ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第44話 『包囲』

 

 

 改めて間近でみれば、その大きさにみほは圧倒される気持ちだった。

 単にH級ATというだけなら黒森峰でも何度も見たが、それらと比べてもエクルビスの巨躯は圧倒的だ。

 相方の真紅のチャビィーといい、敢えて雪原用迷彩を施さずオリジナルの黒いカラーのまま試合に臨むのは、それを駆る操縦手の自信の現れだろうか。

 二機は、みほ達から2、30メートル離れた所で止まった。

 最初に地に降りたのは、真紅のチャビィーのほうのボトムズ乗りだった。

 大洗とはデザインの異なる、深緑と赤の二色仕立てのATスーツの姿で、スラリと背の高く長い黒髪の少女である。みほはその美しくも冷たい横顔に見覚えがあった。傍らで優花里が囁き声でその名を耳打つ。

 

「あれがブリザードのノンナです」

 

 プラウダきってのスナイパーは、去年の黒森峰対プラウダの決勝戦にもいた筈だ。

 直接相対したことはこれまでなかったが、それでもその猛威は嫌というほど噂でみほは聞かされていた。

 そのブリザードのノンナはというと、横並びに停止したエクルビスの前に立ち、静かに操縦手が降りてくるのを待っている様子だ。

 

「……?」

 

 見ている間にエクルビスのハッチが開いたが、みほは怪訝に思った。

 中にパイロットの姿が見えないのだ。よもや自動運転でここまで来たということもないだろうが――。

 

「あ、降りてきた」

「随分と、可愛らしいボトムズ乗りさんですね」

「ありゃ私より小さいんじゃないのか」

 

 コックピットの縁に足を引っ掛けて、何とか乗り越え出てきたのは、ややだぼっとしたATスーツに身を包んだ、フランス人形のように可愛らしい金髪の小柄な少女であった。だがその姿を見るみほの表情は険しい。あの可愛らしい少女こそが去年黒森峰を降したプラウダ優勝の立役者、地吹雪のカチューシャなのだから。

 落ちるように降りてきたカチューシャをノンナは受け止めると、そのまま彼女を自分の上に載せ、肩車をした。

 カチューシャを載せたノンナの体はゆらぎ一つ見せること無く、水面を滑るかのようにみほ達の方へと歩み寄る。

 上体が揺らがないその姿は、まるで武道家のそれである。恐らくは狙撃手という、同じ体勢を続けることを強いられる仕事に熟達しているからだろう。

 近づくノンナ、カチューシャの二人の姿を見て、不意に杏が口を開く。

 

「……かーしま」

「はい会長」

 

 流石は杏とは三年来の付き合いの桃である。

 名を呼ばれただけで何をするべきかを理解し、行動した。身を屈めたかと思えば、会長を肩車したのだ。

 

「……」

「……」

 

 正面から二組は向かい合う。

 スラリと背を伸ばしたノンナに対し、担ぎ馴れてないためか桃の背は曲がり気味だ。

 それが差となって、カチューシャとノンナの組のほうが若干全高が上回っている。

 カチューシャがニヤリと嗤った。それは勝者の微笑みであった。

 

「かーしま」

「はいッ!」

 

 杏が言うのに、桃がフンッと気合を入れる。

 曲がっていた背が一転すらりと伸びて、今度は杏と桃の組が全高で上回った。

 桃とノンナを比べればノンナのほうが背が高いが、カチューシャと杏を比べると杏のほうがずっと大きい。

 結果、純粋な合計値では大洗組のほうが勝ったのだ。

 

「~~ッ!」

 

 カチューシャから笑みが消え、見る間に頬が怒りに赤くなって、眉間にシワが寄る。

 それでも怖いというより可愛らしい印象のカチューシャは、杏の顔めがけ指先を突きつけ吼えた。

 

「よくもこのカチューシャを侮辱したわね! かならず粛清してやるんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  第44話『包囲』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノンナ! 何としてもあの失礼極まりない連中をコテンパンに叩きのめすのよ!」

「はい。同志カチューシャ」

「フラッグ機を残して後は全滅させたあと、全員にカチューシャの前にひれ伏させてやるんだから! 特に相手の会長には念入り土下座させたあと、そのあとは私の肩を揉ませてやるのよ!」

 

 大洗へと挨拶と言う名の挑発をしにでかけた筈のカチューシャだったが、しかしむしろ結果はカチューシャが挑発される形になっていた。

 隊員たちが見ている中でもお構いないし怒鳴り散らす彼女の姿に、とばっちりを恐れて周囲が恐れおののいている。だがそんな怒り狂い荒ぶるカチューシャの姿も、ノンナには微笑ましさすら感じられる。

 不安はない。怒り狂おうとカチューシャはカチューシャ、その頭脳の冴えが鈍ることなどありえないからだ。

 

「西住流家元がなによ! 去年私たちは黒森峰に勝ってるんだから! 今年だって西住流なんて瞬殺よ瞬殺!」

 

 カチューシャが言う西住流家元とは大洗女子学園装甲騎兵道チーム隊長、西住みほのことだ。

 去年の決勝戦敗退で何があったかはしらないが、彼女は黒森峰を去って大洗の地に落ち着いていたらしい。

 黒森峰を去った西住姉妹の妹が、なぜわざわざ無名の高校の装甲騎兵道チームを率いることになったかは知らないが、確かなのはひとつ。

 

 ――『そんな無名の学校を準決勝まで引っ張ってきたのよ、みほさんは』

 

 何日か前、プラウダの学園艦まで遊びに来た聖グロリアーナ女学院装甲騎兵道チーム隊長、ダージリンが言っていた内容がまさしくそれだ。無名校が思いつきで参加して勝ち上がれるほど装甲騎兵道は甘くはない。単にボトムズ乗りとして優れた技量があれば良いという問題ではなく、隊長には隊員を日常においては指導し、試合場においては指揮する能力が不可欠だ。そして西住みほにはそれがあるということだ。あの皮肉屋のダージリンが素直に賞賛し、中々に入れ込んでいる辺り、相当な力量が西住みほにはあると見て良いだろう。

 だがやるべきことに変わりはない。全力で叩き潰す。それだけだ。

 

「ノンナ! 失敗は許さないわよ。今度は確実に標的を仕留めなさい!」

「当然です、カチューシャ」

 

 プラウダの学園艦内部に潜入した他校スパイを取り逃がした……この失態は、本来であればATを取り上げられて機甲猟兵科へと格下げを喰らっても文句は言えないレベルの代物だった。

 ノンナはそうなるのが当然だと思っていたし、仕方がないことだと思っていた。

 カチューシャはわがままな暴君のようにも見えるし、実際かなりの気分屋ではあるが、隊長として押さえるべき点は確実に押さえている。例えノンナが相手だろうと依怙贔屓はしない。隊全体の規律に関わるからだ。

 だが実際にはATが取り上げられることもなく、こうしてペナルティらしいペナルティもなく試合に参加できているのは、同志カチューシャの英断があったからに他ならない。

 ノンナやアリーナ、クラーラだけではない。結果的にスパイを施設内に引き入れるという大失態をしでかしたニーナを含め、今度の一件に関わった全選手を不問に付したのだ。対大洗、ひいてはその先の対黒森峰戦が迫る今、内輪揉めをしている場合ではないとの判断だ。無論、不問に付した上でこう付け加えるのも忘れない。

 ――全ては対大洗戦での試合への貢献度による、と。

 

「例の西住流は譲りなさい。それ以外は好きにして良いわ」

「はいカチューシャ」

 

 しかしスパイの一件があろうがなかろうがノンナのやる事に変わりはない。

 偉大なる同志カチューシャの為に、私は狙い、トリッガーを弾く。

 それだけだ。

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「とにかく、相手の数に呑まれずに慎重に行動して下さい」

 

 試合開始前の最終ブリーフィング。

 勢揃いした『28名』の選手たちを前に、みほは作戦を改めて説明していた。

 皆が身に纏うのは、ユニフォーム代わりの揃いの耐圧服。

 やや明るめの黒を基調として、袖口が白地に赤い一本線が入っているというデザインだ。

 氷に閉ざされ雪が降り積った寒冷地での試合とあって、安全に考慮し今回は選手全員に耐圧服の着用が義務付けられているのだ。

 

「準決勝からは参戦可能機数の上限が75機となります。プラウダは、上限いっぱいにATを出してくるのに対し、私たちは全部で29機。厳しい戦いになると思いますが、ゆっくりと相手の動きを見て、粘り強く戦えば必ず勝機は掴める筈です」

 

 言いつつも内心、みほは不安で一杯だった。

 黒森峰から逃げ出し、この大洗に辿り着いたそもそもの始まり、それは去年の公式戦決勝でのプラウダへの敗北に端を発している。あそこで自分がとった判断は、今でも間違ってはいないと思っている。だが、みほの独断が原因で黒森峰は敗れたこともまた事実だ。

 

『装甲騎兵とは、鍛えられた肉体の更なる延長』

 

 まただ。

 寝かしつけた子が目を覚まし騒ぎ出すように、思い出したくもない過去がまた押さえつけた忘却の蓋を開いて顔を見せる。

 

『鍛えるとは単に身体的な面を指すのではない。むしろ、鋼の体を操る心のありようこそが肝要。そのための鉄の規律。鉄の掟で心を鍛え、撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れなし……それが西住流――』

 

 脳裏に響き渡る過去の声。ここには居ないはずの、母からの冷たい視線を背中に感じる。

 

『味方の血潮で肩濡らし、連なる犠牲踏み越えて、圧倒的、ひたすら圧倒的パワーで蹂躪しつくす。犠牲なくして、勝利はありません。みほ。あなたは道を――』

 

 追憶の声は、そこで途切れた。

 回想を断ち切ったのは、現実からの呼び声だった。

 

「隊長」

「あ、はい。なんでしょう」

 

 挙手していたのはエルヴィンだった。

 ニワトリさんこと歴女分隊の参謀格。WWⅡマニアの彼女は、比較的現代戦にも精通している。

 

「ここは敢えて電撃戦で行くべきだと具申する」

「え?」

「私も同感だ。我らは今や準決勝と言う名のルビコンを前にした。後は賽を投げるのみ」

「天王寺の戦いの例もある。敵のフラッグ目掛けて戰場を駆けるのみ」

「戦いは常に先手必勝。さもなくば商機、ならぬ勝機を逸するぜよ」

 

 カエサル、左衛門佐、おりょうもエルヴィンの意見に賛同し、頷いている。

 

「プラウダは数で勝る上に雪原の戦いに熟達していると聞く。持久戦になればむしろ我らが不利。時間と寒さに身を削られる。冬将軍に負けたコルシカの砲兵将校や伍長殿と同じ轍を踏むだけだろう」

「……そんなこちらの焦りを相手も計算して、待ち構えているかもしれません」

「隊長、私もここは積極的に攻めたほうが良いと思います!」

 

 歴女チームの意見に続けて賛意を見せたのは、典子率いるバレー部一同だ。

 

「ここはクイックアタックで行きましょう!」

「アンツィオの人たちも言っていました。ノリと勢いが大事だって!」

「今まさに、私たちは勢いに乗ってます!」

「バレーも装甲騎兵道も大事なのは勢いと根性です!」

 

 さらに一年生主体のウサギさん分隊が同意する。

 

「それに相手はこっちを舐めてます!」

「絶対にギャフンと言わせてやりましょう!」

「言わせてやりましょう!」

「いいねギャフン!」

「ギャフ~ン!」

「……」

 

 そど子、もとい園みどり子も周囲の流れに戸惑いつつも、遅れじとばかりに発言する。

 

「風紀を守らせるにはまずは威圧よ! 最初に一発ブチかまして、こっちが上だって解らせてあげないと! 私達も速攻に賛成よ!」

「……そど子、無理して合わせなくても」

「そど子は意外と流されやすいからなぁ」

「五月蝿いわよ、パゾ美! ゴモヨ!」

 

 みほの視線はヒバリさん分隊の隣、新規参戦の『ウワバミさん分隊』の方へと向かった。

 長らく裏方で大洗装甲騎兵道チームを支えてきた、自動車部念願の参戦の時だったが、そんな彼女らにも初めて作戦に意見する機会がやって来た訳だ。

 

「……」

 

 ちょっと間を置き、考えたからリーダー、ナカジマが意見を述べた。

 

「作戦に関しては私は専門外だから意見は差し控えるけど、この寒さに加えて雪まで降ってるし、ウチのATの活動可能時間はそう長くないんじゃないかな」

 

 ナカジマにつづいて、スズキ、ホシノ、ツチヤもATの専門家としての意見を述べる。

 

「PR液に不凍処理はしてあるけど、それでも普段とは環境が違うから、劣化も早くなるだろうし」

「『長靴』履かせた以外は、特別な改造はしてないから、雪が隙間から入って故障って可能性もゼロじゃない」

「それ以前にマッスルシリンダーが凍てついちゃうかもね~そうなると試合中にまた動けるようにするのは手間かなぁ」

「……」

 

 ナカジマ達の技量を知るみほとしては、自動車部の専門家としての意見は是非とも尊重したい。

 それにエルヴィンに典子、梓が言っていることもあながち的外れというわけでもない。

 しかし、みほにはどうしても自分から攻めるという決断が下せない。

 そしてその理由が、戦術的思考から来るものではないことをみほ自信が自覚していた。

 ――『恐怖』だ。また自分の判断で負けるかもしれないという恐怖だ。

 

「西住、お前が決められないというならば副隊長として私が代わって決断するぞ」

 

 早くも焦れていたらしい桃が苛立たしげにみほを急かす。

 

「西住さん。桃ちゃんの妄言はともかく、私もノリと勢いは大切だと思う」

「柚子ちゃん!?」

「んまぁかーしまの迷言は置いといて、孫子が言うには『兵は拙速を尊ぶ』らしいけどね。『兵は神速を尊ぶ』ってのもあったっけ」

「会長まで!?」

 

 みほは会長の眼を見た。

 相変わらず、何を考えているのか全く窺わせない瞳の色をしている。

 だがみほはいつもと違う印象をその瞳から受けた。

 まるで、こちらの胸の内の、恐れの心を見透かされているような、そんな気持ちになった。

 みほは視線を彷徨わせ、あんこう分隊の皆のほうを見た。

 彼女たちは静かに、みほの決断を待っていた。

 どんな決断をみほが下そうと、自分たちは信じて付いて行く。そんな顔をしている。

 

「……解りました。一気に攻めます」

 

 みほは決断した。

 己が胸に巣食った恐怖を振りほどき、みほは決断したのだ。

 それはみほにとって大きな一歩と言えたかもしれない。

 だが、その大いなる決意を前にみほは忘れていた。

 飢えたる者は常に問い、答えの中にはいつも罠だと――。

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

「十一時の方向、敵AT発見!」

『敵、数3、いや4。機種は……ファッティーです。雪上仕様のカスタムタイプのようです』

 

 進軍する大洗部隊の進路上に、待ち構えるように現れた4機のAT。

 一番先に気づいたみほが警戒を促し、続けて優花里が情報を補足する。

 

(……一個分隊だけ。斥候か、あるいは)

 

 みほが相手の意図を察するよりも、先に相手のほうが動きを見せた。

 手にした得物を散発的に撃ちかけてくるが、あからさまな射程外、この距離では当たらない。

 

(挑発?)

 

 あからさまな挑発だが、しかし速攻で行くと作戦を立てた以上は前進する他ない。

 

「全機、エシュロンフォーメーションを維持したまま前進! 十時方向の森林に警戒。アンブッシュがあるかもしれません」

 

 しかし森の木立の横を通り過ぎる際にも、プラウダからの攻撃はなかった。

 

『我々をどこかに誘導しようというのか、猪口才な!』

 

 桃が吼えるのが無線越しに聞こえてくる。

 みほは試合場のマップをバイザーモニターに出力し、地形を確かめる。

 待ち伏せに使えそうな箇所は事前にピックアップ済みで、マーカーが施されている。

 だが、相手の向かう先にはマーカーされた地形はまるでない。

 

(雪原で正面から撃ち合い? でもセンサーの性能では相手との差は無いはずだし……)

 

 例のノンナの駆る赤いチャビィーを除けば、プラウダも大洗もATのカメラ性能に置ける優劣はない。

 つまり相手から見えればこちらからも見えるし、こちらから見えているということは相手からも見えるということ。

 平野部での撃ち合いが不利なことは余りに明らかすぎる事実だ。正面から潰し合いを演じるつもりはみほにはない。

 

(じゃあなんで……!?)

『西住隊長!?』

『西住先輩!』

『隊長!』

 

 みほが驚いた光景に、皆も驚いたようだった。

 一定の距離を保って、逃げつづけていたファッティー。

 その姿が、不意に、掻き消えるように見えなくなったのだ。

 だが回りに、隠れることのできるモノなどなにもない。

 見渡すかぎり、一面のなだらかな雪原。

 ――この時点で警告だと気づかなければいけないのだ。

 

『カエサル、例のクエントセンサーとやらを起動してみたらどうだ』

『例のひなちゃんとやらにもらったとか聞いたぜよ』

『そうだ、使ってみればいいじゃないか、たかちゃん』

『そうだぜよ、たかちゃん』

『そうだな、たかちゃん』

『ええい、五月蝿い! もらったんじゃなくて借りただけだし、それに肝心のクエント素子が劣化してて性能は保証出来んと言われてるんだ。そこを一応念の為にと借りてきただけだ! あとたかちゃん言うな!』

 

 みほも歴女チームが話していることについての報告を受けていた。

 アンツィオのベルゼルガ乗りの選手が、アンツィオでは使っていないお古の『クエントセンサー』を貸してくれたという話だが、しかし例え中古であろうとクエントセンサーがあるのは非常にありがたいことだった。

 クエントセンサーはクエント素子という特殊な鉱物を使って作る高性能金属センサーで、従来型の金属探知機を遥かに凌ぐ精度と範囲で、周囲の金属反応を探ることができる。

 

『じゃあ点けてみるが……あー、やっぱり壊れてるなコレ』

『なんで解るんだ?』

『いやだってあたり一面、金属反応でびっしりだ。見ての通り回りにはなにもないのに』

 

 カエサルの口から出た言葉に、その内容に、みほの背筋が凍りついた。

 『姿が見えない』のに『金属反応がびっしり』! そんな反応が出る理由は、ひとつしかない!

 

「全機、全速でこの場をりだ――」

 

 離脱せよ、との号令をみほは発することが出来なかった。

 みほのパープルベアーの足元、ほんの数メートル先、雪煙上げて飛び出してきたのは、どす黒い装甲のH級AT。

 エクルビス。

 雪の中に潜んで待ち構えていた特機の動きは素早く、みほは咄嗟にコックピットを両手で庇う他できなかった。

 そしてみほ機の両腕を、エクルビスの鉄爪は容赦なくもぎ取っていった。

 

 

 





 バラバラになるか固まるか
 その間にある限りなく薄い不安定な一線
 完璧なる包囲、隙無く仕組まれた罠
 絶体絶命を前に、指揮官の決意が、隊員たちの思いの丈が問われる
 信じるか、信じられるか
 賭けるか、賭け切れるか
 だがそんな窮地にあろうとも、容赦なく現実は突き刺さる

 次回、『籠城』 真実はいつも残酷だ

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