私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

8 / 37
狐の日々

「おうおう、猫よ。聞いておくれ」

「どうしたの~、霧絵ちゃん」

 

私の親友を紹介しよう。

私、更識楯無のクラスメイトであり親友の狐村霧絵は、かなりの変わり者だ。

古めかしい喋り方に振る舞いで、妙な拘りとネーミングセンスを持つ。成績も学園上位に入り、IS の操縦技術は学園生徒最強と謳われる私でさえ、本気では戦いたくないと思わせる程だ。

彼女はかなり慕われている。同級生からは、霧絵稲荷や狐村稲荷、変わったところでは霧絵御前なんて呼ばれたりしている。それも、彼女が持つのらりくらりとした態度と浮世離れした雰囲気が、そうさせているのだろう。

 

「私の教え子が、鬼になってしもうたのだえ」

「鬼? 一夏君が?」

「そうぞえ、おぉ、何ということよ……」

 

ヨヨヨと袖で顔を隠しながら、嘘泣きで泣き崩れる彼女を尻目に私は、苦笑するしかなかった。彼女は何と言うか、教え子と呼ぶ織斑一夏君に甘い。厳しいところは確りと厳しいのだが、変なところで甘いのだ。その上、人をからかうのが大好きで、特に教え子の彼をからかう事が大好きだ。

今回も、彼女が彼をからかって度が過ぎたので、怒られでもしたのだろう。彼女も懲りないものだ。

 

「はいはい、霧絵ちゃん。嘘泣きは良いから、何があったの?」

「コココ、バレてしもうたか」

「バレバレよ、お狐様?」

「ココ、猫もやりよる」

「で、何があったの?一夏君が鬼になったとか、霧絵ちゃん何したの?」

「ひどいのぅ、何も無しに私を疑うのかえ?」

 

狐が何を今更

 

「まあ良い、これも狐の定めよ。猫よ、教え子が鬼になっただえ」

「うん、それは聞いたわ」

「コココ、そうだったのぅ。猫よ、教え子がひどいのだえ、私が楽しみにしていた水を、勝手に返しよったのだ」

 

水、これが彼女の妙な拘りだ。彼女は水に妙に拘る、~の天然水だとか、~山脈の湧水とか、何故にここまで水に拘るのか、一度聞いてみたが煙に巻かれて分からず仕舞いだ。

水の何が彼女をここまで駆り立てるのか、それは分からない。だが、これだけは言える。

 

「霧絵ちゃん、それは貴女が悪い」

「ほっ!?」

「霧絵ちゃん、貴女が一月に水に使うお金を、この紙に書いてみて」

「? 変な猫よの」

 

霧絵ちゃんが紙に書いた数字、それは

 

「霧絵ちゃん、これは流石に弁護出来ないわー」

「何故ぞえ?」

「この額は無いわー、引くわー」

「どこか、おかしいかや?」

 

だって、これは引くわー。幾らなんでも高校生、それも花の女子高生が使う金額じゃないもん。

 

「霧絵ちゃん、これは無理だわー」

「そこを頼むぞえ、これでは教え子が真の鬼になってしまう」

「無理だわー、私は一夏君に味方するわー」

「おぉ……、何ということよ、猫まで鬼になってしもうた……」

 

ヨヨヨと袖で顔を隠しながらまた泣き崩れる、勿論嘘泣きで。

水に拘り人をからかい人を化かし、何よりも教え子を愛する化け狐と呼ばれる変わり者、それが更識楯無の親友、狐村霧絵だ。

 

「ヨヨヨ、鬼よ、お主は鬼猫よ」

「誰が鬼猫よ!化け狐が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏は悩んでいた。頭を抱え首を傾げ眉間に皺を寄せ、織斑一夏は悩んでいた。

師である狐村霧絵の拘りによる浪費、我が儘、からかい、それらも悩みの種だがそれらよりも彼の頭を悩ませる事柄が、頭に胸に渦巻いていた。

 

「あれ~? おりむーだ~」

「ホントだ、織斑君だ」

「狐村稲荷様と一緒じゃないなんて、珍しい」

「あれ?皆、どうしたんだ?」

 

悩む少年の前に現れたのは、布仏本音、鷹月静寐、相川清香の仲良し三人組であった。

 

「なあ、相川さん。俺、そんなに師匠と一緒にいるかな?」

「……気付いてないの?」

「ねえ、本音」

「おりむー、重症だ~」

 

少年の発言に驚愕を隠せない三人、それに対する少年はとんと検討がつかぬといった表情。

 

「え? 重症? どゆこと」

「良いかい、織斑君。君は、学園で子狐で通っているんだよ?」

「子狐? ダリル先輩か!」

「そうそう」

「あの人は、まったく」

「良いじゃない、子狐。可愛くて」

「鷹月さん、男は可愛いと言われても、嬉しくないんだ」

「おりむーは、カワイーね~」

「やめて! のほほんさん、頭を撫でないで!」

 

謎生物着ぐるみ娘に頭を撫でられ悶える少年、もとい、子狐。

 

「はいはい、本音もそこまで」

「それで、織斑君は何を悩んでたの?」

「あ、ああ、相川さん。実は、師匠の事なんだ」

「霧絵御前の事?」

 

少年は三人に胸の内に渦巻くものを伝える。

それを聞いた三人は、互いに顔を見合せ円陣を組む。

 

(ねえ、これって)

(まさか)

(おりむー、重症だ~!)

 

小声で話す三人に、更に首を傾げる少年。その顔は疑問の一色に染まっていた。

この場に狐が居れば、迷い無くからかいに行くであろう顔であった。

 

「なあ、皆。どうしたんだ?」

「ねえ、織斑君」

「私達の質問に」

「ちゃんと答えてね~」

「お、おう」

 

 

狐村稲荷様と居ると?

「何て言うか、温かい気持ち?になるかな」

 

霧絵御前と話すと?

「幸せな気分、かな? 少し違う気もするけど」

 

狐村稲荷様と笑っていると?

「純粋に嬉しい」

 

もしかして、一日の大半は一緒?

「うん、そうだな」

 

霧絵御前の側に居たい?

「うん」

 

 

「織斑君」

「な、なんでしょう?」

「君の悩みは、私達には解決出来ない」

「キリリン先輩の元へ、今すぐゴー!」

「え? え?」

「「「良いから! 行け(~)!」」」

「い、イエッサー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て言う事があったんですよ」

「コココ、そうかえそうかえ。コココ」

 

ほんに愛しく可愛らしい子らよ、私の出来の悪い教え子の為に気を効かせてくれるとはの。

 

「それで師匠、これって?」

「それを私に説明させるかえ?ココ、女心が分からぬ教え子ぞえ」

「えぇ~」

 

まったく、女心が分からぬとは。まだ巣立ちは先かのぅ?

コココ、女心まで教えねばならぬとは、手の掛かる子ぞえ。

 

「教え子よ、ちと近う寄るが良い」

「は、はあ?」

 

ふむり、私の言葉に疑いもなく寄って来よった。誠に可愛らしい愛しい教え子ぞ。

 

「ほぉれ、二回目の狐のクッション」

「うむっふ?! し、師匠、ち、ちょっ!」

「コココ、丁度良くベッドに居るしの。慣れぬ考え事で疲れたであろう?師に抱かれて休むが良いぞ?」

「ね、寝れる訳が無いでしょう!」

 

ふむん? 教え子は狐のクッションは不満かえ?確かに、猫よりはちと小さいが、中々良いと自負しているのだがのぅ。

 

「ふむり、教え子は狼のクッションの方が好みかえ?」

「そ、そうじゃ、なくてですね!」

 

ふむーり、コココ、遊びは止めるかの。ふむりふむり、教え子の髪の感触は良いのぅ。サラリサラリと、指を抜けよる。

 

「師匠?」

「……教え子よ、今少しこのままで居させておくれ・・・」

「はあ? 構いませんけど、離してくださいよ?」

「コココ」

 

ほんに愛しい教え子よ、出来悪く要領も悪い。然れど、諦める事を知らぬ、前に進むしか出来ぬ、誠に不器用な子ぞえ。

 

「教え子よ」

「はい、師匠」

「……コココ、何でも無いぞえ」

「えぇ~、何スかそれ?」

 

誠に、誠に愛しい愛しい出来の悪い教え子よ。兎の薬で延びた時間、有効に使わねば。

私の全ての技と『尾』、私の全てはこやつの為に、教え子の先の為にあるぞえ。

あぁ……、それでも、終わると分かっていても、それでも望んでしまう。

 

 

 

「私の愛しい愛しい出来の悪い教え子よ、出来ることなら、お主と同じ時間を生きていきたいものぞ?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。