平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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070:目標地点、トロピカルランド

「千葉様、お怪我はよろしいですか?」

「あぁ、ありがとうふなち。わざわざお見舞いに来てくれて」

 

 鳥羽達からトロピカルランドへ向かうという報告を受けた後、ふなちは、家へと帰る前に撃たれた千葉が搬送された病院へと来ていた。

 本当ならばこの後すぐに鳥羽や恩田と合流して捜査に協力したいふなちだったが、家に小学生の灰原一人を残すわけにもいかず、家へと戻る事にした。

 一応桜子も泊まってくれるそうだが、それでも家の人間が帰らないというのは拙いという判断だった。

 

「ほとんど無傷に等しいんだけどね。弾は肉の所を貫通しただけで、大事な部分はどこも怪我しなかったんだし」

「それでも安静にしておくべきですわ。ウチの人みたいに無茶をしていたらいつ倒れられるかと周りを冷や冷やさせる事になりますわ」

「あ、浅見君は……うん、まぁ……逆上したり取り乱している犯人の攻撃平然と受けようとするし……包丁とか」

 

 いつもその寸前で取り押さえる佐藤刑事や白鳥刑事、たまに江戸川コナンの顔を見なれている千葉は、引き攣った笑いをしている。

 

「せめて犯人の車の前に飛び出したり飛び移ろうとするのはやめてほしいですわ……死んでも逃がさないという気概なのでしょうけど、浅見様は本当にいつも有言実行致しますので……」

「そ、その……浅見君はいつも?」

「浅見様曰く、殺そうとして殺したのか、追いつめられて殺してしまったのかは人を傷つけた時の反応で分かるとかで……えぇ、いつも自殺まがいの説得をしておりますわ」

 

 浅見達が追いつめた犯人は、その場で逮捕される事も多いが、同時に後から自首してくる事が多い。

 とはいえ、どのように説得していたかは……まぁ、それなりに付き合いのある強行犯係の人間ならば、ある程度は想像が付いていた。

 

「……越水さんがとっ捕まえておきたくなるのも分かるなぁ……」

「楓様や桜子様が来てからは多少大人しかったのですが……えぇ、例の死なない発言からもう冷や冷やモノですわ」

 

 浅見透が病院で越水とふなちにした『何があっても絶対に死なない宣言』は、ふなちが仲の良い千葉と世話になっている佐藤に相談する事で、結局親しい警察関係者はそのほとんどが知っている。

 もっとも、全員の反応は『あぁ、うん、知ってた』という物が9割を占めていたのでなにか変化があったかと言われると千葉も首をかしげざるを得なかった。

 せいぜいが、飲みに誘う回数が増えつつあるということくらいだろう。

 

「事件に彼が関わっていない事を喜ぶべきなんだろうけど……」

 

 千葉の口から、少し弱音が漏れる。

 

「まぁ……こういう時に指揮を取ってくれる人がいないのは少々心許ないのですが……」

 

 それに対してふなちは、唇に人差し指を添えて少し「う~~っ」と唸ってから、

 

「大丈夫ですわ、きっと」

「え?」

「元々、浅見様は自分がいなくても回るように、スタンドプレイを重視していたお方でしたし」

 

 思い出すように少しづつ言葉を発する。

 

「それに……確かに浅見様に越水様、安室様……他にも大勢の方が向こうに行ってしまわれましたが……キャメル様に鳥羽様、恩田様、それに小泉様。皆様がいらっしゃいますから」

 

 

 

「浅見様が選んだ方達がいらっしゃるのですから大丈夫! 私達は負けませんわ!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「最後に新一にーちゃんと一緒だった時は、ここで事件があって色々大変だった……みたいなんだ」

「このジェットコースター?」

「うん!」

 

 不安などなく、元気がいいように意識して口調を明るくして、俺は蘭にそう言った。

 

「そう……じゃあ、一緒に乗ってみようか」

「うん、そうしようよ!」

 

 あの男――カルバドスは俺たちと別れた。

 蘭を撃った奴をおびき寄せる方法に心当たりがあるらしい。

 

 ……正直な話、想像していた人間と全く違った。

 あの浅見透を狙撃した犯人。そしてつい先日、例の女の人――宮野明美を守り通し、自分が狙撃した浅見透と協力して黒尽くめの奴らを退けた男。

 

 確かに、所々で人を守る事もあるが、それでも奴らの――犯罪組織の一員。それも幹部だ。

 あのジンやウォッカに限りなく近い存在だと思っていたのだが……。

 

「あの男の人……大丈夫、だよね?」

 

 やはり、蘭も気になっていたのだろう。

 実際、俺の目にもあの男は普通の――いや、決して堅気の雰囲気は出していなかったが……それでも真っ当な『大人』に見えた。

 蘭もあの男には一定の信頼を置いているように見えた。

 あの危険な状況から自分を救いだし、一緒に付いて来た自分とまとめて面倒を見てくれていて、そして今……もっとも危険な囮を引き受けた。

 

(と言っても、正確には片方だけ、か)

 

 あの男が言うには、警官連続射撃事件と蘭の一件は別物らしい。

 くわえて、探偵事務所を襲った奴は今回を乗り切ればもう蘭を狙う事はないだろうとも言っていたが……。

 

(つまり、そっちは組織の人間ではないってことか)

 

 まだまだ分からない事が多いが、もし組織の連中に蘭やおっちゃんが狙われていたのならば、あんな乱暴な襲撃はしなかったはずだ。

 警察の目が消えたその時に、自然に近づき自然に殺し、そして痕跡を残さずに立ち去る。

 それが奴らのやり口だ。組織の一員だった明美さん、そして灰原からもそう聞いている。

 

(組織の人間じゃない狙撃犯、そして二人の刑事を殺して佐藤刑事を撃った犯人……)

 

 あの男が上手くやれるのならば、自分が相手をするのはもう片方。

 佐藤刑事を撃った人間だ。

 

(相手は佐藤刑事を撃った時に銃を捨てている。持ち物検査などでバレるのを恐れたんだろうけど……)

 

 恐らく、蘭を駅で突き落としたのもソイツだろう。

 これまでの凶器を失い、実力行使に出たのだろう。もし例の銃撃犯ならば、そもそももっと早く射殺しているはずだ。……銃の入手に時間がかかったというのでなければ。

 

 そんな時、耳元――いや本当にすぐ近くで電子音がする。

 博士に先日作ってもらった、イヤリング型携帯電話だ。

 

 蘭に手を引かれて歩きながら、気付かれないようにそっと通話モードにする。

 この番号を知っているのはかなり限られている。

 作製者の阿笠博士、浅見さん、灰原、そして先日調査の際に教えた――

 

『よう坊や、通話ボタンを押したって事は一応生きているみたいだね』

 

 鳥羽さんだ!

 

 とっさに応答しようと思ったが、蘭にバレずにやるにはどうしようと一瞬ためらう。

 蘭は、記憶がある頃身近だった人間を傍に置きたがらない。

 実際、自分としても警察につながる人間の中に犯人がいる可能性を考えたために、警察はもちろんおっちゃんにも連絡を入れてないのだ。

 

『……なるほど、喋りにくい状況かい。一応安全なんだね? YESなら軽く二回ノックしな。NOなら一回だけ』

 

 言われた通りにイヤリングを二度指ではじくと、通話口の向こう側の鳥羽さんは『やっぱりねぇ』と笑いながら言う。

 

『OK。まぁ、坊やがそうそう簡単にくたばるとは思ってなかったけどさ。さて、とりあえずこっちの状況を簡単に説明するよ』

 

 それから鳥羽さんは、程良い早さと間を空けながら状況を説明していく。警察の捜査状況、残っている浅見探偵事務所の面々が調べて分かった事。容疑者の現在の状況。そして蘭の捜索状況やおっちゃん達の現状その他諸々。

 

『――と、まぁこんなところさ。やっぱり、アンタらがいるのはトロピカルランドかい?』

 

 先ほどのルールを思い出し、肯定を示すために二回イヤリングをはじく。

 

『そうかい。んじゃあこっちの読みは当たりだねぇ。一応、今アタシと世良の嬢ちゃんと一緒にそっちに向かってるよ』

 

 向こう側から、『だからお嬢ちゃんはやめろよなー』という声が響く。

 あのパーティの時に来ていた、転校生の世良真純だ。自分と同じ高校生探偵だと言う話だが……。

 

『今キャメルが坊や達の痕跡辿ってたんだけど、どうやら一直線に合流させた方がよさそうさねぇ……』

 

 話を聞いてくれて、かつ自分を割と対等に見てくれる鳥羽さんもそうだが、護衛等に長けたキャメルさんが来てくれるのはありがたい。

 すかさず二回携帯をはじく。

 

『OK、すぐに手配させるさ。……あぁ、そうそうもう一つ。さっき恩田から連絡が入ったけど、仁野環と一緒にトロピカルランドに向かう途中で友成 真を発見。警察に確保――っていうか保護してもらったそうさ』

 

 友成真……例の心臓発作で亡くなった刑事の息子。

 佐藤刑事が撃たれてから、確か行方が掴めないって聞いてたけど……保護?

 

『発見した恩田が声かけようとしたら、自分から保護を申し出たんだとさ。今警察が取り調べているけど……多分ありゃ違うねぇ』

「…………」

 

 俺もそう思う。

 いつ記憶を取り戻すか分からない蘭を一刻も早く消そうとしていた犯人が、ここで警察に逃げ込むような真似をするとは思えない。

 

『そうそう、恩田があのルポライターのお姉ちゃんとトロピカルランドに行ってた理由だけど、そこで今日小田切 敏也がバンド演奏するらしいのさ』

 

 小田切刑事部長の息子が?

 くそっ、詳しく聞きたいけど……

 

『容疑者連中の中で唯一行方が掴めていないのはただ一人。――例の先生さ、坊や』

 

 白鳥刑事の主治医を務める心療内科――そして左利きの名医として知られた元外科医。

 

 ――風戸京介。

 

『とにかく、あのお嬢ちゃんと一緒なら目を離すんじゃないよ。こっちはちっと渋滞気味だけど……夕方までには辿りつくさ』

 

 

 

 

 




≪後書きという幕間≫


浅見「あのお姫様の結婚式(笑)は明日、か……」
安室「どうするつもりなんだい?」

マリー(というかなんでもう起きれるんだ?)

キール「ど、どうかしら。例の偽札の証拠も掴んだし」
瀬戸「一度引いて体勢を整えても――」










浅見『全 員 ぶ ち の め し ま す わ ~ ~ ~ ~』





四人「「「アッ、ハイ」」」






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






緑ジャケ「……なんであのガキもう起きてんの?」
黒スーツ「お前が言うなお前が」
緑ジャケ「で、あれがお前らの生徒って何がどうしてそうなったのよ。何を教えたのよ」






黒スーツ「……獲物の取り方とか料理」
着物の男「同じくにござる」






緑ジャケ「……それがなんで機関銃の前に笑顔で飛び出すデンジャラスボーイになっちゃったわけよ? ねぇ、君達? ちょっとこっち向きなさいよ、え?」



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