てか年も越してんじゃねぇか。あけましておめでとうございます。
今日も寒いまま終わるのかと思った。今日も、売れ残っちゃうのかと思った。
幼い私を雇ってくれる所はどこにもなくて、貰えるお金も少なくて、誰も買ってくれないマッチ売り。道行く人々は誰も私に見向きもしなくて。...このまま、消えていくのかと思ってしまうくらい。
だけど、あの人は気づいてくれた。寒さで震えて、か細い私の声を。
その手に持った温かいスープを渡して、大きな手で帽子を被せてくれた。被せてくれた帽子も温かくて、私の小さな頭じゃとてもぶかぶか。それを深く被って、まだ温かいスープに口をつける。美味しい。こんな美味しいの、初めて食べた。ホクホクのじゃがいもも、分厚いベーコンも、ぴりっと辛い胡椒も。何もかも。
あの人がくれたマッチでつけた小枝の火に手を近づける。...今日はとても温かい。雪がこんなに降っているのに、なんで。
心臓が、とても温かい。頬は、とても熱い。
「...また、来てくれるかな」
薄い薄い毛布にくるまって、小さな小屋の窓から見える景色を見る。あの人も、同じ雪を見ているのかな...。
いつもなら、全然眠れなかった夜は。何故かぐっすりと眠ることが出来た。
「...これと、これを下さい」
「はいよ。随分小さいが、妹さんのかい?」
「え? あぁ...まぁそんなところです」
「はっはっは。良いお兄さんじゃねぇか。安くしといてやるよ」
「! ありがとうございます」
硬貨をおじさんに渡しながら、毛布と手袋を受けとる。ここは街の商店街。食料から衣類まで結構色々な店が揃っている。僕は、冬物を売ってくれている店で小さな毛布と手袋を買っていた。
何だ、何してんだ僕は。こんな...あまり値段はしないけども。でも、無駄遣いしている場合じゃ...いや。前から、そういう人達はよく目にしていた。
時代が急激に変わった近代。蒸気機関なんてものも開発され、街には大きな工場が建て並ぶ。綿工場からの素材で作られたこの毛布も手袋も、手作りよりも精巧で精密であり、そして。手作りならではの温かさと拙さが消えてしまったと思うと少し悲しい。
そして、その時代について行くことが出来なかった人、そして置いていかれてしまった人達が沢山いる。昨日の女の子だって、道端に倒れこんでいる老人だって、何もかもが、この場に留まっている。時代の波が、勢いが、あらゆる物を置いてけぼりにした気がする。
なら、僕に出来る事は、何なのだろう。
「...あ。お兄さん」
そんな事を考えていたら、昨日のか細い声が聞こえた。
少し震えていて、ぼろぼろの衣は変わらないのに、笑顔な少女。今日も籠に沢山のマッチをいれて彼女は佇んでいた。
「やぁお嬢さん。今日はちゃんと買いにきたよ」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!!」
少女は心底嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。その姿はちゃんと年相応の少女の姿で、少し安心した。
「それと、今日は届け物もね」
「え? 届け物?」
鞄の中から、先程買った毛布と手袋を取り出す。
「ほら、君への届け物だ」
「...はえ?」
目をぱちくりさせて、僕の手を見る。なんだその反応は。笑っちゃうじゃないか。
「だから、君にだよ。そんなのじゃ寒いだろ? これを着て、ね?」
籠を地面に置かせて、毛布を羽織らせ、小さくてとても冷たい手に手袋をはめる。
「...あったかい...」
「そうだろう? 頑張ってる君へのプレゼントだ」
「...お兄さん、何で...何で、私にここまで...」
目尻に涙をため、僕の顔を見る。
何で、と言われると困ってしまう。特に理由はない。偶然、君の声が聞こえて、マッチを買っただけだ。このプレゼントはただの気まぐれ。
でも、少し違和感が残る。僕は、人に関わるのがあまり好きではない。人と話すのは得意じゃないし、接するのは極力避けてきた。だけど、目の前の少女は違う。可哀想だったから? 同情したのか、僕は。なら他の人でも良かっただろう。
なら、何で、この少女に。
「...お兄さんはね、夢があるんだ」
「夢、ですか?」
「うん。君みたいな子達が、笑っていられるような場所を作りたい。君へのプレゼントは、その第一歩さ」
僕には、叶えたい夢が、あったのだ。
施しの青年と、マッチ売りの少女。
普通だったら犯罪ですね。