いちどめの死
――体が動かない。指先をピクリと動かすことさえ厳しい。
自分の体から熱が逃げていくのがわかる。本能的にそれを防ぐように手で腹を押さえたことで気づく。血が体からあふれていることに。
そのどろりとした感覚と熱さにようやく思い出すことができた。自分がどんな目に遭ったのかを。妹を救おうとして多くの人の静止を振り切り罠にかかってしまったこと。
だが正直どうでもいい、自分はもう助からない死んでしまうのだから。起きていてもつらい、寝てしまおうと目をつぶる。
「――ぃ」
そんな中小さな声が聞こえた。
それは朦朧とした際の幻聴だったのかもしれない。だが幻聴だろうとこの声に自分は答えなくてはならない、この自分を呼ぶ声には応えなくてはいけない気がした。
ゆっくりとまぶたを開く。
体に血がほとんど残っていないからか視界がかすんで見える。頭を振りぼやけた意識を振り払い視界を鮮明にさせる。
すると薄暗い中わずかに見えたのは濃い緑髪を肩口で揃えた少女の姿だ。その姿には見覚えがある。なぜなら命を懸けて守りたかった愛する妹の姿だからだ。
「テュ――」
彼女の名前を口に出そうとしたが声が枯れ、途中から声にならなかった。それどころか血がこぼれ落ちた。小さく舌打ちする。今わの際にさえ彼女の名前を呼ぶことができないのか。それでも最期に顔を見ようと彼女の近くまで向かう。体は縛られていないが虫の息の体では這って近づくことしかできない。近づくと彼女の姿がだんだんとはっきりしてきた。
彼女の自慢だったリンガのように赤い頬は死人のように青い。褐色の肌とは対称的な雪を思わせる白色のワンピースのような服装も泥水に濡れて可憐さを失い、愛らしさを周囲に惜しげもなく振りまいていた顔は傷だらけだ。青い花を模した髪留めはボロボロになってしまい乱暴に扱われていたことがわかる。
だが酷いありさまの中自分がプレゼントした赤い首飾りはあまり傷がついていない。彼女が守ってくれていたのかもしれない。そのことに不謹慎ながらもつい笑みがこぼれる。
這って更に彼女に歩み寄る。触れられる距離にようやくたどり着いた頃にはもう意識はおぼろ気だ。いつものように頭を撫でてやりたいが腕を動かすことすら難しく撫でることもできない。
「こほっ!」
せき込むと同時に大量の血液が口からこぼれ視界が黒く染まる。どうやら限界が来たようだ。
「ごめん、な」
『傲慢』の名を持つ助けようとした彼女を助けることができなくて。
「ごめんな」
『色欲』の名を持つ自分のことしか考えていないが優しい彼女との約束を守れなくて。
「……悪いな」
『暴食』の名を持つライバルに対して借りを返さなくて。
「ごめんな」
『憤怒』の名を持つ誰よりも優しく、誰かのために本気で怒れる友人に対して無理をしてしまったことに。
「ごめんなさい」
『強欲』の名を持つ博識で教師のような彼女に対価を払えなくて。
そして
「――ごめんなさい」
彼女と自分の母代わりをしていた『怠惰』の魔女に、わざわざ引き留めてくれた彼女の言うことを聞かずにこの結果になってしまったことに。
最期までずっと謝罪の言葉を紡いでいた。
「ああ、ごめんなさい」
ずっとずっと機械のように言葉はこぼれる。シャオンの命がつきるまで。
――これでシャオンの物語は一度終わる。だが一度だけだ。永遠に終わるわけではない。
なぜなら彼は幸か不幸か『