ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第9話 『出会い』

 

 蝶野教官の号令のもと、模擬戦は始まった。

 みほ率いるA分隊の初期配置は森の中、木々の間を走る無舗装の獣道の上だ。

 

(まずは、移動かな)

 

 みほが真っ先に考えたのはその事だった。

 蝶野教官より送信されたMAPデータには、みほ達の初期配置のみならず他のチームの初期配置も記されていた。つまり各分隊は互いの位置状況を把握しているのであり、言うまでもなく初期位置に留まることほど危険なことはない。ヘタすれば複数のチームに囲まれて袋叩きに合うかもしれないのだ。ましてやみほ達のチームの初期配置は2つのチームの間に挟まれているのでなおさらだ。

 

(ここじゃ見晴らしが悪すぎる。高台か丘か、とにかく一帯を見渡せる場所は……)

 

 みほは改めてMAPデータを見直し、向かうべき場所を吟味する。

 あいにく、みほの考えた条件を満たす場所は見つからない。平地と森ばかりで、見晴らしのいい所といえば吊橋のかかった川しか無い。だがそれは単に遮蔽物がないというだけであって、陣取るには勇気が必要だ――。

 

『ねぇ!』

 

 沙織からの無線によって、みほの思考の糸は途切れた。

 物申したいといった強い調子の沙織の言葉に、みほは耳を傾ける。

 

『最初に生徒会潰さない! 約束のイケメン教官の話が大嘘だったんだもん』

『まだ言ってるんですか』

 

 沙織が言っているのは先日の話、杏会長が沙織を「今度イケメンの教官が来る」などと言いくるめた件だ。

 しかし蝶野教官は実際凛々しい人物であり、イケメンという言葉に一応嘘はない。

 

「生徒会のE分隊はここからだと距離があるから、最初に狙うには余り良くないんじゃないかな」

 

 みほはMAPを見ながら沙織に冷静に指摘した。

 生徒会チームは、橋を渡った川の向こう側。一年生主体のD分隊も同様で、このチーム同士は遭遇戦に展開する可能性が高い。漁夫の利を狙うという戦法もありうるが、予測される衝突地点にたどり着くまでに橋の上を含めて開けた場所を通過しなければならず、不慣れな沙織や華を連れて進むにはリスクがやはり大きい。

 

『えー……じゃあ、逆にこっから近いチームってどれだっけ?』

『地図によるとですね……B分隊とC分隊ですね』

 

 沙織の質問に答えたのは優花里だった。

 B分隊とC分隊。優花里の言葉にみほは両チームの編成を思い浮かべた。

 改造機を含むファッティー4機で編成されたB分隊。ベルゼルガ系を中心に……と見せかけて実はドッグ系を中心に4機で編成されたC分隊。重装備の多いC分隊よりも、機動力はあるが小回りにかけるファッティー4機のB分隊のほうが、ドッグ系ばかりのみほ達のチームには相手がしやすい。

 

『西住さんは、どちらのチームのほうを選ばれます?』

 

 華に訊かれて、みほは一時逡巡し、結論を出した。

 

「まずはB分隊のほうを――」

 

 結論を、出そうとした。

 その時、みほは気がついた。

 ステレオスコープのパープルベアーは視野が広い。

 だから気がつけた。視界の端、木々の間に微かに覗く輝きに。

 

「全機散開!」

『え?』

『な、なに?』

『!?』

 

 みほは叫んだ。しかしとっさに反応出来たのは優花里だけで、沙織も華もどうして良いのか解らず動けない。

 

「たあっ!」

『わわわ!?』

『に、西住さん!?』

 

 みほはペダルを思い切り踏み込んで、沙織と華のほうへと跳び込んだ。

 鉄の両手で2人のATを覆いかぶさるように押し倒す。

 

 直後、三機の直上を光の奔流が走り抜けた。

 

 

 

 

 第9話『出会い』

 

 

 

 

 必殺のハードブレッドガンは、木をなぎ倒しただけに留まった。

 

『キャプテン、外しました~』

「怯むな! すぐに再チャージだ! 近藤、河西、続け! アタックだ!」

『はい!』

『行きます!』

 

 ハードブレッドガンの再装填をするあけび機を残し、典子は妙子と忍を率いて突撃を開始する。

 通常型のファッティーにはローラーダッシュ機構はない。しかし大型のジェットブースターが備わっており、直線的な速度ならスコープドッグを大きく凌ぐ。

 不意打ちの一撃の筈が、なかなかどうして、さすがは西住流といった所、必殺スパイクは見事に避けられた。

 ハードブレッドガン。本来は対艦用という大型のビームキャノンは、威力だけならばATの数ある装備のなかでもダントツの性能を誇る。問題は巨大さ故の取り回しの悪さと、チャージに多大な時間を要する点だ。一発あたりの出力を減らして連続発射というテクニックもあるが、流石に今日初めてATに乗るあけびにそこまでのことを要求するのは酷だろう。

 ――だが問題はない。ブロックはされたが敵は態勢を立て直すまではいっていない。

 つまりここは機を逃さず連続アタックだ!

 

「行くぞー! そーれ!」

『『そーれ! それそれ!』』

 

 ATとは肉体の延長。

 普段から練習を欠かさぬバレー部一同は初戦ながら危なげなく機体を駆っている。

 それは鍛えられた直感がなせる技か、あるいはバレー部復活にかける意気込み故か。

 典子が引き金を弾くのを皮切りに、3丁のハンディロケットガンが次々と火を噴いた。

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「聞こえたか?」

『聞こえた』

『始まったか』

『では密約の通りに』

 

 獣道を進むC分隊、歴女チームにも響き始めた砲声は届いていた。

 事前の取り決め通り、A分隊の背後をとるべくC分隊は道なりに直進する。

 ――A分隊の隊長は西住流という装甲騎兵道の家元の子である。

 これは蝶野教官の口より明かされた話だが、それを聞いた瞬間、A分隊を除く他の全チームの戦術は定まった。

 まずは最大の脅威である経験者率いるA分隊を合同で潰す、という戦術である。

 

「このまま前進して、A分隊の背後をとる!」

『信長包囲網じゃー!』

『薩長同盟ぜよ!』

『ローマン・ヴィクター!』

 

 機動力に秀でたB分隊が先陣を切り、C分隊は道なりに直進してA分隊の後方より攻撃、そのまま包囲殲滅する。それで仕留められずとも川向うのD分隊とE分隊が到着すれば数の力で押しつぶす。

 

「電撃戦だ! 川向うの部隊が来る前にカタをつけるぞ!」

『おぉぉー!』

『しかしカエサル、もう少し速く進めんのか?』

『しかたがないだろ! こいつは本当は湿地用の装備なんだ!』

 

 ――しかしC分隊の歩みはあまり素早いとは言えなかった。

 一番遅い機体に合わせての行軍なので、のろのとしたものにならざるを得なかったのだ。

 最後尾のカエサル駆るベルゼルガプレトリオは相当な旧式機で、当然のようにローラーダッシュ機構は備わっていない。そこで機体を組み上げるときに左衛門佐が提案したのは脚部に『スワンピークラッグ』に取り付けることだった。『スワンピークラッグ』は本来、湿地など地面が泥濘(ぬかる)んだ地域でATを運用する際に用いるオプション装備で、要するに『かんじき』だ。(左衛門佐的には水蜘蛛のイメージだったらしいが)

 『スワンピークラッグ』にはグランディングホイールが側面に備わっているので、これを使えば一応ローラーダッシュは可能になる。しかしそもそもが湿地を想定した装備なので、平地で使えば効果を十全には発揮できない。それでも2本の足で地道に歩くよりはマシなのだ。

 

『これ結果的に、洞ヶ峠を決め込むことにならないか』

『それを言うなら功山寺の時の山縣有朋ぜよ』

『いっそ隊を二分して、左衛門佐とおりょうが先行するのはどうだ』

「戦力の逐次投入はだめだ! 絶対だめだ! とにかく黙ってまっすぐ走る!」

『それだ!』

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「秋山さん! 左、30度!」

『は、はい!』

 

 みほは自機を転がり起こしつつ、優花里と即座に反撃の指示を出した。

 優花里もそれに応じてソリッドシューターを撃ち放つ。

 敵の弾を避けながらの発射であり当然命中はしないが、弾丸は木に当たって爆発、それに怯んでファッティー達の動きが止まる。

 

『は、はやく立ち上がんないと! ど、どーするんだっけ!?』

『右ペダルを踏みながら……ええと……』

「右ペダルを踏み込みながら右レバーを手前に引いてください!」

 

 まだ立ち上がれていない沙織と華の為に時間を稼ぐべく、みほは小刻みに動きながらヘビィマシンガンを連射し、弾幕を張った。ファッティー達はそれぞれ木に隠れたりスライド移動で避けたりと、弾は掠っただけで有効弾は無い。

 問題はない。最初から目的は敵の足止めだ。

 

『た、立ったあ! 逃げよう! みぽりん逃げよ――きゃああ!?』

『沙織さん!』

 

 しかし木の合間を駆け抜けながら、B分隊はハンディロケットガンを乱射してくる。

 今しがた沙織のブルーティッシュ・レプリカの左肩や頭頂付近を、弾丸が掠めて行った所だった。

 もともと弾をばらまくタイプの武器である上に走りながらの射撃、そうそう有効弾につながるものでもないが、しかしこれでは身動きがとれない。

 

(この位置に留まれば……C分隊の動きによっては背中をとられて包囲される……)

 

 バースト射撃の牽制を続けながら、みほは次の動きへと頭を巡らせる。

 C分隊が道なりに進んでくるなら、後退した先で遭遇する可能性は高い。

 だが全速で退けば吊橋近くの開けた場所まで、あるいは……。否、B分隊は初心者にも関わらず動きが良い。背中を見せれば自分はともかく沙織や華は撃たれる!

 

『西住殿、後退しますか!?』

 

 左手のハンディロケットガンを乱れ撃つ優花里が聞いてきた。

 みほは大声で、沙織や華へも向けて答えた。

 

「逃げたら狙われます……だから、突破します!」

『まじで!?』

「付いてきてください!」

 

 ヘビィマシンガンを撃ちながら、みほは前方の敵地とまっすぐに、ローラーダッシュで機体を走らせる。

 

『解りました!』

『了解です!』

『やだもー!』

 

 華が、沙織が、優花里がこれに続く。一列縦隊となって突き進む。

 ファッティー達は慌てて進路を塞ごうと集まってくるが、遅い!

 小刻みに左右に機体をカーブさせ、相手に照準を定めさせない。

 

「沙織さんも華さんも撃って!」

『で、でもどうやって!』

「右レバーの上の蓋を外して赤いボタンを強く押して!」

『う、うん、わぁぁぁぁ!?』

 

 ブルーティッシュ・レプリカの右手ガトリングが猛烈に火を吹き、明後日の方向に弾丸を撒き散らす。

 華もヘビィマシンガンを構え、単射で相手を狙い撃つ。当たらないが、構わない。牽制さえできれば良い。

 

「はっ!」

 

 ようやくチャージを終えたらしいハードブレッドガン持ちを狙って、みほは素早く三連射。

 撃破までいかずとも右手を撃ち抜き、重い得物を取り落とす。

 

「!」

 

 ハードブレッドガンの脅威を除いたと思えば、今度は別のファッティーが、みほ達の進路上に機体ごと割り込んでくる。ブーストダッシュそのまま、思い切り左手でみほ機へと殴りかかってきたのだ。

 

(今!)

 

 拳が自機へと届く寸前、みほは右のターンピックを打ち込み機体を半ターン、上体を斜めにしボクシングのスウェーの要領で拳を受け流す。と、同時に左拳を目前を過ぎゆくファッティーの横腹に当てる。

 ――バシュゥゥゥン! と鋼と鋼のぶつかり合う強烈な音と、火薬の音、そして飛び出す薬莢の音色がコーラスを奏でた。アームパンチの一撃にファッティーの体は吹っ飛んだ。

 視界を後方へと流れ行く薄手のコバルトグリーンの機影に、みほは流し目にヘビィマシンガンで狙いをつけバースト射撃を撃ちこむ。

 視界を前へと戻す時、機体の頭部から白旗が上がるのが見えた。

 まずは一機。

 

「このまま直進します!」

 

 そう叫ぶと、みほ達A分隊はさらに加速する。

 一機撃破で動揺したのか攻撃も止まるB分隊を尻目に、みほ達は正面突破に成功していた。

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 横殴りの衝撃が来たかと思えば、気づけば機体は傾き転がり、それに対応する間もなく続けて来た衝撃に機体は揺れる。

 

『キャプテン!?』

『キャプテン!?』

『キャプテン!?』 

 

 妙子の、忍の、あけびの驚きが典子の耳に届いた直後、無線越しに例の蝶野教官の声が聞こえてきた。

 

『B分隊、隊長機撃破』

「やられたか~」

 

 ハッチを開いて外に出てみれば、確かに撃破判定の白旗が飛び出している。

 果敢にアタックをかけたが、やはり相手は経験者、そう甘くはないらしい。

 

『撃破されたパイロットは速やかに待機場所へ戻って。それと隊長さんは他の隊機に指揮を引き継いで』

「引き継ぎ?」

『そう。残りの三人の誰かに指揮を引き継ぐの。今回は殲滅戦ルールだから全機撃破されなきゃチームとしては負けてないわ』

 

 なるほど、そういうことか。

 自分を取り囲み、ハッチを開いて自分を心配そうに見る我らがバレー部員の一人、赤ハチマキの妙子を指差し典子は言った。

 

「近藤、キャプテン代行だ!」

「え? 私がですか!?」

「そうだ! そして一刻も早くA分隊を追うんだ! まだ三機もいる! 戦いようはいくらでもある!」

「は、はい!」

「みんな根性だ! 根性で頑張れ!」

「「「はい! キャプテン!」」」

 

 典子自ら激を飛ばしたお陰で、一同の動揺は去り、逆に闘志が(みなぎ)ってくる。

 

「よーし行けー!」

 

 典子の声に従い、B分隊はみほ達への追撃にとりかかった。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「よーし全機橋を渡り終えたな! このまま前進だ!」

 

 河嶋桃は背後を振り返りながら、そう命令を下した。

 桃の駆るダイビングビートルを先頭に進むのは、会長と柚子のE分隊に、一年生チームであるD分隊の計9機。

 最初にみほ率いるA分隊を合同で叩く密約に従い、両分隊は合流、たった今、吊橋を全機渡り終えた所だった。

 吊橋を渡るときはあっちにゆらゆらこっちにゆらゆら、特に一年生チームがビビってしまってなかなか進まず、予定よりも進行は大幅に遅れてしまっている。

 

「会長、既に西住たちとB分隊、C分隊は交戦を開始しているかと」

『さっき遠くからドンパチ聞こえてきたもんね~まぁとにかく急ごっか~』

 

 加えてD分隊のトータスにはローラーダッシュができない機体が混ざっていて、つまり歩きの速度に合わせて進まねばならず、これも大幅な遅れの原因になっていた。桃は何度も一年生相手に居丈高に急かしたが、だからといって歩くのが速くなるわけでもない。

 

「小走りに急げー! やつらに目に物見せてやるのだ!」

 

 別に誰に頼まれたわけでもないのだが、なんとなく桃が一行の実質的な指揮官となっていた。

 

『そんな急がなくても』

『おしり痛い~』

『隊長は私なのに~』

『でも先輩、怖いからついていこう』

『そうしようそうしよう』

『……』

 

 桃は表情も声もやや険しい調子なので、一年生チームは黙って彼女の指揮に従っていた。

 会長は相変わらずATのなかでも干し芋をかじり、柚子は会長が何も言わないのでとりあえず今は黙っていた。

 

「気をつけろ! 地図によるとそろそろ予定のエリアに――」

 

 しばし進み、道の交差点に差し掛かった頃だった。

 桃は不意に言葉を止めた。彼女の目がやや遠くに、ゆっくりと進むATの機影を捉えたためだ。

 数は4。見えるのはドッグタイプばかり――。

 

「おのれビーラーめ! 撃て! 撃て撃て撃て!」

『待って桃ちゃん! あれ味方――』

 

 突然の発砲命令。

 柚子は見えているATがC分隊だと気づき、桃を制止しようとした。

 だがその声は、銃声と少女たちの雄叫びによって掻き消されてしまった。

 

「撃て! 撃て撃て撃て! 見えるものは全て撃て! ここはビーラーの巣だ!」

『敵! 桂利奈ちゃん敵だって!』

『私達も撃て!』

『え!? ちょっと待ってあれ味方なんじゃ!』

『ぶっ潰せー!』

『ぶっ殺せー!』

『……!』

 

 桃とそれに従うD分隊は、見えた機影へと一斉射撃を開始した!

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「おわ!? 何だ!?」

『敵だぞ!?』

『どこから!?』

『左! 左ぜよ!』

 

 エルヴィンはとっさにシールドを掲げ、飛んでくるロケット弾より身を守った。

 カエサルのプレトリオ、おりょうのホイールドッグも同様に素早く盾を構えて攻撃を凌ぎ、隊で唯一シールドを持たない左衛門佐機を庇う。

 

『待て! ありゃ生徒会と一年生のチームじゃないか!』

「何をやってる!? こっちは味方だぞ!」

 

 エルヴィンはサインを送って撃つなと伝えようとしたが、その間もなく砲撃銃撃は激しさを増すばかり。

 

『一旦後退だ! 左衛門佐!』

「よし! 忍法霧隠れ!」

 

 左衛門佐のカスタムスコープドッグは左肩にスモーク・ディスチャージャーを装備している。

 発煙弾を発射し、その隙にローラーダッシュで後退、適当な木の影に身を潜める。

 

「やはり明確にこちらを狙っている」

 

 エルヴィンが覗き見れば、煙幕に向かって数撃ちゃ当たるとばかりに滅茶苦茶に乱射している。

 誤認で撃ったなどと生易しいものではない。確実に、撃破を意図した攻撃だ。

 その行動の、意味する所はひとつ。

 

『おのれ金吾! 寝返りうったか!』

『ブルータスおまえもか!』

『薩長同盟は解消ぜよ!』

 

 そう裏切りだ! 味方をすると見せかけての横合いからの奇襲!

 実際、たまたまシールド装備の機体が多かったが為に撃破こそ免れたが、そうでなければとっくに全滅していただろう。だが奇襲は失敗した。ならば反撃だ! 裏切り者に目に物見せてやる!

 

「全機突撃!逆バルバロッサだ!」

亀甲隊形(テストゥード)!』

『大鉄砲で狙い撃ちじゃあ!』

『見せるぜよ北辰一刀流!』

 

 元々ノリの良い彼女たちであったが、その闘志をいよいよ燃やし、四機一体となって煙幕の影を迂回し、敵側面をとるべく駆け出した。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「ダメだねこりゃ」

『皆さん、平静を失ってます』

 

 荒ぶる桃と一年生一同を見て、杏会長は干し芋を咥えながら呟いた。

 一見、その攻勢は猛烈であるが向かう相手は煙幕の彼方。

 滅茶苦茶に撃ってはいるが果たして内何発が標的のほうへ向かっているのやら。

 桃は完全に頭に血が昇ってしまっているし、D分隊も完全にそれに乗せられている。

 横から何を言っても、もう何も聞こえまい。

 

「小山、ここは河嶋に任せて先に行こう」

『え? 桃ちゃんの好きにさせて良いんですか?』

「良いって、どうせどのみち潰し合わなきゃいけないんだし、早いか遅いかの違い違い」

 

 付け加えるなら自分らが抜けようと戦力比7対4。しかもこちら側からの先攻で戦闘は始まっている。

 桃も、これならば自分で何とかするだろう。

 

「それじゃかわしまー、あとは任せたから」

『桃ちゃん先行くね!』

 

 と、そそくさと杏会長と柚子はその場を後にする。行く先は、言うまでもなくみほ達の所。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

『やったよみぽりん! 一機撃破だよ!』

『西住さん、やりましたね!』

『流石です! 西住殿!』

 

 歓声を上げる三人に対し、みほは飽くまで冷静だった。

 

「まだ一機。残りはまだ三機。それに敵は他にもいます! 全機後方を警戒し、追撃に備えてください!」

『また来るの!? ええい! 今度はちゃんと命中させてやるんだからー!』

『わたくしもです! じっくり集中して狙えば!』

『了解です西住殿!』

 

 みほは残弾を確認しつつ、どこへと向かいどう戦うかについて考え始める。

 

(残弾は90発。予備マガジンは無し。単射で弾薬を節約しながらの戦いになる。戦場は――)

 

 とまぁ考え事をしながらも、ちゃんと前方への警戒を怠っていないのは流石は西住みほだ。

 進路上に道端、切り株を枕に居眠りしている女子生徒の姿に、彼女はすぐに気づいた。

 

「前方注意! 全機停止してください!」

 

 号令のもと、みほ達は速度を緩め停止した。

 件の女子生徒はアイマスク代わりに顔に載せていた漱石全集を取って閉じると、すっくと立ち上がる。

 明らかになった少女の顔に、みほは見覚えがあった。

 

「あなたは!?」

「……西住さんか」

 

 ハッチを開いて直接向かい合ったのは、先日船底で巡りあった寝坊助少女、冷泉麻子であった。

 

 


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