この事に関しまして、もし不快に思われる方がいらっしゃいましたら、当作品を凍結若しくは削除いたします。
この度は多大なるご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありません。
最近、訓練が厳しい。いや、前々から厳しかったけど、最近の厳しさは以前と比べても、かなりのものだ。
厳しくなった理由は、簡単に言えば先生が増えたからだろう。師匠に加えて、更識先輩に簪、ダリル先輩とフォルテ先輩のイージスコンビという、かなり豪華な面々に時折、千冬姉まで訓練を見てくれる。
はっきり言って、俺は恵まれていると思う。世界最強に現国家代表、将来を有望されている代表候補生、そして師匠。俺なんかには、勿体無い破格の待遇だ。
この特別とも言って良い待遇だ、当然の事ながら僻みも少なからずあった。だけど・・・
「コココ、己から上を目指さずに他人に引き上げられるのを待っているだけの連中は、気楽で良いのぅ」
「自分から頼みに来た後輩だぜ?オレ達先輩が面倒見なくて、どうするんだって話だ」
「ダルイッスけど、それが先達の務めッスよね」
「僻んでいる暇があるなら、自分を磨け。三年などあっという間に過ぎるぞ」
「そういうことよね、上に行きたいならまずは自分から、ね」
「待ってるだけじゃ、絶対に、無理」
という、先生陣の含蓄ある言葉に大体の僻みは消えた。
それでも、完全に無くなった訳じゃないけど、あからさまなものは無くなった。
むしろ、一緒に訓練をする人数が増えた。のほほんさんと鷹月さんに相川さんの仲良しトリオ、四十院さんと谷本さん達おっとり組、他のクラスの子や二年三年の先輩達まで来たりしている。
変わらないのは、井村を始めとした専用機組だ。今も変わらず、訓練のくの字もしていない。専用機組が井村を追い回し、井村が専用機組から逃げ回る毎日、それに追従して起こる騒動に皆辟易している。
この間、訓練から帰る途中で井村が突っ掛かってきた。
主人公は俺だとか、脇役は引っ込んでろとか、意味の分からない事を叫んでいたが、あれはいったい何だったんだ?
俺は俺の為に鍛えてるんだ、俺はお前達なんかどうでもいい、だからもう関わるな。
こう言ったら、あいつは目を見開いて固まった。初めて会った時から意味が分からない奴だったが、ここまで来ると意味が分からないを通り越して気味が悪い。
師匠達の言う通りにしよう。こういう奴等とは関わらない、それが一番だ。
それより、早く帰って夕飯の準備をしないと、師匠はあまり待たせると機嫌が悪くなって、何を要求してくるか分からない。
「今日は、鮭とキャベツを味噌ダレでホイル焼きにするか、その方が洗い物が少なくて済むし」
あ、でも、今日はダリル先輩とフォルテ先輩も来るんだった。食堂でホットプレート借りて、ちゃんちゃん焼きにした方が良いかな?
う~む、悩みどころだ。師匠は師匠で、鮭や鶏を使った料理なら何でも良い人だし、ダリル先輩とフォルテ先輩は魚が苦手だったっけ?
「して、如何かえ?教え子の料理の味は?」
「なんで、霧絵が偉そうなんだ?」
「霧絵稲荷ッスから」
「コココ、猟犬と違い雪娘はよく分かっておるようだえ」
コココ、教え子も腕を上げたものよ。焼くとパサつきがちな今時分の鮭を、こうも見事に焼き上げるとは。
後で、褒美をやらねばのぅ。
「私、魚って苦手なんスけど、これは平気ッスね」
「だな、何かあるな。これは」
「コココ、当ててみせよ。正当者には狐からの褒美があるぞえ」
当てれるものならのぅ。
「わかんね」
「右に同じ」
「ココ、少しは考えぬか」
こやつらの悪い癖よの、己が領分を越えると分かると、すぐに考えるのを辞めよる。
それでは、これから先はやっていけぬぞえ?
「正解は、ですね」
「生姜であろう?教え子よ。後は、ニンニクが少しよ」
「……師匠の正解です。下拵えでその二つを使いました」
「「おお~!」」
「コココ、教え子よ。腕を上げたのぅ、後で褒美をやろうぞ?」
「マジですか?!」
「狐は、教え子には嘘を吐かぬぞえ」
コココ、はしゃぎよるはしゃぎよる。誠に愛しい愛しい教え子よ。
『ココ、これでは出来が悪いなどと言えぬ、のぅ』
「え?師匠、今何て?」
「どうしたえ?教え子よ。私以外の狐に化かされると、容赦はせぬぞえ?」
「どうした、霧絵?珍しく焦ってんじゃねえか」
「霧絵稲荷が珍しいッスね」
「え?師匠、焦ってるんですか」
こやつら
「それ程に、狐の化かしが見たいのかえ?」
「「「マジ、勘弁!」」」
「コココ、私は物分かりの良い者が好きぞ?」
ほんに、可愛らしい者共よ。
師匠達と出会ってからは本当に楽しいと、心の底から思える。
以前は思えなかった事が、楽しいと思える様になったんだ。
師匠とずっと一緒に居たい。
無理かもしれないけど、本当にそう思える。
それが無理なら、この時間が少しでも長く少しでも温かく続いて欲しい。そう、思える様になったんだ。
「コココ、寝顔も愛しい教え子よ」
誠に愛しい教え子よ。最初は何故に私が別の世界で、この様な奴の面倒を見なくてはならぬのかと、憤慨しておったが。
何の事はない、蓋を開けて見れば何とも愛しい子よ。
『でも、きーちゃん……』
分かっておる分かっておるぞえ、兎よ。お主がどうやって、それを知ったのか。それは知らぬが、みなまで言うてくれるな。
分かっておるのだえ、私に時間が無い事ぐらい。
狐の時間が、神ごときに決められるとは腹立たしい限りよ。だが、せめて……
「せめて、教え子の巣立ち迄は」
愛しい教え子の巣立ち迄は、側に居りたいのぅ。
私にここまで想わせる教え子ぞ、餞別に何をくれてやろうか?
私の自慢の『尾』?化かしの技?それとも……
「この狐の心かえ?」
易々とはやれぬ狐の心、されど愛しい教え子には、くれてやっても惜しくはないのぅ。
「私の愛しい愛しい出来の悪い教え子よ、最期の時は狐の名を呼んでおくれ」