平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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066:Who is the sniper ?? (副題:ICPOと共に城内へ)

 蘭が駅のホームから線路上に突き落とされた。

 その知らせが届いたのは、ちょうど浅見の事務所からキャメルさんに電話で危険かもしれないと教えてもらった後だった。

 

 キャメルさんから、遼平達が犯行状況を再現して考察を重ねた結果、蘭はおそらく犯人の顔を見ているだろうという結論に至ったという話を受けたのだ。

 蘭はコナン、そして英理と一緒にショッピングに出かけた所だった。

 慌てて後を追いかけていた所で、救急車が自分の横を追い抜いていった所で嫌な予感はしていた。

 

 突き落とされた後、蘭はどうにか危機を逃れたがショックが大きかったらしく、今は運び込まれた東都大学付属病院での検査を終え病室ベッドで休んでいて、念のために英理が傍に付いている。

「これで確定したな」

 

 警部殿が、重々しく口を開く。

 

「蘭君は犯人の顔を見ており、それを犯人も分かっているという事が」

 

 それはつまり、口を塞ぎに来るという事だ。

 蘭の、命を奪う事によって。

 

「すぐに、彼女の警護を強化するよう手配しよう」

 

 警部殿が。千葉や高木、他にも駆け付けてくれた刑事達に目配せをしながらそう言って下さる。

 

「私もお供してよろしいでしょうか? 決して、警察の皆様のお邪魔はしませんので」

 

 そのすぐ後に、今度は浅見の所のキャメルさんがそう言ってくれる。

 元FBIで、浅見の事務所でも緊急の警護依頼等をよく担当している人間だ。

 

「警部殿……それに、キャメルさんもすまない。恩に着る」

 

 本当に、頭が上がらない。

 娘のために、動いてくれる人間がこんなに――あ、

 

「そういや、眼鏡の坊主は?」

 

 今回、蘭を守ったのはアイツだ。

 突き落とされた蘭の後を追って線路上に飛び降り、蘭の体を引っ張ってホーム下の退避場所まで引っ張ってくれた。

 アイツがいなかったら、今頃蘭は……

 

「うん? コナン君ならさっきそこに――あ、あれ?」

 

 目暮警部が、廊下のベンチに目を向けるが、そこには先ほどまでいた小僧が忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お姫さんの傍にいなくていいのかい、ボウヤ?」

「そういう鳥羽さんこそ、なんでここに?」

 

 小五郎のおっちゃんと目暮警部の話を聞いている間に、俺は余所行きの笑顔の仮面を張りつけている鳥羽さんを目撃し、彼女に付いて行っていた。

 

「アタシは事件の根っこを掴みに来たのさ」

「仁野保さんの事件だね?」

 

 そゆこと。と手を振りながら笑って答える鳥羽さんは、メモ帳を取り出しページをめくる。

 

「多分、今回の事件は仁野保を殺したヤツさね。手近な警察殺しは、証拠も新しいし検証も終わってない。なにより身内が殺されてんだから警察もそれなりに本腰は入れてるだろうさ」

 

 目暮のダンナも周りも真っ直ぐだしねと、どこかあくどい笑みで鳥羽さんはそう言う。

 

「それで? 何か分かった?!」

「あぁ。仁野保ってヤブ医者が何やらかしてたか、詳しく調べたよ。やっぱり看護師連中はいいネタ持ってるねぇ」

「看護師?」

「病院が大きければ大きい程、噂好きの話し好きの看護師は多いのさ。それも、割と馬鹿に出来ないネタ持ってる奴がね」

「そ、それで?」

「まぁまぁ、そう急かしなさんな」

 

 鳥羽さんは、走り書きにしてはかなり綺麗な文字で色々とメモ帳に書きこんでいた。

 その中の折り目を付けておいたページを開いて、俺に寄越してきた。

 

「仁野はやはり、薬品類を横流しして小遣い稼ぎをしていたらしいね。まぁ、確実な証拠を掴まれない程度には頭が回ったようだけど……素行が悪かったからねぇ」

「周囲には疑われていた。……いや、ほぼ確信されていた?」

「悪党としては三流もいい所さ」

 

 自分の事を悪党だと言って憚らない鳥羽さんらしい発言だ。

 彼女は『なっちゃいないねぇ』と肩をすくめている。

 

「アタシなら、もっと上手くやれるんだけど?」

「は、はは……」

 

(アンタなら本当に上手くやれそうで怖ぇーよ……)

 

 前に浅見さんと鳥羽さんの三人でご飯を食べに行った時に、浅見さんが『鳥羽さん本出さない? 色んなシチュの犯罪計画書いてさ。防犯方面でバカ売れしそうなんだけど』とか言ってたけどすごく気持ちが分かる。

 

「これだけ情報が多いって事は、仁野医師ってかなり色んな方面に嫌われていたんだね」

「あぁ、疎ましく思っている奴はもちろん、恨みを持っている奴もたくさんいたさ」

 

 廊下の自販機で冷たいカフェオレを二つ買って、一つを俺に渡して目の前のベンチに座る。

 俺も並ぶようにその隣に腰をかけて、プルタブを開ける。

 

「そういった中に、今回の事件の関係者がいればズバリと思って、一つ一つ探りを入れてたって訳さ」

「で、収穫は?」

 

 そう尋ねると、鳥羽さんはニィっと笑う。

 

「覚えてるかいボウヤ、仁野保が自殺と断定された理由が何だったか」

「うん。手術ミス、だよね。自殺する数日前に」

「そ。このヤブ医者、その前にも何度か手術ミスをやらかしててね。んな奴さっさとほっぽり出しゃいいのに」

「確かに……」

「その中に一つ気になるのがあってね。手術中に、共同で執刀していた医者の左腕を斬りつけたっていうんだ」

「それ本当?!」

「嘘ついてどうすんのさ」

 

 ほら、ここさ。と鳥羽さんが、俺が手にしている手帳のページをめくって、その記述を見せてくれる。

 証言してくれた人の名前までメモしている念の入れようだ。

 

「『黄金の左腕』と呼ばれた名医……若手で最も有望だった外科医、執刀中に事故で左手首を負傷……」

 

 書かれている文字を次々に読みこんでいく。

 その様子を、鳥羽さんは少しニヤニヤして俺の様子をうかがっている。

 

「その後心療科へ転向……風戸京介先生?!」

 

 白鳥刑事の主治医で……蘭を診ている先生じゃないか!!

 

「どうだい坊や、面白いだろう?」

「う、うん……」

 

 黄金の左腕と呼ばれていたのなら、利き手もおそらく左腕。容疑者の特徴と合致する。

 

「ただ……あぁ、そこまで分かったのはいいんだけど……ねぇ?」

「風戸先生……いや、ホテルに残っていた人達からは、誰も硝煙反応が出なかった」

「それに、証拠がないしねぇ……」

 

 ただ、風戸先生ならば白鳥刑事から事件の状況を聞く事だってやろうと思えば可能だ。

 可能性としてはかなり高い。

 やはり、硝煙反応の問題をどうにかしないと……っ!

 

「ボウヤ、守るよりも攻めた方がいいって考えてんだろう?」

「え……」

「じゃなきゃ、ボウヤがお姫さんの所から離れるわけないしね」

 

 本当に、浅見探偵事務所の面々には驚かされる。

 観察力に長けた人間が多くいて、そこから集められた情報を使いこなす探偵役も揃っている。

 

「どうだいボウヤ、今からウチに来るかい? 多分、今頃恩田やキャメルが集めた情報を、穂奈美達が報告書の形にまとめてくれてるハズさ」

 

 助かるぜ鳥羽さん!

 

「うん! ――あ、でも」

「ん?」

「それだと泊まりになっちゃうし……」

「あぁ……さすがに記憶喪失のお嬢ちゃんを放置するわけにはいかないか……」

 

 一応、今の蘭の日常の中には江戸川コナンがいる。ここで事務所を空ける訳にはいかねぇ。

 

「んじゃ、明日の……昼ごろに来な。それまでにこっちも資料を整理しておくさ」

 

 この人だけじゃない。浅見さんの事務所員のいい所は、見かけが小学生の俺でもキチンと相手をしてくれる所だ。

 

「分かった。それじゃ、その時に」

「あぁ。ついでに飯も下笠達に用意してもらうよ」

 

 鳥羽さんは俺の頭を乱暴に撫でて、

 

「安心しな、ボウヤには美味しいお子様ランチを用意してもらうからさ!」

「……は、はは……うん……ありがとうございます」

 

 あぁ、うん。もっとも――

 

(にゃろぉ……)

 

 事務所員の全員が善人とは限らないけどさ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「今の所、動きなしか」

 

 青蘭は、失踪していた浅見透が発見されてから担ぎ込まれた病院へと向かった。

 一方で俺は、当初の予定通り毛利探偵事務所に張り付いている。

 

(しかし、刑事が多いな……毛利蘭が殺害されかかったからか)

 

 自分はあくまで毛利蘭の動きを追っていただけだった。そのため、実行犯をこの目で見たわけではないが……。

 

(こうも監視の目が多くては、離れた所から見るしかないか……)

 

 今は、オペラグラスを使って、毛利探偵事務所がかろうじて見える場所に車を止めて、その中に待機している。青蘭が、自身の目的のために用意していた車が何台かあるため、たまに場所を変え、車を変えて。

 

 多少でも動きを知るために警察無線も傍受しているが、今の所動きは無い。

 二時間ほど前に、あの江戸川コナンという子供が戻って来たのが精々か。

 

 これまでの犯行状況を見る限り、犯人は単独犯。

 これだけ周りを固められたら手の出しようがないだろう。

 

(相手が普通の犯罪者ならば……だが)

 

 例えば、自分ならばこの状況でも毛利蘭を害そうとすればいくらでも手段はある。

 例えばスナイプ。例えば爆発物の郵送。本気でやるなら、それこそ小さな郵便物に毒ガスの類を仕掛ける手段だってある。

 

(そういえば、ピスコもそこらの密輸計画を考えていたな)

 

 まだ、自分もピスコも浅見透と接触したばかりの頃の話だ。

 より多くの武器を多く日本に運び、反社会組織を制圧、統合する計画だったか。

 あくまで草案止まりで破棄されたが……。

 

(ピスコ、奴は今何をしている?)

 

 今現在、ピスコ――枡山憲三は指名手配されている。そのため動きも日本国内では当然制限される。

 もう海外に逃亡したか。いや、そもそも組織にもう消された可能性も高い。

 だが、同時に……あの狡猾な男が易々と消されるとも思えないのも確かだ。

 

(奴は……恐らく浅見透に戦いを挑むだろう)

 

 となれば、間違いなく戦力を用意する。

 組織に邪魔されないだけの、そして奴の周りにいる戦力と渡り合えるだけの。

 

(仮に奴が組織にいる子飼いの連中を接収したとしても、限界はある。あのアイリッシュがいたとしても……)

 

 先ほど購入した煙草に火を付ける。

 組織にいたころから買い物などでも監視カメラ等を警戒するのは同じだが……感じる重圧はあの頃以上だ。見つかってはならない。決してならない。

 

 だからこそか、変わり映えしないタバコや弁当一つ、酒一杯でも、妙に美味く感じる。

 

(それにしても……)

 

 先ほど考えていた事に、思考を戻す。

 この監視網の中で、毛利蘭を消すにはどうするか――というよりは、

 

(あの事務所ならば暗殺などいくらでもできると言うのに……)

 

 もう一つの事務所――浅見探偵事務所では、その手段が思い浮かばない。

 郵便物のチェックまでマニュアル化されていた上、そもそもの建物が下手な軍・政の重要拠点並に設備、装備を整えられている。狙撃程度では窓一つ抜けないだろう。

 出入り口を狙おうにも、あの沖矢昴という新たなメンバーが、あの周辺の狙撃地点を全て確認し、警護を強化していた。狙撃ポイントの確保だけで一苦労だし、恐らく隠し通路の一つや二つぐらいあるだろう。

 

(対して、毛利探偵事務所なら……)

 

 どこからでも狙える立地、窓もただの強化ガラス、毛利小五郎は大抵窓辺にいる。

 殺して下さいと言っているようなものだ。

 この日本では、そうそう狙撃されるようなことはないだろうが。

 

(それでも、俺が狙うならまずは――)

 

 絶好の狙撃ポイントというのは、同時に逃げやすい場所でもある。

 

「――馬鹿な」

 

 逃走しやすい、事務所の中に銃弾を叩きこめる場所は限られる。

 その一つに、なんとなくオペラグラスを向け――思わず目を剥く、

 

 

狙撃(スナイプ)だと――っ!!?」

 

 

 離れたビルの屋上、そこにいた射撃体勢の何者かの姿を確認し、周囲の人間に存在を覚えられる恐れも忘れて、俺は思わず外に飛び出していた。

 

 

 オペラグラスから見える毛利探偵事務所の窓ガラスが砕け散り、一拍遅れて――その破砕音と、火薬の音が夜の米花町に鳴り響く。

 

 

 




あさみんニュース

・数年(+α)ぶりに恩人と再会。
・安室、マリー、瑞紀、浅見の人脈に頭を抱える。水無怜奈は諦めた
・潜入決定。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「よう、早かったな」

 黒いハットを被り、よれた黒いスーツを纏った男が、やって来た着物に袴姿の男にそう声をかける。
 ハットを被った方は、その手にとても長いライフルを構えている。対戦車ライフルと呼ばれる物だ。
 袴姿の方もライフル程ではないが、細長い物を持っている。白鞘の日本刀だ。

「仕事か?」
「まぁな。おい、五右衛門が来たぞ!」

 黒いハットの男が、奥の方にいる男に声をかける。
 こちらは緑のジャケットを着込んでいる。

「あぁ、こっちも来たぜぇ」
「なに?」

 三人がいるのは目的の城――カリオストロ城が見渡せる古い塔。
 ここに双眼鏡をセットし、城を監視していたのだ。

「見るか?」

 ジャケットの男が、スーツに男に場所を譲る。
 男は黒いハットに片手を添えながら、覗きこみ。

「日本のパトカー?」
「銭形だよ」
「なにぃっ?!」

 確かに、先頭を切る日本のパトカー――なぜか埼玉ナンバーをつけたままのそれの助手席にいるのは、自分達を常に追いまわして来る男の姿だ。
 その後ろには、乗用車が続いて、さらに後ろには機動隊の輸送トラックが数台続いている。

「しかも後ろにはなんだか知らねぇ奴もいるし、誰だあいつら? 中に乗っている女、二人は美人だけど一人はどうも変装っぽいし……」

 ジャケットの男は、先ほどお湯を入れたカップ麺を箸でかき混ぜながらそう話す。

「…………」
「ん? おい、どうしたの次元?」

 対してスーツの方は、言葉を出さずにじっと双眼鏡を覗きこんでいる。

「おい、五右衛門。見てみな」

 今度は着物の男へと席を譲る。首をかしげるジャケット男の横を静かに着物の男――13代目石川五右衛門は横切り、そして席を変わる。
 そして、

「…………あの時の(わっぱ)か」
「やっぱり、そうか。……だが、なぜ銭形と……」
「なになにどったの? 知り合い?」

 ジャケットが尋ねると、スーツの男はハットを深く被り直し、

「ん、まぁ、ちょっとな。と言っても、アイツは俺たちの声しか知らねぇ……ってか、覚えているかも怪しいが……」

 そこで言葉を途切れさせた男に変わり、今度は五右衛門が口を開く。

「……合っているかどうか自信はないが……生徒にござる」




「――拙者と、次元の」







「……なにそれ?」


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