ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第38話 『思惑』

 

 

 パスタは金色に輝き、トマトからなるソース類は鮮烈にして濃厚な真紅をその液面にたたえている。

 仔牛のコトレッタから漂う(かぐわ)しい油と肉の香りに混じる、バジルソースの匂いのなんと爽やかなことか。

 純白のテーブルクロスがかけられた長机を、一面覆わんばかりの料理、料理、料理、料理――。その品目を箇条書きにするだけでも白紙が真っ黒になりそうな程のバリエーション。しかもそれでいて、どれひとつとっても見る者の口から唾液を溢れさせる美事な見栄えを有しているのだ。美と食の学び舎と、人はアンツィオを呼ぶ。みほ達の目前に広がる景色こそ、そんなアンツィオの面目躍如であった。これらは全てアンツィオが用意した御馳走なのだ。

 アンチョビとカルパッチョは立ち上がって一同の様子を見回していた。自分たち2人を除く大洗、アンツィオの選手たちが残らず席についているのを確認し、アンチョビは腕組みしながらしみじみとつぶやいた。

 

「ここの所、経費削減その他諸々の事情で食に関してもわびしい限りだったが……哀しいながらもそれも今日で一旦終わりだ」

 

 繰り返すようだがアンツィオとは美と食の学び舎。そんなアンツィオに籍を置く選手たちが勝利のためとはいえ3度のおやつを2度に減らしてまで軍資金貯蓄に努めたのだ。それ以外にも筆舌に尽くせぬ涙ぐましい努力の積み重ねがあったのだ。しかし結果は敢闘虚しく二回戦敗退……だがドゥーチェ・アンチョビの声に悲壮感は全く無い。彼女は確信しているからだ。アンツィオは負けはしたが一時の勝敗に勝る大きなモノを得たと。そして獲得した成果は、努力に見合うものであったのだと。

 三年生のアンチョビは今年で卒業するが、ペパロニにカルパッチョはまだ二年生であるし、彼女ら3人を除く他の選手は残らず1年生なのである。そう、アンツィオ装甲騎兵道チームは大洗ほどではないが実に『若い』。まだまだ成長途上の若獅子なのである。つまり、来年度こそは!

 

「たとえ今日敗れても明日のアンツィオの装甲騎兵道がなくなった訳じゃない。戦いは明日も、明後日も、明々後日も、週を跨いでも月を経ても年を越しても続く。仮にここにいる選手一同が全員卒業したあともアンツィオの装甲騎兵道は続く。そう! 戦いに果てはなく、努力に終わりはない! つまり頑張れば頑張っただけアンツィオは強くなる!」

 

 今回撃破されたアストラッドも、ちゃんと修理を施して来年度再出場すれば良い。

 次はちゃんと時間をかけてクルーを選抜し訓練すれば、アンツィオの秘密兵器は正しく決戦兵器と化して未だ高い壁の強豪達にも立ち向かう力になるのだ。

 

「だが今日この日、この瞬間だけはそんなことは忘れよう! 我慢してきた分、大いに飲んで大いに食べて大いに笑って大いに歌え! さぁ無礼講だ!」

 

 アンチョビの高らかなる宣言を、カルパッチョが引き継ぐ。

 

「それではみなさん、お手を拝借!」

 

 大きな声で言いながら、彼女は両の掌を軽く合わせた。

 

「いただきます!」

 

 カルパッチョの合掌に、アンツィオも大洗も関係なく、その場の全ての人間が彼女の言葉に続いた。

 

「「「「「「いただきます!」」」」」

 

 かくして宴会は始まった。

 みほ達を始め、大洗の面々も大いに飲んで食べて笑ったが、例外もいた。

 角谷杏。大洗女子学園生徒会長その人。

 

「明日も、明後日も、明々後日も、週を跨いでも月を経ても年を越しても……」

 

 杏が少し酸味のある葡萄ジュースを(あお)りながら呟いたのはアンチョビの言葉だ。

 

「続くといいね、ウチの学校も……」

 

 嬉々たる周囲からそこだけ切り取られたような、場にそぐわぬ(うれ)いの空気を纏い杏は独り言った。

 しかしそんな彼女の言葉は宴の喧騒に掻き消され、誰一人聞いたものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

  第38話『思惑』

 

 

 

 

 

「ねぇ、みぽりん大丈夫かなぁ」

 

 沙織がそんなことを言い出したのは、昼食の時のことであった。

 あんこう分隊の面々にとって、AT格納庫に集まってお弁当を広げるのは半ば日課に近くなっていた。

 午前授業との兼ね合いで上手く揃わなかったり、また皆で学食行く場合もあったが、おおむね5人揃って車座になり、雑談を交わしながら弁当をつつくのである。装甲騎兵道の授業のコマはほぼ午後に固まっているため、その日の訓練についてのミーティングも出来てちょうど良いのだ。

 しかし今日は肝心のみほがこの場にいない。付け加えて言うなら昨日も一昨日もみほは昼食時に姿を現さなかった。その理由を沙織も、華も、優花里も、それに麻子も知っていたが、しかし心配は心配だ。沙織が見せた不安の表情に、残りの三人もすぐに同じような顔になった。

 

「3回戦の対戦相手が決まってから、みほさん、ずっと一人で忙しそうですね」

「あんこうだけじゃなくて、他の分隊のことでもあちこち飛び回ってるらしい」

「お手伝いできれば良いのですが……」

 

 遂にやってきた準決勝の対戦相手は、昨年の優勝校にして伝統と実績を有する強豪プラウダ高校。その事実を知ったその日から、みほはどこか焦った様子を終始見せている。協力を申し出るあんこう分隊一同に対しても「これは私の仕事だから」と、無理して微笑んで誤魔化していた。装甲騎兵道を通し競技の内でも外でも仲間として、友達として打ち解けてきた所だったのに、対プラウダ戦が決まってからのみほの姿はどこか頑なで、一人で何でも抱え込んでいる様子だった。昼食時間も惜しんで、対プラウダ戦の準備に追われているらしい。

 

「みぽりん、最近装甲騎兵道やってて楽しいって言ってたのに……」

「無理してらっしゃるんじゃないかと、わたくし心配です」

「言っちゃ悪いが、今の西住さんは西住さんらしくない感じだな」

「……」

 

 みほが見せる憔悴した姿の訳を、唯一知るのは優花里だった。

 彼女は知っている。なぜみほが黒森峰を去らねばならなかったのか。

 それは昨年度の装甲騎兵道全国大会決勝戦での黒森峰の敗北と、10連覇失敗の責任がみほにあると見做されたからだ。

 優花里は断言できる。戦友を救うためにとったみほの行動に間違いはなかったと。

 しかし人として正しいことをしていれば勝負に勝てるかと言えばそうではないのだ。現に黒森峰はプラウダに敗北した。装甲騎兵道始まって以来の、10連覇という偉業の達成は、その栄冠を掴む機会は潰えたのだ。

 その後、黒森峰内部で何があったかを部外者に過ぎない優花里は知らない。はっきりしているのはみほは黒森峰から大洗へと転校し、装甲騎兵道からも背を向けようとしていたという事実。そして昨年度の黒森峰敗戦に、みほがどこか無意識的に責任というか罪悪感のようなものを覚えているということだ。

 

「……」

 

 秋山優花里は西住みほを敬愛している。

 それは単に装甲騎兵道選手としてではなく、仲間として、友人として彼女を慕っている。

 故に助けになりたいと思っていた。みほが抱いているであろう、プラウダに対し抱いているであろう、恐怖にも近い不安感を、少しでも和らげてあげたいと思っていた。

 その為に、自分に出来ることはひとつしかない。

 ――優花里は独り、静かに心を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 

 ――『ラゲーリ補習島』一度はおいで、 寄せる荒波身を(みそ)ぐ。

 他にもシベリア島だとかツンドラ島だとか呼ばれているこの小さな島はプラウダ高校が学園艦の外に校地として保有している離島で、その名そのまま補習教室用に特別に(あつら)えられた施設だった。

 コンクリートうちっぱなしの簡易宿舎が軒を連ね、岸は残らずコンクリートで塗り固められた上に高いブロック塀で完全に閉鎖されている。一見するとまるで刑務所のようだが、事実その運用は殆ど刑務所と大差なかった。

 島の中央には露天掘りで造られたすり鉢状の大穴があって、その中では大勢のプラウダ生徒がドリルやツルハシ、スコップを手に、懸命に地面をほじくり返していた。

 

『手を休めるな~サボった奴はシベリア送り5ルーブル追加だぞ~』

『今日来る船でちゃんと帰りたいだろ~だったら最後までキリキリ働け~!』

 

 地上から降り注ぐ監督生達の声に、地の底をツルハシで叩く小柄な少女、ニーナは思わず天を仰いだ。

 顔面をすっぽり覆う防塵マスクに、ほぼ全身を包む防塵ポンチョは重くて暑い。今にも雪が降りそうな曇空にも拘らず上がった体温にマスクのレンズ部分は何度も曇って、そのたびにマスクを外して拭わなければならない。しかしそうすれば砂埃まみれの周囲の空気にどうしてもむせ返ってしまう。マスクを着けようが着けてなかろうが変わらぬ不快感に、ニーナは深くため息をついた。

 そう嘆くな。今度の『補習』は短期間で済んだ。今日の午後の帰還船でちゃんと学園艦に戻れるじゃないか。それまで……それまでの辛抱だ。

 ニーナは急いでマスクを着け直し、再び地盤をツルハシで叩いて砕く作業へと戻った。

 ある程度細かく砕いた所でもっこかネコグルマで集め、分別班の所に持っていくのである。

 補習労働のハードさを思えば、採掘できるブツの量は余りに少ない。しかしあんな少量でもこまめに貯めておけば、換金するときに結構な額になる。プラウダの装甲騎兵道の大きな支えにもなっているのだ。手は抜けない。

 

「にっしても、もー少しがっぽりと採れねーもんがな……」

 

 ニーナがそう呟いたのは、今掘っているブツ、『ヂヂリウム』のことである。

 ヂヂリウムは半導体などの材料になる稀少鉱で、これを用いることで電子回路やコンピューターはその性能を飛躍的に増大させることが出来る。それだけに高額で取引されており、この島もかつては鉱夫やその相手をする諸々の商売人たちで大いに賑わったものだった。しかし鉱脈はあらかた掘り尽くした所で閉山、ただ同然で売りに出されていた所をプラウダ校が買い取ったのである。鉱脈を掘り潰したといっても、それは費用対効果に見合わないぐらいに採掘量が減少しているという意味であって、完全に採れなくなった訳ではないのだ。プラウダは厳しい校風で知られる学校である。学業不振、素行不良その他、生徒の不始末に対するペナルティは重い。この補習島でのヂヂリウム採掘補習もそうしたペナルティの一環であり、特にこの補習はそのハードさにおいて生徒たちから大いに恐れられていた。

 

「えっほ、えっほ、えっほ……っと」

 

 ニーナがこの補習島へと叩きこまれた理由は、プラウダ装甲騎兵道隊長カチューシャの不興を買ったからだった。

 次期隊長候補の筆頭であり、普段はカチューシャのお気に入りと言えるニーナだが、例えそんなニーナであってもプラウダの小さな暴君カチューシャを怒らせればヂヂリウム掘りのペナルティは免れない。それにニーナ自身もしでかした事を思えばヂヂリウム掘り程度で済んで良かったと少しホッとしていたのだ。粛清と通称されるペナルティの数々の内、最も重いのはATを取り上げられて機甲猟兵科へと格下げを食らうことなのだから。

 

「ん~」

 

 作業が一区切りついた所でよっこらせと体を反らせて背骨を解すニーナの視界に、具合の悪そうな補習生の姿が映った。重い電動ドリルを肩に負い、えっちらおっちら歩いている。その動きが余りにぎこちなく、ふらふらとしているのがニーナには気にかかった。ツルハシを傍らのボタ山に突き刺し、てとてととその補習生へと駆け寄った。

 

「おめさんダイジョブか? 監督生に言って医者に見てもらうだべか?」

「い、いえ……暑くてちょっと立ちくらみをしただけなので、大丈夫です……」

「ぜんぜん大丈夫じゃねーぞぁ。とりあえずスミ寄ってマスク外したほうが良いよぉ。んなもんつけてると息が詰まるから。肩かしてけろ。一緒に行くべぇ」

「あ、ありがとうございます」

 

 訛りのない綺麗なイントネーションがニーナの耳にはこそばゆい。 

 プラウダの生徒は青森出身者と北海道出身者に大別されるが、目の前の彼女は後者なのだろう。同じく後者のカチューシャ隊長やノンナ副隊長はきれいな標準語を話せるのだから。

 

「ふぅ~……噂には聞いていましたが、プラウダの補習授業のキツさは格別ですね~」

「……見かけない顔だげど、ひょっとして転校生かなんがか?」

「あ、はい。転校早々に補習に行くハメになるとは思わなかったですけど……」

「何やらかしたおめぇ~」

 

 マスクの下から出てきたのは癖っ毛が特徴的な少女であった。

 背は自分より高く、雰囲気も若干大人びている。もしかすると自分より学年は上かもしれない。

 

「あ、私はルルシー・ラモンと言います。貴女は……」

「ニーナです。それにしても随分ハイカラなお名前ですなぁ」

「あはは。ありがとうございますぅ」

 

 ニーナへと爛漫とも言える笑顔を返したこの少女。

 その明るい様子はとてもスパイのそれとは思えないが、何を隠そうルルシー・ラモンを名乗る彼女こそ、大洗よりプラウダへの潜入を試みた、秋山優花里その人に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 

 プラウダが鉄壁の警備を誇っているのは、装甲騎兵道界隈では有名な話だった。

 特に現隊長カチューシャの体制となってからは、副隊長のノンナがブリザードのように厳しい眼を光らせ、諜報に長けた聖グロリアーナの密偵ですら容易に忍び込めない厳戒態勢が敷かれているとのこと。サンダース潜入時のように正面から挑むのは無理だと、優花里は早々に見切りをつけた。

 そこで優花里が注目したのはプラウダ特有の補習島の制度だった。

 普通、喜び勇んで補習島に忍び込みヂヂリウム掘りを買って出る輩などいない。

 刑務所から脱獄する不逞の輩はいても、好んで侵入する不届き者は滅多にいないのと同じ理屈だ。

 夜間にうちにATで海を渡り上陸、補習生を装い、帰還船に潜入。そのままプラウダ学園艦へと忍び込むという手はずだった。ATは使い捨てる可能性も強いために、ジャンクのスコープドッグをマーシィドッグへと即席改造しての潜入だった。補習島が本土から比較的近い場所にあって心底助かった。

 

「ニーナさんありがとう。お陰で助かりました」

「こ、こちらこそ。先輩も気をつけて下さい」

「はい! 今後は口が裂けてもカチューシャ隊長のことを小さいとかお子様とか言いません」

「言ったはなから言ってるだべなー!?」

 

 そしてそれは成功した。

 ニーナという装甲騎兵道の一年生選手と会話し、多少なりとも交流を深めることが出来たのだ。

 後は彼女と行動を共にすれば良かった。本物の刑務所ならまだしも、過酷とは言え学校の補習である。補習生の人数把握は大雑把で、難なく帰還船に乗り込むことができたのだ。後は学園艦に接舷するのを待つだけだ。

 

「学園艦に帰ったら何か温かいものでもおごりますよ。何が良いですか?」

「え、良いんですか?」

「はい。危ない所を助けてもらいましたから」

 

 優花里はニーナへとにこやかに笑いかけた。

 これでスパイ活動は成果の少なかったアンツィオ潜入を含め三度目。

 最初のサンダースの時は色々と失敗やヘマもあったが、三度目となれば色々と慣れてくる。

 お陰で割りと自然な態度でプラウダ生徒にも接することが出来ていた。

 

「そ、それじゃ、学園艦に戻るまでに考えておきますぅ」

「解りました。着いたらいつでも言ってくださいねぇ~」

 

 その後は風に当たって来ると言い訳しニーナと別れ、単独行動へと移った。

 単なる学園艦潜入のための足に過ぎないこの船だが、脱出の際に何か役立つものもあるかもしれない。

 あちこちで雑談し学園艦に返ったらあーしたいこーしたいと楽しそうに語り合うプラウダ生の間をすりぬけ、優花里は立ち入り禁止と書かれたプレートのある扉の前に立った。左右を見渡し、誰も自分を見ていないのを確認してから、僅かに扉を開いて体を静かに潜りこませる。後ろ手に扉を閉じれば、これで船内潜入の開始だ。

 靴を脱ぎ、靴紐同士を繋いで左手で背負い持つ。足音を消すための古典的な手法だった。

 

「……」

 

 艦内は無人かと思うぐらいに静かで、人気がない。

 学園艦と補習島を結ぶ短距離航路であるため、恐らくは最低限の人員で航行しているのだろう。

 潜入者である優花里にとっては好都合であった。

 

(内火艇の場所を把握しておくのが先決。えーと、船内地図は――!?)

 

 不意に、奥からガチャガチャと何やら金属音が響いてきた。

 優花里は壁際に身を寄せつつ、懐に手を突っ込んで『得物』を引き抜いた。

 プラウダの制服が比較的余裕のある作りで助かった。

 対機甲猟兵用のリボルバー拳銃を腹にサラシで巻いて括りつけておいても、違和感が出ないのだから。

 銃身部のみステンレスの銀色で、弾倉やメインフレームはガンメタルブルーという若干変わった見た目のリボルバーは、傭兵部隊などで士官用に良く使われる代物である。装填されているのは競技用のペイント弾であり、威力はないに等しいが、とりあえずハッタリにはなる筈だ。

 

(音は……あの部屋から)

 

 優花里は壁にピッタリと背中をつけながら、音を立てないようにゆっくりとにじり寄る。

 扉は開いていた。ちょっとだけ顔を出して覗きこめば。何やら物色しているらしい人影が一つ。

 格好は黒の耐圧服。体格的に女性。肩口にかかる灰色がかった長めの銀髪。

 その髪の色に優花里はどこか既視感を覚えた。故にやり過ごさずに、こちらを振り向かせて見ようと思い立った。

 

「……」

 

 靴紐に指を引っ掛けて、ブーツをだらりと垂らす。

 軽く振り子の勢いを付けて、部屋の中へと投げ込んだ。

 

「!」

 

 音に反応して謎の人物は靴のほうへと視線どころか体ごと向けた。

 その反応の素早さに、優花里は瞠目(どうもく)した。いつの間に拳銃を抜いたのかも解らなかった。

 箒の柄(ブルームハンドル)を思わせる銃把の大型自動拳銃。到底早撃ちには向かないそれを瞬時に抜くのは並大抵のことではない。脅威を感じた優花里は反射的に物陰から飛び出し、リボルバーを謎の人物へと向けた。

 

「ッ!」

「!?」

 

 相手は投げた靴の方を向いていた筈。

 だが実際はどうだ。こうして銃口を向け合っている。優花里は冷や汗に背を濡らした。なんという反応速度!

 

「――!? あなたは!?」

 

 そして優花里は相手の正体を知ってさらに驚いた。

 銀色の髪に青い双眸。鼻筋の通った顔立ちは、黒森峰女学院副隊長、逸見エリカその人に他ならなかった。

 

 

 





 なぜ、ここにいる。なぜ銃を向けあう
 ともに落ちた船底で、互いの心の中を覗く
 そこには、信じる誰かの為に敵地へ我が身を投ずる己の姿が在った

 次回「共闘」 呉越同舟、互いを分かつまで






【優花里のリボルバー】
:ボトムズ本編でカン・ユーが使っていたのと同じリボルバー
:神聖クメン王国の親衛隊も同タイプのものを仕様。ポタリアもこれを使っていた
:見た目以外は何の変哲もない6連発のリボルバー

【エリカの自動拳銃】
:機甲猟兵メロウリンクにおいてキーク・キャラダインが愛用した拳銃
:ぶっちゃけモーゼルM712。実銃とは若干細部デザインが異なる
:余談ながらキークは声優、大塚明夫氏の初演キャラでもある

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