私の愛しい愛しい出来の悪い教え子   作:ジト民逆脚屋

1 / 37
私の愛しい愛しい出来の悪い教え子

突然だが、私こと『狐村 霧絵』は転生者である。何が何だか分からぬが、死んだ筈の私は突如としてよく分からぬ場所に居て、あまり『納得のいかぬ理由』により、この世界、『インフィニット・ストラトス』通称『IS 』の世界に生まれ変わった。

恐らくだが、この世界はかなり改変されているのだろう。織斑一夏がいてヒロイン達がいる、これは変わらぬ。しかし、一人だけおかしな奴がいる。まあ、それを言えば私もおかしな奴な訳だが、今は置いておこう。

このおかしな奴『井村 謙吾』とか言う男子生徒は、もう一人の男性パイロットだ。

そも『IS 』というものは女性しか乗ることが出来ぬ。男性は乗るどころか触ってもうんともすんとも言わぬ代物なのだが、何故か織斑一夏と井村謙吾、この二人はそれを動かした。

そして、各国は二人の保護を名目に女の園であるIS学園に入学させたという訳よ。

この井村謙吾だが 、何がおかしいと言うと、原作で起きた事件を瞬く間に解決し、原作ヒロイン達を横からかっ浚い、織斑一夏の心をあの手この手で殺した。

ここまで言えばお分かりだろう、あの井村謙吾は私と同じ転生者である。あれよの、神とかそこら辺の奴にそれはそれは素晴らしい特典を貰ったのだろうの。

それはそれは素晴らしい調子の乗りっぷりで、自分が勝ったら自分の女になれと私に勝負を挑んできよった。

かなり頭にきたし、教え子の手前負ける訳にもいかぬ。と、意気込んで勝負を受けたのだが、まるで話にならぬ。

確かに、機体の性能や身体能力は素晴らしいの一言に尽きる。緑の粉や赤くなりスピードが上がる、中々に厄介な代物だ。だが、それだけなのだ。戦略も先読みも何も無い、ただそれだけの奴。私の『特典』もあるだろうが、勝負はものの二分足らずでついた。

息を切らし膝をつき倒れ伏す男と、溜め息混じりに薙刀を降り下ろす女、何の事はない。つまらない勝負、それだけの話よ。

 

「ふむ、こんなものか。して、教え子よ。見ていたかね?」

「えっと……?」

「はぁ……、情けない。わざわざ、受けたくもない勝負を受けた師匠の温情が分からぬとは、我が教え子ながら誠に出来が悪い……」

「す、すみません」

「まあ、良い良い。ほれ、師匠はお疲れぞ。教え子はどうするね?」

「は、はい!師匠、よく冷えた水です!どうぞ!」

 

ふむふむ、よく分かっているようだの。だが、まだまだのようだえ。

 

「水より先に、マッサージが先であろうに。まったくに出来が悪いのぅ」

「す、すみません!」

「ほれ、早ようせい。私は肩が凝っておるぞ?」

「はい!」

 

ふむり、やはり我が教え子は出来が悪い。だが、出来が悪いながらにマッサージの腕は中々の腕前よの。

ISの操縦はお粗末ながら、マッサージなどの身の回りの世話に関しては、褒められたものだの。

 

「ふむり、もそっと右よ。右が凝っておるぞえ」

「うっす!」

「そうそう、そこよそこよ。コココ」

 

ふむりふむり、やはりの。こやつのマッサージは至福よの。これだけで、養ってやるのも悪くはないのぅ。

 

「教え子よ、先の模擬戦で私が何本の『尾』を使ったか分かるかえ?」

 

軽い問題ぞ?しかと答えて見せや、出来が悪くても分かることぞえ。

 

「えっと……、一本、違う……」

 

ココ、考えおる考えおる、ココココ。師の得手を覚えておるだけ、及第点かの。コココ、私も柔ゆくなったものよ。

初めは手のかかるだけで、見込みの無い者と思っておったが、次第にこの出来の悪さが愛しく思えてくるのだから、こやつも罪作りな男よ。

 

「して、教え子よ。答えは何ぞえ?」

「答えは……、零、です?」

「……ココココ!」

 

ふむりふむり!今日は褒めても良いかもしれんのぅ。まさか、ピタリと言い当てよるとは思わなんだ。

 

「狐の化かしに惑わず、よくぞ言い当てた。褒めて遣わすぞ」

「やった!当たった!」

 

コココ、喜びよる喜びよるわ。誠に愛しい教え子よ。

その愛しさに免じて、も一つくれてやろうかのぅ。

 

「化かしのついでよ、明日の訓練は朝だけにしようかえ」

「え?」

「おや?教え子は訓練漬けになりたいのかえ。なら、仕方ない。明日は……「わー!嬉しいです嬉しいですから!」……コココ」

 

誠に面白い教え子よ。これなら、一つ見返りを求めて良かろうの。

 

「教え子よ、狐から見返り無しで得られるとは、思ってなかろ?」

「な、なんでしょうか?」

 

身構えよる身構えよる、よく学んでおるわ。

 

「今日の夕食は、アレが食べたいのぅ」

「アレ、ですか?それなら、昨日から仕込んであります!」

「ほう!」

 

誠に愛しいのぅ、師の好物を覚えておったか。しかし、はて?昨日から仕込んでおったとなると?

 

「教え子よ、それは銀の両手鍋に仕込んでおったかや?」

「そうですけど、よく分かりましたね」

 

ふむり、これはちとマズイかのぅ。

 

「味は、鰹出汁に醤油と砂糖と味醂の甘口かや?」

「あの師匠、まさか?」

 

私としたことが、やってしまったのぅ。

 

「コココ、昼に摘まんでしもうたわ」

「何やってんですか?師匠!」

「ココ、すまぬすまぬ」

「もー!まさか全部食べてないですよね?」

「誠に勘の良い教え子よの」

 

いやはや、私の好みの味付けの巾着煮だったからの。箸が止まらんかったわ。師の好みまで覚えておるとはの、詫びとして今宵は私が馳走してやろうかのぅ。

 

「全部!アレ全部食べたんですか!」

「ちと、小腹が減っての。あれよあれよと、の?」

「もー!」

「怒るでない怒るでない、詫びとして今宵は私が馳走してやろう」

 

教え子と語らいながらの食卓というのも、悪くはなかろ。

食堂では、痴れ者共が無粋な真似をしてくるから、部屋で食べようかの。更識の猫に釘を指しておかねばな、いつの間にやら部屋に入って来よって、要らぬ真似をしよる。

今宵は教え子の成長記念、師弟水入らずの食卓よ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。