不二子の銃撃! 浅見は歯を食いしばった!
不二子の格闘! 浅見は歯を食いしばった!
不二子のナイフ! 浅見は歯を食いしばった!
不二子の麻酔弾! 浅見は自分を攻撃した! 浅見は歯を食いしばった!
不二子の銃――
――おや? そとのようすが?
「高校生探偵、工藤新一の助手という環境に根を張り、経験を吸い上げ、そして――彼はその才能を開花させた」
最初は一つだったモニターが、今では3つ並んでいる。
どうやってか、この遊園地の監視カメラの映像がそのまま流れている。
「どのような相手が、どのような凶器を持っていようが真っ直ぐ立ち向かう胆力」
そのモニターの中の一つには、銃を持ったまま走り回る男が映っている。
「曲者揃いの政財界を泳ぎ抜いてきた傑物を相手に対等に立ち回れる頭脳」
もう一台には、その先の遮蔽物に身を隠している江戸川コナン、毛利蘭、そしてアンドレ=キャメル。
「様々な技能を持ち、とびきり優秀な――だが癖の強い人間を配下に置き、そして魅了し続ける人望」
更にもう一台には、一瞬だが、走り抜けていく世良真純と恩田遼平が映る。
「そして……あらゆる脅威に真っ向から立ち向かう武力」
銃を持つ男の映像には興味もくれず、枡山憲三はキャメル達三人が映っている映像を凝視している。
「そして、それらの技能と人脈、得た権力に溺れないその精神力。あぁ、彼こそ――浅見透こそまさに!」
いつの間にか、枡山の手には安っぽい紙コップが握られている。フードコーナーのお冷用に置いてあった物だ。
そこに、持ち込んだのだろう酒瓶から中身を注ぎ、軽く呷る。――ピスコを。
「分かるかね、お嬢さん。あの夜、あの夜! 自らの顔を仮面で隠しながらも死地に踊り込みそして今! 世界の行く末を左右しかねん巨大な闇を打ち破らんとする! これほどの男に出会えた私の喜びを!」
酒が入り、より興奮してきたのだろう。
老人の声に、熱が入りだす。
「時代だ。今ではなく、違うどこかに世界を導こうとする、そう、新しい時代が人の形をとってまさにいる……っ!」
ふと我に返り、調子を戻そうとするが言葉の端々から熱は消えない。むしろ増してそう断言した。
「……ええ」
その老人の言葉に、魔女は肯定を示す。
「えぇ、そうね。私が彼に力を貸すのも、その先を見てみたいからだもの」
「くっくっ……まいったねぇ。本当に君をこちら側に勧誘したくなる。どうかね? 求める物があれば可能な限り応えるが?」
「悪いけど、私はもう少し彼を後ろから眺めていたいの。真正面から彼を見つめたい、そして見つめられていたい貴方と違って」
「…………惜しいな。あぁ、本当に惜しい」
老人は、心底魔女を気に入ったようだ。しきりに惜しい惜しいと繰り返しながら、手元のリモコンを操作し、モニターを切り替える。
「それで? 貴方はなぜ彼を淡い灰色と称したのかしら? 貴方は彼に、能力や才能による力強さと別にある種の無垢さを感じたという事かしら?」
「ほう、良い質問だ」
老人は、更に酒を一口呷る。
「芸術、とはどういうものだろう?」
「それは絵画や彫刻、文学といった?」
「もっと広い意味だが……まぁ、それでいい」
「……曖昧ね」
紅子は、これまで自身が目にしてきた色々な作品を思い返していく。
「優れた――いいえ、ちがうわね。とにかく、自身の感性を表現する術を持ち、表現する機会を得て、何らかの影響を及ぼすと認められた物……かしら?」
「少々自信がないように聞こえるね」
「えぇ、芸術を理解できるほど経験も年齢も重ねていないのよ」
「ふむ……」
老人は変わらず酒を呷る。だが、顔にそれほど変化は出ていない。
「芸術とはなにか、そも、芸術とはどこから始まるのか。何から芸術足り得るのか」
高そうな酒瓶に似つかわしくない紙コップを振りながら、老人は呟くように言葉を紡ぐ。
「私はね、無垢なるモノを汚す所から、あるいは傷を付ける所から美しいモノは始まる。そう考えている」
ただ真っ白なだけの紙コップ。その外側に微量の酒が伝い、一筋の線を描く。
「よく、ただただまっさらなだけの物を美しいと言う人間がいるが……それは美しいのではない。ただただ綺麗なだけだ。不快感は感じないだろうが、心を動かす物にはなりえん」
そしてコップの底の淵から垂れた一滴の滴が、老人の高そうなスーツのズボンに小さなシミを作るが、老人は全く意に介さない。
「ただ白いだけのキャンバスに目を止めるかね? ただの白紙を有り難がるかね? 絵も文もない白紙の本にどれほどの価値があるのかね? 一切削られていないただの大きなだけの石に心を動かされるかね?」
まるで退屈を感じた子供がそうするように、今度はコップの淵に爪を立ててへこませた。
「そう。事ある全ての芸術、全ての美は、何かを汚す事から始まる。無垢が汚れる事こそ美。汚したいという欲求は美の追求の第一歩なのだよ」
「……そして行きすぎた汚れが蛇足と呼ばれる?」
「いいや、蛇足の集まりこそが美の中身なのだよ」
魔女の問いに、老人は自信を持ってそう答えた。
「人の生も同じだ。純真無垢な赤子に、知識――いや、知恵という異物と周囲の持つ偏見を流し込んで一人前とする。無垢な者は未熟とされる」
「……古く長く残る物を良しとするのは人の性でしょう。だから人も文も絵も物も、いわゆる古典というものはおしなべて重宝される」
「真に古典を理解している人間がどれだけいる? 大半は手垢の厚さを有り難がっているだけだろう」
老人は、なにか思い当たる事があるのか不機嫌そうなオーラを醸し出す。
「……それにしても、知恵が異物とは言ったものね」
老人にこちらへの敵意も害意もない事は分かっているが、魔女は一応老人の敵である身だ。
不機嫌なオーラをずっと浴びせられるのも勘弁だと、話題を変える。
「まだ温い表現だよ。聖書を見たまえ。なぜ知恵の実が触れ得ざる物として扱われた?」
それに関して、魔女は頷かざるを得ない。魔女にとって禁断の果実、そして原罪という物は非常に関わりの深い物である。
「浅見透は……それら自分を構成する蛇足の塊を常に疑っている」
「……そう聞いたの?」
「いいや」
「では予測?」
「確信だよ、お嬢さん」
自信満々に老人はそう言う。
「常に、彼はどこかで自身をリセットすべきではないかと恐れている。故に淡く……故に灰。白い絵の具を溶かした水に、数滴黒を垂らすような……」
対して、魔女は呆れて深いため息を吐いた。
「よくもまぁ……」
「ふふ……だが、君が浅見透に近しい者だと言うのなら分かるのではないかね?」
「えぇ、まぁ……。彼、まず自分の存在そのものを疑っている節があるわね」
「そうだ。自分が多数派かどうかを悩む人間は多く見てきたが、彼はもっと深い所で自己の存在に疑問を持っている」
「……えぇ、そうね」
ついに最後の一杯になるのだろう。
紙コップに向けて傾けられた瓶の底が高く持ちあがり、瓶の口からは酒は流れず、滴となってコップの中へと滴り落ちている。
「完全なまっさらには程遠く、しかしどこか無垢な所を見せる。だから手を加えたいと、自らの色を付け加えたいと、汚したいと思ってしまう。同時にそのままでいてほしいとも」
カメラの向こうでは、銃を持つ男の前にアンドレ=キャメルと江戸川コナンがその身を晒している。
「だからもっと見ていたいのだ。彼の脆くも強い所を」
どうやら、江戸川コナンが犯人相手に啖呵を切っているようだ。恐らく、あの男の犯行を順々に本人の目の前で解き明かしているのだろう。
「――ふむ。やはり私の蒐集物にするには、彼は役者不足か……」
「……蒐集ですって?」
「あぁ、私も中々に優秀な部下達がいるのだが……彼と相対するには少々色が薄くてね……」
最後の一杯だからか、老人はコップを呷るのではなくチビっと酒に口を付ける。
「淡く、儚い彼が好きなのではなくて?」
「そうとも。だからこそなのだよ」
さすがに大分酩酊してきているのだろう。
僅かに頭を揺らしながら、老人は言う。
「淡く儚い色が真にその輝きを発するのは、強い色に囲まれた時なのだよ」
「それで、集めたカードで彼を囲んで殴りつけようと言うのかしら?」
殺しにかかっているとしか思えない。いや、それもそうなのだ。
この老人は、全力で浅見透とぶつかり合うつもりだ。
今度は魔女が不機嫌そうに、眉を顰める。
「ねぇ、貴方」
「何かね?」
「一応、宣言しておくけど――」
「――彼、貴方には負けないわ」
「ほう、そうかね? あぁ、そいつは最高だ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「言っただろう、もう全て種は割れているってな――風戸京介先生」
「おやぁ、だけどあのホテルでの事件の際、僕から硝煙反応は出なかったんだよ?」
「…………傘、でしょ?」
犯人――精神科医の風戸京介は、銃に弾を込めて一歩近づいてくる。
(もう、かなり弾は消費しているはずだけど……くそっ、全部を使い切らせるまではいかなかったか!)
ボートを使って『冒険と開拓の島』まで脱出、助けに来てくれたキャメルさんと合流して、迂回したりして何度か無駄撃ちをさせながら、その後ようやく『科学と宇宙の島』まで来た。
相手の拳銃を奪うため、一つ策を思いついてここまで逃げ込んだ。
(時間まで後少し、それまで時間を稼がないと……っ)
「主力がいないとはいえ、我々の捜査力を侮りましたね。すでに傘は回収済みです。ご丁寧に指紋は拭き取ってくれていたようですが……」
「――いつから私だと疑っていたんだ?」
「最初に気になったのは、貴方が電話を取った時さ。あの時、貴方はとっさに左手で電話を取った」
「今回の犯人が左利きだという事はコナン君が最初に気付いていましたからね」
「その後、アンタが左利きの外科医だってことが分かった。ま、例の事故で左手を痛めたからかとも考えたけど……普段の検診の様子からそんな素振りは見えなかったしな」
風戸にとって、別に大したことではないらしい。
軽く肩をすくめて、やれやれと大げさに嘆いてみせている。
「だが、君の言葉は少々違うね。あれは事故じゃない」
「……やっぱり、わざとだったんだね? 仁野保の手術中のミスは」
「あぁ、酒が入った時に尋ねてみたら、アイツはなんの罪悪感も無しにこう言ったんだ」
「――お前は人が良すぎるんだよ……ってなぁ!!」
ふと、今はここにいない相棒との会話を思い出す。
『黒川さんの一件から、お前や安室さん達とこうして色々事件に関わるけどさ。何が辛いって、犯罪を犯してしまった時の人の気持ちが分かる時なんだよなぁ……』
『気持ちって……例えば?』
「アイツはわざと、俺の腕にメスを振るったんだ!!」
『実際に強い殺意を抱く理由があったり、あるいはそこまで追い詰められていたり、なんとなく襲われる事を予想していたり……まぁ、色々だな』
『…………』
『もっと早く、誰かにそれを伝えられていれば防げていたんじゃないかって……常々思うのさ』
『……そうだな。だけど、探偵にはそれが出来ない。結局、本人が誰かに相談する勇気を持つしかないんだよ』
『…………そうだよなぁ。うん、それが正しい。正論だ。でも――俺はそれだけで納得はできないかな』
(浅見さん……正直、今ここでアンタにいてほしかったよ)
最近では、麻酔銃も変声機もそれほど使っていない。
浅見透を通じて、自分の発言が少しずつ信用されるようになったからだ。警察の目暮警部達も、――意外な事におっちゃんにも。
(今、アメリカで何をやってるかわかんないけど……アンタならもっと早く手を打てたんじゃないか?)
助手という事にしたのは、本当に偶然だった。
黒川邸事件での出会いから、こちらに協力してくれる奇妙な大学生だった。
それが森谷の事件を通し、その後アイツ自身が関わった事件により、今ではなくてはならない協力者に――そしてなくてはならない後ろ盾になってくれている。
自分が子供の姿のまま、多少強引に事件に関われるのは、ほとんど浅見透のおかげだった。
自分の体の事は知らないまでも、協力してくれる人も増えた。
今こうして、共に立ってくれているキャメルさんのように。
今、後ろで色々と手を回してくれている鳥羽さんのように。
ただ、それでも思う。思ってしまうんだ。
なぁ、ワトソン君。今――いやもっと前、警官が襲われ始めたって時にお前がいれば、もっと違う絵を描けたんじゃないか?
いつも、誰かが被害に遭う前に、あるいは誰かを害してしまうその前に何とかしようとしているお前なら……。
「タイミングも良かった。ちょうど奴は手術ミスで訴えられていて、自殺する動機も揃っていた」
「……それを不自然だと思っていた人もいたようだけど?」
「あぁ、奴の妹か。確かに彼女はずっと騒ぎ立てていたけど、所詮一介のルポライター」
余裕たっぷりなままそう言う風戸に向けて、キャメルさんが口を開く。
「しかし、彼女が警察を攻め続けたために再捜査が行われたのでは?」
「ふん、その理由は全く別さ。ヤツが裏で行っていた横流しが、あの警視長のバカ息子にばれて強請られていたのさ」
キャメルさんの問いかけに、奴はやはり自信を持ってそう答える。
「……白鳥刑事。いや他の人からも聞いたのかな?」
考えられるのはそこだ。この男は、白鳥刑事の主治医だった。つまり警察から信用されていた男だ。
あるいは、他にも担当していた刑事がいたのかもしれない。
「あぁ、奈良沢刑事からね」
「目的は、友成真さんに罪を着せる事だね?」
「本当に……見事だよ、コナン君」
おそらく、息子の友成さんが病死した友成刑事の事で警察の事を恨んでいる事を聞いていたのだろう。
奈良沢刑事か、あるいは白鳥刑事から。
「奈良沢刑事が息絶える前に指し示した胸。あれは、胸ポケットの警察手帳じゃない。心療内科を示す『心』を――心臓を差していた」
「だろうねぇ」
「そしてそれを聞いたアンタは、捜査の撹乱を狙って芝刑事を殺害した時、彼の手に警察手帳を握らせた」
「あぁ。おかげで警察は警察関係者か、あるいはその関係者の息子――友成真を容疑者として捜査の重点を置いてくれたからねぇ」
そして風戸京介は、もう話す事は終わったとばかりに銃を片手に一歩踏み出す。
「さぁ、話は終わりだ。君たちには消えてもらおう」
キャメルさんが、俺たちの前に出ようとするのを制する。
理由は――いや、もうキャメルさんにも分かっているだろう。
そもそも、いくらパレードがあっているとはいえ、この時間に、それなりに目立つこの周辺に人が全くいないという時点で、こちらの連絡を受けたあの人が手を回してくれた事は間違いない。それも、完璧に。
第一に、ルートも含めて一般人への被害を出さないようにする事。
そして――
「残念だけど風戸先生。そうそう貴方の思うようにはいかないと思うよ? まぁ、想定から外れているのはこっちも同じだけどさ」
そう言って肩をすくめてみせると、風戸は眉をひそめて一瞬怪訝な顔をするが、おそらく戯言だと思ったのだろう。
ふん、と鼻で軽く笑い、俺たちに銃を向ける。
「そんな
言えたのは、そこまでだった。
続けようとした言葉は、真横左右から飛んできた何かが空を切る音に遮られた。
ひゅんひゅんひゅん、っという軽い音に気を取られ、引き金を引くのを一瞬ためらったのが――この犯罪者の失敗だ。
「――な、なぁっ!??」
次の瞬間には、バランスを崩した風戸京介がその場に倒れていた。まるで何かにつまづいたように。
「な、なんだこれは――靴と……水筒っ?!」
一つは、革靴の左右を靴紐で結んで繋いだもの。もう一つは、同じように二つの水筒を繋いだ物だ。
革靴の物は両足に、水筒の物は両手をぐるぐるっとその紐で絡み取り、動きを完全に封じている。
「よ、よかった、キチンと当たってよかった!」
「どうだい犯人さん、ウチの所長直伝の即席捕縛術の効果はさぁ?」
ボーラという石と紐を使う鳥の捕縛に使う道具を、靴や水筒で再現したモノを投げつけた二人――恩田さんと鳥羽さんが物影から姿を現す。
「うおおおおおおおっ!!!!!」
なんとか立ち上がって反撃しようとしている風戸目掛けて、今度はその後ろの物影から飛び出してきた人間がいる。
空手ではないが、蘭と同じく格闘技――ジークンドーを修めている帝丹高校の転校生。同じ教室で会った事はないが、俺の同級生。
世良真純が、躍りかかっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「コナン君、蘭さんもよく今まで頑張ったね。もう大丈夫です。後は私達に任せてください」
ボコボコにされて気を失った――いや、本当にアレはやり過ぎだと思う――風戸京介を念のために拘束した上で、キャメルさんが俺と蘭に向けてそう言う。
「ま、そう言うこった。例の銃撃犯の方がまだ残っちゃいるが……」
「あ、それなら――」
多分、あの男がケリを付けてくれたはずだ。
犯人を殺害してケリを付けるのかと心配だったが、あの男は『殺しはしないから安心しろ』と言っていた。恐らく大丈夫だろう。
敵――のはずなのだが……あの男の言葉には妙な説得力があった。
「あの、その犯人なら……大丈夫だと思います。その……多分」
先ほどから様子のおかしかった蘭は、少し体調を取り戻したのか今は大丈夫そうだ。
ずっと俺の手を握って、だがしっかり立っている。
自信なさ気にそう言う蘭を、鳥羽さんは『ふぅん?』と暫し見つめ、
「そーかい。ま、そっちの方は警察に任せるさね。さて……恩田ぁ?」
「警察への連絡、及び簡単な説明を終わらせています。すぐに目暮警部達が到着するでしょうから、ゲート外まで風戸先生を運んだほうがいいでしょう……その、立てそうにありませんし」
「やりすぎなんだよ真純は……」
「あ、あはははは……拳銃持っていたからつい……」
「ま、いいさ。恩田、そこらへんも上手い事言っときな」
「……まぁ、状況説明等は私の仕事ですけど……犯罪者を捕まえた傍から、違う犯罪に手を貸している気がするんですがそれは――」
「知られていない犯罪は犯罪じゃないさ」
「……このひと、本当に……」
既に双子のメイドさんと小沼博士が、他の人に騒がれないように従業員用の通路の手配をしているらしい。
「あ、そうだ……」
本来の予定では目眩しに使うはずだった噴水。その時間まであと少しな事に気が付く。
時計のバックライトを付けて、そっと数える。
(10秒前か……9、8……)
恩田さんやキャメルさん達がキチンと離れていて、水がかかる位置にはいない。
向こうから、別行動をしていた紅子さんとスタッフに協力を頼んでいた穂奈美さん達が歩いてこっちに来るのが見える。
(7……6……)
「5秒前……」
「――え?」
突然上の方から響いて来た声に驚いて、思わず見上げる。
蘭だ。
少ししゃがんで、俺の頭の上から一緒に時計を覗き込んでいる。
「4……3……」
その目は、自分の事が分からず、身の危険もあってずっと不安そうだった時と違い、随分と落ち着いている。
「2……1……」
「「――ゼロ!」」
時計の長針が上を差し、そして地面から水が勢いよく飛び出る。
以前、蘭に見せた光景が――あの時と違い、夜の幻想的な光と共に。
「まだそんなに時間は経っていないはずなのに……懐かしいなぁ」
小さく、蘭がそう呟く。
「蘭、姉ちゃん?」
「――ありがとね、コナン君」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
闇の向こうから、サイレンの音が近づいてくる。救急車か、パトカーか。
被害が出たのか、それとも止めたのか。
(……考えるだけ愚問か)
あの小さな探偵の目に映った覚悟は本物だった。生半可な犯罪者ごときが相手になるはずがない。
(よくやった、江戸川コナン。そして……)
やはり彼らも動いていたのだろう。浅見透に集められた精鋭達が。
「……ぁ……ぐっ」
小さなうめき声が響く。
「実際に発砲したのは今回が久々だったが……こんな所か」
この三人がそれぞれの銃を向けるその瞬間、迷わず俺は銃を引き抜いた。
何度も思い返していたあの夜のように、あの男のように、素早く、正確に。
イメージトレーニングと弾を使わない抜き撃ちの練習の成果は見ての通りだ。
三人の銃をあっという間に撃ち落とし――リーダー格の女は少々ガッツがあったようで、更にもう一丁隠し持っていたデリンジャーを抜いたが、それも弾き落とした。
だが――
(……浅見透にはまだ及ばんか)
「気に……いらないわね……っ」
その後、それぞれに当て身を喰らわせておいたのだが……やはりこの女は少々粘りが強いようだ。
「何がだ」
「貴方……私の事……そこらの埃のように……全く興味を持っていないでしょう……っ」
「…………」
事実、そうだ。
見るべきは、この女の裏にいた存在。
超えるべきは、今この国にはいない存在。
「お前は……好みではない」
「…………っ」
女は、人生最大の屈辱だと言わんばかりに歯を食いしばる。
「お前からは葛藤の悲しさも、断固たる意志の冷たさも、誰かを思いやるくすぐったさも感じない」
ベルモットは、裏の女とはかくあるべきだという態度や行動を貫いている。
だが、その裏で何かしらの葛藤、そして何かを羨望していた事は気付いていた。
キールも、冷静に、そして冷酷であろうとして成りきれない情があった。
そして、宮野明美もまた……
「貴様にあるのは、ただ、欲望の熱だけだ。俺はそれを、美しいとは思わん」
「あ……なた……っ」
「貴様は――醜い」
「……っ」
なすべき事は終わった。
近くにあの男の気配を感じる。
この女を始末するのか、回収するのか。
なんにせよ、この馬鹿げた騒ぎはもう終わる。
「あの老人への伝言だ」
始末されるなら良し。されないならば――この女の敵意は、自分が引き受けよう。
そして――
「貴様は俺が撃つ、と。そう伝えておけ」
俺と奴の戦いも、きっとここから始まるのだろう。
中途半端な人物紹介
○女の狙撃手
まだ本登場ではないので名前は伏せておりますが、毛利探偵事務所を襲撃した時の銃。
そしてキッドとの因縁から推理していただければ……まぁ、もうこれほとんど答えなんですが(汗)
劇場版に登場した人物ですw
後ろの男二人組も同作品に途上していますが、こっちは完全なやられ役A,Bだったので名前は不明です。
お前らそんなチャラすぎる様子で傭兵って嘘やろwwww