ガールズ&ボトムズ   作:せるじお

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第12話 『塗装』

 

 

「んもぉ! 麻子ひどいじゃん! 人のATに勝手に乗ってっちゃって!」

 

 例の校庭横のレンガ倉庫にみほ達が戻ってきた時、出迎えた沙織の第一声はそれであった。

 ほおを膨らませてぷんすかぷんという様子である。

 

「あの状況ではああするしかなかった」

 

 と返すのは、いつの間にかブルーティッシュ・レプリカに乗り込んでいた冷泉麻子である。

 ATを思う存分乗り回して少しは眼が覚めたのか、みほの知っている彼女より受け答えがしっかりしている様子だ。

 

「それより、沙織さんは大丈夫?」

「頭をぶつけたって冷泉さんに聞きましたけれど」

 

 実際、沙織のおでこには湿布が一枚貼ってあった。どうでもいい事だが眼がすーすーしそうだなとみほは思う。

 

「あ……あはは大丈夫大丈夫! ちょっとブツケただけだし」

 

 白い湿布に手をやって、その大きさに自分がどう見えているのかを想像したのか、沙織は少し頬を赤くして照れをごまかすように笑った。

 既になぜ麻子が沙織のATに乗り込んでいたのかを、当人から聞いてみほも華も事情を知っていた。

 蓋を開けてみればなんてことはない。

 急いで行って戻らなきゃと焦る沙織が操縦をミスし、横に飛び出していた枝にぶつかってATをひっくり返し、頭をぶつけて眼を回してしまったのだ。とっさにATの手から飛び降り無傷だった麻子が、仕方がないので操縦を代わり、沙織を本部に届けてからはなし崩しに模擬戦に出ることになったらしい。蝶野教官に早く試合場に戻ってとまくし立てられ、実は自分が件の迷い人ですとは言い出すタイミングがなかったそうだ。

 ――どうして操縦法が解ったかって? 備え付けのマニュアルを読んだらしい。

 嘘を言うな! と言いたい所だが、実際に操縦して見せたのだからこれ以上の証明はない。

 聞く所によれば麻子は今回の模擬戦で計7機撃破したというから、尋常でない。初心者同士の初の試合でのこととは言え、ビギナーズラックにしても有り得ないスコアだ。

 実際に動かしている所を見逃したのが、みほには心底残念だった。是非とも、ATの挙動を見せて欲しかった。

 

「私は西住さんに借りがあったからな。それを返しただけだ」

 

 麻子はそっけなかった。彼女は既に書道を選択しており、それを変えるつもりはないらしい。

 ちなみに麻子のいう『借り』というのは今朝、低血圧に苦しむ彼女にみほが肩を貸したことだが、貸し借りは良いから麻子も装甲騎兵道をやって欲しいと言うのが声には出さぬ、みほの本音であった。

 

「沙織、ATは返したぞ。私は校舎に戻る」

「今更授業に戻って大丈夫なの? 先生に怒られるよ?」

「気分が悪くて休んでたことにする。それじゃあな。西住さんも、五十鈴さんも」

 

 ブルーティッシュ・レプリカを降着させると、麻子はひらりとATから跳び降りた。

 小さい体ながら、運動能力も中々に高いらしい。

 麻子は、手を軽く振って立ち去ろうとする。

 

「待て!」

 

 立ち去ろうとする所を大声で呼び止めた者がいる。

 麻子が振り返り、合わせてみほも、華も、沙織も振り返る。

 腰に手を当て、仁王立ちする河嶋桃がそこに居た。やや服が煤けた感じなのは、乗機を撃破された為だろう。

 

「キサマ、何者だ! 本校に西住以外の装甲騎兵道経験者がいるとは聞いてないぞ!」

 

 ビシィッと効果音が聞こえてきそうな勢いで、麻子の顔を指差し桃は吼える。

 

「常識外れの反射神経、制御能力。恐ろしいやつ……いったい何者!? お前は一体誰だ!?」

「2年A組の冷泉麻子だ」

 

 答える麻子は飽くまで淡々とした態度だったが、みほに装甲騎兵道をさせるさせないの生徒会とのイザコザを思い出した沙織が、麻子を庇うように前に出る。

 

「ま、麻子は勉強学年主席だから! 単に何やっても人並み以上にできちゃうから! それだけです!」

「そんな馬鹿な話があるか! 以前からATに乗り慣れた人間でもなければ、ああも見事に動かせる筈はない!」

「麻子はATに乗るのも今日が初めてなんですよ!」

「ありえん! 絶対にありえん! 経験者でないというのなら……おのれまさか、キサマ! 他校からのスパイじゃあるまいな! わが校の現状を探りに来たのか!」

 

 何やら勝手に桃が一人盛り上がっている様子で、それに応じる沙織も徐々にヒートアップしてきている。

 

「みほさん……」

「うん、止めないと」

 

 みほと華は目配せすると、ATから降りて2人の間に割って入ろうとした。

 しかしそれよりも桃の背後より声が飛んで来る方が先であった。

 

「いやぁ冷泉ちゃん! 見事なもんだったね! 流石は2年学年主席!」

 

 杏会長であった。傍らには柚子もいる。

 さらにその後方には優花里を始め、他の被撃破組がこっちへと向けて歩いて来る所であった。

 『ビッグキャリー』――AT輸送用の大型トレーラー――に乗せられたAT達も続々と戻って来ているのも見える。

 

「確か書道取ってるんだっけ? でも今日から装甲騎兵道に変更ね」

「……そんなことを勝手に決める権限が、生徒会にあるとは思えんが」

 

 眉をひそめる麻子だったが、杏会長は例のなんとも言えない、笑っているようにもいないようにも見える顔で麻子へと近づいてくる。

 

「まぁ、ちょっと耳貸してみ」

 

 と言うと、麻子の返事も聞かずにスッと歩み寄り、何かぼそぼそと耳打ちをした。

 

「……っ!?」

 

 麻子の眠たげな眼が一瞬見開かれると、ゴクリと唾をひと飲み、囁くような声でポツリと呟いた。

 

「……やる」

「え、麻子、何?」

「装甲騎兵道をやる」

「えぇぇっ!? なんで!? 麻子どうしたのよ!? 会長に何を言われたの!?」

「それが我が運命なら……」

「何を悟ったみたいなこと言ってごまかしてるのよ! ちょっと麻子! 麻子!」

 

 冷泉麻子のいきなりの翻身に、沙織は何がなんやらと慌てふためき、みほと華は互いに顔を見合わせた。

 

「? ……どうかされましたか?」

 

 ことの推移を知らぬ優花里が、混沌たる状況に疑問を呈する。

 みほは静かに首を横に振った。

 

「なんでもないよ」

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 妖怪干し芋女が呼んでいる。

 全睡魔を敵にしても、我が下に来るべし。

 我は与えん、無限なる単位を。

 我は授けん、3000日の遅刻見逃しを。

 会長なる者の壮大な誘惑。麻子たる者の壮絶なる決意。

 いま大洗に、新たな戦いが始まる。

 今回、第12話『塗装』。全てを得るか、留年に落ちるか。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 模擬戦の後、蝶野教官からの総評が有り、反省会があり、ATの操作についての講習があり、無事に授業は終わって教官は原隊へと帰還した。

 大洗女子装甲騎兵道チームは明日に備えて解散となった訳だが、みほ達はまだ倉庫に残っていた。

 片付けなければならない問題があったからだ。

 

「じゃあ麻子のATはこのままブルーティッシュのレプリカで良いとして」

「問題は武部殿のATですね」

「沙織、本当に良いのか?」

「うん。なんか私よりも麻子のほうが上手く使いこなせそうだし」

 

 新たにチームに加わった麻子にブルーティッシュ・レプリカを譲ったため、沙織のATがなくなってしまったのだ。

 

「また、船底の例の部屋に行って部品を取ってきましょうか」

「そうですね。あれだけたくさんのATがあったなら、まだ使えるものは残ってそうですね」

「今回は前の時と違ってATも揃ってるから、手分けしてやればすぐに持ってこれるよ」

 

 この間の探索でめぼしいパーツは全部持ってきたとは言え、まだまだ遺棄されたATはあの墓場に残っている。

 今からでも探しに行けば、明日明後日には一機ぐらいなら何とかなる可能性が高い。

 

『いや、その必要はないかなって~』

「え?」

 

 後ろから突然かけられた声にみほが振り向けば、相変わらずの黄色いツナギ姿の4人組。

 

「自動車部のみなさん!」

「聞いたよ~。ATが一機足りないって。いやぁこんなこともあろうかと、準備しておいて正解だったねぇ」

「どういうことでしょうか?」

 

 優花里が問うのに、自動車部唯一の二年生、ツチヤはニヤッと笑い、倉庫の片隅を親指で差し示した。

 何やらシートに覆われたデカブツの影が一つ。隅に置かれていたので気付かなかったが、あれは――。

 

「もしかして……」

「そういうこと!」

 

 ナカジマがシートの端を思い切り引っ張れば、はらりと落ちて鋼の巨体が顕になる。

 

「スコープドッグ!」

「え! どこにあったのこんなの!?」

「いや、武部殿見てください! 両手両足全部色が違ってます! ということは――」

「もしかして、自動車部のみなさんが用意して下さったんでしょうか」

 

 華が聞く言葉にナカジマ始め自動車部一同は少し得意そうになった。

 

「この間ATを一通り組み直した時に、余ったパーツがたくさんあったからね。それを繋ぎ合わせて一機作れそうだったから。予備用に組んでみた訳」

「これ一機組むのにドッグ系を5機は潰したけどね」

 

 みほ達は自動車部謹製スコープドッグへと駆け寄って、改めて詳細を具に見る。

 

「よく見ると色だけでじゃなくて、細かい部分も違うんだな」

「さすが冷泉殿! よく気が付かれましたね!」

「え? どこが違うの? 華の乗ってるのと色以外おんなじじゃん」

 

 頭上に疑問符を浮かべる沙織には、優花里が嬉々として解説する。

 

「ほら、ふくらはぎの部分をよく見てください。右足は三本線のスリットが入ってますが、左足は」

「ホントだ! こっちは凹んでるのに、こっちは盛り上がってる!」

「腕のほうもそうです。左右で関節の構造が微妙に違います」

「なるほど、右手は甲を覆うプレートが動かないのに、左手は回転するようになってるのか」

「その通りです冷泉殿! 特に手首装甲が回転するタイプは、あのガレアデ戦線でも主力を務めた――」

「……スコープドッグにも、結構いろんな種類があるんですね」

 

 ATを囲んで盛り上がる沙織達を、後ろから眺めていたみほに、話しかけてきたのは華だった。

 

「うん。製造地や、製造年で結構細かい部分が違うから。特にドッグ系は数えきれないぐらい量産されたから、なおさらね」

「工事現場や建設現場でも良く見かけますしね。そういえば昔に家の方に来ていた庭師の方が、高い所の枝を整えるのにも使っていたのを、見たことがありました」

「うちでも庭に新しい池を作るってなった時、お母さんが昔に使ってたATを持ってきて穴を掘ってたっけ」

「ご自分で庭池を(こしら)えるなんて……やはり装甲騎兵道の家元らしくアクティヴなお家なんですね」

「あはは……うちのお母さんは、特にね」

 

 思い出すのは、ある日突然、母に姉ともども近所の山へと引っ張り出され、そこで対ATライフルを渡されて「ではこの母の乗るATをそれで撃破しなさい」とか言われた時のことだ。あの時は本気で死ぬかと思った。あの鋼のように強靭な姉が涙目になっていたのを、とても強く覚えている。

 

「みほさん、大丈夫ですか? なにか遠い目をしていましたけれど」

「ううん、なんでもないよ。なんでも」

 

 そうなんでもない。ただの未練もない過去がスローモーションに帰ってきたに過ぎない。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「ねぇ、このATに色塗らない? 流石にこのままだとカッコ悪いし」

 

 そう言い出したのは沙織であった。

 確かに、手足で色がこうもバラバラだと統一感もなく、見栄えは良くない。

 

「そうだね。沙織さんは何色が良いかな?」

「どうせなら可愛いのが良いし、ピンクとかどうだろ?」

 

 沙織が言うのに猛反対したのは、優花里であった。

 

「ダメですピンクなんか! スコープドッグの色は緑の迷彩色って決まってるんです! 100歩譲っても空挺部隊の紫色じゃなきゃダメです!」

「えー紫だと華のと被っちゃうじゃん。それに他のチームには赤色とかいたと思うけど」

「それはあれが元はバトリング用のATだから許されることであって……武部殿少々お待ち下さい!」

 

 言うやいなや優花里は飛ぶようにその場を抜け出して、ものの数分もしない内に駆け戻ってきた。

 その手の中にあるのは、どうやら何冊かの雑誌のようであるが……。

 

「武部殿! 御覧ください!」

 

 と、沙織へと優花里は雑誌の山を手渡した。

 その重さに沙織はちょっとよろけたが、傍らの麻子やみほが何冊か横から持って行ったので、持ち直す。

 

「なにこれ……『月刊 装甲騎兵道』?」

「『ATマガジン』、『バトリング・グラフィックス』……全部AT関連の雑誌か」

「あ、『ATワークス』だ。懐かしい」

「みほさん、ご存知なんですか?」

「うん、前の学校で定期購読してたやつだから」

「てかAT関連ってこんなに雑誌の種類あったの!?」

「はい! 装甲騎兵道にバトリング、それに単純にメカとしてATを好む者まで……ATマニアはこう見えて案外たくさんいるんですよ!」

 

 沙織はパラパラと手渡された雑誌をめくって見てみた。

 週刊誌などに比べるとページ数自体は少ないが、カラーページが大半で写真の量も豊富だ。

 紙が分厚く頑丈で、沙織は料理雑誌を思い出した。装丁としてはあれに似ている。

 

「あ、武部殿! そのページですそのページ! ちょうど今月号で特集してて助かりました!」

「えーとなになに……『AT彩色パターン特集』?」

 

 見開きのページには何機ものスコープドッグの写真がカタログのように一覧表となっている。

 それぞれの写真の上にはパターンの名称とページ数が書かれており、そのページヘと飛べば片面一枚を使って使用する塗料の種類を始め手順などが詳細に載せられていた。

 

「装甲騎兵道は森に林に湖に、砂漠に荒野に市街地にと、試合場の地形は様々です。ですがどの試合場であろうと大事なのはカムフラージュ、つまり迷彩です! 相手から発見される可能性を少しでも低くするのが勝利の鍵です! ですよね、西住どの!」

「あ、うん。そうだね……」

 

 急に話を振られてみほは曖昧に相槌を打った。

 ふと、逸見エリカという元同輩がファンになったAT乗りにあやかって機体を青く塗っていたのを思い出したが、彼女の名誉のためにも今は言わないでおいた。

 

「うーん、でも私には全部同じに見える~」

 

 ページをぱらぱらめくってATの写真を眺める沙織は口をすぼめて不満気に言った。

 これが優花里のマニア心にさらなる火を灯す。

 

「そんなこと無いです! 例えばこのマナウラパターンはバイザー部分が白く塗装されていて――」

「あ、でもコレは良いかも!」

 

 しかし、優花里の解説はしれっと沙織により遮られた。

 彼女が優花里に指差し見せたのは、雑誌も中ほどにあった一枚の写真だ。

 

「ほら、肩が赤いのがアクセントになってておしゃれじゃん! もう少し明るい色ならもっと良いと思うけど」

 

 右肩が暗い血のような赤で塗られた、完全装備のスコープドッグ。

 ミサイルランチャーにガトリングガンに小型のソリッドシューターと、まるで思いつく武器を全部のせしたハリネズミのようなATだった。

 

「うーん……確かにレッドショルダー仕様ならば……確かにこれならば」

「レッドショルダー、ってなに?」

「かつて存在した、史上最強とも呼ばれたAT特殊部隊の名前です。正式名称は『戦略機甲兵団特殊任務班X-1』。識別用に所属機の肩を赤く塗ったのがあだ名の由来です」

「へー……。だったら良いじゃんコレ! 要するに昔の凄い強いチームと同じなんでしょ! 武器も写真みたいにじゃんじゃかのせちゃって!」

「肩を赤く塗るのはともかく、やたらめったら武器を積んでも、どうせ使いこなせないんじゃないのか?」

 

 突っ込んだの麻子だった。最もな言い分に、そっかぁと沙織は残念そうな様子だった。

 だが、みほはふと『あるもの』の存在を思い出した。

 

「沙織さん、ちょっと待って!」

「みぽりん、どうしたの?」

「西住殿?」

 

 みほが駆け寄った先にあったのは、先日サルベージしてきたジャンクの山だ。

 記憶を探り直し、例のモノをどこで見たのかを思い出す。あの時は今はいらないと思っていたが、あれさえあれば――。

 

「あった!」

 

 みほは目当てのものを見つけ、よしっと歓声をあげた。

 沙織達もみほに追いついて、背中越しにみほの目当てのブツを覗き込む。

 

「なんでしょうか?」

「私にはただのおっきい鉄の箱にしか見えないけど」

「私も同感だ」

「西住殿、これって……」

「うん。『MCA-626』。これさえあれば」

 

 いきなり出てきたアルファベットと数字の羅列に、沙織、華、麻子の三人は説明してと優花里の顔を見た。

 声に出して問われずとも優花里は嬉しそうに解説を始める。

 

「『MCA-626』。火器管制コンピューターです。ATの背中にランドセルのように背負わせて使います。ミサイルランチャーなどの追加武装を効率よく使うためには、不可欠な装備品です」

「最新版の『MCA-628』には劣るけど、これでも充分に動かせる」

 

 みほは優花里の解説に頷きながら後を続けた。

 

「これとミッションディスクのプログラムを同期させて、操作レバーのバリアブル・コントローラーにショートカットキーを割り当てれば……比較的簡単に動かせる筈」

「……何がなんだか解かんないけど、とにかく上手くいきそうってこと?」

 

 沙織が問うのにみほは――。

 

「うん」

 

 

 ――と力強く頷くのだった。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「出来上がりましたね」

「頑張れば何とかなるもんだね」

「眠い」

「やっぱり肩の色は塗り直しませんか? 右肩に、もっと暗い赤で」

「んもう! ここまで頑張ったんだから良いじゃんそれぐらい!」

「だが右と左を間違えるのは実際マヌケだ」

「麻子!」

「あはは」

 

 彼女たちが見上げる先には、蛍光灯の白い光の下、威風堂々と立つ沙織のスコープドッグの姿があった。

 ハリネズミの様に搭載された様々な火器の数々。

 右肩には九連装のロケットポッド。右腰には二連発のミサイルランチャー。左腰には小型のガトリングガン。左手には小型のソリッドシューターがマウントされている。背中には火器管制コンピューターが載せられ、腰部ガトリングガンの弾倉も付属していた。

 そして左肩が赤く塗られていた。

 右肩ではなく、左肩。色も沙織の好みを反映して、ややピンクがかった明るく薄いルージュの赤だった。

 沙織がうっかり左右を取り違えて塗ってしまったからだが、沙織のオリジナリティーを尊重してそのままになっている。別に塗り直すのが面倒くさかった訳ではない。

 

「今日は遅いし、もう帰ろう」

「そうですね、陽も完全に落ちてしまいましたし」

「明日が楽しみ! 上手く動いてくれるよね!」

「武部殿……そのう……」

 

 優花里がおずおずと手を上げて、何か言いたそうだった。

 沙織は彼女らしくすぐに察して、うんと笑顔で頷いた。

 

「大丈夫! 秋山さんにも使わせてあげるから」

「良いんですか! ひゃっほう! 最高だぜぇ!」

 

 何のかんの言いつつ優花里もこの『レッドショルダーカスタム』に乗ってみたかったらしい。

 小躍りする優花里の姿に微笑ましいを感じつつ、みほは改めて『レッドショルダーカスタム』に目をやった。

 これだけの数の火器を積んだAT用のコンバットプログラムを、一から組むのは流石に初めてだった。

 今日も徹夜かも、と小さく呟いた後、みほは頬を軽く叩いて気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

「バレー部復活を祈願して!」

「目指せ東京体育館!」

「あるいは代々木第1体育館!」

「一筆入魂!」

 

 

「自分の愛機は、自分で演出する!」

「青のスプレーが足りないぜよ」

「流石に馬の毛を貼り付けるのは無理があったか。左衛門佐、赤のスプレーを貸してくれ」

「心得た。……くそうロールバーが邪魔でのぼり旗が上手くつけられない!」

 

 

「何色にしよっかー」

「私赤にする!」

「トリコロールカラーにしようよ!」

「ネットによると……錆御納戸色がオススメだって」

「何色なのよそれー」

「……」

 

 

「やはり生徒会らしくスペシャルでゴージャスな色がよろしいかと」

「だからって桃ちゃん金色はないんじゃ」

「良いんじゃないの? 縁起良さそうだし」

 

 

 

 

 

 ――◆Girls und Armored trooper◆

 

 

 

 

 

 ――翌日、まるで仮装行列のような有様になったAT達を見て、優花里が絶叫したが、些細な問題である。

 

 





おまけ:登場AT図鑑


【パープルベアー】
:みほのAT。旧バトリング部の遺物だろうか
:スコープドッグのバリエーションの一つで、ステレオスコープ搭載型
:装甲はATのなかでも薄めだが、小回りが利き格闘戦が得意
:あてにならないパーツがざっと50はある

【スコープドッグ・レッドショルダーカスタム】
:沙織の新AT。自動車部謹製のジャンクAT
:伝説の特殊部隊、レッドショルダーにあやかって肩を赤く塗ってある
:しかし沙織の勘違いで左肩が明るい赤で塗られている
:みほの改造の結果、沙織でも運用可能な重火力支援機に仕上がった

【スコープドッグ】
:華のAT。色が紫な以外は極ノーマルなスコープドッグ
:大洗で完全なノーマルドッグに乗っているのは現状、華だけである
:色こそ空挺部隊用になっているが、性能的には通常機と変化なし
:追加兵装等も特に無し。手持ち火器とアームパンチのみ

【ゴールデンハーフスペシャル】
:優花里の愛機。自作のジャンクAT。
:トータス系の下半身・右手と、ドッグ系の胴体・左手を繋ぐという無茶な改造機
:故にドッグ系にしてはやや大柄。重心が下にあるので足回りは意外と安定している
:反面、センサー系は貧弱。カメラも標準ズームのみ

【ブルーティッシュ・レプリカ】
:当初は沙織の機体だったが麻子に乗り手が変わった
:パーフェクトソルジャー専用機であるブルーティッシュドッグのレプリカ
:増設されたグランディングホイールと右手のガトリング砲が特徴。元はバトリング用の機体か。
:原型機同様ピーキーな機体であるため乗りこなすのには技量が必要
※パーフェクトソルジャーとは脳や生理機能を戦闘に特化させられた強化人間のこと


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