あの日、あの時、あの人の短編集   作:鈴木シマエナガ

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何か色々読んだりしてたら書きたくなったよん。


ヤン(キー)デレ?な彼女

 

金髪か黒髪か、って言われたらどう答えればいいんだろう。

僕は、どちらかと言ったら清楚な人が好きだし、結構暗めな奴だからあまりチャラチャラされたり、激しすぎるのは好ましくない。ということは、僕にとっては、黒髪の方が合っているのだろう。

だけど、金髪を捨てるわけにもいかないのだ。見た目普通、頭脳は、まぁ上の方を取っているけど、運動は得意じゃない。クラスじゃ皆に混じって騒げない引っ込み思案な僕だけれど。

 

何でかって? そりゃあ、これですよ...。

 

「なぁ、晴k...晴。あの女誰だよ?」

 

金髪ヤンキー幼なじみに迫られてるからで...。ああちょ、怖いよ詩乃ちゃん...!!

 

 

 

___________________

 

 

「ねーねー晴輝くーん、奢ってよー」

 

「...そんな事、言われてもですね...」

 

あぁもう、何でこんなに怖いのJK...やっぱアニメなんて信じない。

二年生になり、クラス替えをした空気も徐々に活気に溢れる6月。クラスでは、グループ等が形成され、他グループ間との間も良好に進んでおり、クラス内での気まずさは無くなっていた

 

そんな、楽しい学校生活を送っている皆を羨ましい目で眺めながら、僕はクラスで結構目立つグループの女子に迫られていた。もちろん脅迫です。

 

「良いじゃーん。一本だけ! ね?」

 

「...」

 

前もそれ言われたなぁ...目が早く奢れよおらって言ってるよ...。

 

「...な? 奢れって...早く」

 

遂に脅迫口調になったった。誰か助けてください。

クラスでグループ間の仲が良いとは言っても、やはり目立つ奴らはクラスの上位層にいるわけで。僕がこうして脅迫されていても皆は見てみぬふりをする。

...まぁ、僕は何処のグループにも入れなかったけど、それぞれのグループに中途半端に入っている、半分ぼっちなんですが。

 

今回地の文多いね。

 

「なぁ? うちら喉渇いてんの。分かってる?」

 

「...はぁ」

 

仕方ない、今回は仕方ないんだ。次、ちゃんと断れば良いじゃないか...今回、だけは...。

 

そうして、財布を取りだそうとポケットに手を入れた瞬間

 

 

 

 

「おい、晴k...西宮 晴輝ってのに用があんだけどさぁ、いる?」

 

教室のドアに、かったるそうに寄りかかっている、髪金髪、制服は何処もだらしなく着崩れていて、その鋭い目は僕に迫っている女子に向けられていた。

 

学校一の、不良少女であった。

 

「...しし、しーちゃーん! どうしたのぉ? 西宮君だっけー?」

 

僕に迫っていた彼女は、コロッと態度を変え、可愛らしく駆け寄っていく。おおぅ...凄いな女子って。ここまで変えられるものなのか...。

 

まぁ、とりあえず助かった...

 

「そう。そいつ...あぁ、いた。ちょっと来な」

 

「し、しーちゃんが西宮君に用事ってなーにー? あたしちょっと気になるなー?」

 

「あぁ? 関係ねーよ。どいて」

 

...今日は災難ばっかりだなぁ。

クラスの皆の、同情の視線に晒されながら、僕は彼女に着いていった。...何なのさ、詩乃ちゃん...。

 

 

 

 

 

 

 

「...」

 

「...」

 

場所は、体育館倉庫。体育の時間にしか使われないため、ほとんど人の来ないスポットであり、彼女達のような人達のたまり場となっている。

 

「..."ねぇ"」

 

「...は、はい?」

 

彼女の顔を見ると、顔を真っ赤にして、涙目になりながら唇をきつく結んでいる、可愛らしい顔が見えた。

 

「...あ、あいつ...と、何かあったの? 何言われたの? 晴k...晴輝!!」

 

「え、えーっと...何もないよ?」

 

「な、何もないわけないじゃん! めっちゃ怖そうにしてた!! ねぇ? 何かあったんなら言ってよ! うt...私なら何とかしてあげられるかもしんないし!!」

 

「いや、だから...」

 

「晴k、晴輝が私なんかに頼りたくないんならしょうがないけど...だだだ、大丈夫だよ? 確かに髪染めたり、制服こんなだけど、怖くないよ? 昔のうt、私のまんまだから! ね?」

 

「...大丈夫だって、"詩乃ちゃん"...」

 

あぁもう...良い人だなぁ、詩乃ちゃん。

彼女、東山 詩乃は...僕の小学生からの付き合いだ。昔っから強がりで、新しいものに目がなく、小学、中学と目立つ存在だった。それに比べ僕は、そんな詩乃ちゃんに着いていけず、こんな暗めになってしまった。いや、詩乃ちゃんのせいじゃないけどね?

 

「ほ、本当に!? じゃ、じゃあ何であいつとあんなくっついてたの? 何も無かったんなら、あんなにくっつかないよね? やっぱり何かあったんだ...」

 

「し、詩乃ちゃん...?」

 

「...ねぇ、ねぇ、"晴君"...あの女...何なの? 隠さないで言ってよ..."うち"なら何でもしてあげるからさ...? 苛められたんなら潰すから...脅されてても潰してあげるから...ね?」

 

「怖いよ詩乃ちゃん!?」

 

こんな感じで、詩乃ちゃんは昔から僕に対して過保護な部分がある。少し小さな怪我をしても大事のように心配してくれるし、今みたいに、何か心配な事があると、何でも自分で解決してくれようとする。

そんな優しさに、今まで何度救われてきた事か。

 

「だ、大丈夫だから...本当に。心配してくれてありがとね?」

 

だから、何でもかんでも詩乃ちゃんに頼っちゃいけないよね。

 

「ほ、本当に大丈夫なの? 何でも言ってよ...うちが全部助けてあげるから...」

 

「あはは、詩乃ちゃん。うちに戻ってるよ?」

 

「へ? わぁ!? ごめん晴君...私、だね。うん」

 

僕の前では私を使うと決めているようだ。何でも公私を使い分けてるそうで。

 

「さ、さぁって。詩乃ちゃん、ジュースでも飲む?」

 

「え!? そんな!? いいよいいよ! てか、私が買ってあげる! バイト代入ってきたから一杯買ってあげる! 何飲む?」

 

何だこの子嫁にしてやろうか。

 

「そう言えばあそこの自販機に新しいの入ってね、時々ハートの片方が書いてあって、それを二人が片方ずつ当ててハートを完成させると、幸せになるっていう桃のジュースが...」

 

今日もヤンキーデレな詩乃ちゃんは可愛いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...こうなるのかー」

 

「何一人でぶつぶついってんの? キモッ」

 

放課後、予想出来た筈の事態が起きた。完全に桃ジュースを飲みきるのに時間使ってて頭回らなかった。ハート完成出来た時の詩乃ちゃん可愛かったなぁ...。いつもの怖いヤンキーな感じと違うギャップ萌えってやつか。

 

「ねぇあんた、しーちゃんの何なの?」

 

「しーちゃんに連れていかれて何もないってのは怪しいよねー」

 

ハート完成させるために桃ジュース完売してたなんて言えない。

学校でも多大な影響力を持つ詩乃ちゃんだ。彼女達に疑われても仕方ない。彼女達でさえ、頭の上がらないビッグボスに連れ出されたのだ。

 

「ここで何か弱み握れたらしーちゃんの上に立てるかもしんないしねー?」

 

「きゃはは! それ良いねぇ!!」

 

「いっつも調子乗ってるあいつに、一泡吹かせられるな!!」

 

...こいつら...!!

 

「だからさ、ほら? ゲロっちゃえよ!」

 

「っ...!! ぐほぇっ...」

 

彼女達の一人に、いきなり腹を蹴られる。僕が男だからって、多勢に無勢。しかももやしの俺に、徒党を組んでる彼女達に勝てるわけがない。

だけど、口だけは割らない。詩乃ちゃんを...裏切りたくない。

 

「...うえっ...!」

 

だからって、これは殴り蹴りすぎでしょ...身体中痛い...口切れてるし...。

 

「ちっ...まだ言わねぇのかよ」

 

「もっと痛い目見ないとわかんねぇのかなぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「...おい、何してんだ...?」

 

場が凍りつく、静かだけど、怒りに溢れたその声に、彼女達は一斉に振り向いた。

 

「し、しーちゃん!? 何で、ここに...!?」

 

「たりめぇだろ...倉庫はうちも良く使うからよ...んで、だ」

 

いつになく鋭い眼光で彼女らを見る。

 

「もう一度聞く...何してんだ、お前ら...!?」

 

その一声で人を竦み上がらせる程の怒り。その恐怖に、彼女達は戦く。

 

「...な、何言ってんの!? こんなどうでもいいやつリンチしてて何が悪いのさ!?」

 

「そうだよ! しーちゃんには関係ないでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「...お前にとってはどうでも良いだろうけどさ...うちにとっちゃ...命よりも大事な人なんだ...いいから、どけ。な?」

 

その言葉に、彼女達は我慢出来なくなったようで。

 

「...は、はぁ!? こいつが、命よりも大事なやつ!?」

 

「うわー、しーちゃん幻滅ー。まじあり得ないんですけどぉ」

 

と、好きなだけ罵声を浴びせる。...こいつら...人が黙ってりゃ好き放題言いやがって...。

俺なんかどうでもいい。確かにそうだ。だから、詩乃ちゃんだけは...バカにするのは許せない。

 

 

「...あんたら、さ。僕に言えよ。僕なんかが、東山さんとつるんでんだ。僕に好きなだけやれよ。東山さんは、巻き込むな、よ...」

 

「...アッハハハハハ!! 何かっこつけてんの!? だっさ!!」

 

「ださくたっていい。東山さんだけは、傷つけんな。傷つけるんなら...僕だって、やるぞ」

 

詩乃ちゃんに守られてばかりだったんだ。たまには、良いとこ見せてやりたい。

それで、もう終わりにしよう。詩乃ちゃんなんかが、俺と一緒にいたらまたバカにされる。そんなのは、嫌なんだ。

 

だから...!!

 

 

 

「ださくなんてないよ。カッコいい。ありがと、晴君」

 

そう言って、詩乃ちゃんは優しく微笑む。

 

「...今から連絡すれば、男は何人か来れるってさ。何でも好きな事やっていいって伝えてある」

 

詩乃ちゃんは、携帯を取りだし、そこに並んでいる大勢の連絡先を見せる。

 

「...は?」

 

「ちょ、ちょっとしーちゃん何言ってんの...?」

 

「軽く退学はしないといけないだろうなぁ...で? まだやるか?」

 

...詩乃ちゃん、それはちょっとカッコ悪いよ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

「いてて...」

 

「だ、大丈夫!? まだ痛む!?」

 

「大丈夫だよ、染みただけ...」

 

負け犬のようにこそこそ去っていった彼女達。それを見ながら、何故かバックの中に常備してあるらしい救急箱を広げて、せっせと詩乃ちゃんは手当てをしてくれていた。

 

「...詩乃ちゃん上手いなぁ...」

 

「...ごめんね、晴君」

 

「え? 何が?」

 

「...私のせい、だよね。私が、あんな連中と一緒にいるから、晴君が...」

 

そう言って、ポロポロと涙を流す。

 

「今日、晴君の教室にいったら、晴君も、あの連中もいなくて...もしかしたらって思って...急いで来たんだ...ごめんね、晴君」

 

「いや、詩乃ちゃんのせいじゃ...」

 

「私のせいなの!! 私が、私なんかが、晴君と仲良くしちゃったから...晴君が...」

 

詩乃ちゃんは、涙を流しながら、僕に抱きつく。

 

「...だから、お別れを言いに来たの」

 

「...え?」

 

「だって、私と一緒にいたら、また晴君が酷い目に遭う。そんなのは嫌なの...本当は、お別れなんてしたくない。もっと、ずっと一緒にいたい。だけど、それじゃまた晴君に迷惑がかかっちゃう...だから」

 

 

「...詩乃ちゃん、ちょっと、僕の話聞いてくれないかな?」

 

「...?」

 

「...今日さ、一緒にハート完成させた時、詩乃ちゃん凄く可愛かったんだ」

 

「...ぴっ!?」

 

ぴっ!? ってなんだ。

 

「それだけじゃない。いつも、詩乃ちゃんは可愛い。僕に優しくしてくれて、僕がつまんない事言っても笑ってくれて、僕が失敗しちゃっても励ましてくれて...僕と一緒にいると、本当に楽しそうにしてくれて、嬉しかったんだよ」

 

彼女の笑顔が、どんなに僕の救いだったか。

 

「詩乃ちゃんの笑顔を見る度に、僕は...どんどん詩乃ちゃんを好きになった」

 

「...ひゃう!?!?」

 

「...だから、詩乃ちゃんとお別れしちゃったら...僕嫌だなぁ。寂しいなぁ」

 

「で、でも!!」

 

「お別れなんてしたくないよ。僕は、詩乃ちゃんとお付き合いしたい」

 

「...ぴぃぃっ!?」

 

可愛い。

 

「僕、もっと強くなるから。あんな奴らに負けないように、強くなるから。だから、僕とお別れしないで?」

 

「...い、良いの...? 本当に...?」

 

「うん」

 

「わ、私こんなだし...不良だし...あんな友達しかいないし...バイトばっかりだからあんまり時間ないし...」

 

「それでいいよ。...そう言えば、何でバイトばっかりしてんの?」

 

「...その...大学生になった時、晴君と、一緒に暮らすためのお金を...」

 

先読み早すぎない!?

 

「あと、結婚資金とか、子育て資金とか...色々、あるから」

 

「そ、そこまで考えてたのに、お別れしようなんて言ったの...?」

 

「晴君に迷惑かけちゃったら、意味ないし...」

 

彼女は、金髪の枝毛をくりくりと弄り、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

 

どこまでも健気で、優しくて、可愛くて、僕の事を考えてくれる、不良な彼女。

 

そんな彼女に惹かれるのは、当然だろう。

 

「それでも、良いの...?」

 

「うん。大好きだよ、詩乃ちゃん」

 

大好きになるのなんて、当たり前。

 

「...私も、大好きだよ...」

 

「...ていうか、ここまで来るのに随分時間かかったねぇ」

 

「だ、だって...私不良だし、卒業まで我慢しようって思って...」

 

「...何で卒業まで?」

 

「...高校、中退したくないし...」

 

「...え?」

 

「...もう、鈍感」

 

そう言って、頬を膨らました彼女は、僕をマットの上に押し倒す。

 

「え、あの、詩乃ちゃん!?」

 

「初めてはベッドが良かったけど...良いよね?」

 

「何がいいのさ!?」

 

「えへへぇ、大好きだよ...晴君...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たでーまー」

 

「あ。あなた、お帰りなさい」

 

「パーパー!! お帰りー!!」

 

「おおう、息子よ元気で何よりだぁ!」

 

「ねぇねぇ!! 今日ね今日ね!! ママがこれ買ってくれたの!!」

 

「おおー、良かったなー。後でパパにもやらせてくれよ?」

 

「うん!! 一緒にやろ!!」

 

「ええー、ママも混ぜてよー」

 

「当たり前だろ? 家族一緒だ」

 

「ママ出来るかなー?」

 

「何おう? 言ったなぁー!?」

 

 

 

あるところの、あるマンション。そこにいる冴えないパパと、金髪のママ。そして、元気一杯の男の子の笑い声は、幸せそうに、楽しそうに、今日も響き渡る。

 

 

 

 




不良感あんまり出せなかったなぁ。見返すと顔から火出そう。

...よくこんな恥ずかしいの書けるな私...。

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