私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

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や っ た ぜ !

全部、幸せ兎のせいなんだ……!


一夏と霧絵の秘密

己を抱きすくめる腕に包まれ、霧絵は脱力のままに、一夏に体を預ける。

 

「霧絵」

 

足を絡め、頬を擦り付け、腕の届く範囲をまさぐる様に撫でられ、強弱を付けて抱き締められる。

 

「霧絵、柔らかいね」

「一夏……」

 

先程までとは違う。脳に直接、圧倒的な快楽の熱量を流し込まれるのではなく、全身が柔く温く深い、快楽の沼に沈み込む。

背後から己をまさぐり、抱きすくめる力が、強くなり弱くなりを繰り返し、己の全身を包み込む生物に、ねぶられ咀嚼されているかのような錯覚に陥る。

その錯覚に、一瞬にも満たない瞬間、霧絵は恐怖を覚えたが、先程蕩かされた耳に首筋に、彼の熱い吐息と言葉が吹き掛けられ、脱力という安堵に沈んでいく。

 

「霧絵、小さくて可愛い」

「ん、これ、こそばゆいではないか」

 

彼の膝の上で、こそばゆさに身動ぎすると、腕が更に強く、しかし優しく、彼女を抱き締める。

 

「霧絵、霧絵だ」

「そうぞえ。私だえ」

 

頬を擦り付け合い、髪が肌を擽る。

互いの温もりを交換する様に、肌と肌を擦り合わせ、二人はお互いの体温の沼に沈んでいく。

 

「もう、何処にも行かない?」

「行かぬよ。私はお主と共に生きて、お主の側で果てる」

「本当に?」

「ひゃふっ!」

 

手指ではなく、口で散々に嬲られた方の耳に、声と吐息が吹き掛けられる。

いまだに蹂躙の名残が残る耳は、吹き掛けられる吐息と熱を、抗い様の無い快楽に変換し、脳に直接流し込む。

ほんの一瞬、先程までの蹂躙劇とは違う。延々と快楽を流し込まれ続けるのではなく、ほんの一瞬で強い快楽を注入される。

じくじくと耳から脳へ、たっぷりと快楽が染み込んだ感覚器官は、ただの吐息で蕩けに蕩け、熱い熱を全身、特に腹部に巡らせていく。

 

「い、いい、一夏……、堪忍しておくれ……」

「なんで? 気持ちよくないの?」

「いや、そうでは……」

「なら、もっともっと気持ちよくしないと」

 

まるで、食虫植物に捕まった羽虫のように、一夏の両腕に絡み付かれ、霧絵は深く深くただ抵抗も出来ずに飲み込まれていく。

 

「一夏、まって、まっておくれ……」

「待たない」

 

絡み付く、まとわりつく、淡く溺れる。

寝間着がはだけ、白い肌が露になる。快楽の熱で湧き出した汗が滲み、肌を濡らす艶となり、集まった粒はなだらかな丸みに沿って滴り落ちていく。

なんの事は無い。こうして抱き合い、じゃれ合うのは学生の時にもしていた。なのに今、霧絵の肌身に絡む感覚は嘗ての穏やかな優しさは無く、何処までも淫靡でその身を蕩かす淫蕩な快感しか存在しない。

 

「ひ、あぁ……!」

「あれ? 霧絵、お腹気持ちいいの?」

 

一夏の手指が霧絵の腹、下腹部近くを揉む様に押すと、霧絵の口から熱の籠った喘ぎが溢れ出す。

慌てて口を塞ぎ、背後から己を抱きすくめる一夏の顔を窺うと、口の両端が妖しく上がった笑みを浮かべていた。

 

「そっか、霧絵はお腹が気持ちいいのか」

「待て! 待て待て、一夏……ひあ!」

「温かい……」

 

一夏の両の手指が霧絵の下腹部に触れ、押し込み戻し、揉み広げる。震える、熱を孕む肉が手指の動きに合わせて震える。

うねり震え、悶える。霧絵の中で、霧絵の肉が、彼女の意思から離れ、一夏の手指に蹂躙され、淫らな歓喜の声を挙げる。

 

「霧絵のお腹、温かいよ」

「一夏、一夏、これ、ダメ……! おかひく、私、おかひく、なる……!」

 

普段から想像の出来ない、余裕の無い霧絵を目の当たりにした一夏は、淫蕩な笑みを深くし、彼女の腹を更に弄んでいく。

 

「あ、ひあぁっ!」

「霧絵、ここ、なんだかクニクニしてるね」

「あ、ダメ……! ダメじゃ! そこは……っ!」

 

霧絵の制止も虚しく、一夏は下腹部に僅かに感じる(しこり)を、指先で転がす様に揉んでいく。

 

「か、ひっ……!」

 

声にならない。暴力的な快楽が、濁流の如く霧絵の体を駆け巡り、波濤(はとう)となって霧絵を揺さぶる。

押し寄せた快楽は、霧絵の意識を激しく揺さぶり、腰が一夏の指先の動きに合わせて、痙攣する様に震え、跳ね上がる。

 

「い、うぅ、ああぁぁ………」

 

熱が溜まっていく。グツグツと煮詰められた熱が、霧絵の下腹部に溜まっていく。

解放するに至らぬ熱は、そのままに沸き立ち続け、更に一夏の手指が新たな熱を注ぎ込んでいく。

 

「霧絵、顔真っ赤だよ。可愛いね」

 

はだけた寝間着は、最早その肌身を隠しておらず、白と紅が妖しく混じり合い、そこに汗を吸った寝間着が貼り付く。

水気を得た肌は、紅潮を更に淫らに感じさせ、一夏から無意識の歯止めを取り払っていった。

寝間着を押さえる帯と、局所を隠す下着のみが、今の霧絵の守りだが、今の一夏にとってそれは守りではなく、淫蕩な誘いでしかない。

 

「霧絵、やらしい顔してる」

「や、あぁ……!」

 

耳元で囁かれる言葉に、幼児の様な否定を示すも、抵抗には至らず、一夏は小瓶に残った酒を全て口に含むと、霧絵の顎を掴み、舌と共に彼女の口内へと流し込んだ。

再び、粘膜の塊と酒精に浸され犯される口内。二種類の熱に浮かされ溶かされ、霧絵の体から完全に力が抜け消えた。

口から、腹から、全身から、隈無く余すこと無く、霧絵の全てから快楽が染み込み流れ込む。

 

最早、堪える堪えないという次元を越えて、霧絵にはこれから注がれる快楽を、ただ受け入れ続けるという選択肢しか残されていない。

その事を実感し自覚し、霧絵は弛んだ。

 

「ふやぁぁ……」

 

くたくたに全身が一夏に沈み込んでいく。

酒精の熱がそれを更に加速させ、頭と腰に強い違和が走る。だが、霧絵にはそれに堪える力は残されていない。

その違和が走るままに腰を浮かせ、一夏の胸板に頭を擦り付ける。

 

「霧絵、これって……!?」

「え? あ、あああぁぁあ!」

 

一夏の疑問の声に、何か柔らかで分厚いものに押し上げられた腰に目をやる。草臥れた手で頭に触れる。そこには、もう有り得なくなった、霧絵の遥か過去が表れていた。

 

「見るな! 見るでない!」

「霧絵……」

 

見られた。見られてしまった。最愛の人に、己の正体を知られてしまった。

己が人ではなく、化生の類いであると、その失った筈の証を見られてしまった。

 

「一夏、私、私は………」

 

絶望が霧絵を飲み込んでいく。

嘗ては自慢だった、長く美しい毛並みの九本の尾も、形の良い尖った耳も、今の身となっては有り得ぬ忌避すべきもの。

何もかも、終わってしまったと、霧絵が一夏の腕をすり抜け、消え去ろうとした時、強く己を抱き止める力があった。

 

「霧絵、何処行くの?」

「い、一夏、私は………」

「霧絵、何処にも行かないって、言ったよね?」

 

その言葉だけで、一夏は去ろうとする霧絵を離すまいと、深く深く彼女を抱き込んだ。その身は、今も過去も纏めて抱いて、抱かれた霧絵は恐る恐る顔を上げる。

 

「一夏、私は……人では………」

「だからなに? 霧絵は霧絵だ。もしかして、霧絵。また、俺を一人にするの?」

「いち……っ!」

 

返答する唇を塞がれ、また一夏の舌に口内を蹂躙される。

絡み付き、舐められ、引かれ、押され、言葉を紡ぐ力が吸い出されていく。

 

「そんなの、絶対に許さない」

 

告げられた言葉に秘められた意思は固く、刃物の様な冷たさと鋭さを持っていた。

霧絵がその感覚に背筋を震わせると、一夏は霧絵の頭に表れた狐耳に頬を擦り寄せる。

柔らかな毛並みが心地好く、頬を擦る度に反応する動きが愛らしい。一夏はその愛らしい狐耳に、そっと息を吹き掛ける。

 

「ふや!」

「霧絵、霧絵が人だとか人じゃないとか、そんなのどうでもいい。霧絵は霧絵でしょ? 俺の、俺だけの霧絵だ」

「一夏、ちょっと待って………」

「可愛い、霧絵の耳、ふわふわで気持ちいい、尻尾もふかふかで柔らかい……」

「ああぁぁぁぁ……」

 

有りとあらゆる誉め言葉が、狐耳から脳へとゆっくりと、染み込ませるように流し込まれていく。

物質的な快楽に蕩けた霧絵は、次は精神的な快楽に漬け込まれていく。

耳を逸らそうにも、一夏の唇が耳に直接貼り付く様に、ゆっくりぼそぼそと、言葉の音一つ一つを転がす様に呟かれ、少し悶えるだけでまた違った快感が流し込まれる。

 

霧絵はもう逃げられない。そう、悟った。

己はここで、誰よりも何よりも愛しい男から、ふんだんに流し込まれる快楽に、漬け込まれ蕩け喰われる。

最早、跳ね上がる事も出来なくなり、小刻みに震える事が限界となった腰、そこから生えた九本の尾を、彼の腰や背に絡み付かせ、己の意思を伝えていく。

 

「霧絵、お仕置きだ。休めると思わないでね」

 

最後に飛び切りの、優しさと冷たさと淫靡さを含んだ言葉を注がれ、己の足が開かれた。

両の膝を山頂とした谷の間に、一夏が滑り込み、その切っ先が(ぬめ)る水源に当てられる。

 

「い、一夏、ほんの少し、ほんの少しだけぞ? や、優しくの?」

「ダーメ」

 

言って、彼の切っ先は一息に水源の水底まで届き、震える水源に馴染ませる様に、細かに動く。

跳ねる様に二つの山が閉じ、己に絡み付く尾が柔らかな毛並みを押し付け痙攣しているのが解る。

 

「あ、あ、あ、ひぃ……!」

「霧絵、いっぱいしてあげる。俺から離れるなんて、言えないくらいにね……」

 

痙攣する様に震える霧絵を、しっかりと腕の内に収め、一夏は霧絵の水源の最奥に突き立てた切っ先を、ゆっくりと突き込んでいった。

 

重なる姿は離れる事無く、月が降り陽が昇り、なおも離れる事は無かった。


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