ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第17話 『激闘』

 

 

 少数で多数を相手にするならば……それも、猛烈なる勢いでこっちに向かってくる、そんな多数を相手にするならば、いったいどういう戦い方があり得るか。

 ダージリンが考えたのは二通りのパターン。

 まず第一に『逃げる』という戦い方。敵は大勢、こちらは寡勢とくれば、どちらが隊列を保ちやすいかは言うまでもない。大勢で駆ければ人間、自然と足並みを乱すもの。隊列が乱れ、数の利を生かせなくなった頃合いを見計らって各個撃破する。敵が乱さぬように速度を落とせば、そのまま逃げ切って次の機を待つのみ。

 第二に『突破する』という戦い方。縦に戦列を組み、敵戦列の薄い部分を狙って、ひたすら駆ける。犠牲も厭わず、落伍者を(かえり)みない。ただただ前へ前へと敵中横断のみを考える。突破に成功しても止まらない。力尽きるまで走り続ける。リスクは大きいが、相手に背中を見せずに済むぶん、時と場合によっては逃げるよりもずっと有効な手だ。ただし勇気が不可欠。ひとたび止まれば、それで終わりだ。

 

 しかるに大洗のとった戦術は、そのいずれとも異なるものだった。

 ザイルスパイドの応用技。地面に打ち込んで巻き上げ、ATを追加速し、間合いを一挙に詰める。

 ――浸透強襲戦術。聖グロリアーナのお家芸。それで決まりの筈だった。

 

『糞! 当たらないぞ!』

『馬鹿! 撃つな! 同士討ちに――』

『うぎゃあ!? やられたぁ!?』

 

 だが現実は違う。無線越しに響くのは相手ではなく味方からの悲鳴だった。

 

「やってくれたわね」

『こんな手があったなんて』

 

 19対5。数だけ見れば約4倍。

 単純計算でも大洗1機あたり聖グロリアーナ4機の照準が向けられることになる。しかし相手はこのことを逆手にとった。ターンピックとローラーダッシュを駆使し、デタラメとも言える機動で駆け回るのは紫と赤のドッグAT。

 パープルベアーとブルーティッシュドッグだ。

 隊列を乱され、右往左往する味方の間に、その影が見え隠れする。

 ダージリンが射線を合わせようにも、素早く味方の影に入り込み、攻撃ができない。

 それは他の味方機も同様で、互いに射線が重なり合い、同士討ちの危険にトリッガーを弾けない。

 

 ――大洗の五機のうち、先鋒を務めていたのがパープルベアーとブルーティッシュドッグの二機。

 この二機はこちらの弾幕を物ともせず、こちらの前衛の、その戦列の只中に突っ込んできたのだ。

 

 いったん潜り込めば相手の思うがまま。

 分隊同士の、分隊内部の連携などクソ食らえとばかりに、互いに示し合わせるでもなくスタンドプレーでこちらを翻弄する。マシンガンをガトリングを乱射し、隙あらばアイアンクローやアームパンチを叩きつけてくる。しかしこの両機に撃破された味方のATはまだない。

 つまり敵の本命は別にある。

 

『こちらブラヴォー3! 右腕部損傷!』

『こちらデルタ4! 足を撃たれた! 機体が!?』

「アッサム! あそこのトータスタイプの動きを止めなさい! 至急!」

 

 大暴れの二機に隠れて、すでにこちらのATを三機撃破し、撃破まで行かずとも破損させ戦闘力を奪ってきているのは、金色のトータスタイプのカスタム機に、それに合わせて動くファッティー2機だ。

 特にファッティー2機の連携が素晴らしい。がちゃがちゃに隊列を乱されたこちらに比べ、双子のように息が合った動きに、ダージリンは敵ながら感心する。トータスのハンディロケットガンの射線に、味方のエルドスピーネをうまく誘導している。アッサムがソリッドシューターで狙い、トータスの動きが乱れるのにも、うまくフォローに入っていた。

 

「全機散開しつつB140地点まで後退! そこで再集合し、逆襲するわよ!」

『全機散開! B140地点まで後退し再集合!』

 

 ――しかし彼女たちは聖グロリアーナである。

 ダージリンがひとたび号令を下せば、即座に反応し行動を開始する。

 パープルベアー、ブルーティッシュドッグが食い下がるのをものともせず、潮が引くように後退する。

 

 ――無論、ただ退くだけでは済まさない。

 

「ルクリリ! ニルギリ! 照準ブルーティッシュ!」

『了解です!』

『発射!』

 

 退きながらエルドスピーネの群れから放たれたのは、銃弾ではなくザイルスパイドであった。

 それが一本二本であればブルーティッシュも回避することができていただろう。

 しかし操縦の達者なこのATも、飛んでくる土蜘蛛の糸が何本にもなれば避けることも(あた)わない。

 

『エルドスピーネ。その名の意味するところは土蜘蛛』

「その蜘蛛の巣に、安易に近づき過ぎたようね。……撃て」

 

 ザイルスパイドで絡めとった所に、銃弾を叩き込む。

 白旗を上げて倒れるブルーティッシュをそのまま、聖グロリアーナ隊は後退を再開する。

 

「まずは一機。それも厄介なのを仕留めたわ。勝負はこれからよ」

 

 

 

 

 

 

 第17話『激闘』

 

 

 

 

 

「麻子が……」

「冷泉さんが撃破されるなんて」

「やはり聖グロリアーナ……油断はできません」

 

 優花里達はみほ達の奮闘を、遠くから窺っていた。

 岩陰に身を潜め、ATから降りて直接双眼鏡で戦況を窺うのである。

 少しでも長く、ギリギリまでここに隠れていることを相手に悟らせないためだ。

 

「キャプテン達大丈夫かなぁ……」

「大丈夫! キャプテン達ならやられるときだって相手を道連れにするぐらいするから!」

「そういう問題?」

 

 優花里たちの隠れている岩のすぐ隣では、同様にATから降りて妙子、あけびのバレー部2人も荒野での戦いを見守っていた。なお彼女たちは自前の視力での観戦であった。

 岩陰に待機しているのは五人。

 優花里、沙織、華、妙子にあけびの五人だった。

 

 ――『分隊を再編成します』

 とは、みほの口から出てきた言葉だった。

 『こそこそ作戦』に代わる『どうどう作戦』。しかし堂々と挑むといっても、みほに全機で一斉突撃するつもりはない。『高速の少数部隊による撹乱』からの『敵の反攻を待ち受ける形での集中砲火』と、多様なATがありそれぞれ特性がある大洗の雑多な編成を活かしての新たな作戦をみほは考えたのだ。

 

『敵は数に勝る上に統制された部隊。それを逆手に取ります。懐に飛び込んで、各自の判断で攻撃。撹乱します』

 

 そう言ってみほは分隊を敢えてバラバラにし、機種や乗り手の特性ごとに組み直したのだ。

 突撃隊に選ばれたのは、麻子に杏会長、そして典子と忍のバレー部2人。

 結果、みほ率いる突撃隊は通信機持ちが一機もいなくなってしまったが、問題はない。この部隊の役割は敵の連携を個々のバラバラな攻撃で無理やりかき乱すこと。スタンドプレー上等という、装甲騎兵道の常道に真っ向から反した戦法だ。

 

『ですが相手は聖グロリアーナ。不意打ちによる混乱も長くは続かない筈。だから敵が退いて隊形を立て直すのを見計らい、突撃隊は退きます。相手が追いかけてきた所を見計らって――』

 

 ――優花里たち待機組が集中砲火を浴びせる、という訳だ。

 作戦のアウトライン自体は桃の立てた『こそこそ作戦』と大差ない。

 しかし強襲し撹乱することで、相手の反攻と追撃は一層強烈なものへと転化するだろう。

 その勢いの鼻っ柱を、不意打ちの集中砲火で叩き折る……これが作戦の肝だ。

 堂々と突っ込むことが、囮と待ち伏せの効力を高めるのである。

 

「西住殿達が戻ってきます!」

 

 双眼鏡の先で、みほのパープルベアーが後退機動に移ったのが見える。

 合わせて杏のトータス、典子、忍のファッティーも後退を開始した。

 

「みんなー乗り込むよー!」

「急ぎましょう!」

「キャプテン達のバックトスを繋いで」

「決めろスパイク!」

 

 優花里達は駆け足にATへと乗り込んだ。

 岩と岩の間を、銃眼のように使い、そこから銃身を外へと突き出す。

 

『それじゃあ打ち合わせの通り、みぽり……隊長が合図したらみんなで合わせて撃つよ!』

『空に向かって3発……で合ってましたよね?』

「はい。空に向かって3発です。多くもなく、少なくもなく、きっかり3発撃ったらそれが合図です」

 

 言いつつ優花里は、意識をゴーグル越しに見えるATの視界へと集中させる。

 倍率をあげ、みほのATにセンサーを合わせる。目いっぱいに広がる、薄紫の機影。その機動は、何度見せられても惚れ惚れするものだ。あれで当人は「操縦は上手いほうじゃない」と言うのだから、謙遜にも程がある。だがそういう奥ゆかしい部分も、優花里的にはみほを尊敬する大きなポイントになっていた。

 

「――きた!」

 

 みほのパープルベアーがヘビィマシンガンの銃口を空に向ける動きが、はっきりと見えた。

 カメラを、砲口を、追ってきているであろう聖グロリアーナへと合わせようと動かす。

 そして気づいたのは、相手がみほが動くよりも早く、こちらへと砲口を向けていたという事実。

 

「敵弾、来ます!」

『え?』

『沙織さん! ミサイルが!』

 

 優花里が叫び、華が首肯し、沙織が慌てて隠れる。

 バレー部2人も慌てて岩陰に身を隠せば、次々と着弾するミサイルの衝撃に、ATが揺れ、視界が揺れる。

 

『うそ!? なんで!? 気づかれてたの!』

『ひょっとして……待ち伏せを読まれていたんじゃ……』

「撹乱を受けた後でも、一手二手先を読んでくるなんて……」

 

 流石は聖グロリアーナ、と言った所であろうか。

 ミサイル攻撃の第二波はすぐにもやってきて、優花里達は岩陰から顔を出すこともできない。

 

『! ……みぽりん! 解った今つなぐから!』

 

 沙織が叫べば、それに続いてみほの声が響いてくる。通信遮断を解いたようだ。

 

『聞いてください! こちらが隙をつくります! 合図したら攻撃を開始してください!』

 

 言うなりみほ機は反転、ヘビィマシンガンを乱射し、敵隊列の注意を引き付ける。

 

『今!』

 

 みほの号令に従い、待機組は一斉に岩陰から身を乗り出し、各々の武器をぶっ放し始めた。

 撃たれながらの射撃戦。当然命中率は低い。

 しかし問題はないと優花里はこっそりほくそ笑む。

 なにせこの作戦の本当の本命は――

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「所定の位置に到達した。これより作戦行動を開始する」

『腕がなるぜよ』

『南無八幡大菩薩!』

『後方からの騎兵突撃……まさしくカンナエの戦いの構図!』

「それだ! 味方と合流し敵を包囲殲滅だ!」

 

 カエサル、エルヴィン、左衛門佐、おりょうのいつもの四人組、通称歴女チームこと大洗C分隊である。

 彼女たちは長い迂回機動の末、ついに聖グロリアーナの後方を押さえることに成功していた。

 『どうどう作戦』の本命は、みほ達突撃隊でもなければ、優花里達迎撃組でもない。

 カエサル率いるベルゼルガ装甲騎兵部隊こそ、この作戦を完成させる仕上げの一撃を担うのである。

 

 古来、重装備の騎兵による突撃は、数多ある歴史的会戦における決定打の役割を果たしてきた。

 馬首を並べ騎槍を揃え砂塵巻き上げながら蹄で地面を揺らす、重騎兵の突撃。

 敵の戦列を食い破り、蹂躙し、崩壊させる。

 騎兵のもつ『衝撃力』は、一撃で勝敗を決する能力を秘めているのだ。

 みほが彼女たちに託した役割。それは重装甲と高い白兵能力で、聖グロリアーナの戦列に背後より強襲をかけること。これに合わせてみほ達も一斉に反攻に出ることで、挟み撃ちにする。

 

『賽は投げられた!』

『者共続け! 早駆けじゃあぁ!』

『左衛門佐! 抜け駆けはずるいぜよ!』

「その気合は接敵ギリギリまで取っておけ!」

 

 全速前進の直進行軍。

 ひたすらに、まっすぐに、目指すは晒されている筈の敵の背中。

 無人の野を征くがごとく、彼女たちは進む。その進行を阻む者など、いる筈はない。

 そう、その筈だ。

 

「……うん?」

『なんだ?』

『前方に二機!』

『敵の後詰めか! だが二機程度ならば!』

 

 一陣の風。舞い上がる砂塵。その向こうに見えた機影がふたつ。

 味方ではない。その砂色の装甲はあからさまに敵だった。

 

「左衛門佐!」

『応! 忍法・霧隠れ!』

 

 左衛門佐のスコープドッグ、その左肩に備わったスモーク・ディスチャージャーから煙幕弾が放たれる。

 風向きは追い風。このまま流れる煙に乗って、目の前の後詰もろとも敵陣へ討ち入りだ!

 

『なに!?』

『おわっ!?』

 

 しかし白煙の中からにも拘らず、狙いすましたような射撃が左衛門佐のATへと送り込まれる。

 間一髪、ターンピックで回避するも、相手の攻撃はここで止まらない。

 

『ぬ!?』

 

 次なる標的は、おりょうのホイールドッグだった。煙の内から次いで飛び出してきたのは、鎖分銅を思わせる太い銀線。半ば反射的に、おりょうは愛機に盾を構えさせる。

  

「おりょう、駄目だ!」

 

 エルヴィンの叫びも虚しく、放たれた銀線、ザイルスパイドの先端に備わった『かえし』が盾に引っかかり、ガッチリと掴んで離さない。そしてそのまま猛烈な勢いで、おりょうの機体は引っ張られた。

 

『南無三!』

 

 咄嗟に盾をパージし、ザイルスパイドの拘束より放れる。

 だがそれはいつもは守られてる半身を晒すことに他ならない。

 

『むぐぅ! ……もういかんぜよ』

 

 霧破る銃弾はホイールドッグの装甲で弾け、衝撃でATは背中から倒れる。

 白旗が上がった。撃破判定だ。

 

「散れーっ!」

『応さ!』

『頼光の蜘蛛退治じゃ!』

 

 散開するエルヴィン達を狙う銃撃を携えて、遂に相手は煙を抜けて姿を露わにする。

 オーデルバックラー……敵の隊長機だ!

 

『大将首だ!』

「敵指揮官だ! 必ず潰すぞ!」

『こうなれば白兵戦!』

 

 カエサルは手にしていたヘビィマシンガンを投げ捨て、背中にマウントしたパイルバンカー槍を構え、突進する。

 相手も得物のシュトゥルムゲベール改を連射しながら、プレトリオの動きに合わせて突撃の構えだ。

 

『見た! 来た!』

 

 カエサルは、槍を逆手に持ち替えると、まるで投げ槍の選手のように得物を構えた。

 

『勝った!』

 

 気合の一声と共に、槍は投げ放たれた。しかし単に投げたのではない。

 改造により、本来は備わっていないアームパンチ機構をカエサルのプレトリオは有する。

 このアームパンチの発動に合わせて、オーデルバックラー目掛け槍を投げたのだ。

 通常の倍、いや三倍の速度で迫る槍を、相手は間一髪で避ける。

 だがATの体勢が崩れた。そこを狙ってカエサルは更に加速。シールドタックルを狙い猛進する!

 

「!?」

 

 エルヴィンは驚いた。オーデルバックラーの体勢は確かに崩れていた。

 しかし相手の得物が何発か火を噴いた時、その反動でオーデルバックラーは持ち直していた。

 エルヴィンは思い出す。『ブースタンド』と呼ばれるAT操縦の高等技法!

 

『負けたぁっ!?』

 

 叫んだのはカエサルだった。

 体勢を直したオーデルバックラーは即座に左手を構え、そのシールドに備わったパイルバンカーの先をカエサルの盾へと向けたのだ。そこに描かれた鷲の紋章。ローマ帝国の国章めがけて電磁加速された鉄杭が叩き込まれる。衝撃に赤マントを翻しすっ転ぶプレトリオの、その頭部をAT突撃銃のマズルフラッシュが焼き、弾丸が注ぎ込まれる。

 揚がる白旗。これでC分隊はすでに半数。

 

『無念!』

「左衛門佐!?」

 

 いや、すでに残り一機。つまりはエルヴィン機を残すのみ。

 左衛門佐を撃破したのは、オーデルバックラーの影に寄り添うように動く僚機のエルドスピーネだった。

 左衛門佐の意識は完全にオーデルバックラーに向いていた。その隙を見逃さなかったのだ。

 

「……死なば諸共! せめて敵の隊長機ぐらいは道連れにする!」

 

 エルヴィンは腹をくくった。勝つのは難しいが、相討ちならば!

 シュトゥルムゲベール改の連射をシールドで凌ぎ、僚機のエルドスピーネには目もくれず突進する。

 

(普通にやればパイルバンカーを当てるのは無理だ。……ならば!)

 

 こちらの突進に逃れるでもなく、退くでも無く、オーデルバックラーは受けて立つとばかりに悠然と待ち構える。

 

「今!」

 

 相手までたどり着く直前、エルヴィンは敢えて『降着』の姿勢へと切り替えた。

 しかしローラーダッシュはフルスロットル。一段低くなった体勢のまま、相手の足元目掛け突っ込んだ!

 パイルバンカーは相手の足めがけて放たれるが、しかし寸前、オーデルバックラーは左右のホイールを逆回転させスピンする。旋回の動きは必殺の鉄杭を受け流し、わずかにかすり傷をつけたに留まった。

 

「『厚い皮膚より早い足』……良く言ったもんだグデーリアン」

 

 すかさず叩きこまれた銃撃に、いくらベルゼルガ・イミテイトとて耐えきれはしない。

 撃破判定。大洗C分隊。全滅。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

『読んでらっしゃたんですか? 敵の背後からの攻撃を』

 

 オレンジペコが聞くのに、ダージリンは正直に答えた。

 

「いいえ。ただ何となく、背後の守りを一機も残さないのは用心に欠けると思っただけよ」

 

 味方に突撃させつつ、ダージリンはペコと二機のみ敢えて我が身を後方に置いた。

 (はし)る気持ちを抑え、後詰を買って出る。モントゴメリー風の慎重な戦術。単にそれに習ったにすぎない。

 だが、今度ばかりはそれが功を奏した。偶然であろうと、戦果は戦果だ。

 

「時にペコ、『騎兵とかけて、拳骨ととく』……その心は?」

 

 不意に、ダージリンは相方へと問うた。

 彼女は当意即妙、間を一秒と置かず答えた。

 

『秋山好古ですね。答えは「当たると相手も自分も痛い」です』

 

 ダージリンは愉快な気分になって微笑んだ。

 そして彼女の答えを受けてこう結んだのだった。

 

「強烈な打撃を与えると同時に自らの拳も傷つく……騎兵とはベアナックルで拳闘をするようなもの。でもね――あなた方が叩いたのは薄い窓ガラスではなく、『秩序の盾』でしてよ」

 

 

 




 ぶつかり合う策と策
 限りない読み合いの応酬の果て
 待つものは一転、野蛮なまでの鋼同士の衝突
 もはや小細工はいらぬ。ただ勝利をかけて、鉄の拳が唸り吼える
 白磁と芳香、装甲と油臭が、奇妙な狂騒曲を奏でる

 次回「対決」 勝負の後に、茶会を開く

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