私は今日、お嬢様を殺した   作:ikayaki

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6ボスの後はExtraステージです。

もう当分更新しないだとか、これで最終話だとか言ってきた私ですが、これで本当の最後にしようと思います。ラストバトルですね。

……さて、謎解きの時間です。是非楽しんでください。


私は今日、お嬢様を殺した おまけVer

部屋の中には()()いた。

 

吐き気を催すような異臭が漂う、お嬢様の寝室。冷たい月光が、閉ざされたカーテンの布を青白く染め上げる。対照的にベッドのシーツは鮮やかな血色で塗りつぶされていた。

 

ベッドの上には死体があった。お嬢様の死体だ。顔は潰されていて、胸には銀のナイフが突き刺さっていた。肉片が床に転がっていて、今もそれらがピクピクと小刻みに痙攣している。流石の吸血鬼でも、ここまでぐちゃぐちゃに潰されればもう二度と再生できないだろう。

 

吊り鏡を見る。暗闇に薄っすらと映るのは、私とお嬢様の姿。自分の姿が入れ替わっていることを確認し、私は小さく笑みを浮かべた。それから、血だまりの中からお嬢様の死体を引き上げる。血が床に溢れないように注意しながら、死体を担いで、部屋を後にした。廊下には真っ赤な絨毯が敷かれているので、血が溢れてもさほど目につかないだろう。それよりも、まだ部屋の処理が残っている。あまり悠長に構えている時間はない。

 

私は早歩きで、闇の深い廊下を渡った。窓から目に写るのは、青白く輝く満月と、その明かりに照らされた霧の湖。今日は一段と霧が濃いようで、湖の輪郭は曖昧にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

お嬢様の死体が発見されたのは、満月が西に沈み、朝日が東の空を照らし始めた時だった。第一発見者は妖精メイドだ。エントランスホールで、首から先を失ったお嬢様の死体を発見したらしい。妖精メイドは顔を真っ青にして、他の住民達を叩き起こした。

 

私も妖精メイドに起こされ、廊下を渡りエントランスホールに向かう。昨日も全く同じ経路で、私はお嬢様の死体を運んだ。念の為、床の絨毯を確認してみると、微かに血の斑点が見えた。後で処理しておく必要があるだろう。

 

道中、妖精メイドが手取り足取り死体の状況、その異様さを語るが、私からすれば、それらはどうしようもなくつまらない情報だった。何なら代わりに私が、妖精メイドにお嬢様の死に様を語ってあげたいくらいだ。ただ、不自然な装いをすると勘付かれてしまうかもしれないので、私は適当に相槌を打っていた。

 

やがて、私達はエントランスホールについた。咲夜の能力によって空間が広げられた大きな広場で、弾幕ごっこの会場になったりもする。ここにも真っ赤な絨毯が敷かれていた。

 

エントランスホールの中央には、私が最後に見た時と同じ状態で、お嬢様の死体が横たわっていた。それらを数人が悲哀に満ちた表情で見下ろしている。私は妖精メイドに礼を云って、その中に割って入った。……顔のない、お嬢様の死体。胸には銀のナイフが刺さったままだった。

 

エントランスホールでお嬢様の死体を取り囲んでいるのは、私を含めて五人だ。その中で、まずはパチュリーが口を開いた。

 

「これで全員揃ったかしら。まずは、昨日の夜何処で何をしていたか、一人づつ云ってちょうだい」

 

「……ちょっと待って」

 

「何かしら? 」

 

「何で私達だけなの? もしかしたら妖精メイドがやったかもしれないし、それに昨日の夜誰かが館に忍び込んだのかもしれないでしょ?」

 

フランドールがパチュリーに異議を唱えた。

 

「妖精メイドにあの子を殺せるだけの力があるかしら? ……確かに侵入者がいてもおかしくはないけど、夜の湖は霧が濃くて、そう簡単に館に辿り着けはしない。それよりも私達の誰かが殺したと考える方が自然だわ」

 

「それもそうですね……。昨日は特に霧が深かったですから。夜になると、それこそ夜目の効く妖怪であっても、湖の上を渡ることは簡単ではないでしょう」

 

美鈴が記憶を確かめながら、ひとりでに呟いた。「因みに私は、昨日の夜10時頃まで門の前に立っていました。勿論、侵入者はいなかったですよ。それからは自室に戻って寝てましたね」

 

「私は昨日の夜9時に、お嬢様に紅茶をお入れしました。その後は部屋で寝ていたわ。確かめる方法なんてないけど、それはみんな同じでしょうし……」

 

咲夜が首を捻りつつ云った。

 

「部屋で寝てたよ。誰にも会ってないけど」

 

フランドールが咲夜の言葉に重ねるように、弱々しい口調で云った。これで全員が一通り発言したことになる。

 

「……私はいつも通り、図書館で寝たわ。最後に時計を見たのは、11時頃だったかしらね」

 

「小悪魔さんは図書館にいたのですか?」

 

と、美鈴。パチュリーは「ええ」と、一言で答えた。

 

「私も部屋で寝ていたし……、やっぱり私達の誰かが殺したなんてあり得ないわ。きっと妖精メイドが殺したのよ。そうに違いないわ!」

 

「……落ち着きなさい。今の証言だけでは、誰も自分のアリバイを証明できたとは云えないわ」

 

パチュリーが興奮したフランドールを宥めた。「それにしても、分からないわね。なぜ犯人は殺した後に、わざわざ首を切り取ったのか……」

 

「強い恨みを持っていたのではないでしょうか?」

 

「……誰にも恨まれるような子ではなかったけどね」

 

パチュリーが小さく呟いた。その瞳は、まだ涙の跡が乾いていなかった。

 

長い沈黙が私達を取り囲んだ。皆が顔を下げ、誰とも視線を合わせようとしなかった。私もその中に紛れて俯いていた。込み上げる愉悦を必死に我慢していたからだ。

 

「犯人探しはまた後にして、今は死者を悼みましょう。死体をここに放置したままでは、あまりに可哀想ですからね」

 

美鈴の提案に、皆が肯いた。

 

私達は庭にお墓を作り、そこにお嬢様を埋めることに決めた。綺麗な花々に囲まれた花壇の中なら、お嬢様も安らかに逝けるだろうとのことだ。そう思っている皆に、死んでいった時のお嬢様の顔を見せてやりたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

紅い館の庭にレクイエムが流れた。悪魔にカトリックのミサを行うなんて、何とも馬鹿らしい話だ。

 

十字架の前で、皆が涙を流しお嬢様の死を悼む。その様子を眺めていると、自然と私の瞳からも涙が流れてきた。目の前の光景が可笑しすぎて、涙が止まらないんだ。

 

 

 

 

今にも溢れそうな愉悦を奥歯で噛み締め、私は十字架の前に立った。そして、誰にも聞こえないように、小さく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さようなら、『___ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の解説が最終話です。そろそろ連載が書きたくなってきたので、このシリーズは区切りを付けます。今まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!

折角ですので、正解者様にはイラストを差し上げます。解説は、場合にもよりますが、一週間後にしようと思います。是非お楽しみに。

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