私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

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IS11刊が発売されましたね。帯を見ましたが、相変わらずの急展開の様で安心?しました。
買った?

買ってないですよ。私が最近買ったのは電子パイポと〝狐のお嫁ちゃん〟という素敵作品です!
さあ、皆様も読むのです!

読まなかった人は、御狐様のエキノコックス神拳が炸裂しますよ!



霧絵と童

さてと、どうしたものか。

霧村夕狐もとい、狐村霧絵は考えていた。

誰にも言っていないが、狐村霧絵は人間ではない。

否、正確には人間ではなかったが正しい。

 

嘗ての昔、遠い遠い遥かな昔、狐村霧絵は狐村霧絵でも霧村夕狐でもなかった。一匹の大妖狐、人間を化かし喰らう化物であった。

永い永い時に在り、人間など途方に暮れる時の中に在り続け、最期は誰にも忘れ去られ消えた。

そんな自分が何故か、唾棄すべき神擬きに人間として生まれ変わらされた。

 

最初は憎み怒りの中に生きた。

何故、我を人に貶めた。

何故、我を人にした。

何故、我を死なせなかった。

 

どうにもならぬ怒りと憎み、嘗ての身であれば、神擬きなぞ一息に咬み殺しただろうが、今の脆弱な人の身ではそれすら叶わぬ。

狐村霧絵は憎みと怒りの中に生き、そしてあの時それらを捨て去った。

 

人の身で、愛すべき者が出来た。

それが全てだ。あの大江山の鬼は笑うだろうが、奴とて似た様なものだ。

人を愛し、愛した人に討たれた。ならば、自分もそうなるのだろう。事実、討たれた。

 

織斑一夏、それが大妖狐を討った人間の名だ。

鬼は人に討たれ、消えた。狐は人に討たれ、人として生きる。

 

しかし、どうしたものか。

狐村霧絵は考えた。

狐村霧絵は霧村夕狐と言う筆名で、物書きをして生計を立てている。織斑一夏は母校で教職に就きながら、日本の国家代表を務めている。

今の住まいは、霧絵の稼ぎで買い取ったものだ。

我ながら奮発したものだと感心もするが、それだけの稼ぎがあるという事で納得しよう。

正直な話、霧絵は一夏が働かなくても良いと考えていたりもする。それだけの稼ぎと蓄えもあり、国家代表の保証や霧絵の印税で、二人だけなら慎ましく暮らせば良い。

稼ぎが無くなればどうするか?

その時はその時だ。人間、生きていればどうとでもなる。

霧絵は一夏さえ居ればそれで良い。

 

さて、本題だ。

一夏が急な仕事で出てしまい暇になり、自分も先日入稿を済ませた。

テレビも録なものを流しておらず、煙草も飲む気になれぬ。然らば、外に出て煙管でも新調しようかと思ったが、家から出る気にもなれぬ。

ならば、庭いじりでもするかと、剪定鋏を手に盆栽へと向かえば、一つ鉢が割れている。

古い鉢だ。根に耐えきれず割れたかと思えば、そうではない。

 

「おやぁ? 悪戯小僧かえ」

「あ、あの、ごめんなさい!」

 

霧絵の細い目に見られ、謝ると同時に逃げ出す子供。

その慌てた様子に霧絵は笑みを深くし、走る子供に追い付かぬ程度に追って行く。

暇で仕方なく盆栽を弄りに来れば、良い暇潰しが居るではないか。

広い庭を走り追うが、いかんせん子供は小さくすばしっこい。霧絵が入れぬ隙間をするりとすり抜け、中々距離を詰められない。

このまま、庭をぐるぐる追い回しても良いが、流石にそれはまた退屈になる。

 

それは避けたい。何としても、退屈になる事は避けたい。

なので、霧絵は一気に足を踏み込み加速し、逃げる子供を抱き上げた。

 

「つーかまーえたー!」

「うわぁ!?」

「おうおう、愛いのう愛いのう。コココ」

 

抱え込み頭を撫で回す霧絵と、突然抱き上げられ訳も分からず頭を撫で回され目を回す子供。

目を弓にした笑みを浮かべた霧絵に頬擦りされたところで、子供は我に返り抵抗するが深く抱え込まれていて、脱出には至らない。

 

「あの、あの」

「うむうむ、謝れたのは良き事よの」

 

しかし

 

「逃げたのは減点ぞえ?」

「ご、ごめんなさい」

「良い良い。しかし、罰は与えぬと、のう?」

「え?」

 

懐から取り出した扇子を抱き上げた子供の頬にぐりぐりと押し付けた。

 

「どれ、罰は狐の暇潰しに付き合うてもらうとするかえ」

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「ただいま~っと、霧絵、帰ったよ~」

 

一夏が急な仕事から帰って来た。

本当に急な仕事だった。簪の設計した新型機のテスト相手を急に務める事になった。

本来のテスト相手が急病によりドタキャンした結果、国内のパイロットで唯一人動けて試験場の近くに住んでいた一夏に白羽の矢が立った。

 

「疲れた……」

 

流石の一夏も、あの簪が設計した新型機相手は疲れた。

安定した火力と装甲、容易な操作性に高い安定性と汎用性、〝第四世代を圧倒する第三世代〟と簪は謳っていたが、正しくその通りだった。

一夏の白式・九天は変則の近接型、遠距離攻撃の手段ははっきり言って乏しい。

しかし、あの新型機は遠距離と近距離を両立させる性能を持ち、しかもテストパイロットは簪ときた。

正直な話、第六回モンド・グロッソ決勝戦が始まったかと思った。

薙刀に狐火、尾も六尾まで使った。

 

「簪さん、大分鬱憤が溜まってたな、あれは」

 

研究と開発でスポンサー等とかなり争ったのだろう。一夏は自宅の廊下を歩きながら思う。

本音からも謝られた。篝火はばか笑いしてた。

第六回モンド・グロッソに出場すれば、今すぐ優勝出来るかもしれない。

まあ、させる気は無いが、あの簪ならもしもが有り得る。

 

モンド・グロッソは自分が現役である限りは優勝し続けるつもりだ。

あと何年現役を続けられるか解らないが、続けられる限りはジークフリートとして君臨し続ける。

 

「あぁ~、今日の夕飯はどうするか」

 

上着を脱ぎネクタイを緩め、霧絵が居るであろう居間に向かう。

最近暑くなってきた。何かそれらしいものでも、豆腐か?

蕎麦でも良い。

季節の天麩羅と冷したうどんも良いかもしれない。

とすれば、出前を取るか?

いや、何処かに食べに行くのも良いだろう。

 

「おや、一夏。帰ったかえ」

「ああ、霧絵。ただいま」

「やけに疲れておるのう」

「流石にね、簪さん相手は、ね」

 

疲れるよ。そう一夏が言おうとした時、居間で何か硬いものを落とす音が聞こえた。

 

「おうおう、そうであった。客が来ておるのだえ」

「お客?」

「お、お邪魔してます」

 

一夏が覗き込んだ居間にはけん玉を片手にこちらへ挨拶をしている子供が居た。




次回

霧絵と一夏と童

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