私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

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狐と狼と猫

「で?私の弟は、どうなんだ?狐村」

「コココ、誠に愛しいものぞ」

「そうじゃないと思うわよ、霧絵ちゃん」

 

生徒会室にて会談をするのは、世界最強のブリュンヒルデ織斑千冬、学園生徒最強の生徒会長更識楯無、学園に棲まう化け狐狐村霧絵、IS学園きっての才女三人がプロジェクターを前にして、話をしていた。

題材は霧絵の教え子、織斑一夏の成長についてだ。

 

「何、二年に上がるまでには、駄犬と取り巻きの狗畜生共など歯牙にもかけぬ程になるであろうよ」

「随分な自信だな、狐村」

「コココ、狼よ。教え子の師を誰と思うておる?」

「霧絵稲荷様よね~」

「ココ、ほんに賢い猫よの」

 

目を糸のように細め、喉奥で笑う狐に狼は白い目を向け、話を続ける。狼の睨みに猫は萎縮するが、狐は何処吹く風よと、笑みを崩さない。

 

「あいつらも、人並み以上にはやるぞ?まあ、人並み以上程度ではあるが」 

「狼にも成れぬ駄犬と、その駄犬以下の狗畜生共よ。駄犬の相手はまだ厳しいが、狗共は軽く食えるぞえ」

「まあ、あれを見たらそれも納得出来るけど」

 

三人を照らすプロジェクターには、実戦形式の訓練をする一夏の姿が映し出されていた。

その動きには無駄が無く、まるで研ぎ澄まされた刃の様であった。まあ、師が師である為かは分からないが、所々に妙な遊びがあるが、狐の教え子なのだ、それはご愛嬌だろう。

 

「要らぬ傷が付けられておったが、元より素材が良かったからの、あれぐらいには成れるぞえ?」

 

それでも、出来の悪い教え子ではあるがの。

基礎がガタガタであったのに、その上に要らぬものを載せ貼り付けをしておったのだ。要らぬ傷も付くと言うものよ。

 

「要らぬ傷、か」

「ココ、何をしても半端者。駄犬は所詮は駄犬ということよ。これ、猫よ。寝るでない、私は話に付き合うてくれる者が好きぞ?」

「んえっ!寝てない!寝てないわ?」

「せめて涎を隠さぬか、はしたない」

「はぁ、此処等で休憩にするか」

 

プロジェクターのスイッチを切り、部屋に明かりが灯る。カーテンを明け、窓から見える景色は黒一色に三日月が一つポツリと浮かんでいた。

 

「コココ、良い夜よの。月も笑うておるぞえ」

「虚ちゃ~ん、お茶淹れて~」

「はい、お嬢様」

「コーヒーをブラックで頼む」

「私はほうじ茶が好きぞ?」

 

従者が各々の注文を聞き、生徒会室備え付けのキッチンへと向かう。

 

「そう言えば、狐村」

「どうしたえ?狼」

「お前、弟に何を吹き込んだ?話す内容が殆んどお前に関する事なのだが?」

「コココ、誠に愛しい愛しい教え子よのぅ。愛らしいものよ」

「この間の休みなど、お前の好物を買い集めるのに必死だったぞ」

「誠に愛しいものよ、目に入れても痛くないとはこの事よ」

 

溜め息混じりの狼と目を細め笑う狐とうつらうつらと船を漕ぐ猫、三者三様の有り様をただ月だけが見ていた。

 

 

 

 

 

 

出来の悪い子程可愛いと言うが、先人は良い言葉を残したものよのぅ。正に、私の教え子の事そのままよ。

この間なぞ、先程まで出来ておった技が新しい技を教えたら出来なくなっておった。

誠に愛しい教え子よ、それでも諦めずに挑むのだから、ほんに愛しいのぅ。コココ

 

「霧絵ちゃん、これ霧絵ちゃんのインタビューなんだけど?」

「コココ、ただではやれぬよ、狐の話は」

 

『黛薫子』私と猫の共通の友人にして、耳の早い文屋見習いぞ。

こやつは中々に耳が早いからの、重宝しておるのよ。

 

「も~、これじゃぁ『学園の秘密に迫る!化け狐の正体や如何に?!』が完成しないじゃーん」

「ココ、仕方あるまい。人の教え子をからかった罰よ」

「そこをなんとか!霧絵稲荷様!」

 

コココ、餅の盛り合わせとは、分かっておるようだえ。良い良い、餅の分は話をしてやろうぞ。

 

「ほ、餅一つ一つ違う米を使うとは、やるのぅ。文屋」

「お褒めに預かり光栄です」

「コココ、餅の分は話をしてやろうぞえ」

「ははぁ~」

 

コココ、教え子をからかうのは師である私だけよの。

私と教え子の関係かえ?そのままよの、師と教え子そのままの関係ぞ?

納得いかぬかえ?ココ、確かに愛しい教え子よ。そうそう簡単にはやれぬは狐の心よ。

あやつも、中々に良き男よ。狐は自分の遊びに付き合うてくれる者が好きぞ?ココ

あれよの、あやつにも何時かは巣立ちの日が来ると思うと、ちと寂しくなるがの。

だが、まだまだ出来の悪い教え子よ。その日はまだ、遠かろうて。

コココ、教え子の成長を喜ばぬ師が何処に居ると言うのだえ?最近では、私の化かしも遊びではあるが見破るようになりよったわ。ほんに愛しい愛しい教え子よ。

巣立ちの日には、私の『尾』を幾つかくれてやっても良いかもしれんのぅ。

コココ、甘いとな?狐は子に甘いものぞえ、巣立ちまでは甲斐甲斐しく面倒を見るのだからの。

簡単にはやれぬが、私に入れた太刀の数は『尾』をくれてやっても良いかもしれんのぅ。

 

 

IS 学園新聞部総評

 

『霧絵稲荷様は、教え子に甘い。後、餅はこし餡が好きぞ?』

 

 

「簡単にはくれてやれぬよ、狐の心。欲しけりゃ、狐と踊って見せよ。九天の尾で迎えてやろうぞ」

 


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