私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

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活動報告にも投稿していますが、前回の前書きにて書いた作品の削除又は凍結に関しましては、概ね問題は無いとの事ですので、当作品は完結させます。

皆様には、多大なるご迷惑とご心配をお掛け致しました。大変申し訳ございません。

又、オリ主の機体に関しては完結後に修正させていただきます。


狐と時間

「コココ、教え子よ。私はここぞ?」

「くっそ!」

「おうおう、師を待たせるとは、出来の悪い教え子よのぅ」

「え?あ、次はそっちか!」

 

白の剣士が空を疾り、狐を追う。だが、狐の姿は千変万化、白の剣士の追走を嘲笑うかのように、ヒラリヒラリと木葉の如くその剣を避けていく。

 

「そっこだあぁぁっ!」

「惜しいのぅ、こっちぞえ。いや、こっちかえ?」

「なんのぉぉぉ!」

「ほう!」

 

剣士を惑わす狐の化かし、それは狐を十重二十重に重ね、剣士を囲む。

しかし、剣士は知っている。己に狐の化かしを見破る事は出来ぬという事を、ならば、己がすることはただ一つ。

己を囲む狐の群れを、その剣にて露にする。それしか知らぬ、それしか出来ぬ。それを以て、己の道を切り開く。

その為に鍛え叩き直した剣、目を剥き振るう先は狐の喉元、己が師に届けとその剣を振るう。

 

「ほぅれ、狐のクッションぞえ」

「ほんむっふ!?」

「柔いかえ?コココ」

「ぶはっ!師匠!」

「油断大敵ぞ?」

 

己に飛び込んできた剣士の顔を、胸を反らし受け止める狐。剣士は何が起こったか分からず停止する、よりによって狐の尾が届く距離で。

 

「三尾が行くぞ、四尾が行くぞ」

「しまっ!」

「三尾が喰らうは白の剣ぞ、四尾が砕くは剣士の羽よ。さあさあ、剣士は狐に届くかえ?」

「まだ、まだあぁぁっ!」

「コココ、良い良い」

 

狐が笑い、剣士が叫ぶ。既に剣は呑み喰われ、羽は打ち砕かれ、剣士は地に伏すのみ。しかして、剣士に諦めは無く、片翼を以て狐へと食らいつく。

 

「コココ、ほんに良き目よの」

「はああぁぁっ!」

「剣士の剣は狐に届くか、地に伏すか。コココ、誠に良いぞえ」

 

剣士が翔び、狐が舞う。先に届くは狐の四尾、打ち砕きの尾。呑み喰らいの三尾は剣士を捕らえる。

勝負は狐の勝ち、剣士の負け。

 

 

 

 

 

「コココ、やるようになったものぞえ。教え子よ」

「あぁ~、今日はいけると思ったのにー!」

「狐の喉元は遠いぞえ?」

 

ココ、やるようになったものよ。私の化かしを見破るとは、感心感心、コココ

それでも遠い狐の喉元、届く時は巣立ちの時かえ?

寂しいものよ、今のこの時間も残り僅かぞえ?

出来る事なら、教え子を一人にしたくはないのぅ。

 

「よーう、子狐!やるようになったじゃねぇか!」

「ダリル先輩!何スか、子狐って?!」

「霧絵稲荷の後に付いて回るから、子狐ッスよ」

「フォルテ先輩まで!」

「一夏君が子狐?ぷふっ!」

「更識先輩?!」

「子狐一夏、夏はこのネタでいける?」

「簪さぁん!?」

 

おぉ……、おぉぉ……、そうかそうか、教え子よ。お主はもう一人ではなかったのぅ。

猫と子猫がいて、猟犬と雪娘がいる。おうおう、狼もおるのぅ、コココ、誠に幸せ者よ。

教え子の笑顔のなんと愛しいものよ。コココ

 

「あれ、師匠。何処へ?」 

「ココ、私はちと、所用があるでな。先に失礼するぞえ?」

「お疲れ様です!師匠」

「コココ、ゆるりと休むが良いぞ、教え子よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……! は、く……!」

 

早い、のぅ。今暫くは保つと思っておったが、見立てを誤ったかえ?

まさか、三尾と四尾でこれ程にクルとはの。あぁ、頼むぞえ、私の体よ。今暫く、今暫くで良いのだ保っておくれ。後少しで、教え子の巣立ちの時ぞ。

師が教え子の巣立ちに立ち会わず、先に立つなどあってはならぬ事ぞ。

 

「は、ぁ……か…くぁ……!」

 

まだ、まだあやつに、私の技を全て教えてはおらぬのだ。自慢の『尾』も全て見せておらぬのだ。

あやつへの餞別ぞ、後であやつが困らぬ様に全てを教えておかねば、出来の悪い教え子の事よ。きっと、困ってしまう。私はあやつの困り顔を見たくは無いのだえ。

だから……

 

「きーちゃん!」

「う、さぎ…、かえ……?」

「喋るのは後!早くこれを飲んで!」

「こ……れ、は……?」

「良いから早く!」

 

ココ、まったくにせっかちな兎ぞえ。しかし、これは

 

「不味い……のぅ」

「味はいいから、どう?」

「ココ、ほんに、不思議な、兎よ。少しは、楽、ぞえ」

「良かった……」

 

しかし、誠に不思議な兎よ。如何様にして私の居場所が分かったのだえ?

それにこの薬、飲んだ途端に体の痛みと脱力感が無くなりおった。不思議も程々にせぬといかんぞ?

 

「この薬は、きーちゃんの時間を『先延ばして誤魔化す』為の薬だから」

「治す事は出来ぬ、かえ?」

「ごめん……」

「良い良い、分かっておった事ぞ?こうなる事は」

 

まったく、この兎は何処で如何様にして私の体の事を知ったのやら、問わねばなるまい。

 

「兎よ、お主はどうやって」

「私が『天災』で『幸せ兎』だからだよ」

「答えになっておらぬぞえ、兎」

 

私の体の事は、あの忌々しい『神』とやらしか知らぬ筈、なのに何故それを、お主が知っておる。

答えよ、兎。

 

「ごめんね……、きーちゃん、絶対に何とかするから」

「待ちや、兎!」

 

ぬぅ、まだ動けぬか……!

 

「まだ、動いちゃダメだよ。薬の予備は機体のバススロットに入れてあるから、戦う前に飲んでね」

「兎……!」

「きーちゃん、いっくん達の事よろしくね」

「兎!」

「バイバイ」

 

消えよったか・・・兎め、小癪な真似を。

お主のせいで、折角肚に決めた覚悟が揺らいでしまうではないか。

狐の覚悟は固いとは言え、希望があればすがるのが狐というものぞ?

これでは……

 

「これでは、教え子と共に生きていたく、なってしまうではないか」

 

時が過ぎた後も、教え子の側で、あの笑顔を見ていたい、あの声を聞いていたい、あの手に触れていたい、そう思ってしまうではないか。

 

「誠に小癪な兎よ、狐を化かすとは」

 

だが、兎の薬で時間が延びたならば、教え子に全てを教えてやれるぞえ。

コココ、そう考えるならば悪くはないのぅ。

そう時間は残っておらぬ、終わりの時はすぐそこぞ?

ならせめて、最期の最期のその時は、教え子に看取って欲しいものぞえ。

 

 

「私の愛しい愛しい出来の悪い教え子よ、私はお主の笑顔が好きぞ?だから、狐の最期のその時は、どうか笑っておくれ」

 




次回は少しシリアスから離れて、束の間の日常を

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