ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第6話 『編成』

 

 

「おーらいおーらい! ストップ! 右、もうちょっと右! よーし降ろして!」

「違う! その腕はトータスタイプのだ! 左から三番目の機体の所に持っていけ!」

「この箱みたいなの使えるのかな~」

「ググッてみたけど、ミッションパックってのがないと無理だって」

「重い~華手伝って! こんなの一人じゃ持てないよ~」

「そうでしょうか」

「うそ~~」

「腕ならもう一本ぐらいならいけそうですね……よいしょっと」

「キャプテン! これなんかどうでしょうか!」

「大きい! これなら強力なスパイクが打てるぞ!」

「コイツの肩は赤く塗らないのか?」

「キサマ! 塗りたいのか!」

「むしろ全身塗って赤備えじゃー!」

「「「それだ!」」」

「がんばって桂利奈ちゃん!」

「みんなで頑張ればきっと持ち上がる!」

「あいい!」

「やったーあがったー!」

「それじゃあ全機総入れ替えするとして、PR液の発注に掛かるのは――」

「え! そんなにするんですか!」

「機体はなんとかなっても、それ以外でやっぱお金がね~武器もなんとかしないといけないし」

「自動車用のやつに余りがあるので、暫くはそれを代用できますね」

 

 みほは自身の作業の手を止めてAT修理、AT作りに取り組む皆の姿に眼をやった。

 スコープドッグの腕を軽々と持ち上げる華に、逆になんとか床に引きずってショルダーアーマーを運ぶ沙織。

 体操服の一団――バレー部(仮)の皆は、巨大なアイアンクローの前に集まってなにやらテンションを上げている。

 ミサイルランチャーを神輿のように担いで運ぶ一年生の傍らでは、スプレー片手に例の変わった格好の一団が何やら議論していた。

 桃はメガホンを携え指示を出してまわり、会長は干し芋を齧りながら副会長と一緒になって黄色いツナギの少女と相談している姿が見える。

 

『何というか……みなさん本当に活き活きした様子ですね』

 

 不意に後ろから声をかけてきたのは優花里だった。

 みほは振り返り、そして仰ぎ見た。優花里は自作ATで他のATの胴体を運んでいる所だったらしい。

 

「うん。最初はどうなることかと思ったけど。みんな乗り気になって良かった」

 

 最初、鉄と油の臭いに辟易した様子だった一同も、いざ始めてみると意外に乗り気になったのだ。

 共同で、一丸となって何かを作るという行為は、不思議と人間の心を高揚させるモノを備えているらしい。

 重い重いとぶーたれていた沙織も、華に負けるかと一生懸命になっているのが、みほにも解った。

 

「西住殿のほうはどうですか。だいぶ綺麗になってきたようですけど」

「うん。さっきセンサー系はまるごと取り替えて映るようになったけど、問題は駆動系かなぁ」

「でも、さっき動かした時は無事に動いてたような」

「それは西住さんが経験者だからかなぁ」

 

 会話の途中でひょっこり混じってきたのは、みほと一緒にパープルベアーの駆動系を直していた少女だった。

 黄色いツナギに黒いショートカット。同じツナギの少女は、この倉庫内には都合四人居て、誰もが手を油まみれにしているが、彼女はその四人のなかで一番小柄だった。

 

「あ! 自動車部の……」

「ナカジマ。秋山さんだったね、よろしく」

「はい! よろしくおねがいします! それで……このパープルベアーには、まだ何か問題でも?」

「ううん、問題があるというか、問題しか無いというかぁ。ま、簡単に言うとあてにならないパーツがざっと50はあるかな」 

「ご、ごじゅう!」

 

 思った以上に問題だらけだったのに驚いて、優花里はATの操縦席から転げ落ちそうになって、何とか堪えた。

 

「それもざっと見た限りでの話だから、詳しく見ればもっとかも」

「西住殿、よくそんな状態のATを動かせましたね」

「ATはああ見えて意外と、頑丈な所は頑丈だから……」

「軽トラみたいなもんだからね。多少ガタが来ても動ける辺りは、良く出来たマシンだと思うよ」

「パルミスの高原、オロムの荒野、ガレアデの冷獄……どんな戦場にも負けない鋼の兵士ですからね!」

 

 ATは戦場を選ばない。砂漠、湿原、荒野、平野、森林、雪山……あらゆる戦場でATは戦う。

 酸の雨に打たれても、暴風に晒され、灼熱の太陽に焼かれても、鉄の背中は果てしなく進むのだ。

 最低のマシンと蔑まれ、鉄の棺桶と忌み嫌われても、こうも普及したのは、その安さ故だけではない。

 この上ない汎用性と、ジャンクの組み合わせでも動く拡張性。これこそがATの真髄だった。

 

「それはそうと、秋山さん。それ、運ばなくて大丈夫?」

「そうでした! 西住殿、ありがとうございます! すいません今いきまーす!」

 

 優花里はハッチを閉じると、ちょっと早足にATを歩ませる。

 みほはふふっと微笑んだ後、折れたターンピックのほうへと眼を向けた。レールそのものが歪んでしまっているから、ここも総取り替えしないといけないだろう。

 

「ナカジマさん。ビズィークラブ借りれますか?」

「あれは今ツチヤが使ってるから。共食い用のタコの足なら、ツチヤに持ってこさせるよ」

「悪いです、そこまでさせちゃ! それに、自分で使う機体の部品は、自分で見ておきたいですし」

「おや、その子が気に入った?」

 

 ナカジマに言われ、みほはどことなく熊っぽいステレオスコープ顔を見た。

 そして答えた。

 

「はい。それに、使い慣れた機種が良いので」

 

 

 

第6話『編成』

 

 

 

「作業ご苦労だった。修理、整備にも一段落ついた以上、仕上げは自動車部に任せることする」

「一通り顔ぶれが揃ったから、今日のうちに編成決めないとね~明日決めるのも面倒だし」

 

 校庭が夕陽で真っ赤にそまる時分、一同爪の色がグリスの黒になるまで作業をし、みな疲れきっている様子だった。

 しかし、顔色は一様に明るいのは、ずらりと並んだ鋼の雄姿があるからだろう。

 機種はバラバラで背丈も不揃いで不格好だが、それでも大洗装甲騎兵の戦列は夕陽に映えて壮観だった。

 

 杏会長と桃は、一同への話を続ける。

 

「装甲騎兵道は分隊編成にその特徴がある。三名から六名でチームをつくり、各チームで使用する機体の希望を出してもらう」

「特に希望がないなら、とりあえず見つけたATを見つけた人が使うってことで」

 

 チームを作れ、との言葉に、一同がわいわいと騒がしくなった。

 その機を逃さず、沙織はみほに気になっていることを訊いた。

 

「ねぇみぽりん。分隊編成って?」

 

 訊かれてみほはすぐに問に答える。

 

「簡単に言うと、大きいひとつのチームを、小さい班に分けて戦うの。小さい班にはそれぞれリーダーと、無線を使う連絡係がいて、班同士が通信し合いながら戦う……装甲騎兵道の試合は、そんな感じになってるんだ」

「分隊長、通信兵の二人は絶対に必要です。ですから、公式ルールでは分隊は最低AT3機、最大6機とするってなってます」

 

 みほの説明を、優花里が補足する。

 

「でしたら、わたくしと沙織さん、みほさんに秋山さんの四人でちょうど良いですね」

「うん。私はそれで良いかなって考えてた。沙織さんも、秋山さんもそれで良いかな」

「当然! 大船に乗った気持ちで頼りたまえ」

「こちらこそ! 西住殿と同じ分隊で戦えるなんて、感激でいっぱいですぅ!」

 

 と、みほの分隊はあっさりとメンバーが決まった訳だが、他の分隊も早々とメンバーは決まっていった。

 元々の友達同士、仲間同士で連れ立って装甲騎兵道を履修した者が多かったためだろう。

 出来上がったのは、全部で五つの分隊。

 

「では、各分隊をA分隊、B分隊、C分隊、D分隊、E分隊と命名する。さて、肝心の機種選択だが、要望のある者は挙手をして発言するように」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

 

 次々と手が挙がり、気づけば履修者の殆どが挙手をしている状況になっている。

 一方、みほはと言うと何か考える様子であり、沙織は手を上げつつ優花里にオススメなどを聞いていた。

 

「ねぇ秋山さん。秋山さんはあのなかだとどれがいいと思う?」

「そうですね。どのATも個性というか特徴があって一概には言えないですけれど……個人的な好みで言えばX・ATL-01DT ツヴァークですが、ここには残念ながらありません」

「ここにあるやつで! そう、できれば乗り心地がいいやつ!」

「だったらダイビングビートルがおすすめかと。H級ATの高級機で、コックピットも広くて乗り心地が良く、装甲も頑丈です。二時間も浮上無しで潜水が可能で、それにエアコンも完備されてます」

「え!? エアコンついてるの!」

「はい。水中用なので、温度管理は大切ですし」

「じゃ私決めた! はい! だいびんぐびーとるください!」

「私はベルゼルガを……」

「あ! 私は自分のAT使います!」

 

 わぁわぁやいのやいのやいのやいの。

 各々勝手に要望を話し始めるものだから段々と収集がつかなくなってくる。

 しかしこの喧騒のなかにおいても、みほは一人黙考する様子で、その姿を杏会長は見逃していなかった。

 

「西住ちゃん」

「……」

「西住ちゃぁん!」

「え、あ、はい!」

「何か言いたそうだね。とりあえず言ってみてよ」

 

 有無を言わせぬ口調だった。

 みほは自分に視線が集中する事態に居心地の悪さを感じながら、それでも考えを発言する。

 

「装甲騎兵道は大きな連携と、小さな連携の二つの連携が柱です。各分隊同士の連携、そして分隊内部の連携です」

 

 一旦話し始めると、言葉は流れるようにすらすらと滑り出てくる。

 

「ATは機種ごとに性質や性能が大きく違います。だから、分隊を構成するATの機種選びは各分隊に課せられた役割に応じて、決めなくちゃいけません」

「どの分隊にどの役割を与えて、しかも分隊のなかでの役割分担も決めないといけない訳ね」

「でもさ、ぶっちゃけ現状じゃそんなの解らなくない?」

 

 会長の指摘も最もだった。

 顔を合わせてまだ間もない間柄で、分隊の編成などできるわけもない。

 

「はい。ですから最初は簡単に、機種ごとに固めた分隊編成にすればいいかと」

「んー……まぁそれなら問題ないね。じゃあ、とりあえず割り振ってみようか。かわしまぁ!」

「はい」

 

 言われて桃は、手にしたクリップボードに何か書きつけて、それをもう一度ペンでなぞるような仕草をした。

 

(あみだクジ)

(あみだクジだね)

(……卦)

 

 くじ引きはすぐに終わった。

 

「よし決まった。それでは発表する」

 

 結局、大洗女子学園装甲騎兵道のチーム分け、機体振り分けはこのようになった。

 

 

●大洗女子学園装甲騎兵道チーム編成表

 

【A分隊】

みほ:パープルベアー

沙織:ブルーティッシュドッグ(レプリカ)

華:スコープドッグ(メルキアカラー)

優花里:ゴールデンハーフスペシャル

 

【B分隊】

典子:ファッティー(ノーマル)

妙子:ファッティー(ノーマル)

忍:ファッティー(左腕はクローアームに換装)

あけび:ファッティー(ハードブレッドガン装備)

 

【C分隊】

カエサル:ベルゼルガプレトリオ

エルヴィン:ベルゼルガイミテイト

左衛門佐:スコープドッグ(ガナードカスタム)

おりょう:ホイールドッグ

 

【D分隊】

梓:スタンディングトータス(初期型)   

あゆみ:スタンディングトータス(初期型・ミサイルランチャー装備)    

紗希:スタンディングトータス(初期型)      

桂利奈:スタンディングトータス(初期型)     

優季:スタンディングトータス(初期型)     

あや:スタンディングトータス(初期型・ロケットランチャー装備)

 

【E分隊】

会長:スタンディングトータス(スタブロスカスタム)

柚子:スタンディングトータス(後期型)

桃ちゃん:ダイビングビートル

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「エアコン盗ったの、絶対に生徒会の陰謀だよね」

「まだ言ってるんですか」

 

 みほ達は改めて割り当てられたATの前に並んだが、沙織は頬を膨らませてプンスカ怒っていた。

 

「だってどう考えたっておかしいじゃん! 絶対にずるしたって! 横暴だよ! 権力のふとーこうしだよ!」

「武部殿、そうは言いますけど、武部殿の機体もそう悪い子じゃありませんよ!」

「でもエアコンついてないんでしょ?」

「はい」

「だったらやっぱりやだもー!」

 

 不満を露わにする沙織に対して、華はと言うとそこそこ気に入った様子だ。

 

「華さんはスコープドッグで良かったの?」

「第一希望が通らなかったのは残念ですけど、でもこの子、色が良いですね」

「色? 機甲兵団カラーが?」

「はい。薄い紫は藤の色のようで。わたくし、花はどれも好きですけれど、藤の花は中でも格別ですので」

「そうなんだ」

 

 ATの塗装を花に例えるのを聞くのは、みほといえども流石に初めてのことだった。

 

「パープルベアー、ブルーティッシュドッグ……のレプリカ。正規軍仕様のスコープドッグ。装甲騎兵道というより、これじゃバトリングみたいな編成です」

 

 一方、機種はともかく、その組み合わせが不満らしいのが優花里だった。

 

「そこは武器の選択。それに戦術と腕かな」

 

 不満を言ってもしょうがないと、みほは優花里へとそんな風にフォローするのだった。

 

 




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