あの日、あの時、あの人の短編集   作:鈴木シマエナガ

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オンライン授業が始まる前の短い間で小説書こうのコーナー。


ある朝、コーヒーを一杯

めっちゃ早く起きた。今までの自分では考えられないくらいめっちゃくちゃ早く。

まぁ、昨日は酒をひっかけすぎて頭はがんがんと痛いが。

痛む頭を押さえながらスマホを見る。なんと朝の6時だ。健康的だね! 目覚めはいい。体はだるくないし、目だってはっきりと開いている。ただ本当に頭が痛い。割れそうだ。この痛みを取り除けさえすれば最高の朝に違いない。小鳥だってチュンチョン鳴いている。だが、この二日酔いのせいで俺のテンションはがっくり下がっていた。

 

ゆらゆらと左右に揺れながらベッドから起き上がる。こうしているほうが幾分楽だ。自分から揺れる事でふらふらしている平衡感覚を騙しているかのよう。ドアを開け壁に頭を打ち付けそうになりながらもなんとか台所に辿り着き、うがいをする。冷たい水が体に心地よい。そのまま水を一杯飲む。

乾ききった身体に染み込んでいくようだ。そりゃ砂漠で遭難した人間が蜃気楼でオアシスを見るはずだ。都会のアパートの一室に住んでいる人間がこうなんだから。

 

少し頭痛が落ち着く。がんがんからじんじんに変わった感じ。そんな変わって無くない?

朝飯にはまだ早いか。今食べたら中途半端な時間におなか減りそう。どうしようかなと冷蔵庫を覗く。牛乳...いや、いいものがあるじゃんか、うちには。

 

「...コーヒー飲むか」

 

いつの日か、忘れてしまった朝の日課だ。

 

 

 

 

お湯をポットで沸かしながら、コーヒーミルで挽く豆を選ぶ。コーヒーは豆の種類が豊富だ。豊富すぎてどれを選べばいいか分からない程に。コクや香り、苦みや酸味も全く違う。他にもラテにしたら美味しいやつとかもある。それはもう個人の好みだ。

俺は数ある、香ばしい薫りを放つ袋から一つを選ぶ。名前はマンデリン。

 

マンデリンは豆の中でも酸味が控えめなのが特徴だ。コーヒーだと苦みが苦手だと言う人が多いと思うが、実はこの酸味が苦手なんじゃないかと思う。コーヒー独特の、口をすぼめたくなるようなあの感じ、あれは実際のところ酸味だ。あれが控えめのこのマンデリンは、コーヒーの魅力、コクを最大限に楽しめる豆だ。ぜひおすすめしたい。

豆を一人分すくい、コーヒーミルに流し込む。さらさらと金属と豆の擦りあう音が聞こえる。懐かしい。そのまま取っ手をつかみ、時計回りに回していく。ごりごりと豆が粉々に砕かれていく。さっきまでとは一風変わった、豆の中身の匂いが部屋に充満していく。鼻孔をくすぐり、肺へとその香りで満たされていく。良い匂いだ。

 

 

豆を挽き終え、ポッドにフィルターを敷く。そこへ粉々になった豆を入れる。ようやっと沸かしておいたお湯の出番だ。

のの字のように回しながらお湯を注いでいく。ここで、一番良い香りが部屋を満たしていくのだ。街中の喫茶店のような、もしくはどこからかただよってきた、俺のようにコーヒーを注いでいる人のような、そんなコーヒーの匂いだ。

ぽたぽたとポッドの底へ零れ落ちるコーヒーの水滴をぼけーっと眺める。この時間は、まるでポッドだけ時間が進んでいるかのようだ。他の音は何も聞こえず、ただただ、水音だけが部屋に響く。それを、微動だにせず眺めている。

最後の一滴が滴り落ちるのを見届けるとマグカップに注ぎ始める。何だかんだここまで書いてきてるが、コーヒーを淹れる時はいつだっていい匂いがするものだった。今一番いい香りしてるわって思いながら全行程を行っている。良い匂い過ぎるわ。あかんて。

 

カップに注ぎ終わり、湯気と共にその香りを一気に吸い込む。あー、濃厚。濃厚だわ。今までで一番良い匂いしてるわこれ。

香りを十二分に嗅ぎ終わったら、遂に口をつける。ずずずーっと口に含み、喉へと流し込む。コクの深い味。かといって口をきゅーっと引き結んでしまうような酸味は無く、ただただ深みのある苦みとコクが口内を支配している。

 

 

 

「...うっっっまぁぁぁ...」

 

それしか感想が出てこない。脳内であんだけ考えてたのに、口に出てくるのは頭の悪い平凡な感想のみ。しょうがない、これを話す相手がいないのだもの。

 

そうしているうちに、カーテンから朝日が零れている。小鳥のさえずりもいつの間にか聞こえない。人の営みが始まろうとすると、鳥というのは逃げていくのだろうか。

そんな秘密の伴奏を聴けたのだと思うと、たまの早起きも悪くない。そう考えながら、最後の一滴を飲み干していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コーヒー美味しいよ。

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