では、先ず最初にこの世界には織斑一夏は居なかった。
否、居なかったと言うのは語弊がある。
正確には、居たが死ぬ筈だった世界線というのが正しいだろう。
彼は、第二回モンド・グロッソにて誘拐され殺される。
そう言う世界線だった。
だがそれは、きちんとした決まり事ではなく、一人の神による遊びだった。
その神は、遊びであの世界線の織斑一夏を殺し、遊びであの世界線を終わらせるつもりだった。
よく言う、神の暇潰しというやつだ。
勿論、それを快く思わない神も居た。
その神は、遊びで殺される筈の織斑一夏を、原作通りに生存させ、一度は流れを元通りに戻した。
当然、遊び好きな神は激怒した。
何をしてくれているのかと、これでは自分の暇潰しが台無しではないかと激怒し、ある一つの事を思い付いた。
自分の手先となる者をあの世界に送れば良い。
そして、その神は自分が管理している世界から井村健吾を選び、転生させた。
だがしかし、ただ転生させたのでは暇潰しにならない。
だから、井村健吾で遊ぶ事にした。
特典を与え人格を歪め願望を『上書き』した。
その結果、井村健吾はあの様な有り様に成った。
だが、神はとあるミスを犯していた。
井村健吾の願望『誰かのヒーローになりたい』だ。
この願望を『書き換える』のではなく『上書き』した。
これが、神の犯したミスだ。
転生出来る人間の願望というのは強いものだ。例え、神に上書きされようとも、その願望は消える事は無い。
その為、上書きされた願望が剥離し、元からあったヒーローになりたいという願望が浮上した。
井村健吾の不幸は、上書きされた願望が剥離しただけで消えた訳ではないという事だろう。
その結果、『本来の井村健吾』と『歪められた井村健吾』が同時に存在する事になり、より強い方を元にした『壊れた井村健吾』となった。
壊れて狂って、自分本来の願望を追い求める人形となって、最期を迎えた。
ある意味では、自分の願望を叶えたと言えるだろう。
もう一人の神が狐村霧絵を転生させた理由は簡単だ。
手を加えられた井村健吾に対抗出来る手駒が、その神の手元には無かった。だが、転生する予定の無い大妖狐が自分の管理している世界で天命を迎えようとしていた。
神は焦っていた。このままでは、あの世界が狂ってしまう。
焦り、その大妖狐を力をそのままにあの世界の知識を与え、人間『狐村霧絵』として転生させた。
だが、それを井村の神に気取られてしまった。
そして、ある呪いを受けた。
『己の力を使えば使う程寿命が減る。
織斑一夏を殺せば、呪いは解ける。』
ちょっとした小技でも寿命は減る。大妖狐の象徴でもある尾を使えば、人間の寿命なぞ瞬く間に消えて無くなる。
それで死にたくなければ、織斑一夏を殺せ。
それが、狐村霧絵に掛けられた呪い。
そして、あの百足だ。
あの百足は、井村の神が暇潰しに魂を混ぜて作ったナニかである。井村健吾で、魂を弄る楽しさを覚えた神が、そこら辺に散らばっている魂を、矢鱈滅多に繋ぎ混ぜ合わせて作ったモノ。
井村が使い物にならなくなった為、盤上に放り込んだ。
井村の神の被害者達でもある。
そして、最後に篠ノ乃束
彼女は未来予知などしていない。彼女が先回りして潰した悲劇は全て、彼女が何度も見て経験してきたモノである。
彼女は何度も世界を繰返し見てきた。
自分の大切な人々の幸せを夢見て
そして、井村と百足の神を殺した。
彼女は、今も何処かで跳ねる。
活動報告に質問コーナーを御用意しました