私は今日、お嬢様を殺した   作:ikayaki

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私は今日、お嬢様を殺した

私は今日、お嬢様を殺した。

 

真っ赤なお屋敷の庭で、十字の下にお嬢様が埋められた。灰色の空、黒く湿った地面、呼吸さえできないくらいずっしりと重い空気。冷たい雨が頻りに降り続いているにも関わらず、誰もが傘も差さずにだだ顔を俯けていた。……ああ、そういえば、フランドールは傘を差していたわね。後、小悪魔も。

 

もの悲しげなレクイエムが、みんなのすすり泣く声と一緒にお嬢様の死を悼む。誰も泣いてない人なんていなかった。みんな目を赤くして、そう、馬鹿みたいに涙をぼたぼた零していたんだ。咲夜も、パチュリーも、フランドールも、小悪魔も、美鈴も、沢山いる妖精メイドでさえも。

 

勿論私もその中に混じって、みんなと一緒に泣いていた。本当に辛かったよ。

 

…………何故って?

 

あの長々しい葬式の中、込み上げてくる愉悦をずっと我慢しなくちゃいけなかったから。心の中で大笑いしながら、私は死んでいったお嬢様の愉快なあの顔を思い出していたわ。

 

お嬢様は私に毒殺された。紅茶の中に毒が混ぜられていたんだ。数秒間悶え苦しんで、それからはピクリとも動かなくなった。口から蟹みたいに泡を吹いて、それはそれは愉快な御顔だったわ。

 

紅茶の中に毒? そんなことできるのは咲夜しかいないんじゃないの? ……って思ったかもしれないわね。別にお嬢様に毒を飲ませることぐらい、誰だってできるわ。例えば、そう、お嬢様がいつも愛用しているティーカップにあらかじめ毒を塗っておく……とかね。

 

後、お嬢様の顔は原型を留めていないほどの潰されていたらしい。……らしい、っていうのはちょっと変だね。だって、潰したのは私なのだから。

 

再生されたりしたら面倒だし、それに、死体が誰のものか分かったりしたらもっと面倒なことになる。念入りに、グチャグチャになるまで潰したわ。だから、お嬢様の愉快な顔を見ることができたのは私だけ。本当はみんなにも見せてあげたかったんだけどね……。残念ながら、私以外のみんなが最後に見たお嬢様の御顔は、グチャグチャに潰れた肉塊だ。それはそれで愉快だったかもね。

 

さて、私の日記をここまで読んだ貴方に質問。私は一体誰でしょうか?

 

ああ、先に行っておくけど、「お嬢様」っていうのは余りヒントにならないわよ。フランドールならお嬢様を「お姉様」って呼ぶだろうし、パチュリーなら「レミィ」ね。けど、これは日記。呼び方や口調ぐらいはいくらでも偽ることができる。もしかしたら、私はフランドールかもしれないし、はたまた無数にいる妖精メイドの一人かもしれない。ふふっ、一体誰なんでしょうね?

 

でも、流石にこれだけじゃあちょっと理不尽かな? だからヒントをあげるよ。せっかく私の日記を読んでくれたんだ。そのくらいのサービスは当たり前だよね。

 

ヒント1、私は支配されるのが嫌いなの。けど、それでいて我慢強い。

 

だから、しっかりと準備して、お嬢様を殺す機会をじっくりと待っていたわ。慎重に、ネズミを死の淵に追い詰める猫みたいにね。そして、誰にも見つからないように、素早く事を済ませた。容姿は魔法で幾分か誤魔化せたけど、問題は死体を置く場所だったわね。お嬢様の部屋に置きっ放しだったら、多分真っ先に私が疑われるだろうし……。

 

…………これじゃあヒントになっていないって? まあそう焦らないでよ。ヒントはもう一つ用意してある。ゆっくり考えてみて。

 

ヒント2、これは私達が葬式の後にした会話ね。みんなやっとこさで泣き止んで、ちょうどレクイエムが終わった時だったかな?

 

まず初めに口を開いたのはパチュリーだった。私達の中で、一番涙を流していたパチュリーだ。

 

「私の大事なあの子をこんな目に合わせるなんて…………。酷すぎるわ……」

 

悲痛なパチュリーの声に、咲夜が柔らかな口調で応答する。

 

「パチュリー様……。どうか気を取り直してください。絶対に、犯人を捕まえましょう」

 

そういえば、咲夜は自分の主人が死んだっていうのに、妙に落ち着いた様子だったわね。死んだのがお嬢様だってこと、知らないのかしら? ……ま、私が咲夜だったら何ら不自然じゃないんだけどね。

 

続いて美鈴が嗚咽の混じった声を漏らした。

 

「こんなの、酷すぎますよ……。一体、誰がこんなことを……。絶対に見つけ出して、…………殺してやります」

 

美鈴は握った拳をわなわなと震わせる。その拳でお嬢様の顔を潰したのだったら、なかなか面白いわね。私、面白いことは大好きだよ。

 

小悪魔も「ええ、必ず……」と、首を縦に振って強く頷いた。フランドールはまだ正気が戻っていないらしく、大声を出して泣きじゃくったままだ。妖精メイド達も、何も言わずにただ下を向いて雨に打たれていた。

 

…………と、ヒントはこんな感じかしら。

 

これでもう分かったんじゃないかな? 一体、私が誰であるか……。

 

 

 

おっと、誰かが私を呼んでいるらしい。

「紅茶をお入れしました」という声と共に、コンコンコンって、扉をノックする音が聞こえる。急いで日記を隠さないとね。

 

 

それじゃあ、さようなら。

 

 

……そうね、最後に、私の名前を教えてあげる。ここまで読んでくれたご褒美よ。

 

 

 

 

 

__レミリア・スカーレット。それが、今日からの私の名前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「私」が誰か分かりましたか? 一回で分かった方がいらっしゃれば、多分その方は天才です。


分かった方は、是非感想欄にでも回答してみてください。

答えは一週間後あたりに投稿します。


-追記-

感想欄はネタバレとなっています。自分で考えたいという方は注意してください。

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