平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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083:幾度目かの20歳のイヴ

「ふぅ……」

 

 女は、爆弾のスイッチを握り締めたままその光景を離れた所から眺めていた。

 誰も来る者はない。そも、知る者もほぼいないだろう隠された倉庫。

 その隠されていた荷は、今しがた全て吹き飛ばした。

 男に頼まれた、たった一つの依頼だった。

 いや、もう一つ。男が敵を引きつけている内に、安全に脱出すること。

 

 

――これは俺の個人的な寄り道だ。

 

 

 女は、手を組んでいる男の言葉を思い出し、苦笑を浮かべる。

 

「本当に、男という生き物はどいつもこいつも」

 

 今頃、銃弾の雨嵐を掻い潜り暴れているだろう男。そしてもう一人――どこかのだれかの姿を。

 

「馬鹿ばっかり……」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

12月8日

 

 どうにも長野の倉庫街でドデカいドンパチがあったらしい。高明刑事がこっそり情報を流してくれた。

 おまけに中身にどうも、神奈川県警内部で横流しされていたと思われる品が混ざっていたのだと彩実刑事も情報を流してくれた。

 なお、長野県警からの横流しも確認されたと高明刑事からの情報に付け加えられていた。

 予想はしていたけど……。

 

 一度に使われれば小競り合いでは済まないレベルの銃火器、それらを無事押収。

 ただし、その情報が表に出る事はないようだ。

 ま、そりゃそうだろう。両警察の特大級の汚点をそうそう明かすわけにはいくまい。

 

 次また非番が重なる時を見計らってこっちに来れるようにするらしい。

 三人で飲もうと言う話だ。

 

 うん、絶対ただの飲みじゃないよね? 飲みという名前の作戦会議だよね?

 

 

12月9日

 

 以前、万引きしようとしていた女の子をとっ捕まえて止めさせた事があったんだけど、その子が七槻の会社に無事入ったようだ。や、手引きしたの俺だけどさ。

 

 水野薫子(みずのかおるこ)

 まだ高校生なのだが、バイトという形で入ってもらった。

 

 ぶっちゃけ、万引き止めた後に店に頭一緒に下げに行った後からなんか懐かれて、これまでちょくちょく小さい仕事や俺の補佐を頼んだりしていた。

 おかげで、仕事に関しては問題ないだろう。ウチに遊びに来た時に穂奈美さん達から合気道習ってたし。

 

 問題はむしろこっち。そうこっち。

 ぶっちゃけ向こうが整ったら、ふなちに戻ってもらおうかと一瞬思ってしまった。

 しないけどさ。ふなちまでこっちに来ちまったら意味がないからさ。

 

 本当にどうしよう。もういっその事スパイ上等で怜奈さんを――いやぁいかんいかん、メディアに対しての玄関口を減らすわけにはいかんし……

 

 

12月10日

 

 長野で起こったドンパチの現場を調べに向こうに出かけ――追い返された。只今長野のホテルにてペンを取っている。

 ちくしょう、四国の一件があるから俺達を警戒してやがるな。

 

 まぁ、今は中に忍び込んだ沖矢さんと瑞紀ちゃん、真純が中を調べている。さっきからチマチマと、阿笠博士が作ってくれたカメラで撮った画像をこっちに送ってくれている。

 

 万が一に備えてメアリーもこっそり近くにつけているし大丈夫だろう。

 というか、メアリーってば妙に沖矢さん高く買ってるよね。

 

 真純が長野に同行したいって言いだした時に、こっそりメールで沖矢さん同行させろって言ってたし。

 さて、そろそろ下のバーに行くか。ちょうど青蘭さん来てたみたいだから飲みに誘っておいた。

 

 なぜかメアリーから、お前は下手に動くなって忠告されてたし休憩がてらちょっと一息入れさせてもらおう。

 警察官のパトロール情報や、あの現場にこだわっている警察の人間の洗い出しを一日である程度終わらせたから疲れた。

 

 

12月11日

 

 久々に大学に出た。

 ヤバいな、七槻とかふなちはどうにか学校行けて――っていうか行かせるようにしているけど、こっちは入院とかカチコミとかしている日数が多くてちと不味い。

 いや、不味いっていうのもなんか納得いかないんだけどさ。

 

 大学側からも遠回しに中途退学勧められるしちくせう。

 や、わかるけど嫌なんだよなんか。

 止まっている時間の間になんで俺が止まる前にやってた事捨てにゃならんのだ。

 

 ともあれ、久々の講義――というか、なんか久々に七槻とふなちの二人と肩を並べて外を歩いた気がする。

 カリオストロからこっち忙しかったからなぁ。会社の事もあって。

 

 んで、恩田先輩含めた四人で学食で飯食おうとしたら、安室さん達事務所の人間もいた件について。

 目立つよ。そりゃあ目立つよなにしてんのアンタら。

 穂奈美さん達も来てたからな。それに怜奈さんも。

 

 単純にこっちにご飯を食べに来たらしい。

 いや、まぁちと前にもキャメルさんと初穂さん来てたけどさ。

 キャメルさんこっちでもカレー食ってたけどさ。

 

 おかげで遠くから地味に写メ取られまくってたわ。

 安室さん最初はカメラとかテレビとか全力で避けてたけど、なんか今年に入ってからノリノリだよね? なにか心境とか環境に変化でもありました? ヤケクソってわけじゃないですよね?

 

 

 

12月15日

 

 微妙に治安が良くなってきた気がする。

 というか、犯罪が雑になって来た。

 白鳥刑事が言ったように、枡山さんマジで海外に逃げた? 勢力伸ばすって言うなら分かるけど、それならこっちに致命的な一手を打つと思って警戒してたけどそれもなし。

 

 やっぱり例のドンパチか?

 痕跡は消されていたらしいし、念のためにメアリーも後から調べたらしいけど詳細は不明との事。

 

 対抗勢力が現れたのかもしれないとメアリーは言っていたな。

 問題はそれがどこのどれほどの規模の組織なのかという話だが。

 

 とはいえ、今ならば少しは猶予がある。恩田先輩と初穂さんの二人、ちょっとイギリスまで出張。

 元々米花町で多かった身代金目的を始めとする誘拐事件の対処は、地味にウチに良く来る案件であるので今回研修に出てもらう事にした。

 

 解決というより交渉(ネゴシエイト)の研修だ。

 警察に電話するなと言うのを真に受けてこっちに電話してくる人が多くて多くて……。

 

 捜査、逮捕は警察に任せてこっちは交渉に対応するのが主だった。

 瑞紀ちゃんの変装スキルを使って交渉役と入れ替わったりとか。

 

 いい機会だから正攻法を覚えてくるのもいいだろう。イギリスは誘拐保険があるため、交渉等の蓄積は多い。

 ホントは初穂さんと双子のどっちかの予定だったのだが、恩田先輩の強い要望で向かわせることにした。

 

 元々努力家な恩田先輩だけど、例の蘭ちゃんが記憶を失くした事件からえらく気合い入ってるなぁ。

 

 

 

12月16日

 

 空港まで見送って来た。なんか真純が微妙な顔してたけどアレなんだったんだろう? メアリーもなんか微妙な顔してたし。――というか頬抓られた。『お前は一体何なんだ』と言われましても……。

 

 というか最近メアリーと過ごす時間が多い気がする。

 最初の条件に、接触は最低限と言われてたけど……監視なの? 観察なの?

 

 まぁ、態度が柔らかくなった気がするから別にいいけど。見た目年下の年上っていう複雑な立場だけど、やっぱり綺麗な(ひと)はいい。

 源之助も妙に懐いてるし……クッキーは懐かないけど。

 クッキーは、最近だとむしろ真純に懐いているな。

 

 家に遊びに来ると、とてとて~っと近づいて鼻先擦りつけてるし。

 クッキー連れて飼い主の顔見に行くか。レストランの飯盛さんも連れて。

 

 

 

12月17日

 

 再び女子会に同席する事になった。

 というか女優会か。

 メンバーは星野さんと沢崎さん、それと来日していたクリス=ヴィンヤードさん――前に会った外人さんだった。その節はどうも。

 

 いやぁ、飲んだ飲んだ。クリスさん話がえらく上手いわ。

 仕事の話を詳しく聞こうとしてくるから話を誤魔化すの大変だった。

 

 そこからキャメルさんと金髪の美人さんも来てなんか微妙に気まずかったわ。

 顔写真では知ってたけど、例のFBIの人かぁ。

 うん、美人ではあったけど……なんだろう、こう……嫌な予感というか妙に不安にさせるというか。

 

 完全に勘だけど、キャメルさんに目を離さないように言っておこう。

 

 

12月18日

 

 尾行されてる件について。

 ターゲットは俺と、多分志保。志保はどうやら気付いてないみたいだけど。

 

 組織の人間ならばとっくに手を出してるだろうし、そもそも志保が言うには組織の人間は基本的に分かるらしい。実際、安室さんには近づこうとしないし、沖矢さんも明美さんから聞いてなかったら組織の人間だと思ってたらしい。まぁ、そりゃそうだよなぁ。

 

 さて、そうなるとアイツらは誰だ? 外人っぽいけど、プロじゃない。というか、微妙に日本に慣れていない?

 少なくともCIAほど上手くはない。アイツら気が付いたら色々ちょっかい掛けてくるから。

 

 となるとFBIか? ちくしょう手が足りねぇ。

 

 恩田先輩達も帰ってくるのは年明けだし……。まぁ、そっちはいいか。

 なんか向こうで早速テロ事件の捜査に協力、解決したらしいし心強い。

 スコットランドヤードとのつながりも作って来たと報告あったしホントありがたい。

 

 あれ? 誘拐関係の研修だったよね?

 

 

 

12月19日

 

 キャメルさんにカマかけてみたけど本気で知らないっぽい。

 もしこれが演技だというのならば、FBIが本腰を入れてきたという事だ。あるいは、最悪キャメルさんが向こう側に切り離されたか。

 

 さて、どうしよう。

 FBIを取り込もうと考えていたけど、俺の家族に手を出すのならば公安の人に情報提供して外交問題にまで持っていくのも辞さない構えだ。

 

 とはいえ、とはいえ、だ

 重要人物に外に行かれるのもあれだし……

 

 蘭ちゃんの学校にいるってことだし、コナンと出会うようにセッティングしてみるか。

 まずはそっからだ。

 

 

 『追記』

 よく考えたらジョディとか言う人の件はおかしい。なんでまだコナンと出会ってないんだ?

 キーとなる事件が起こっていない? いやでも接点は確実に出るはずだ。

 これが例えば安室さんとか風見さんとかそういう人間なら分かるけど、蘭ちゃんが間に入っている人物で接点がないってどゆこと?

 

 あ、駄目だ。書いてて胃がシクシクしてきた。

 

 

 

12月22日

 

 CIAにちびーっと情報リークしてFBIの動きに対応してもらっている。馬鹿正直にFBIとは言わず、こっそりいくつか手掛かりバラ巻いていったけど、上手い具合に調べて手を打つハズだ。今回はFBIがCIAの領分にある意味土足で上がっている事になるし。

 

 多分、こっちに情報は来ないだろうけどいい牽制になるはずだ。

 

 事実、昨日今日は監視の目はほとんどなかった。

 おかげでのんびり七槻とふなち、志保の買い物に付き合って映画見て飯食って帰ってきた。

 

 ワインも飯も美味かったなぁ。七槻もいい店知ってたもんだ。

 

 

 『追記』

 今、メアリーから連絡入った。さっそくCIAとFBIが、互いの正体を知らずに諜報合戦を繰り広げているようだ。

 時間稼ぎにはなったか?

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「こうして君とゆっくり街歩くのも久しぶりだね」

「だなぁ。最近は会社の件で忙しかったし……」

 

 何度目かの20歳のクリスマスイヴ。

 去年は仕事の処理に慣れてなかったのもあって、こんな風にゆっくりしている暇なんてなかったが、今年はちっと忙しい程度で済んでいる。まぁ、人員が増えたのが一番だ。

 

「さて、楓のクリスマスプレゼントは何にするべきか……」

「哀ちゃんはいいの?」

「アイツにはもう用意してある」

 

 フサエブランドのバッグとか抜かしやがったので拘束してくすぐりの刑に処してきた。その後鳩尾にヘッドバット喰らった後に顎に一発いいのもらったけど。

 俺を昏倒させるとかやるな、アイツ。

 

 まぁ、アイツには研究施設とセキュリティと色々用意してやったし、子供らしく服でいいだろう。

 カシミヤ生地を安く回してもらってたから、二月ほどかけて楓とセットでコート作っておいた。それに既製品のちょっとした小物か帽子を付けてやればいいだろう。

 

「しかし、肝心のお前へのプレゼントがこれでいいのか?」

「いいのいいの。浅見君に任せようとすると気合い入れちゃうでしょう? 今は渡す人数多いんだから、これでいいの」

 

 むぅ。去年はほとんど何も出来なかったから気合い入れようと思ったのに、ただ単に出かけるだけで良いと言われるとは。

 金出そうと思っても頑なに拒否されるし。普通に割り勘だ。

 

 ちなみに明日はふなちだ。プレゼントの準備始めようとした時に真っ先に仕事を入れないように釘を差されていた。

 

「なんだろうね」

「ん?」

「こうして仕事とかで忙しくなると、なんだか学校や、こうして君と歩いてるのが凄く楽しいんだよ」

「……こっ恥ずかしくなるから止めてくんない?」

「ふふっ」

 

 なんかコイツと最近腕組むの増えたなぁ。

 まぁ、前に普通に歩いてたら雑誌になぜか不仲説書かれたからなちくせう。

 多分、越水が事務所離れて会社作ろうという話を出したあたりだからそれが原因だろうけど。

 

「じゃ、ま。デートの続きと行こうか。次、どこ行く?」

「そうさね……」

 

 去年もそうだが、今年も激動の一年だった。

 おかげで、最初の一年の時ほどパニックにもならないし、憂鬱にもならないが――逆になにか寂しさを感じる。

 こんだけやっても変化がない事の寂しさか、こんだけあって去年とか言っているのになにも違和感を覚えない皆に対してか。

 

「とりあえず、適当にブラブラ駅の周りの店覗いてみようぜ」

 

 きっと、俺が学校を次の進級をするまでには、大きく変わってしまうだろうこの街を。

 ちょっとでも長く、コイツらと一緒に眺めていきたい。

 

 

 

――もうすぐ、また明けない新年が来る。

 

 

 




本日のキャラ紹介

水野薫子(みずのかおるこ)
File478 リアル30ミニッツ(アニメオリジナル)
DVD:PART16-3

別名、個人的にあの同時進行のテレビ番組の意味を小一時間問いただしたい回。
そこまで好きな話というわけではないハズなのに、なぜか妙に印象に残っている話。

やるならいっそ、高木と犯人のキャッキャウフフ回くらいぶっ飛んでくれてたらなぁと少し思う。

そんな話の中に出てくるのがこの子です。
紫のメッシュが印象的な、万引き常習犯。
じつは年齢不詳なのですが、多分高校生くらいだろうと辺りを付けて本編の設定にしました。

口は悪いですが元気がよく、同時にはみ出したいだけの普通の女の子でしたね。
こういう子の方が妙に可愛く見えるのはなんでなんだろうか。


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