
ダフネ:食べつくした
ミネルヴァ;殺された際に【割られた】
セクメト:大瀑布へ
テュフォン:4章
カーミラ:4章
でわかるよ!
……スランプがあるのでこうやって雑な文章でもあげていきますので、お許しを。4章ではしっかりと添削し、中身があるものを作りますので。