私は今日、お嬢様を殺した   作:ikayaki

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お久しぶりです。ikayakiです。

かれこれ3ヶ月ぶりくらいですかね……。楽しみにしてくださっていた方には、本当に申し訳ないです。

現在高校最後の冬でして、大学に向けて色々と準備があり、……とまあ、言い訳ですね。ほんとにごめんなさい。

それでは、どうぞ。今回は簡単かな……。


空白

 瞼の裏に滲み込む光を感じ、私はうつらうつらと目を開ける。

 薄いカーテンを透かし、黄色い朝日が部屋をセピア色に照らしていた。葉擦れの音と小鳥の囀りが、未だ夢見心地な私に、現実の到来を教えてくれる。

 上半身を起こし、ベッドから立ち上がろうとする。──重い。まるで鉛を纏っているかのように、身体が怠く重かった。

 うつ伏せになって、這い上がるように、ベッドから身体を起こす。

 

 ──トン

 

 音がした。何かがベッドの縁から落っこちたみたいだ。

 見ると、人形が床に倒れていた。丁度掌くらいの大きさの、私そっくりの姿をした人形である。アリスのものだろうか?

 床に足を着け、ゆっくりと、慎重に、重心をベッドから己の両足に移す。やっぱり、身体は恐ろしく重い。

 人形を拾い上げ、机の上に置こうとする。

 ──だが、その机には、既に見知らぬ花束が置かれていた。

 淡いピンクや赤色で組み合わされた、バラやガベーラの花束である。カーテンから漏れる朝日と相まって、それはまるで絵本の一ページのような光景だった。

 見知らぬ光景の連続に、少々戸惑いながらも、私は拙い足取りで居間へと向かった。

 いつもと変わらない、自分の家。

 けれど、何処か違和感を覚えるのは気のせいだろうか?

 

 ……そういえば、私、昨日の夜は何をしていたのだったっけ?

 魔法の研究? キノコ集め? アリスと自分の家にいたのは覚えているのだが、それ以上は何の思い出せなかった。

 

 お気に入りの三角帽は埃まみれだった。パンパンと、手で埃を払う。

 妙に建てつけの悪いドアを押し開けると、外は雲ひとつない青空だった。

 こんな日は、空に飛ばなくちゃ損だ。

 箒に跨がり、晴天に飛び立つ。

 

 風を切り空を翔けるこの感覚に、私は何処か懐かしさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、霊夢ー。いるのかー、いないのかー?」

 

 取り敢えず博麗神社に来てみたものの、いつもなら縁側でお茶を啜っているはずの霊夢がいなかった。

 そこらを呼びかけて廻るが、もちろん応えは帰ってこない。妖怪退治にでも出かけたのだろうか。

 仕方がないので、私は休憩がてら、神社の縁側に腰を下ろした。

 冬の冷たさを残した春風が、ゆらゆら髪をなびく。真紅だった鳥居は色褪せ、紅梅の花の色に変色していた。

 

「あら、魔理沙さん。お久しぶりですね」

 

 不意に、空から声が聞こえた。よく聞き慣れたその陽気な声色。

 見上げると、天狗の装束を身に纏った文が、神社の屋根から私を見下ろしていた。

 

「ああ、文か。……お久しぶりでもないだろ。昨日会ったばかりだぜ」

 

 文は黒い羽をバタバタと羽ばたかせ、私の目の前に着地した。まじまじと私の瞳を見つめ、そして、

 

「……本当に、何も知らないみたいですね」

 

「……? 何をだ?」

 

「いいえ、何でもないです」

 

「隠し事は良くないって、両親から教わらなかったか?」

 

「生憎親の顔なんて忘れましたよ」

 

 文は哀しげに笑うと、私の隣に腰掛けた。

 

「なあ、霊夢を知らないか?」

 

「さあ、知らないですねえ」

 

「嘘は良くないぜ」

 

「……妖怪退治にでも行ったのでは?」

 

「まあ、そんなところだろうな」

 

 霊夢が神社を空にするのは、そう珍しいことではない。いつも通り、ここで待っていれば、いつかは会える。そう信じていた。

 

「魔理沙さん」

 

 文の顔つきが、唐突に神妙なものへと変わった。

 

「……何だ?」

 

「本当に、本当に何も覚えていないのですか。その……、最後の記憶ですよ」

 

「最後の記憶?」

 

「ええ。何でもいいです。何か、思い出してください」

 

「無茶苦茶だな」

 

「私は真剣ですよ。こんな真剣な私、今まで見たことありますか?」

 

「……ないかもな」

 

 私は目を瞑って、意識の底、暗闇の中を弄る。

 ──しかし、どう足掻いても、その黒いベールの先を見ることは叶わない。

 何があった?

 昨日の夜、一体何が……?

 

「ダメだ。思い出せない」

 

「……そうですか」

 

 文は一瞬だけ悲痛な表情を見せ、そしてすぐに私の正面に向き直り、こう告げた。

 

「魔理沙さん、もし霊夢さんに逢いたいのなら、無縁塚を訪れてみてください」

 

「無縁塚……?」

 

「何があっても、目を逸らしてはいけませんよ。きっと、霊夢さんは魔理沙さんよりもずっと、辛かったはずですから」

 

 黒い羽が宙を踊り、文は空に飛び去った。

 その瞳から溢れた涙の意味を、私はまだ理解することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無縁塚──幻想郷の外れにある、縁のない者共が弔われる共同墓地である。

 春の暖かさは消え失せ、凍えるような冷気が辺りを取り巻いている。

 私は地上に降り立つと、周囲の木々が一斉に、ガサガサ、と音を立て始めた。足元から這い上がる寒気を感じ、私は思わず肩を震わせた。

 ぽつり、ぽつり、と、疎らに置かれた墓石を縫うように歩く。どれもボロボロに朽ちていて、墓石としての原型を保っていない。

 

 ──本当に、ここに霊夢が?

 

 文のあの様子だと、冗談を言っているわけではないはずだ。一体どういうことなのだろうか?

 

 歩き進めるにつれて、徐々に鼓動が早まっていく。胸が苦しい。

 紫の桜。

 その木の根元に、一際立派な墓石が建てられていた。綺麗に咲いた胡蝶蘭の花が、石の前に供えられている。

 私は食い入るように墓石に近づき、そこに刻まれた名前を、瞳に入れる。

 

 

 ──『博麗 霊夢』

 

 

「えっ?」

 

 その文字を理解するまで、暫しの時を要した。脳が理解を拒んでいた。

 だが、どれだけ否定しても、現実は逃避できない。

 

 霊夢が、死んだ──?

 

 ……嘘だ、嘘だ嘘だ。

 

 ありえない。こんなの。

 だって、霊夢は、昨日まで生きていた!

 昨日も、その前の日も、いつも一緒だったのだ。

 なのに……何で……。

 

 夢だ。

 これは、悪い夢。

 そうに違いない。だから、早く、……覚めてよ。

 

「あの子はずっと貴女を待っていたのよ」

 

 スキマから姿を見せたのは、紫だ。

 ナイフのような、冷たく鋭い声が、私の心を抉る。

 

「でも、貴女は来なかった」

 

「……知らない。私は、何も知らない!」

 

「そうでしょうね。貴女は何も知らないわ。だって、貴女は、

 

 ────から」

 

 頬に伝う涙は、ただ冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の扉を開けると、中でアリスが私のことを待っていた。

 

「おかえり。起きたのね、魔理沙」

 

「アリス。私は、一体…………」

 

「何も考えなくてもいいわ。思い出さなくていい。忘れましょう、何もかも」

 

 アリスは私の背中に両手を回し、溶けるような甘い声で囁く。

 

「ああ、辛かったのね、魔理沙。でも、もう大丈夫。これで、魔理沙は、

 

 

 

 

 

 ──私のモノよ」

 

 

 




多忙につき、今回は感想に返信を致しません。ご了承ください。回答はおそらく一週間後になると思います。

正解者様がいらっしゃれば、紹介させていただこうと思います。返信こそしませんが、しっかり目を通しますので、推理や感想などを書いていただけると幸いです。泣いて喜びます。

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