旅の仲間が増えてきた。今ここに居るのは私「ヴァイユ」と、ラッテンメ人の「レフミーユ」、そして、テベリス人の「セプロノ」の三人だ。全員リパライン語が稚拙ながらも話せることは幸いした。しかし、全員PMCFの地理については詳しくない…。旅をするには全くふさわしくない
そう思いながら、宿を探し、今日は一睡することにした。男一人に女二人とはなんだか気まずい。
今掴んでいる情報といえば、「ウルグラーダ」と「レスタ」という名前と、彼らがテベリスの王室関係者なのではないかということ、そして、PMCFを観光旅行しているということだけである。しかも、彼らがこのマナナ島にいるとも限らない。マナナ島はPMCF最大の島とはいえ、他の島にも観光地は沢山あると聞いている。さて、これだけの情報で探すしかない…か。私はウェールフープ技師であるが、探偵ではない。せめてPMCFの地理に詳しい人がいればなあ。やはり地理のことなら現地の人に声をかけてみよう。しかし、あのパイグ訛りのリパライン語には、《苦い思い出》しかない。最初のパイグ人のリパライン語は文法も、語彙も、発音もむちゃくちゃというシロモノであった。アイル訛りも酷いと聞いた。さて、どうしよう。
…悩んでいると遠くから声が聞こえてきた。
…いや、パイグ語で言われましても。
どうやら相手も私はパイグ語を話せないということを察したようで、リパライン語で言い直してきた。
多少訛っているがまだ理解できる。「Jei, Liaxu harmie malfarno?」だろう。
「人探しをしていてね。私たちはパイグ語もアイル語も話せないし、地理さえもわからないんだ。協力してくれないか?」
「それならば、私、協力する、あなたたち。」
「そういえば、名前を聞いていなかった。なんて言うんだ。私はヴァレス・ユアフィス・フォン・ヴァイユ、そして…」
「アタイはレシェール・フミーヤ・ユヤファ・フォン・レフミーユだよ!」
「私の名前はセプロノ・イルケシです。」
紹介しようと思っていたら、突然割り込まれた。まあいい、手間は省けた。
「名前は、kua2-yua1tin1。」
…パイグ人の名前は非常に短いようだ。クア・ユアティンか。
「kua2は筆、yua1tin1は自分を磨く…という意味。」
名前の由来まで説明してくれた。
「それで、探している人はセベリスの王室関係者のようだが、どこに行けばいいと思う?」
「
「どうやって行けばいい?」
「山多い。故に船良い。」
「船か。どのくらいかかる?」
「思う、1時間くらいと。」
「まあそのくらいか、行ってみよう。」
「楽しそうだね!」
また耳をピョコピョコさせてる。結構、可愛い…。
「決まったなら、行きましょう。神社、見たいです。」
ところで、船はどこだ?港なんて……あ、あれか。港というかちょっとした船着場かな?漁船くらいの小型の船が浮かんでいる。
やはりアイル語やパイグ語が分かる人がいると楽でいいなあ。すぐさま手続きをしてきてくれた。アイルは漁業が盛んなので、1時間くらいの船旅ならタダでいいらしい。
「船、いい。」
船に乗り込み、ぼそっと呟く。みんな考えていたことは同じようで、同時に呟いてしまった。そしてみんな一斉に吹き出した。仲良くなってきたことを実感する。旅に出てよかったなあ。
さて、この旅はどうなるんだろう。いや、もうどうにでもなれ。と思った。旅に出る前の悩みがちっぽけなものに思えてきた。そうか、私に足りなかったのは「心の余裕」、そして「安らぎ」だったのか。ああ、ウェールフープ技師だった時は研究室に籠りっきりで友達も居なかったしなあ…あの時間は何だったんだろう。そんな事を考えながら船に揺られていると、
「何、ぼんやりしてるんだ?」
とレフミーユに聞かれた。
「いや、特に。空が青いなあ。ってね。」
話をはぐらかすと、
「何それ。」
くすっと笑ってレフミーユは空を見る。
「ほんとに青いね!」
本当に楽しそうだ。
「そういえば、ウルグラーダってどういう人なんだ?」
「白髪の、老紳士でね。あの人は恩人なんだ。詳しくはまだ、言いたくないけど…」
「言いたくないなら、仕方ないか。いずれ分かることだし。」
ウルグラーダってどういう人なんだろう?