悠久たる郷里にて   作:悠里(Jurli)

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Fafs F. sashimi


最初の犠牲者

船は順調に進んでいた。デッキから見る光景も少しづつ神秘的なものに見えてきていた。

「あ、見る、あれ 神社。」

クアがそういうとレフミーユとセプロノが集まってきた。確かに神社が少しづつ全貌を明らかにしてきていた。

「君等じゃためひこじゃ航路選ぶんひじかい、普通きねここねせ通れぬりじだよ!」

船長が私たちを見て言う。多分「きみたちのためにこの航路を選んだ~」と言ったのだろう。この人もリパライン語を話しているようだが、多分良く耳にするアイレン方言と言う訛りで喋っていた。

「わーっ!綺麗っ!綺麗だよ、メイナス!」

「分った分ったから落ち着けって。」

レフミーユの興奮のしようといえば、研究室暮らしを強いられていたヴァイユにとっては非常に眩しいものであった。自分もいつかこんな風な自分を、研究室に入る前の自分を取り戻したい……っと、また悲壮な考えを自分にめぐらせてしまった。今はあても無い旅に人探しという小さい任務が設けられた程度、それに充てた自分の心もまだ余裕を持てるといったものだった。

 

少しすると、船は乗った時のような船付き場に付いていた。四人とも、船長にお礼を言って、先を行こうとすると船長は何かをセプロノに渡してきた。

「これし地図在りゃち我要れぬち渡しゅんじ。」

「え、あ、ありがとうございます……。」

良く見るとこの島の一部が書かれた地図のようであった。

「それはなんだ?」

「うー……多分、地図です……feu」

やはり地図か。確かに私たちはアイル共和国はおろかPMCFすら一回も来たことも無い人間だと見られるだろう。大体合ってはいるが、一人を除くと。

私たち四人はセプロノの地図に従って、神社に向った。

 

----

 

「ねーねーねーねーねー!」

「はあ、どうしたレフミーユ。ここまで来て神社を見ない手は無いだろう。」

「それは良いんだけどさあ。」

レフミーユが立ち止まって、全員が立ち止まる。

「ここさっきも通ったよねえ!ていうか、十回くらい通ってるよ!?どうなってるの!?心霊!?オカルト!?!?う、うぇー助けてアレフィス様あああああ!!!!!!!」

「落ち着け、セプロノの地図通りだ。このまま進めば……神社に着く……よな?」

自分でも言ってて途中で自信がなくなってきた。確かにここ一時間前くらいからループしているような気がするぞ。

周りが大自然なのは良いが、日暮れが近くてそろそろ現実問題遭難しそうな状態だ。

「どう、なってるんだ。ウェールフープで誰か空間を繋ぎとめでもしてるのか。」

「そんなこと観光地でするわけ無いでしょ!」

レフミーユが反駁する。

そんな言い合いをしてるとクアがセプロノに近づいて言う。

「セプロノ、地図、よめてる?これ、反対」

「あ、zie......」

レフミーユとヴァイユが地図を覗き込む、確かに持っている方向が反対のようであった。

「でも、PMCFの地図……読みづらい……です。」

「うーん、どうする?もうこんな日暮れだよ。これから神社に行っても、閉まってるんじゃない?」

確かにこれから行くにしても、観光には遅すぎる。しかし、ここの宿なんてヴァイユは全然知らない。というか現在地がどこか地図上でも分らない。

「一体どうすれば……。」

そんな事を考えていると道の向こうから人影が見えた。

「あれ?ヴァイユじゃねえか。なんで、こんなところに居るんだ?」

こちらのセリフだ。と言いたいところだった。

 

 

 

「俺はスカースナ・ハルトシェアフィス・ファリシーヤって言うんだ。ヴァイユとはユエスレオネ中央大からの仲で――」

「おい、スカースナ。他人の出身大学をべらべらと喋るなと毎回言ってるだろ。」

「ははっ、すまねえすまねえ。」

ガハハと笑うファリシーヤに後の三人は流れについていけないという風に目を点にして二人を見ていたが、レフミーユだけは耳がぴょこんと立って驚いたかのようにわざとらしい後ずさりをする。

「ヴァ、ヴァイユ……が連邦中央大卒!?え、えぇ!?」

「うー、中央大学……聞いたとこがあります。リパコールという偉人、居るところですね?」

「ヴァレス、意外に強かった。」

「一言余計じゃ!」

三人の反応に調子に乗ったのかファリシーヤは身を乗り出して、三人に小声で言う。

「しかもあいつは、あのアルシー・ケンソディスナルと同じフェグラダ・ヴェイユファルト・ア・デュアンの化学科卒業生で――」

「余計なことをッ言うなぁ!」

らしくもなくキレてしまったのは確か5年ぶりくらいだった。

 

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「お前、旅館なんて経営してたんだな、しかも風土に合わせずユーゲ風とはロックなことをやるな。」

木造のそれを見て、ヴァイユは言った。

「うるせぇな、それでうちャ客が減ってるんだよ。いいから、入った入ったほらお嬢さんたちも早く入らんとパンシャスティがぴすてぃるしに来るぞ。」

「……。」

幾ら中性的な風貌とはいえ『お嬢さん』に含められたクアは複雑な表情をしていたが、意気満々に建物に入って行ったレフミーユに遅れないように旅館の中へと入って行った。

「へぇ、今頃全部木造なんて珍しいですなあ。」

「さすがに対ウェールフープ塗装はしてあるけどね。リパコール先輩にやられちゃさすがに吹っ飛ぶけれども」

またもガハハと笑いながらファリシーヤが言う。こいつは何時もこんな感じで研究室通いのうちは心の支えにはなっていた。

「まあ、なんだ、部屋は二つ用意できてるからゆっくりしてくれ。まあ、その前に食事の用意が出来てるから荷物置いたら食堂まで来いよ。」

「すまんな、こちらが旅行下手なばかりに。」

「僕は、別に。」

クアが何か言った気がしたが、別に気にしないことにした。

「いいってことよ、こちらも商売になることだしな、ガハハハハ」

「この資本主義者め。」

小声で言った声は良いか悪いかファリシーヤの耳には入っていなかった様子であった。

 

----

「ふー、疲れた。」

部屋に到着して荷物を置く。よく考えても見ると一緒の部屋に居るのはクアだったわけだが、クアとはまだ出会って久しい。色々知りたい事があった。

「クア、私たちの旅行の目的を知っているかな?」

「yee、一応は。」

なぜユーゴック語で返答したのか良く分からないが覚えてはいるらしい。ヴァイユは荷物の中身を整理して、時間を確認してから続ける。

「僕たちは僕たちの友達の命の恩人を探すのに手伝っているんだ。」

「名前、何?」

いきなり名前を聞いてくるとは思わなかったが、快く答えることにした。

「ウルグラーダだ。下の名前は分らないが、テベリス人らしい。そして、ここに旅行に来ているレスタとかいう文化的階級者の元に戻ると言っていた。」

「ウルグラーダ、ウルグラーダ・グリーザルフ……neitnaies var naicekyffès」

「え?」

良く聞こえなかったが、今ヴェフィス語を話したような。

「いえ、僕は先に食堂に行ってますよ。ヴァイユさん。」

「あ、ああ。」

あっけに取られて直ぐ動けなかったが、クアがリパライン語を流暢に一点の曇りも訛りも何も無く話したのに違和感を覚えたののはそれから直ぐであった。しかも、ヴェフィス語まで。語学と言うのはどうやら深層意識にまで染み込ませるもののようだ。さすがに前線に立つようなプロには勝てないなと思い、ヴァイユは食堂に足を運ぼうとしたところ下のほうから聞こえた悲鳴に足を止められた。

「な、なんだ?」

ヴァイユは好奇心半分恐れ半分で上階から降りてくるとようやくその惨状を確認する事が出来た。生理的な恐怖感で逃げようとする足を理性で抑えながら驚いて尻餅をついているレフミーユに恐る恐る聞く。

「これは……一体?」

 

食堂の小さな食卓に食事が並べてある。それは何にもおかしくは無いことであったが、目に入ってきた光景はそれより刺激的なものだ。

「あ、アタイが、入ってきたら、既に倒れてて……。」

「お、おい、大丈夫か?レフミーユ!直ぐに救急救命を呼べ」

「わ、わかった!」

頭から血を流してファリシーヤが倒れている。

良く確認してみると腰あたりも血塗れだ。これは、ケートニアー殺しのやり方だ。ケートニアーは腰辺りに造モーニ体を持っている。これを破壊することによってケートニアーはケートニアーとしての能力を失い、回復能力を著しく低下させる。

レフミーユが電話を外部に掛けているところ、ヴァイユはファリシーヤの元に置かれていた紙に気が付いた。何かがデュテュスンリパーシェの筆記体で書いてあるようだ。

【挿絵表示】

 

『ウルグラーダとそれに協力する粗悪なネートニアー共へ

ウルグラーダは俺たちのシマに無断で入って、秩序を破壊しやがった。

次はお前の番だ、セベリスの貴族・王族はイェテザルから立ち去れ。

そうすれば、金輪際一切うちの組の奴等がお前等の仲間を殺すことは無いだろう。

しかし、ウルグラーダだけは許さん、お前の関係者は皆殺しにする。

俺らレロド・フォン・イェテザルのシマを荒らした奴等は、

仁義やら任侠やら関係無しに報復をする。

これが最後の警告だ。

ウルグラーダとそれに協力するネートニアー共は

今すぐイェテザルから立ち去れ。

今すぐ、そして永遠にだ。』

 

「なんだ……これは……。」

シマを荒らした?秩序を破壊した?一切意味が分らない、ウルグラーダがどんな人物なのかも、自分たちが誰に狙われてしまったのかも。

文章を見ながらヴァイユはぼやけた意識を保ちながら救急隊が来るのを待っていた。

「レフミーユ!三人をこの部屋に集めるんだ!」

「もうセプロノさんはこっちに居るよ。でもクアが見つからないんだ。」

「なん、だって……?」

寒気がした。もしかして、クアまで謎の文章の書き手に殺されたのかと思い心配になってきた。ヴァイユはレフミーユとセプロノに部屋で纏まっているように指示して旅館中を探し回った。しかし、一階にも、二階にも、三階にもクアの姿はなかった。




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