「はぁ……」
ため息をついているシャオンが現在いる場所は、屋敷の入り口だ。そこの階段に腰かけ、待ち人を待っているのだ。
ここにはシャオン以外は、自分達をここまで導いてくれた竜車の御者である青年のみでほかに人の姿は見えない。皆仕事などで出かけていたり、訓練をしているらしい。
「あの、大丈夫ですか?」
「え? な、なにが?」
かけられた声に、努めて冷静に返そうとする。
だが、声が裏返り、動揺が隠せていないことが明らかになり、恥ずかしさで赤面する。
「だいぶ緊張しているようですけど、なにかお茶でも持ってきましょうか?」
「あー、いいです。大丈夫ですはい」
気遣う声が逆にむなしく、差し出された厚意に断りを入れる。
それでも彼は嫌な顔をせずに引き下がり、先ほどと同じ位置に戻る。
先ほど名乗られたが、彼の名前はヨシュア・ユークリウス。
色素の薄い紫髪を長く伸ばしてうなじで一つに束ねているその姿と、モノクルがいかにも知的なイメージを与えてくる少年だ。
そんな少年がここにいるわけはお客人であるシャオンを一人で待たせることを防ぐためだと思うが、これからのことを考えてみれば逃げ出さない様に見張りをつけているようにも思える。
シャオンとしてはリカードのようなにぎやかすぎる人物よりも、静かな彼のほうが気が落ちつけて楽なのでその点に関してはアナスタシアの配慮に感謝する。
「お、お待たせっす!」
緊張した声と共に、屋敷の扉が開き用意された衣装を着たアリシアがゆっくりと姿を見せる。
「――――」
普段の軽装とは違い、暗みのある青色のスカート、夕顔の花のように儚げな白色のブラウスに袖を通ている。
お気に入りのマフラーは身に着けておらず、赤い宝石が付いたネックレスが代わりにそこに存在していた。
薄くではあるが化粧もされ、更に、恥ずかしさからかわずかに顔を赤く染められ、それすらも化粧の一部かと思ってしまうほどだ。
まるでどこかのお嬢様のような変わり様。――正直、見惚れていた。
「なんやヒナヅキくん! 女の子がおめかししたんにお世辞の一言もでえへんの?」
シャオンに対してのヨシュアと同じように、逃がさない様にアリシアの後ろにいたらしいアナスタシアが頬を膨らませて、無言だったこちらに抗議をする。
それを受けてようやく意識を現実に戻す。
「や、やっぱり変すか!?」
「いや、似合ってる。ちょっと、いや、かなり驚いてたわ」
勢いづいて感想を求められ、思わず素直な感想を口にするとアリシアは体を縮ませながらも嬉しそうに小さく笑う。
「そう、すか……へへ」
「うん……あはは」
互いに赤面し、思わず顔を背けあう。
すると背けた先にはニヤニヤしたアナスタシアの顔と、モノクルを指で上げているヨシュアの姿があった。
「もうっ! ほら行くっすよ!」
この雰囲気に耐えられなかったのかアリシアはこちらの手を掴み、無理矢理屋敷から離れる。
「きいつけてなー」
見送りの言葉を背に受け、どんどん離れていく。
屋敷が見えなくなるころ、そこであることに気付いた。
「あれ、アリシア。手甲は?」
そこでようやく彼女の足は止まり、質問に答えた。
「えっと。お嬢が「せっかく綺麗な服きて、めかしこんだのにゴツイもんなんかいらんやろ」って言って、取り上げられたっす」
初めて手甲越しではなく、直に触る彼女の素肌、その手は
女性特有の柔らかさもあるが、それでも年頃の女性のものとは違っている。
だが彼女自身の努力を表しているようでシャオンとしては好ましく思ってしまった。
「なんすか? アタシの手をじっとみて」
視線に気づき、訝しげにこちらを見つめるアリシアに「なんでもない」と答える。手に対して好ましいと思うなど変態ではないか。
頭を振りそんな邪な考えを追い出し、これからのことを考える。
「行く場所はどうする?」
「特にないっすよ? そっちは?」
「俺も特に……いや」
王都はこの世界に来て初めて訪れたことになる場所だ。思い入れがない場所とも言えなくはない。
また来る機会が必ずあるとは思えない。ならば、
「二つほど、気になる場所がある。というより、お礼参りかな?」
恩を返しに行くのも一興だろう。
頭に疑問符を浮かべる先ほどの仕返しにアリシアの手を引き、先へ進む。
引っ張られ、わずかに遅れていたアリシアは歩調を早め、シャオンの隣に並ぶように歩き始める。
その姿は付き合いたての恋人同士のように見えていたことは、シャオン達には知る由もなかった。
◇
「シャオンの言ってたお店って、どんなお店なんすか?」
「八百屋だよ、強面のおじさんが運営している小さな八百屋」
バンダナを撒き、口元に届くほどの傷跡を残す店長の姿を思い出し、堅気の人間ではないよな、と改めて思い出す。
シャオン達、正確にはシャオンが向かおうとしているのはカドモンという男が営んでいる八百屋だ。
彼は異世界で初めて出会った現地民であり、とある事情で腹を減らしていたシャオンに無償で商品を譲ってくれた命の恩人でもある。
そんな彼とまた店に来て今度はちゃんとお金を払って買い物をするよう約束したので、それを果たしに行くのだ。
「強面って、大丈夫なんすか?」
「うん大丈夫大丈夫。あ、俺の命の恩人でもある人だから失礼のないようにな。でも緊張しすぎなくてもいいから。強面だからビビるかもだけど」
「そんな前情報を知って緊張しないと思ったんすか!?」
アリシアのツッコミを受けながらもシャオンは現在の場所と目的地がどれぐらい離れているかを考える。
そもそも王都の記憶は屋敷で過ごした日々によって打ち消され、細部までは思い出せない。
人の顔などは覚えているがその店の場所までを明確に思い出すのには少し時間がかかりそうだ。完全に覚えていないよりは数段マシともいえるが。
我ながら前途多難の道を歩もうとしていることに苦笑いを浮かべていると、隣に並ぶ彼女が歩みを止めた。
「――シャオン。あの子、迷子じゃないっすか?」
「……なんだろ、デジャヴが凄い」
アリシアの指さす先には一人の小さい女の子が涙目で立っていた。
年は7歳にも満たなそうなほど幼い少女。
シャオンの記憶に間違いがなければ、どこか見覚えがある少女だ。
「まぁ、この世界じゃ初対面になるのか」
一度目の世界。
件の少女はスバルと、エミリアと出会った世界で、初めてこの世界に召喚された世界で出会った少女だ。
エミリアとスバルが無事母親に送り届け、お礼にエミリアへ花飾りをプレゼントしていた。
結局あの世界ではエルザの凶刃にスバルが殺され、死に戻りの道連れによりシャオンも命をなくしたので少女はシャオンのことを記憶の隅におけてもいないだろう。
それを寂しくは思うが、もう仕方ないと割り切っている。
「話を聞いてみるっす」
アリシアは少女に向かって走っていく。来ている服装はいつもと違うが中身はいつも通りのまま、ということか。
「あの時はなかなか泣き止まなかったなぁ」
偽サテラ、もといエミリアが今の状況と同じように少女を泣き止まそうと試みたことを思い出す。
迷子だった少女は、心細さと見知らぬ人から声をかけられついに限界が来たのか大声で泣き出したのだ。
あの時はスバルの機転で事なきを得たのが今はもう懐かしい記憶。さて、今回はいったいどのような方法で少女を笑顔にさせるのだろうか。
「シャッオーン! ほら一緒に来るっすよ!」
「はい?」
遠目で見物していると、思わぬ呼び出しに目を丸くする。
そんな様子のシャオンに彼女は怒ったように頬を膨らませる。
「なに他人のふりしてんすか、勿論シャオンも一緒にくるんすよ!」
いつまでも動かないシャオンに、しびれを切らしたアリシアがこちらまで戻り、背を押して、少女の元まで連れていく。
「お待たせっす! お嬢ちゃん。お名前は?」
「うっ、ひっぐ……プラム」
アリシアは腰をかがめ、泣き続ける少女を安心させるために目線を合わせて優しく名を尋ねる。
少女も、涙声交じりではあるがプラムという名を名乗った。
「プラムちゃんすか、かわいい名前っすね! アタシはアリシア、アリィって呼んでくださいっす」
警戒心を解いてもらうように自らの名と、愛称を少女に教える。
そして今度はこちらに悪戯っぽい笑みを浮かべ指をさす。
「それであのうさん臭いお兄ちゃんがシャオンっす。ああ見えて頼りになるっすから見かけによらないんすよね」
「喧嘩売ってんの?」
もういい加減に慣れてしまった評価ではあるが、初対面のしかも幼子に対して説明する言い方としてはどうなのかと思う。
子供の手前、怒りはしないがいい加減にしてほしい。
そんなシャオンの心情を読み取ってしまったからか、プラムはおびえ、涙を流す。
しまった、と思った時にはすでに遅く彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ始める。
しかし、その大粒の涙が落ちる前に白い布でふき取られた。
「プラムちゃん、女の子は簡単に泣いちゃだめっすよ」
アリシアはポケットから取り出したハンカチでプラムの涙をふき取りながら、優しく語り掛ける。
「アタシも子供の時はだいぶ泣き虫だったっすけど、泣いてばっかじゃダメなんすよ。事態は解決しないし、周りも助けてくれなかった」
声にはどこか懐かしむような、寂寥を覚えているようなものを滲ませている。
「そりゃ当然すよね、だって”自分がどうしたいか”、それすらわかっていなかったんすもん。自分ですらわからないことなのに、他の人がわからないのは当たり前っすよね」
プラムにはアリシアの話は詳しくは伝わっていないだろう。
だが、それでも彼女が伝えようとしていることは伝わったのだろう。その証拠にいつの間にかプラムの表情に涙は消えていた。
それを満足そうに眺めアリシアは再び頭を撫でる。
「ほら」
彼女はプラムの小さな手を、花を触るように優しく握りしめ、
「手を握るっす。こうすれば離れない、プラムちゃんは一人じゃないっす。だから、プラムちゃんが今どうしたいか教えてくださいっす」
アリシアが目線でこちらにも手をつなぐことを訴えかけてくる。
「……はぁ、わかったよ。ほらプラムちゃん、こっちの手もお兄さんとつないでくれるかな?」
「う、うん」
おどおどしながらも、ゆっくりと少女がこちらの手を握る。
暖かく、生命を感じさせる熱をシャオンは感じる。必然的に少女も感じているだろう
「あの、私、おとーさんへおべんと届けようとしたの。でも、道に迷っちゃって」
その温かさに安心したのか、プラムは泣いていた理由を説明する。そして二人に向かって、
「探すの、てつだってくれる?」
僅かに気後れしながらもしっかりと自らの言葉でそう頼んだのだ。
「勿論、シャオンもいいっすよね?」
「ああ、構わないよ」
少女の勇気を出しての要望を当然アリシアも、シャオンも断るつもりはなく、すぐに承った。
「おにーさん、おねーさん」
プラムは、涙でぬれた顔を乾かすような輝く笑みをシャオン達に向け、礼の言葉を口にした。
「ありがとっ!」
「「どういたしまして」」
重なった言葉に顔を見合わせているとプラムが噴き出したように笑う。
それにつられ、シャオンとアリシアもつい吹き出してしまう。
笑い声が響く中、そこには当然、涙の痕はどこにもなかった。
◇
「「ふんふんふふーん」」
女性二人組の鼻歌に合わせ、手が揺れる。
プラムの表情は先ほどまで泣いていたとは信じられないほどに晴れやかで、見ているこちらの気持ちも明るくなっていくほどだ。
「それにしてもなんという偶然なんすかね、プラムちゃんのお店がシャオンの行くお店と同じなんて」
「本当にね」
「おとーさんったらよく忘れ物しちゃうの! いつもはおかーさんが届けに行くんだけど、今日は忙しいから私が頼まれたの!」
プラムの話を聞きながら、人垣を眺め、記憶を揺り起こす。
正直、似通った光景が延々と続く通りだけに、確証と呼べるほどのものはない。それでも以前に『三度』も辿った道筋だ、記憶には嫌でも染みついているので一度思い出せば自然と思い出してくる。
ふと、とある店が記憶に引っかかった。
年季の入った店の造りはシンプルなもので、人目を惹く派手さに乏しく、一見は雑踏の中に埋没してしまいそうに見える。が、最近に塗り直したばかりと思われる奇抜な色の看板が存在を主張しており、結果的に通りの喧騒の印象から一部突出して浮き上がる効果をもたらしていた。
その奇抜な看板に描かれている文字、以前は落書きにしか思えなかったそれも、イ文字が読めるようになった現在では店主の名前、『カドモン』と記されているのがわかる。
「ねぇ、プラムちゃん。君のお店って、あれじゃないかな?」
「あ、うん! おとーさんだ!」
ちょうどあの傷顔の店主がこちらの、正確には愛娘の姿を目にして顔を輝かせる。
プラムも父が気づいたことがうれしかったのか大きく手を振り、駆けだす。
「あっ!」
慌てて走り出したからだろうか、プラムは落ちていた石に躓き、転んでしまう。
幸いにも竜車などが走るような場所での転倒では無いが、硬い地面に顔をぶつけたのだ。それなりの痛みは襲うだろう。
「う、ひっぐ」
「おいおい大丈夫か!」
一部始終を見届けてしまったカドモンは慌てて愛娘の元へ近づく。
しかしプラムは心配する彼の手を借りずに、自分の力のみで起き上がり流れていた涙を袖でふき取り、
「らいじょうぶ! 女の子は簡単に涙を流さないもん!」
無理矢理笑みを作って父親に答えたのだ。
今までの彼女だったらそのまま大声で泣いてしまっていただろう。
娘の変貌にカドモンは一瞬呆気にとられたが、すぐにそのスカーフェイスとは似合わないほどの笑みを浮かべてプラムの頭を撫でたのだ。
「そうか、流石俺の娘だ。偉いぞ」
「わっ! くすぐったいよ! おとーさん」
男らしく、雑に娘の頭を撫で続けるカドモンは見たことがないような柔らかな笑みを浮かべている。
その空気を邪魔するのはいささか気が引けるがいつまでもこうしていられないので、遠慮がちに近づく。
「お久しぶりです……覚えてます?」
「……? 兄ちゃん、どこかで会ったことがあるか?」
一日に何人もの人の顔を見て、声を聞いている商売だ。忘れ去られてしまっているのは仕方ないこととはいえ少し心に来るものがある。
そう静かに落胆しているとカドモンは目を見開き、指をさして叫んだ。
「ああ! あのうさん臭い兄ちゃんか。もう一人の兄ちゃんとは一緒じゃないのか?」
「スバルとは一緒の職場で働いてますよ。今日は、約束を果たしにきました」
シャオンの言葉に、記憶を探ってその約束を思い出そうとするカドモン。
するとプラムがカドモンの腕を引っ張り、話しかけた。
「ねぇおとーさん。お仕事手伝ってもいい?」
「え? あー、でもなぁ」
「別にいいんじゃないですか? ゴツイ強面男が呼び込むより人が来ると思いますよ?」
「否定できねぇのが悔しい……そうだな、ならお願いするか」
渋っていたカドモンはシャオンの言葉に押され、娘のお願いを素直に受ける。
すると太陽のように顔を輝かせ、プラムはアリシアに声をかけた。
「アリィお姉ちゃん! 一緒にやろ!」
「え、でも」
彼女はこちらに視線で問いかける。
王都で回る場所は他にもあるのに時間を取ってしまっていいのだろうかということだろう。
「別にいいよ。俺の件はそこまで急ぎじゃないしね」
流石に一日中手伝うわけでもないし、それにシャオンもカドモンにも聞きたいことがあったのだ。
「それじゃあお言葉に甘えて、がんばろっか」
「うん! おとーさんのお店をもっと元気にする!」
張り切る女子二人組は男子二人組を置いて店先に立ち、大きな声で客を呼び込む。
「……わが子ながら天使だなぁ、おい!」
「ははは」
親バカっぷり満載のカドモンにどつかれながらも感情のこもらない声で笑う。否定すれば面倒だから。
「約束の件は思い出した、だがまずは、礼を言おう。迷子だった娘を連れてきてくれてありがとう。まさか弁当忘れちまうとはな」
先ほど受け取ったかわいい包みをこちらに見せる。
あの中には彼の奥さんが作った愛情たっぷりの料理が詰まっているのだろう。
「正直人攫いがうろついているって話が出回っているから、一人で外に出すのはよくないと思っていたけど考えすぎだったな」
「人攫い?」
「ああ、あんまり表で話すもんじゃないし、俺も詳しくは知らねぇが……『魔女教』と関係がある誘拐組織らしい」
『魔女教』。
ロズワールからエミリアと接する上では必ず出会う存在だと聞いている。
いつ生まれたのか、どんな組織構成なのか詳しい情報はわからない。
ただ、わかっていることは『銀髪のハーフエルフ』であるエミリアの前に必ず現れるだろうこと、そして目的のためならばどれだけの犠牲を出してでも達成しようとする最悪の組織であることだ。
そんな存在と関わりがある人攫いとやらも碌な奴ではないことは予想できる。
「兄ちゃんも気を付けろよ? 彼氏ならあの別嬪さんしっかり守ってくれ。娘の世話になった奴がさらわれるなんて考えたくねぇからな」
別にシャオンとアリシアは付き合っていないが、外から見れば確かにそう見られても仕方ないのかもしれない。
だが、そう思われたままでは癪なので否定しようとカドモンの方を向くと、彼はその彫り深い顔に涙を流していた。
「どうしました、カドモンさん。似合わない涙を流して」
「予想外の娘の成長を目にして親バカもほどほどにしないとな、と考え直してんだよ。あと別に泣いちゃいねぇ」
涙は心の汗とでも言いたいのか、涙を流していることを否定するカドモン。それだったらせめて涙を隠してほしいものだが。
「ねぇ、カドモンさん」
「ん? なんだよ」
「例えばだよ? 例えば娘がさ、危ない職業につきたいって言ったら反対する?」
頭に思い浮かべるのはアリシアの父親であるルツの姿だ。
彼のアリシアに対する態度から、少なくとも嫌ってはいないことがわかったが、娘の願いをあそこまで頑なに否定するという理由がわからないからだ。
なので、同じく子を持つカドモンの意見を聞いてみることにしたのだ。
「あったりめぇだ、大事な愛娘。安全に幸せに生きていってほしいと思うのは当たり前だろうよ」
シャオンの問いかけに数秒の間もなく答えるカドモン。
予想できていたその答えの後に「ただし」とつなぎ、
「俺の反対を押し切ってでもその仕事をしたいってんなら止められねぇわな」
自らの意見を口にするのは恥ずかしいからか頭をかきながらも続ける。
「娘が大事だから当然反対はする、厳しく反対する。でも娘が大事だからこそ賛成もしたいって気持ちがあるんだ。だから、そっから折れるかどうかは子供の熱意次第だ」
「矛盾、してますね」
「そんなもんだよ、親ってのは。ま、まだ若いお前さんにはわからん話さ」
シャオンの言葉を否定せずに、意味ありげに頷くカドモン。
そしてアリシアのほうを見ながら、
「お前さん方が結婚して、子供を作って、時期が来たら自然とわかるだろうよ」
「そうなんすかね。あ、あと俺たちは別に――」
付き合っていないと口にしようとしたが、それよりも大きな少女の声にシャオンの言葉はかき消された。
「おとーさん! お客さんだよ!」
「シャオンもカドモンさんの手伝いをするっす!」
二人の声に、いつの間にか列が店の前にできていることに気付く。
若い娘たちが客呼びをすればここまで人気が出るものかと、内心驚きながらも、一部では理解している。男って単純。
「悪いな、恩人に手伝わせちゃって」
「今更ですよ、はい、いらっしゃい!」
申し訳なさそうにするカドモンを置いて接客を始める。流石に負けていられないと思ったのかカドモンも力を入れて仕事をする。
競うように働くその姿を見て遠くにいる二人の笑い声が耳に入るが気にしない、気にしてられない。それほどまでに繁盛しているのだ。
結局、カドモンの店での手伝いは、プラムの母親が来るまで続いたのだった。
主人公のようには進んでならず、輪から外れて見守るシャオン。
アリシアはそれを許さず、自分と共に無理やり輪に連れ込む。
そういう風に意識して書きましたが表現できていたでしょうか。
あ、次話の投稿は遅れます。