悠久たる郷里にて   作:悠里(Jurli)

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Fafs F. sashimi


遡る

「き、綺麗……」

一面にエキゾチックな模様を散りばめられた壁を眺めてレフミーユが言う。これは皇論における陰と陽の概念を表したものであるという。

一行はカミ・ア・マカティ、天神神社を観光していた。一度事件から心理的な距離を置くために全部を忘れて、観光するべきだと思ったからだ。ヴァイユ自身、葛藤に思考スペースを刈られていた。最初は人助けだった、レフミーユもセプロノもクアも全員がただの人探しと観光をしていたはずだった。だが、考えもしないところで人脈というものはその力を発揮するもので多分レロド・フォン・イェテザルの奴と思わしき人間が私の友人を傷つけて行った。私はこの事件を追及するつもりだ。しかし、そのために彼らについていくというのはどうも罪悪感が残る。彼らを危険な目に会わせたいとも思わないし、私の目的のために利用しているような気がしたからだった。

 

「ねぇ、ヴァイユ?どうしたの?」

考えに没頭しすぎて周りが見えてなかったのか、目の前にレフミーユが居て先にセプロノとクアが居た。どうやら、ここで立ち止まって考えてしまったようだ。

「いや、なんでもないよ。次は?」

「次は山の神の堂だって、ほら行くよ~!」

走ると危ない、といつもの自分なら言っていただろうが言う気も起きなかった。自分から観光を提案しておいて無様だと思った。これでは勘付かれないかと冷や冷やしていたが、ホテルに戻るまで目的に対しては感づかれる事は無かった。

 

 

「はー、今日は楽しかったね。ねえ、ヴァイユ?」

「凄かった、です。あの壁……。」

「わぁも思う。」

皆興奮冷め止まない様子であった。こんな中で一人だけ沈痛な表情で居るのも違和感を覚えさせると思ってヴァイユは気丈に振舞っていた。

「そろそろ風呂に行った方が良いんじゃないか?食事の時間までは丁度いい時間だと思うけど。」

ヴァイユは手持ちのウェールフープラジオの調子を確認しながら言うと、レフミーユがヴァイユを指を指した。

「女の子の湯を覗いちゃダメだからね!」

「はぁ、誰が……覗くかよ。私はこれを修理しなきゃ行けないから先に行ってきたら。」

三人は笑っている。大丈夫、自分の心が揺らいでいる事は分かっていない様だ。

 

---

 

携帯電話の番号を書いた紙を置いてホテルを出て、山へ向う。

実はウェールフープラジオが調子悪いわけでも何でも無かった。そんなのは三人と別に行動するための時間を作る口実に過ぎない。考えても見ろ、手紙を血塗れで置いているのもそんなものを書く時間が無かったことも表しているのは『犯人は手紙を書いていない』ということだ。それに関するクアやレフミーユ、セプロノの嫌疑は既に晴れている。クアは犯人に追われ、後の二人は時間と空間的にそんな事をするのは不可能である。つまり、残されているのはファリシーヤ、つまり奴があらかじめ書いておいてポケットに入れておいたものが襲撃をされ、腰の周りに落ちたと考えると自然だ。理由は犯人は何故ファリシーヤを殺そうとしたのか。それはあまり信じられないがファリシーヤは実はRFJ(レロド・フォン・イェテザル)の構成員で私たちのうちの誰かを殺そうとしていた、だがファリシーヤはRFJに逆らって私たちを庇おうとした。だから、報復を受けた。

証拠を掴んでやるという事が心の中身を覆っていたが、外の風に当たって歩いていると証拠を掴んだところでどうなるのかと思えてきた。ただ、足はずっと山の、友の旅館に向っていた。

旅館が見えてくるとどうも数十人の人がそこを囲っていた。マスコミではない、そんなものはもっと後から来る。制服を着ているところを見るとPMCFの警察組織なんだろうかFaiches blaèjautと書いてあるのを見るとユエスレオネの刑事警察に当たるんだろう。ぼやけた意識と共にその警察達の中に入っていく。

「ちょっと、君。ここは立ち入り禁止ってあなたユアフィス先輩じゃないですか!なんでここに!」

「え?ちょっと待ってくれ、先……輩?君は……誰だ?」

自分を止めようとした少女は右手を前方に掲げ、手を直立させたユエスレオネ式敬礼を行なった。

「ユエスレオネ特別警察第一局から派遣されてきたフィア・ド・グリフタヴィエ・フィグリフハイトであります!なんちゃって……。先輩は私の事を覚えてないんですか?」

「いや……済まないが全く……。」

フィアは人指し指を立てて、頭の横でぐるぐると回転させた。

「ほら、中央大でウェールフープ実験する姿を窓から……」

「窓から?」

先を聞きたくなったが、フィアは手を振って、なんでもないと言っていた。しかしながらこれは使えるかもしれない、例の事件の追及の手がかりになりそうだ。

「グリフタヴィエさん、ちょっと手助けして欲しい事があるんだ。」

「え?何ですか?」

ヴァイユは事前に用意しておいた三人分の指紋データの入ったペンドライブをフィアに渡す。

「そこに私とそこに当日泊まった後の三人の指紋データが入っている。あとは、ファリシーヤはPMCFの鑑識から貰えるだろう。この四人以外の指紋が手紙にあるか、調べてくれないか。」

 


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