ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第61話 『砲撃』前編

 

 ついに辿り着いた台地の上の平面は、みほの作戦にこの上なく叶う土地だった。

 平面と言っても、テーブルのように本当にまっ平らになっているわけではなく、風雨の侵食によって削られたり穿たれたりで凸凹だらけなのだ。ハイキングには向かない地形だが、装甲騎兵道的には素晴らしい場所だった。つまり、ここは自然の塹壕であり、天然の野戦陣地ということなのだ。

 台地に降り立ってからのみほ達の行動は迅速だった。

 各々の分隊の装備の射程・性質を踏まえて、てきぱきと配置していく。

 麓から狙い撃ちにされるのを警戒しての、頭部などが晒されないように車高(というよりも機体高)を低くしてのゆるやかな移動ながら、大洗のAT達は淀みなく位置についていった。

 上からの狙撃に気を使う必要はない。

 廃鉱山の上に陣取った、大洗きっての狙撃手が睨みを効かせている、その限り。

 絶好の位置を押さえながらも、稲妻を掲げるバーグラリードッグ達は、ただ息を潜めるほかはない。

 結局、一切の邪魔が無いままに配置は完了した。

 大洗側から見て、最右翼にはあんこう分隊が着く。

 次いで配置されたのはウサギさん分隊で、華が抜けて火力の落ちたあんこう分隊をH級ならではの重装備で支援する。

 ウサギさん分隊の左には、カエル、アリクイ、ニワトリの順に配置された。

 大洗の張った防御線の中央部をこの三個分隊が担当する。大洗装甲騎兵道チームの中でも実力が高く、機体性能も優良なカエル、ニワトリの両分隊の間に、経験の浅いアリクイ分隊を挟んでサポートする配置だった。

 最左翼を陣取るのはウワバミ分隊のストロングバッカスの四機だ。

 自動車部が決勝戦に備えて最終調整を施し、また大洗の予算で手に入る範囲での高火力の武装でガチガチに固めたストロングバッカス四機は、ATらしからぬ頑丈さとATならではの攻撃力を兼ね備えている。他の分隊からやや離れた配置だが、それも彼女らの実力とATの性能を考慮してのことだった。

 

「各分隊、状況を報告してください」

 

 みほからの無線に、各分隊長は即座に返信を返した。

 

『こちらウサギ。黒森峰はこっちの射程の外で止まったままです』

『こちらカエル。麓の岩陰に隠れたままで動きが見えません』

『こ、こちらアリクイ。……えと、見た感じ相手は下で固まったまま……かな』

『こちらニワトリ。敵軍に動きなし。繰り返す、敵軍に動きなし』

『こちらウワバミ。こっちもこっちでぜんぜん動きなーし』

 

 聞こえてくるのは、黒森峰に動き無しの報告のみ。

 みほも台地の下から狙撃を受けないギリギリの高さで頭部を出し、ステレオスコープで麓の様子を窺う。

 あんこう分隊が守るエリアの麓にも黒森峰の分隊が展開している。

 しかし、転がっている岩々や盛り上がった土の後ろに隠れてじっと動かない。

 黒いATは、泥が剥き出しの台地の地面に溶け込んで、一体化したかのように見える。

 それぐらいに、黒森峰には動きがないのだ。

 

『……どういうことでしょうか?』

「……うん。たしかにおかしい」

 

 優花里が呈した疑問の声に、みほも頷いた。

 黒森峰は速攻こそ常法。それは相手がどんな構えを見せようとも変わりはない。

 こちらが台地上で防御を固めたからといって、それで動きを封じられる相手ではないのだ。

 防御は攻撃で叩き潰し、硬い防御はさらなる攻撃で粉砕する。それが西住の流儀。

 こちらの防御態勢が整う前に総攻撃をかけてくるであろうというみほの予測は裏切られた。

 

『こっちの防御が完璧だからじゃなくて?』

『数もATの性能もあっちが上なんだ。物怖じするような状況じゃない』

 

 沙織の楽観的な予測を、麻子が冷静に斬って捨てる。

 沙織もそっかと小さく頷いて返した辺り、彼女も彼女で言葉とは裏腹に不自然さを感じていたらしい。

 本番ギリギリまで、過去の黒森峰の試合データを総ざらいして分析を行ったのだ。その結果が示しているのは、そう易易と流儀を変える黒森峰ではないという事実。

 

『うーん、じゃあ相手が頑なな感じだから、とっておきのプレゼントを用意してるとか。どーんと、一発で心を開いてくれるような』

『何の話をしてるんだ』

 

 沙織が相変わらず畳の上の水練な恋の駆け引きに例えて言うのに、麻子はと言えば呆れたといった調子だ。

 だが、隣でそれを聞いていたみほの反応は違った。

 

「沙織さん……今言ったのをもう一回お願いします!」

『え? なに、みぽりん? プレゼントの話がどうかしたの?』

「プレゼント……」

 

 プレゼント。相手の頑なな態度を(ほぐ)すプレゼント。

 攻撃。相手の防御を崩す、特別な攻撃。

 

「カメさん分隊! 聞こえますか!?」

『なーにー? 西住ちゃん』

 

 何か思い当たるところでもあったのか、みほが通信を繋いだ相手は杏だった。

 

「バーグラリードッグ隊の動きはどうなってますか?」

『んーとねー。何かみんな物陰に隠れてこっそりコッチを窺ってる感じかなぁ。五十鈴ちゃんの攻撃が怖すぎて、出てこらんないみたいだねぇ~』

 

 バーグラリードッグ隊は山に残って偵察を続けている。

 つまり攻撃は出来ずとも、こちらの動きは全て見えているということ。

 

『それに――』

『みほさん!』

 

 杏が続けて何かを言おうとした時、それに被さるように華が叫んだ。

 礼儀正しい華には珍しい無作法だが、それをみほも杏も咎めない。

 それだけの切迫感が、華の声には篭っている。

 

『黒森峰のATの轍が見えます! 相手は山の裏手にまわって、何か企んでいるようです! 注意してください!』

 

 みほは再度機体頭部を塹壕から出して、ステレオスコープの倍率を上げてみる。

 華の言う轍は見えない。おそらく、廃鉱山の一番高い位置に陣取っている華だから気づけたのだ。

 

『何を言っている五十鈴。山の向こうで何をしていようが、こちらを狙うことなどできまい』

 

 横から桃が口を挟むが、みほはそれを聞いてはいなかった。

 みほが思い返していたのは、自分の知っている黒森峰の装備品の数々だ。

 この状況下で、姉が、まほが使ってくるであろう得物は何だ?

 

「ッ!」

 

 みほは気がついた。

 そうだ『アレ』があった。

 『アレ』ならば山の向こう側からでもコチラを狙い撃ちにできる!

 

「全機、頭上に注意!」

 

 センサーが鳴り響く風切り音を拾い、みほへと知らせる。

 アンツィオ戦で頭上からの攻撃に散々悩まされた大洗だけに、みほの号令からの反応は素早かった。

 素早く凹凸の中を移動し、防御に適した場所へとATを滑りこませる。

 アリクイさん分隊が些か危なっかしくもギリギリの所で安全地帯に飛び込めば、直後、空からの一撃に大地がめくれ上がり、土と埃の柱が天へと伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第61話 『砲撃』

 

 

 

 

 

 

 

 

『だんちゃーく……今!』

 

 第19分隊長の声と同時に、爆音が鳴り響き、砲弾が大地を抉る様がまほの眼に飛び込んでくる。

 だが台地の上、平らな部分に陣取った大洗側の様子も、砲撃の成果もまほの場所からは見えない。

 すぐさま背後の山に控えた、バーグラリードッグ隊へと回線を繋ぐ。

 

「どうだ?」

『すみません、まだ土埃が激しくて視界が……見えました! 残念ながら敵は健在。砲弾はやや手前に落ちました』

「わかった。再度座標を送信だ」

『了解!』

 

 慣れぬ武器に、偵察も十分でない現状を思えば、山の裏の『砲兵隊』は実によくやっている。

 次の砲撃までには座標の修正は済むだろう。そうなれば十発の『迫撃砲弾』が大洗女子学園の防御線を食い破ってくれる筈だ。

 

『こちら砲兵隊。照準の修正が完了。いつでも撃てます!』

「よし。こちらも攻撃態勢に入る。三十秒後に砲撃を再開しろ。奇数番の砲を連続発射したあと、偶数番の砲を今度は逆順に連続発射だ」

『了解! 秒読みを開始します!』

 

 まほは即座にエリカへと回線を切り替え、テキパキと指示を下す。

 

「エリカ、砲撃に合わせてこちらも攻撃を開始する」

『了解です! 各分隊、味方の砲撃開始と同時に前進! 総攻撃を仕掛ける!』

 

 エリカの凛々しい声に、台地を前に黒い戦列に適度な緊張感が満ちる。

 まるで一個の生き物のような一体感。これならば機械のように前進し、相手をその歯車で挽き潰せる。

 

(みほ……グライダーでの飛行や、ワイヤーを使っての高速移動には感心した。あんなやりかたは私では思いつかなかっただろう。その柔軟性がみほの強さだ。だが――)

 

 台地の向こう、そこにいるであろう妹に、まほは胸中で語りかける。

 

(奇策だけで勝てるほど、西住流は、黒森峰は軟弱ではない)

 

 まほはみほをよく知っている。

 咄嗟の機転や、土壇場での閃きにかけて我が妹は、姉たる自分を遥かに凌ぐ才覚を持っていることも。

 僅かな手札であっても、その中で最大限の工夫を凝らして相手の意表を突いてくることも。

 だから予防線を張っておいた。

 第19、第20、第21、第22、第23分隊の五個分隊に持たせた、『ハンマーキャノン』がそれだった。

 

(いかな奇策といえど、圧倒的な火力を前にすれば――無意味だ)

 

 『ハンマーキャノン』とは、一言でいうなればAT用の迫撃砲とでも言うべき代物だ。

 大型の折りたたみ式ソリッドシューターであり、基本的にはAT手持ち火器のソリッドシューターとは構造に差異はない。しかし非常に大型で、大口径である。地面などに設置して使用し、その運用にはATは最低二機が必要となる。一旦設置した後は、AT手持ちの武器と違って簡単に向きを変えるなどはできない。故に走り回るATなどを狙って撃つのには当然向いていない。基本的には敵陣地や要塞など静止目標に向けて使うのが前提の武器だった。装甲騎兵道の試合でもルール上使用は可能だが、実際に使う学校は稀だった。

 まほ自身、実際の試合で使うのは今日が初めてであった。

 しかし問題はない。いざというときに備えて、件の五個分隊から『砲兵隊』への綿密なレクチャーは済ませてある。本来ならば決勝戦にはエントリーが叶わない一年生の補欠メンバーから選抜された砲兵隊のメンバーは、まほからの期待に応えるべく全力で練習に臨んでいた。そのおかげで、実戦での初使用ながらも彼女らの動きは淀みがない。

 

『5、4、3、2、1――』

 

 砲兵隊の隊長を任せた第19分隊の分隊長の秒読みは、遂に攻撃の時を知らせた。

 

『ゼロ! 撃ち方始め!』

 

 山向こうからまほの頭上を越えて、急な放物線を描いて砲弾が飛んでいき、着弾した。

 吹き上がる土煙は、黒森峰の攻撃の合図となった。

 まほは号令する。

 

「攻撃はじめ」

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 スコープを覆う土砂を、クリーニング機構を起動させて拭い落とす。

 洗浄液を高圧で吹き付けることで、泥だの砂だの程度ならば簡単に取り除くことができるのだ。

 丸い頭部に被さった土を払いのけながら、みほは僅かにカメラ部を出して外の様子を偵察する。

 

『……ただでさえ酷い地面の凸凹が、もっと悲惨なことになってきたな』

『流石は対要塞攻撃用兵器……威力は抜群です』

『やだもー! こんなの反則じゃん! どうすりゃいいのよ~』

 

 みほに続いて窪地から顔を出した、麻子、優花里、沙織のAT達のカメラも砲撃後の有様を捉えたらしい。

 合計10門のハンマーキャノンの猛威に、台地の上の土は耕され、天然の塹壕も吹き飛ばされている。

 直撃を受ければ撃破判定は確実だ。

 

「各分隊、状況を報告してください」

 

 幸いなことに、返信は直後に来た。

 

『こちらウサギ。全員無事です』

『こちらカエル。根性で耐え抜きました!』

『こ、こちらアリクイ。生きてるよ……一応。生きた心地はしないけど』

『こちらニワトリ。全機健在!』

『こちらウワバミ。ピンピンしてるよー西住さん』

 

 黒森峰の次なる砲撃を予期し、僅かに防御線を後退させたお陰で砲弾の直撃は免れた。

 そのお陰か、幸運も手伝って未だ被撃墜機はいない。

 しかし、次なる砲撃はすぐにでもやってくるだろう。

 防御線をさらに後退させれば、それも凌ぐことはできようが――。

 

『どうする? このまま下がってたらいつか台地から追い出されるぞ』

 

 麻子の指摘した通りである。

 これでは、この台地を確保した意味がない。

 しかし、直上からの砲撃に(にわか)仕立ての自然の塹壕だけでは踏みとどまって戦うにも限度がある。

 加えて言うなれば、敵は空からだけ来ている訳ではないのだ。

 

『こちらウサギ! 黒森峰の部隊が台地を登り始めています!』

『こちらカエル! こちらでも黒森峰部隊が前進を開始しました!』

『西住さん! 来てる! 敵来てる! \(^o^)/オワター!』

『こちらニワトリ! 敵前進を開始!』

『こちらウワバミ。なんかねー、もうぞろぞろと上がってきてる感じだよー』

 

 みほ達がいる塹壕に面した斜面でも、黒森峰部隊は登攀(とうはん)を開始していた。

 スピードは意外にも緩やかながら、しかし鋼鉄の脚で踏みしめつつ着実に登ってくる。

 その隊列状は歩んでいるのが状態の悪い斜面であることを忘れるほどに見事で、マシンのように規則正しい。

 

「カメさん分隊、援護をお願いします!」

 

 みほは即座に廃鉱山の杏達へと回線を繋ぐが、返って来たのは厳しい現状報告だった。

 

『そんな状況じゃないぞ西住! やつら、損害も気にせず撃ちこんでくる! ひぃ!?』

 

 桃の発する悲鳴には砲声が唱和し、コーラスを奏でていた。

 このぶんでは華も遠距離での撃ち合いで手一杯になっているだろう。

 

「なら」

 

 自分たちでやる他はない。

 みほはその歩みを止めるべく銃撃を加えようとしたが、果たせなかった。

 ヘビィマシンガンの銃口を向けロックオンしようとした直後に、炎と土に視界を遮られたのだ。

 倍率を落として空を見れば、正確にこちらを狙っていた砲撃は大洗と黒森峰の間の空間目掛けて次々と撃ち込まれている所であった。

 矢継ぎ早に飛んでくる砲弾は大洗の頭上を脅かし、あるいは爆炎と土砂の帳で視界を遮る。

 そして砲撃と砲撃の合間に見えるのは、じりじりとこちらへと迫り来るブラッドサッカーの群れだ。

 今や、そのカメラアイの緑のきらめきもはっきりと捉えられる。

 

『「這う砲撃」か! これでは手出しができんぞ!』

『移動弾幕射撃……まさかこれを装甲騎兵道の試合で使ってくるなんて!』

 

 エルヴィンと優花里が悔しげに叫ぶ。

 移動弾幕射撃とは、歩兵や戦車隊の進度に合わせて徐々に着弾点を前進させ、弾幕を立てて歩兵・戦車の攻撃を援護する戦法である。有効な戦法ではあるが、装甲騎兵道で用いることはほぼ無い。

 故に、対処法もマニュアルにはない。

 つまり、この場で考え出す他はない。

 

『どうするみぽりん!?』

『このままじゃ空と陸の挟み撃ちでオシマイだぞ』

 

 沙織と麻子に問われてから、みほが答えを出すまで、僅かにコンマ3秒。

 

「……会長、聞こえますか!」

『なーにー西住ちゃん! ちょいとばかし立て込んでるけど!』

 

 いつもの軽快な調子に、若干の焦りを交えて杏が応えた。

 

「一時、華さんに反撃を任せて下さい!」

『お! さては「アレ」をやるね!』

 

 杏の声から焦りが消えて、快活さが戻ってきた。

 

「はい! 『モクモク作戦』を開始します!」

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

『っ! 隊長!』

「慌てるな、ただの煙幕だ」

 

 廃鉱山から飛んできた砲弾は斜面に突き刺さり、弾けて濃い白煙を吹き出し始めた。

 まほの指摘した通り、それは煙幕だった。

 続けて台地の上からもゆるい放物線を描いて筒状の砲弾が飛び、煙幕をさらに濃いものとする。

 組成は不明だが、重い気体であるらしい。

 地球の重力に従い、黒森峰の戦列へと向けて白煙は降り始めていた。

 このまま進めば、味方の砲撃の誤射を受けてしまう危険性が高くなる。

 

『全機一旦停止! 砲兵隊の攻撃で煙幕を吹き飛ばさせるわ! 座標は――』

「……」

 

 エリカが即座に的確な指示を出したために、まほはみほの手を読むことに集中することにした。

 さて、みほはどう出るだろう。

 煙幕でコチラの動きを止めて、その隙に今や戦略的価値を失った台地を放棄するつもりだろうか。

 台地を放棄してもまだ廃鉱山がある。道が良すぎて籠るには向かないが、それでも平地で戦うよりマシだろう。何より、あそこを狙おうと思えば砲兵隊を山の裏手から動かさねばならない。姿を露わにさえすれば、みほならばいくらでも対応法を考え出すだろう。しかし、砲兵隊を排除したとしても、ブラッドサッカーの群れを前にすれば最早無意味になる。

 

「……」

 

 試合場には森林地帯が多い。そこにこちらを誘い込んでゲリラ戦を行うつもりだろうか。

 しかし、こちらは数で圧倒的に勝る。限られた範囲の試合場では、いかにゲリラ戦を展開しようとも限度が生ずる。消耗戦になれば大洗に勝ち目はない。

 つまり、みほの取りうる作戦は――。

 

「!」

 

 まほは全機へと回線を開いた。

 

 

 

 

 

 エリカは麾下(きか)の選手たちへと指示を出しながらも考えていた。

 アイツなら、こういう状況でどうするだろう?

 煙幕越しに砲撃を仕掛けてくるか。

 あるいはコチラの足止めをしている隙に逃げ出すか。

 

(アイツなら……)

 

 エリカは必死に黒森峰時代のみほの言行を思い返していた。

 みほは副隊長として飽くまでまほの影に徹していたが、だからといって自身の意志を見せなかった訳じゃない。

 

(アイツなら――ッッ!?)

 

 ここでエリカは思い出した。

 アイツが、西住みほが口癖みたいに言っていた、あの台詞。

 

 

 まほは思い返していた。

 みほがこういう状況だと常に言っていた、あの台詞。

 

 

 ――『逃げると狙われます。突破するんです』

 

 

 まほは号令を下した。

 

「全機、攻撃態勢」

 

 エリカはほぼ同時に号令を下した。

 

「全機! 攻撃態勢! 来るわよ、アイツが!」

 

 果たして、やって来た。

 煙幕を突き抜けてやって来た。

 みほ自身では無かったが、そのみほの指揮のもとに、黒いATが姿を現した。

 奇しくもそれは、黒森峰から流れ着いた旧式機、漆黒に塗られたスコープドッグ・ターボカスタム。

 四機のタイプ20を駆るのは、大洗きっての精鋭、カエルさん分隊!

 

 

 

 


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