「大丈夫だったんですか?先輩」
「ああ、大丈夫だ」
ここで大丈夫でないと告げたところで、解決するのだろうか。今彼女らが無事なのかはもはや祈るしかないだろう。いつまでもここにいるわけにもいかない。はやく宿に戻らなければと、ヴァイユの足を急かした。早く山を下りなければ。
「じゃあ、私はもう行くよ、宿に戻る」
「ああっ、その前に、連絡先お願いします。新しい情報が分かり次第、お伝えしますので」
ヴァイユは急ぎながらも、小さな弱弱しい文字をメモに躍らせた。半ば、宿に残った三人に残したメモのコピーのようなものだ。
「うわっ、先輩こんなに字ヘタクソでしたっけ…ありがとうございますー」
「今度時間があればメシェーラを使って芸術的に書いてやるよ、今は急いでいるんでね」
急いで山を下りる。駆け降りる。こういうときにはウェールフープは便利だ。別に戦闘の訓練を受けていたわけでもないので、誰かと戦うことは上手ではない。ネートニアーよりかは多少強い程度しかない。当然リパコールにはかなわない。だが、こういう少し大変な移動とか、そういう実用面では便利なものだ。特に今は急いでいるので、これでも使わないと。
先ほどの宿に着く。質素な作りの壁が見えるはずだったが、それは今緋色の炎に包まれており、焦げ臭いにおいが若干漂っていた。
「・・・・・・オイオイこれはどういうことだ」
先ほどにも増して焦りが募る。こんな時間だ、三人はもうそろそろ寝るだろうし、何処かの誰かがたばこの始末を怠ったとしか思えない。燃えているのは三人が泊まっているはずの部屋の反対の部屋だ。今から駆けつけて連れ出しても間に合うし、とっくに火災報知機などで避難出来ていても不思議ではない。だが、何かが心配で、それを確認しなければならないと思った。
建物の周辺にはすでに消防車、救急車が到着しており、時折やけどを負った宿泊客が運ばれていた。死者は出ていないのだろうか。避難したという人間達の中をまず探した。さすがに真反対にいたからとっくにそれを察知して避難しているだろう。焦燥感に駆られ、もはや三人のことしか頭に浮かばない。
夢中になって探していると、後ろから男性の声で話しかけられた。消防隊員なのだろうか。防火服を身にまとい、ヘルメットを装着していた。
「あの、どちら様をお探しですか?」
「ウルグラーd……じゃなくて、レフミーユとセプロノとクアを探しているんだ。共にここに宿泊していた者たちだ」
「その者達なら、余の保護下にいるぞ、青年」
冷静な声色に反応して振り返ると、明らかに立場を間違えたような呼称を用いた少女が避難民に紛れて座っていた。火災から逃れるためかまだ片手にハンカチを持っており、それを今まさに仕舞おうとしていた。そしてボロボロの黒のキャミソールを着ていた。
「保護下にいる…ていうのはどういうことだ?」
「事情を話そう。ちょっとこっちへ」
親指を奥の方へ向けながら、ヴァイユを誘導する。集団から少し離れたところに着いたところで、その少女は話した。
「余は旅の者だ。例の三人は何者かに襲撃された。場所は余の部屋の前だ。余の部屋はホテル内でも真ん中の方で、階段も近い。彼女ら三人はもしかしたらお前の事を探しに行っていたのかもしれない」
とりあえず聞いていた。なんとなく嘘くさい気もしたが、相手が何者なのか一切わからない。そして名乗りもしないことも怪しかった。
「だがそこで、覆面の男が窓ガラスを破って侵入してきた。余はちょうど玄関前にいたからすぐさま駆けつけて三人を救出したが、その時に男が放った流れ弾がちょうど反対側にある部屋のドアに着弾して、そこから火災が発生したんだ」
彼女の説明では、つまり覆面の男が不意に火災を発生させたということになる。
「だが例の三人はどうやら足を切られたらしく、動けそうにもなかった。そこで説得をして三人をここから遠く離れた安全地帯にウェールフープで強制送還したというわけだ。男の襲撃を避けるためにもな。というのもその時にもまだ男は息があったから」
「なるほど」
ずいぶんと大きなお世話をやってのけたようだ。
「だがそのかわりに一つ条件を猫耳の娘からつけられた。余は承認したが。」
「その条件とは?」
「『ヴァイユが帰ってきたら三人で無事に会わせてほしい』とのことだ。どのように会せればいいかはリクエストを受けていないが、そのままここに呼べばいいか?」
「その方がいいと思うが、男はどうなったんだ?」
「ひとまず男は逃げて行ったが、よっぽどパニックだったらしく、そのまま火元の方に走って行ったよ。その後彼の行方は余も知らない。見た感じケートニアーだったようだが」
「…そうか、まあ大丈夫だ」
俺がいれば、と付け加えたいところだったが、流石にそんなキザなセリフを年頃の女の子に堂々と吐けるほど大胆な男ではない。
「では今から呼んでくる、しばしそこで待っていてくれ」
「ちょっと待て、俺はヴァレス・ユアフィス・フォン・ヴァイユ。君の名前は?」
一息置いて答えた。
「余はレソル・カルメレスドゥン。こんな名前だが出身はリパラオネ連邦だ」
彼女は姿を消した。
今回より参戦いたします、KPHT(かぱはた)です。前回の投稿からちょうどテスト期間に入っており、その中での更新となります。いきなり時間が空いてしまって申し訳ありません。
「ヒカピン?いえ凡貧ですが?」氏からのキャラクターを採用させていただいております。名前設定は私が勝手に考えました。
キャラクターの受け付けは随時受け付け、反映していきますので、どうかよろしくお願いします。
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