ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第23話 『猛襲』

 

 

 ――強烈過ぎる反動に、ATがひっくり返りそうになる。

 そこをローラーダッシュを使ったスピンで受け流す。

 機体はくるくると回転し、三半規管が揺さぶられ、気分が思わしくなくなる。

 反動を逸し終わった所で、ホイールの回転を左右入れ替え、機体を逆回転させる。

 怖気はいつの間にか治まった。しかし動悸が激しいのが自分でも解る。

 なんという衝撃。なんという感覚。

 

『華大丈夫!?』

『五十鈴殿!』

『華さん!』

『大丈夫か、五十鈴さん』

 

 皆の心配する声が無線越しに聞こえるのに、華はかろうじて返事をすることができた。

 

「ええ。大丈夫です……」

『やっぱり駐犂(スペード)無しで運用なんて無理だったんですよぉ!』

『今ATがものすごい勢いで回ってたよ! なんかもうぐわんぐわんって感じで!』

 

 優花里、沙織の声も、どこか遠くから聞こえるような気がする。

 目をつむり、深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

 狭い機内で空気が悪い。ハッチを開き、外の風に当たる。

 これで少しは気分がマシになる。

 

「ふぅ……すみません、心配をおかけして」

「……はぁ~~。良かった~もう本気で心配したんだよ」

 

 みな一様にハッチを開いて華を案ずる表情をしているのが見える。

 それに対し大丈夫だと微笑み返しながら、華は視線を愛機の得物へと向けた。

 砲身より硝煙と蒸気を上げる大きな大きな怪物砲。アンチ・マテリアル・キャノンだ。

 本来であれば駐犂(ちゅうじょ)、あるいはスペードと呼ばれる、反動を受け止める二本脚の支持装置をATの背中に取り付けるのであるが、生憎そちらは発注書には含まれていなかった。

 故に反動は、我が身で受け止める他ないのだ。

 

 ――桃がその長大なる姿を披露した瞬間、華は形容しがたい興味を抱かされた。

 

 その威容より放たれた雷に撃たれたといった印象だった。

 即座に手を挙げ、使わせてもらいたいと頼み込む。

 芽生えた意識は行動を、行動は情熱を生み、情熱は理想を求める。

 

 心配するみほ達をよそに、華は訓練標的へとその砲口を向けたのだ。

 ヘビィマシンガンとは違う、肩に担がなければ支えることも覚束無い、ATの身の丈すら超える巨砲。

 その反動は凄まじく、撃った方のATがバラバラになるかと思うほどだった。

 

「……」

「華?」

 

 チラリと、的の方へと眼を遣った。

 外れている。だが、あの反動を思えば予想程は『外れていない』。

 

「……もう一発だけ、撃ってみます」

「え? ちょっと待ってよ華! これ以上やったらホントに倒れちゃうよ!」

 

 慌てる沙織を安心させようと、華は目いっぱいに微笑みながら言った。

 

「最後に一発だけですよ。わたくし、どうしても確かめたいことがあるんです」

 

 ハッチを閉め、アンチ・マテリアル・キャノンを再び標的へと構え直す。

 普段装備する火器とは大きさが余りに違うためか、射撃管制が上手く働かない。

 しかたがないので機能の一部を切り、古典的な目視照準で狙いをつける。

 簡単な補助線と三角形、数字だけで形作られた照準を通して、標的を覗く。

 

(中央の三角形は一片が4シュトルヒ……つまり標的との距離は――)

 

 頭のなかで計算し、その答えを小さな声で呟き、砲口の微妙な位置を調整する。

 反動で多少ずれることも計算し、やや砲身を低めに傾ける。

 

「……」

 

 無線越しに響いていた沙織やみほが自分を案じてかける声が遠くなり、最後は聞こえなくなった。

 花を生ける時の、あの感覚、あの緊張感。それが五体に満ち、意識をナイフのように研ぎ澄ます。

 

(――いまっ!)

 

 最後は理屈ではなく感覚だった。

 今だと思った瞬間に、華はトリッガーを弾く。

 轟音、そして衝撃。

 そして最後に来たのは、意外にも『快感』だった。

 ズシンと重く、五臓六腑を震わせる衝撃。指先の神経の先の先まで、揺さぶるような怖気が走り、肢体が揺れる。

 それでいて、意識はびっくりするほどまっさらだった。半ば無意識に、反動を逸らすための旋回機動へと操縦桿は動いている。

 

「――フッ!」

 

 肺腑の息を全て吐き出し、丹田に力を込めて気合を入れる。

 旋回が終わった後も、さっきと違って気分は悪くはならなかった。

 

『……凄い』

 

 優花里が呆然としてつぶやいた言葉に、華も標的の方を見た。

 弓道の的のように白と黒で塗り分けられた標的の、外苑の黒線へと確かに砲弾は突き刺さっていた。

 流石に真ん中の黒星を撃ち射抜くことはできなかったが、あんな無茶苦茶な撃ち方でこれならば上出来。

 

「……コレ、癖になりそうです」

 

 ハッチを開けて深呼吸を済ませた後、華はそう微笑みながら言ったが、その時の表情は沙織曰く『同性だけど思わずドキッとするような、大人の色気のある顔』だった。

 どうやら、桃の掴まされた不良在庫品は、倉庫で埃をかぶる塩漬け品にならずに済みそうだった。

 

 

 ――とまぁこんな感じで練習に練習を繰り返しているうちに、全国大会第1試合開始の時はやって来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 第23話『猛襲』

 

 

 

 

 

 

 試合用に目立たない迷彩色へと塗り直されたATの列を見ると、例えそれが寄せ集めのオンボロAT達であっても中々壮観に見えてくるものだ。

 少なくともみほの眼には、大洗装甲騎兵道チームの戦列は頼もしい存在として映っていた。

 決して高性能とは言えず、状態も良くない。それでも機種は多様性に富み、またその乗り手たちも実に個性豊かだ。この部隊を率いて強豪サンダース相手にどう戦うか……考えるだけで、不思議とワクワクと気持ちが昂ぶってくる。

 

「西住殿、あんこう分隊、全機チェックが終了しました!」

「隊長、『ニワトリさん分隊』もチェック終了だ」

「西住隊長、『カエルさん分隊』も終わりました!」

「こちら『ウサギさん分隊』も終了です!」

「西住、『カメさん分隊』も終わりだ――ってやっぱこの名前はどうにかならんのか」

 

 各分隊の隊長たち、あるいはその代理人がみほの元へと最終チェックの結果報告にやって来る。

 先だっての会議でチーム名を変更することになった訳だが、各隊長も皆その新名称を用いていた。

 みほ、沙織、華、優花里、麻子の5人で『あんこう分隊』。

 カエサル達歴女チームの4人で『ニワトリさん分隊』。

 典子ら旧バレー部4人が『カエルさん分隊』。

 梓率いる一年生チーム6人が『ウサギさん分隊』。

 そして会長が、実質的には桃が率いる生徒会3人が『カメさん分隊』。

 以上5分隊、総勢22機が大洗装甲騎兵道チームの全戦力であった。

 なお各チームの名前の由来は、『ニワトリさん』がベルゼルガの鶏冠から、『カエルさん』がファッティーの正式名称から、そして本当は一年生チームがトータス主体故に『カメさん』を名乗るところを、会長機が同じトータスであった為に桃がチーム名を強奪、よって機体の発見場所がウサギ小屋の隣であったことから『ウサギさん』、とそれぞれなっている。

 

「解りました。それでは全員、追って指示があるまで待機していてください!」

「御意!」

「解りました!」

「了解です!」

「西住殿、了解です!」

「それは私の台詞だ!」

 

 公式戦開始を受けて、ユニフォーム代わりに揃いの耐圧服に身を包んだ大洗女子一同。

 初の公式戦の割には、一同リラックスしているようにみほには見受けられた。

 これは良い兆候である、とみほは捉える。AT同士の戦いは時に一瞬で勝負を決する。そんな戦いにおいて過度な緊張に体を固くすることは禁物だった。

 

「――あ! ロケット弾忘れてた!」

「それ一番大事なやつじゃん!」

「ごめぇ~ん」

「あはははは!」

 

 ――いや、ちょっと呑気すぎるかも知れない。

 みほは一転、ちょっと不安になって苦笑いした。

 

『呑気なものね』

 

 奇遇にも同じことを考えていた人間いたらしい。

 しかしそれは大洗の生徒ではなかった。

 スラリと伸びた長い手足に、ショートカットに切れ長の瞳。

 その姿を見た瞬間、優花里が何とも複雑な表情をして麻子の背に隠れたのは、スパイとして潜入した時に気さくに接してもらえたのが、却って負い目になっていたからだろう。

 サンダースのナオミ。ベージュ色の耐圧服姿の彼女がそこにいた。

 公式戦においては、試合場に池や川、海岸があったり、あるいは雪原だったりする場合、参加者は耐圧服の着用を義務付けられる。今回の試合場には池と川があり、それゆえの耐圧服着用だろう。

 余談ながら、大洗の耐圧服はやや明るめの黒色で、袖口などのみ白地に赤い一本線のラインが入っていた。

 

「そんな調子で、よくのこのこと全国大会に顔を出せたもんね」

 

 ナオミに続いてこう言ったのは、同じくベージュ色の耐圧服に身を包んだ、短いツインテールの少女である。

 ナオミに比べると背は低く、そばかすは多めだが、中々に可愛らしい顔をしている。

 しかし性悪そうなその表情のせいで、せっかくの容姿が台無しだった。

 

「HEY、ユカリ」

「わ、わ、わ」

 

 そんな相方に相槌を打つでもなく、ナオミはと言うと優花里へと気さくに声をかけてきた。

 明確に自分の方へとやって来た訳だから、優花里も観念したのか、麻子の背後よりおずおずと進み出た。

 相手のほうが背が高いので、優花里は自然上目遣いになる。

 

「試合前の交流も兼ねて、食事でも一緒にどう?」

「……え? あ、はい。ですが……その……」

「ん?」

「そのスパイしたことを怒ってらっしゃったりするんじゃないかと思いまして……」

 

 優花里が不安げな様子で聞けば、ナオミはなんだそんなことかという調子でニヤリと笑った。

 

「偵察はルールの範囲内だし、別に気にしちゃいないさ。それに……ファイアフライを褒める奴に悪いやつは居ない!」

「……それは流石に単なる贔屓でしょ」

 

 隣で相方が突っ込むのもナオミは気にした様子はなかった。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 優花里と一緒にとみほ達、それに生徒会の面々も誘われたので、サンダース生たちの待機場所へと行ってみる。そこで見たものには、みほ達は驚きの声を上げる他なかった。

 

「すご!」

「救護車にシャワー車、ヘアーサロン車まで!」

「クレープにハンバーガー、フライドチキンにポップコーン、綿菓子にホットドック……どれも美味しそうです!」

「なるほど。金持ちというのは確からしいな」

 

 沙織たちと違い、既にサンダースの裕福さを知っているみほにとっても、何度見ても羨ましい限りの資金の潤沢っぷりだった。選手が最高のコンディションで試合に望むためにも慰安というものは欠かせないが、しかしサンダースが選手達の為に用意した設備の数々は最早慰安の域を超えている。このままここで祭りのひとつでも開けそうな規模なのだ。

 

「ふん! 見せつけておいてこちらの戦意を削ぐつもりだな。姑息な手だ!」

「でも桃ちゃん、ホントは内心羨ましいと思ってるよね。さっきから屋台から屋台に眼が泳いでるし」

「桃ちゃん言うな! 単に小腹が空いただけだ!」

「うちはおやつって言っても干し芋ぐらいだからねぇ~私はそれで全然問題ないけど」

 

 生徒会の面々の言う通り、単に好意で誘ったという訳ではないのだろう。

 装甲騎兵道の試合は、試合場のみで行われるのではない。実際に砲火を交えるよりも先に、偵察や牽制といった形で試合は始まっているのだ。

 

「HEY! アンジー!」

 

 不意にかけられた明るい声に顔を向ければ、やや癖のかかったブロンドの美人さんがこちらへと歩いてくる所だった。ナオミや、例のツインテールの少女――アリサというらしい――と同じくベージュの耐圧服に身を包んではいるが、それでも隠せない抜群のプロポーションの持ち主で、杏などはヒューと口笛を吹いてる。

 どうでも良いが、(アンズ)だからアンジーということなのだろうか。

 

「サンダース隊長のケイ殿ですね」

「へぇ、なんだか明るそうな隊長さんだね」

「みほさんのお姉さんは厳しそうな印象でしたが、やはり学校ごとに隊長にも個性があるんですね」

「学校ごとに人数もATも戦術も違うから……黒森峰は規律重視だったし」

「……」

 

 杏と和やかに談笑するケイの姿に、みほ達は良い印象を抱いた。

 ただ麻子のみは、ケイの胸元辺りを見て口をへの字に曲げていたが。

 

「HEY! あなたがユカリね! ナオミから聞いてるわよ!」

 

 一通り軽口を杏と叩き合った所で、ケイの関心は優花里の方へと移ったらしい。

 歩み寄って優花里の姿をまじまじと見てくるので、優花里は緊張してもじもじとしてしまう。

 

「ナオミが言ってたわ、なかなかに筋が良いって。もしサンダースに移籍するならいつでも大歓迎だから、考えておいてね!」

「オイ! 人の学校の生徒を勝手に勧誘するな!」

 

 ウィンクを飛ばしつつ冗談なのか本気なのか解らない勧誘をするケイに、桃が突っかかるがどこ吹く風。

 

「サンダースは来るものは拒まずよ! 実力のある選手や将来性のある選手はいつでもウェルカムなんだから! なんなら色々と特典もつけてもいいし! ま! 考えておいてね!」

 

 実力主義なアメリカ風の学校らしく、こんな時にもヘッドハンティングを欠かさないらしい。

 何やらみほの方にも意味深なウィンクをケイは送った。

 みほはそれに、複雑な気持ちで愛想笑いを返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 各校の代表者同士が礼を交わすことで、全体の礼の代わりとなる。

 代表者同士の礼が済み、互いに初期配置に全員が着いた段階で、審判が試合開始の合図を出す。

 今大洗チーム一同は、その試合開始の合図を待っている所であった。

 

「作戦を確認します」

 

 沙織機の無線パックを通して、みほはチーム全体へと最終ブリーフィングを行っていた。

 

「敵は50機。数に勝る上、強力な火砲を有しているため、正面切っての撃ち合いは不可能と考えてください。幸い、今回の試合場は森林と平野が混在した地形です。平野での戦いを避け、森林地帯に誘い込んで木々を利用し敵を分断、各個撃破します。また必要に応じてウサギさんチーム始め、重火砲装備機の前に誘導してください。各分隊が個別に動いての戦いになります。連携を密にし、連絡を絶やさないでください」

 

 森林を軸にしたゲリラ戦法。それがみほの採った戦術だった。

 開けた場所での撃ち合いならともかく、間合いの近い戦いならば大洗にも勝機は充分にある。

 ましてや全国大会はフラッグ戦、つまりフラッグ機さえ撃破すればチェックメイトだ。

 エントリーできるATの数も最大50と制限されている。数は2倍以上だが、戦術次第でいくらでもひっくり返せる数差に過ぎない。

 

「また、今回の試合場には小川と大きな池がありますが、そこは敵のタートルタイプの独壇場です。付近にはできるだけ近付かないでください」

 

 ATにとって基本的に水は大敵だ。

 気密性が弱い大半のATはひとたび水が漏ればそのまま水没してしまう。

 故に渡河作戦、揚陸作戦、あるいは湿地や水場での戦闘には、それ用にカスタムされた専用のATを使うのが普通である、なかでもダイビングビートルが潜水性能において他のATと隔絶した性能を備えている。

 わざわざ相手の土俵での勝負に付き合う義理はない。

 

「以上です。何か質問は?」

『是非もなし!』

『大丈夫です!』

『作戦了解しました!』

『相変わらず姑息な作戦だ』

 

 会長が礼を終えて戻ってきた所で、試合開始のアナウンスが鳴り響く。

 

「それでは、『ばらばら作戦』を開始します!」

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 

 陽動と偵察を行うには機動力が不可欠だ。

 フラッグ機である杏機を有するカメさん分隊には、足回りの遅いウサギさん分隊と、盾持ちで防御力に優れるニワトリさん分隊を護衛としてつけている。必然的に偵察と陽動はカエルさん分隊、そしてみほ直属のあんこう分隊が受け持つことになる。

 

「全機停止。しばらくこの場に待機して、敵を待ちます」

 

 みほの指示に従い、あんこうチーム全機は行進を停止、木々の陰に隠れて森の切れ目の向こうに広がるだだっ広い草原へとカメラを向ける。

 

「敵を発見次第、おびき出します。攻撃は飽くまで誘導のためだから、撃破の必要はないけれど、可能な限り相手の数を減らしてください」

『腕が鳴るよね!』

『今度はちゃんと当たると良いな』

『なによもう! ちゃんと練習したんだから! それに射撃に関しちゃ麻子も人のこと言えないじゃん!』

『私は悪く無い。狙った所に飛ばない弾が悪いんだ』

 

 軽口を叩き合う沙織と麻子に、試合中だというのにみほは無性におかしくなった。

 この何とも言えない緩い感じが、不思議と心地良い。それでいて締める所はちゃんと締めてくれるから、安心して背中を任せることが出来る。

 

『フッフッフッ……修理ついでに改良したこのゴールデン・ハーフ・スペシャルの性能を試す時が!』

 

 桃が壊した部分を直すついでに改造を施した優花里のATは様々な部分が様変わりをしていた。

 標準ズームのみだったカメラを三連ターレットに換装し、合わせて内部機構をいじってある。

 戦車の履帯を流用した追加装甲に、左肩には新たにロケットポッドを増設している。主武装は相変わらずのソリッドシューターだ。

 

『わたくしも、ぜひとも練習の成果を活かしたい所です!』

 

 華はと言うと、流石に森の中にデカブツのアンチ・マテリアル・キャノンは持ち込めなかったので、今はソリッドシューターで妥協している。ただ柚子と得物を交換した、もとい預かってもらっただけなので、ブツそのものはちゃんと試合場に有るには有った。

 

『みぽりん! カエルさんチームから通信だよ。繋ぐね』

『こちらB085S地点。敵トータス発見。数は……10機です!』

 

 どうやら典子らカエルさんチームのほうが先に敵を見つけたらしい。

 みほは具体的なその後の指示を出そうと、無線機に話しかけようとした、その時だった。

 

『――』

 

 突然のノイズ。響く爆音。通信が不調となり、典子の声が聞こえなくなる。

 

『え! ちょっと! なに!? 壊れちゃった訳じゃないよね!?』

 

 これには通信手の沙織のほうが慌てた。

 どうやらコックピットで必死にコンソールをいじくっているらしいが、通信は回復しない。

 

「……」

 

 嫌な予感がして、視界の端を覗くが、キルログは流れてこない。

 みほはホッとした。だが、ホッとしたのも束の間だった。

 

『西住さん!』

 

 最初に気づいたのは麻子で、みほは反射的に木々の隙間から空を見た。

 空を埋め尽くすように、まるでこちらの居場所が解っているかのように、ロケットの雨が、みほ達の潜む森へと向けて、放物線を描きながら飛んで来る!

 

「全機散開!」

 

 みほは咄嗟に叫んだ。次いで轟音と閃光が来た。

 

 






 降り注ぐ砲火、攻め寄せる鉄騎軍。
 怒涛とはまさにこれ。疾風とは正にこれ。
 焼けつくような鋼鉄の嵐の中、みほの脳裏によぎる予感
 姿を見せぬ黒子へと、みほの熱い視線が突き刺さる

 次回『逆襲』 罠張る者に、罠を張る


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