Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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不安な出だし

「わたくしは同行できませんが、どうぞ道中お気をつけてくださいまし。旦那様にも、フレデリカがお屋敷をお守りしているとお伝えいただければ」

 

 出発の朝、屋敷の正門前に竜車をつけたところで、見送りに出てきていたフレデリカがそう言って腰を折る。

 姿勢のいい彼女のお辞儀は惚れ惚れするほど美しく律されたものであり、向けられる側も自然と背筋を正してしまいそうになる威圧感がある。

 

「こっちこそ、慌ただしいときなのにごめんなさい。ロズワールがいないんだし、本当なら領主代行で私がいなくちゃいけないんだと思うけど……」

「なにせそのあたりの実務に関しちゃ俺もエミリアたんもからっきしだ。オットーにぶん投げて整理してもらったけど、それも焼け石に水だよなぁ……約1名出来ていた奴いたけど」

「……そんな期待に満ちた表情を向けられても、俺の体は1つしかないんだからやめてくれ」

 

 この二日間の成果を思い浮かべて、全員が全員苦笑いを浮かべる。

 雑然とした執務室で得られた情報は「責任者の説明なしじゃ無理」の一言で片付く成果でしかなかった。

 多少、フレデリカは心得があるようだったが、現場を離れていた数ヶ月の情報の齟齬を埋める時間も必要だろうし、なにより屋敷の維持の面でかかる負担を思えばこれ以上の作業を増やさせるわけにもいかなかった。

 いくつか、単純に処理できる類の案件をエミリアが細心の注意を払って処理し、あとのことは後回しにしたツケがいずれくるとわかっていながら耳を塞ぐ他にない。

 

「夏休みの宿題を全部やらないで登校日を迎えた気分だな。俺、なんだかんだで宿題未提出とかやらないタイプだったんだけど」

「よくはわからないけど、いいことなんじゃないの、それ? 逆に私は今、すごーく胸が苦しい。罪悪感じゃないんだけど、悪いことだってわかって放置してるなんて」

「そう思う気持ちは大丈夫だよ、エミリア嬢。でもその重さで止まったら元も子もないからね」

「――それをアンタが言うんすか……」

「――え?」

「……なんでもないっすよ、それより地竜の準備、おーけーす。ほら」

「そうですね、パトラッシュちゃんだいぶ賢い子ですよ。おかげで想定よりもだいぶ早く準備が終わりました」

 

 ふと、会話に混ざったのはそれまで竜車の御者台で二頭の地竜――パトラッシュとフルフーに声をかけていたオットーだ。

 『言霊』の加護はオットーにのみ働く加護であるので、傍目からだと地竜と言葉を交わす彼の姿は完全に関わりたくはない風体なのだが、そこには言及しない。

 異種間での翻訳を担当してくれる彼の存在は大変役に立つものだった。

 シャオン自体も異種族の感情などはわかってもそれを言語化はできないし、なによりこちらの想いは伝えることはできないのだ。

 つまるところは単純に一方通行の翻訳ということだ。

 だがオットーの言う通り黒い地竜、パトラッシュはスバルの姿を視界にいれると、その鼻先を伸ばし誰にでもわかるほどの懐きっぷりを見せてくる。

 

「ふふっ、パトラッシュちゃんとスバルったらほんと仲良しなのね。すこーし、やけちゃいそう」

「え! まじで!? エミリアたんが俺に妬ける日が来るなんて――ぎゃ! パトラッシュ! 皮膚が! 抉れる!」

「『話しているのに無視するなんてなっていないですわ』ですって、ナツキさん。モテる男はつらいですねぇ」

 

 普段の意趣返しなのか、オットーは意地悪そうな笑みでスバルを肘でつつく。

 それに対してスバルは彼の足を踏み抜く。ご丁寧にばれない様にエミリアにばれない様にだ。

 僅かにうめいたオットーに首を傾げつつもエミリアはフレデリカに向き直る。

 

「それじゃ、お屋敷のことはお願いね。レムとペトラ、ルカと、ベアトリスのことも」

「お任せ下さいまし。エミリア様も、道中お気をつけて。――それとこれを」

 

 それは首飾り――青く透き通る、輝石のはめ込まれた首飾りだ。

 

「これがあれば、森の結界を抜けて『聖域』へ入ることができますわ。あとは、お教えした通りの場所に、地竜が導いてくださるはず」

「これが、結界を通るための条件……これに時間をかけたんですか?」

 

 フレデリカの手にある奇跡をのぞき込み、素朴な疑問に首をひねる。

 珍しそうな輝石だが、この二日間外出していないはずの彼女がどこで入手したのか。

 そんな疑問にフレデリカは口元を隠して笑うと、

 

「厳密には、その準備に二日賭けたとは言えませんけれど、無縁ではありませんわね。とにかく、『場所』と『資格』は揃えました。後は覚悟と強い意志を」

「大仰な言い方、ちゃんと受け止めていくよ」

「ん、すごーく大事なのはわかったわ……フレデリカ?」

 

 真剣なフレデリカの言葉に深く頷くエミリアが眉を寄せた。

 理由は簡単。差し出された輝石を受け取ったエミリアの手をフレデリカが強く握りしめたからだ。

 刹那、色の違う視線同士が絡み合い、フレデリカの頬が緊張からか、それとも別の理由からか微かに強張る。ただ、その感情の起伏は目をつむるだけで薄れ、静かにエミリアの手を話すことで完全に消滅した。

 

「エミリア様、『聖域』をよろしくお願いします。それと」

「――ガーフィールに、気を付ける。絶対に」

「よろしい」

 

 重ねられる注意勧告を重く受け止め、エミリアは輝石を懐にしまい込む。

 そのやり取りを見届け、出発の準備が整ったところで――

 

「あの! スバル様……これ、受け取ってくれますか?」

 

 赤い顔で挙手したペトラが、スバルに何かを差し出してきた。

 フレデリカを真似したような流れで手渡されたのは無地のハンカチ。

 不意打ちの贈り物に「え?」とスバルは驚くが、シャオンはその意味を理解している。それは――

 

「見送りに白いハンカチを渡して、旅の最中にそれを最後に返す。今ではあまりされませんけれど。旅の無事を祈る風習ですわよ」

「なるほど、わかった。あんがとな、ペトラ。無事にちゃんと返すぜ」

 

 フレデリカから渡されたハンカチの意味を教わり、スバルはそれを自分の手首に巻く。

 ――たぶん、あれはわかっていないな、とシャオンは内心呆れてしまう。

 あの様子では彼女の恋の実りはやはりまだまだ遠いようだ。

 

「さて、『聖域』のあるクレマルディの迷い森は、夜になるほど危うい場所になりましてよ」

「わかった、わかったって。こっちはこっちで、村の人たちのことを頼んだぞ」

「ええ、そして重ねて、ご無事をお祈りしております。旦那様とラムにも、よろしくお伝えくださいまし」

「スバル様、お姉ちゃんをちゃんと守ってあげてね」

「しゃ、シャオン様も、お大事に、あ、アリィおねぇちゃんも、うるさい人も頑張って」

「うるさい人って僕のことですかね!? 評価酷くありません?」

 

 オットーの反応には触れず、フレデリカ達3人は静々とカーテーシーをし、所作は完璧に送り出す。

 その見送りのせ姿勢に背中を押されて、竜車は力強く出発する。

 

「ねぇ! まだ僕の話は――」

「出発!」

「だから! 話は!」

 

納得のいかないオットーを屋敷に残しながら竜車は進んで行くのだった。

 

「じゃ、やっぱりパックの奴はずっと顔出してないんだ」

「うん、そうなの。何度も声はかけてるし、結晶石にも存在は感じるんだけど……こんなに長く表に出てこないの初めてだから、ちょっと心配」

 

 快調に飛ばす竜車の中、エミリアの心配そうな声が車内に響く。

 『風除け』の加護の影響下にある竜車にあっては、風の音や外の騒音といった雑音系統も大概はシャットアウトされる。こうしてかなりの速度で走っているにも関わらず、揺れも最小限で音もしないとなれば一種の夢でも見ているような感覚だ。

 ともあれ、そうした静かな車内にあっては吐き出される言葉だけが確かな音である。

 そして、交わされる内容は迫る『聖域』への意気込み、ではなく――本来ならば常にエミリアの傍らにあり、守る父親役の小猫の不在が話題に上がっていた。

 

「思い返すと、しばらく顔出してないね。最後に見たのって……」

「……クルシュさんの屋敷にいた時だな、丁寧に暴食について教えてくれたよ」

 

 俯くエミリアは顔をスバルに見せないようにしながら自分の髪の先端を指で弄ぶ。ここ数日、彼女の髪型は銀色のそれを三つ編みにするのに固定されている。

 スバルがジッとそれを見ていると、彼女はその視線の意図を察したように「うん」と頷いて、

 

「パックがいなくなるのってたまにあることとなんすか?」

「えっと、私と契約する前は頻繁に、でも契約してからはすごーく頻度は減って、だから、その、今は少し不安かも」

 

 エミリアの語った、パックとの契約以前の話題に腕を組む。

 当然だが、エミリアとパックにも繋がりがない時期はある。初対面の時からともにいたのでシャオン達にとっては別行動しているのは違和感しかないが。

 

「そう、だなパックがいないのは戦力にも心もとないし……あれ、そう言えばこの中で一番弱いのってもしかして、俺?」

「まさか、十分な実力はあるよ……うん」

「目見て言ってくれます!? けど、『聖域』か。実際、どんなとこなんだろうな……それにガーフィールに気をつけろ、か」

「ここにいるみんなも会ったことってないのよね。私も、名前だけしか聞いたことなくて。フレデリカも詳しくは教えてくれなかったし」

 

 スバルの呟きに同乗する形で、エミリアも整った眉を不安げに寄せる。

 この二日間フレデリカの口から何度も聞かされた警戒すべき相手の名。しかしそれ以上の言及については拒まれ、全く分からない状態だ。

 

「やっぱ聞き出すべきだったよなぁ。危険人物だってわかってる相手のこと、名前しか知らないとか居直りすぎだと思うんだけど」

「仕方ないわ、誓約だもの。約定は神聖にして不可侵、決して侵すべからず。契約も盟約も誓約も、それらは重さは違えど固さは同じと扱うべし」

 

 立てた指を振りながら、エミリアはスバルに言い聞かせるようにそんなことを言う。

 

「好き勝手に誓いを破れ、とは言わないけど時と場合はあると思うんだよね」

「スバル~その言葉口にしていて痛くないんすか。で、あれば心臓が凄い硬いっすね」

「いや、あの、その節は本当にごめんなさいでした――ッ!!」

 

 アリシアにニヤニヤとした顔で言われてスバルは頭を思い切り下げ、床へ額を擦り付ける。

 それもそのはず、王都でのエミリアとスバルとの悶着は主にスバルの約束の不履行、いわばスバルの所為で起きたともいえるのだから。

 

「あ、ちがくてね。あの時はすごーく傷ついたけど、今は反省しているんだもん、してる、よね?」

「海よりも深く!」

「ならよろしい、ほら、頭を上げて」

 

 だが、彼女自身はスバルを責める気はなかったようで、慌ててスバルを起こす。

 なんというか、ここ最近すぐに土下座をするスバルもどうかと思うが、すぐに許す彼女もそれはそれで甘いなぁ、とおもったが言わないでおこう。

 

「――森に入ったみたい」

 

 と、思惟に没頭していたシャオンをふとエミリアがあたりを見回した声が引き戻した。

 窓の外に目を向け、そこから見える風景の変化で目的地が近いことを悟った様子だ。

――新緑の森深くに、特殊な結界で守られているとされる『聖域』。そこに、目下のところ腰をすえて話をしなければならないロズワールたちがいるはずだ。

 

「ま、ロズワールは横っ面を殴っても俺は許されると思うんだよね」

「ああ、弟子の俺もいいと思う」

「……うん、そうね」

「あれ、意外とエミリア様も乗り気っすね」

「仕方ないさ、お前抜きでどんだけ苦労したと思ってんだ! で口火を切って腹の底を根掘り葉掘り聞きだして、なんならピエロメイクの下の素顔ももう一度みてやる!」

「そういえばあの人お風呂以外メイクを剥がさないよね、こだわりでもあるのかな」

「……うん、そうね」

「……エミリア様? そろそろアタシもお給金を上げてもらってもいいと思うんすよ、エミリア様からもロズワール様に伝えてもらえないっすか?」

「……うん、そうね」

「エミリア嬢はスバルのことだい好きだよね?」

「ちょ、おま」

「……うん、そう――へ?」

 

 そこでエミリアは初めてこちらへ驚いたように顔を向ける。

 その様子にエミリアを除いた3人は顔を見合わせ、スバルが口火を切った。

 

「エミリアたん、ひょっとして緊張してたりする?」

「――! すごい、なんでわかったの?」

「いや、誰でもわかるっすよ。何なら今みんなの心が一つになってたっすよ」

 

 驚いた顔のエミリアにアリシアが苦笑しつつも自身の頬を指でグニグニにした。

 その仕草に、エミリアも習うように自身の頬に触れ、その表情が強張ったものになっていたと自覚をする。

 

「心配させて、ごめんね。もうすぐ『聖域』に……亜人族だけの村に着くって思うと」

「あ、そっか。ごめん、そこまで頭が回ってなかった」

 

 エミリアの緊張の原因を察して、スバルが気落ちする。

 フレデリカの説明では、『訳アリの亜人族』が暮らす集落なのだ、そこには、ハーフエルフもいるかもしれないのだ。

 だから、緊張も不安もあるだろう。

 でもシャオンとしてはそれとは別に、

 

「まぁ、気持ちはわかるよ。俺も、なんていうか、心がざわざわする」

 

 まるで森の木々もこちらに語り掛けてくるような錯覚を覚えるような不思議な感覚。

 そんな妙な感覚を感じつつも竜車は進んで行く。そこで――

 

「――っ! エミリア!?」

「え、あ、これ……!?」

 

 直後、車内に発生した異変にスバルとエミリアは同時に声を上げた。

 異変の起点は他でもない、慌てふためくエミリア。その胸元の内側から突然青い光が膨れ上がり、竜車の内装を包み込む。

 その光に驚き、エミリアは懐に手を入れ、発行の元である――青い輝石を引っ張り出した。

 

「石が光って……」

「嫌な予感がする! エミリア、借りるぞ」

 

 スバルは己の勘に従って、咄嗟にエミリアから石を奪った。そして、竜車の窓に駆け寄り――

 

「何もなければ後で拾う! 今は外へ――」

「――ぇ」

 

 投げ捨てる直前、かすかなうめき声と共に竜車の床にエミリアが力なく倒れ込む。

 うつぶせに、手足を投げ出して倒れたエミリアに意識はない。突然何の前触れもなく、

 

「いや、前触れはこれか!?」

「――ぁ」

 

 輝石が原因かと思い行動しようとした瞬間、エミリアの後を追うように倒れ込む少女がいた。

 

「アリシアもか!? 大丈夫か、おい!?」

 

 そうなると、この輝石が原因ではなく、別のものの可能性が高い。

 それか、輝石が全員に影響を及ぼしているのかもしれない、であればまずはこの輝石から距離を置く必要がある、ともう一人の同行者であるシャオンへと声をかけようとする。

 そこできづいた。

 

「――シャオン?」 

 

 返事もできない様子のエミリアとアリシア。

 苦しげではあるが、浅く早い呼吸と表情を除けば熱もないし汗も掻いていない。

 だが、シャオンは別だった。

 灰色だった髪が白髪に変わり、目、鼻、口から大量の血液を垂れ流しているのだ。

 

「一体、何が――」

 

 どうなっている、というような困惑のスバルの声を後にシャオンの意識は消えていく。

 深く、沼に使っていくように、母親の胎内に帰っていくような、あるべき場所に戻っていく感覚を最後に。

 

 目が覚めたのは優しい風がシャオンの長い髪を揺らしたからだ。

 灰色から白に移り変わった自分の髪に嫌な気持になりながらも、まずは状況を把握しようと周囲に意識を向ける。すると足元には緑が、頭上には僅かな雲とそれを覆うようなほどに広大な青空が広がり、シャオンはようやく竜車ではなくあるはずのない草原に立っていることに気付いた。

 見回しても、果てがないほどの空間、そこにシャオンは唯一の人工物であるテーブルと、椅子があった。

 ご丁寧に、淹れたてであろう紅茶も備えられている――ちょうどベアトリスと会った時のことをと重なるように。

 普段の自身では有りえないであろうほどに、無警戒でふらりと、テーブルに近づき、椅子を引いて静かに腰をかけた。

 

「――ここは」

「お目覚めですか、父上」

 

 返答がないはずの口から出た言葉に反応があり、思わず身構える。

 声の主はすぐそばにいた。

 それはテーブルの対面に座る一人の少年。だが。

 

「――――!」

 

 驚きで思わず立ち上がりかけてしまう。

 それもそのはず目の前に現れたのは黒と白のみ、ちょうど二つの色のみで作られている一人の少年だ。

 右側が黒、反対側が白。肌と瞳の色さえも左右対称で色づけられたその存在は、まるでこの世の存在ではない、言いようのない嫌悪感をシャオンへと感じさせた。

 その嫌悪感を払拭するように、装飾の多い派手な道化師の服装を身に纏っているが、それすらも白黒で気味が悪い。 

 そんな印象を抱いていることを知ってか知らずか、少年はガラス玉のような空虚な瞳をこちらへ向け、直後その場に正座で座り込み、深く礼をする。

 

「ご存知でしょうが、礼儀故。私の名前はカロン。貴方に作られた人工精霊――の失敗作です」

「お、れが。作った?」

 

 少年の言葉が頭に入ってこない。

 人工精霊という言葉ですら初めて聞くものなのに、それをシャオン自身が作ったというのだからなおさら理解の範疇を越えてしまっている。

 それに、今いるこの場所ですらはっきりとしないのだ。第一、他の、スバル達はどこへ行ったのだろうか。『聖域』には無事についたのだろうか。あるいは、ここが――

 そんな混乱の中、目の前の少年、カロンが首を傾げながら話しかける。

 

「……記憶がお戻りになられていないのですか? それなら納得。故に困惑」

「いや、記憶は普通にあるよ……ああ、ある。俺の名前は雛月沙音。今は『聖域』に向けて竜車を走らせて」

 

 森にかかった辺りで、そうして、気づいたらここにいた、のだ。

 意識が何かに引っ張られた感覚と共に、激痛が襲い、そして、本当に目が覚めたらここにいた。

 そうしか説明ができないのだ。

 

「何故、貴方は『聖域』に来たのですか? その様子ではここ以外の『欠片』はまだ集まり切っていないのに」

「いや、それは知りたいことを知っている奴がこの場にいるから……それより、ここはどこだ? 俺以外にも、竜車に乗っていた仲間がいたと思うんだけど。それに、意識も、急に」

 

 シャオンの説明にカロンは少し考えた後に長いため息を零す。

 まるで余計な仕事が増えたことに憂鬱になったような感じだ。

 だが、それでも聞かれたことにしっかり答える意思はあるようで、

 

「……『欠片』が急に入り込んだことによる拒絶反応でしょう。もう少しで馴染むのでお待ちを。そして、この場所は貴方が作られた場所です」

「は?」

 

――自分が、作った?

 

「ここには『二つの聖域』があります。彼女が作ったのを『表側』と称するのであれば、貴方が作ったのはここ。『裏側の聖域』です」

「だから俺は――」

「最後の質問ですが、他のお仲間さんは知りませんが。賢人候補は今不在です……本来ならば彼女も貴方と話をしたいでしょうがそこは彼女に招かれた順ということで。それで、追加の質問は?」

 

 言葉を遮るようにカロンは言いきる。

 彼としてはまずはシャオンが最初にした質問に答えを出しきってからこちらの文句や話を聞くつもりのようだ。

 確かに質問の連続では何時まで経っても話が進まない。逸る気持ちを何とか抑え、改めてカロンに訊ねる。

 

「誰に、何に招かれたんだ」

「――」

 

 そこでカロンは初めて感情をあらわにした。

 といってもそれはいい感情でないことはシャオンにもわかるほど暗いものだったが。

 いったい何をそんなに不快に思っているのかとシャオンは疑問に思ったが、その疑問は次の言葉ですぐに解消されることとなった。

 

「――――『強欲の魔女』の茶会ですよ。醜悪」

 

 そんな、最悪の名前が出てきたのだから。




シャオンの負の遺産の一つだよ! 失敗作? ソウダネ!

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