平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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難産。うーん、摩天楼編終わったら、単発シナリオを使ってちょっと練習する必要あるかも


005:第三の爆弾、及び共闘

――爆発まであと10秒切ってる!!

 

――ギリギリっ! 川の中に投げ込め、江戸川!!

 

――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上に、一人の男が寝ている。

 死んだように、眠っている。

 

「浅見さん……」

 

 爆弾は無事に処理できた。

 アイツは驚くほど裏道に詳しかった。原付とはいえ、隙間を縫うように住宅街を駆け抜けて、時間ギリギリだが堤無津川に爆弾を放りこめた。だが――俺は爆弾の威力を甘く見ていた。元太達が渡された爆弾と同じくらいだと思っていたのだが、それよりも一回り大きかった。

 爆風に吹き飛ばされた俺を抱きとめ、庇ってくれたのが――浅見さんだった。

 俺には一切怪我はなかった。せいぜい少し血がにじむ程度のかすり傷で済んだ。おかげで、今は病院で一応軽い検査を受けただけで済んでいる。

 だけど浅見さんは……俺を受け止めたものの爆風に踏ん張りきれず、地面を転がされた後、傍の木に叩きつけられた。

 恐らく、後頭部を強く打ったんだろう。まだ意識が戻らない。

 

「くそ――っ!」

 

 犯人からの電話はまだ来ない。さっき目暮警部と毛利のおっちゃん達が来て、工藤新一に犯人が挑戦してきたという事、爆弾が使用された事。恐らく、今日の朝ニュースで流れていた、化学工場から盗まれたオクトーゲン――それを使用して作ったプラスチック爆薬が使われていること。話せる事は全て話した。一つ、嘘をついたことは――

 

 

―― おい小僧、説明しろ! なんでコイツが爆弾持って走りまわっていたんだ!!?

 

―― そ、それは、えっと……

 

―― コナン君、全て話してくれんか?

 

―― ……あ、浅見さんは……

 

 

 

   あの人、実は――

 

 

 

 とっさに、嘘を言ってしまった。子供が動いているのはどう考えても不自然。それでとっさに思いついてしまったのだ。とんでもないウソを。

 彼が――浅見透は爆弾犯人からの工藤新一に対する挑戦を、引き受けざるを得なかったのだと――、爆発までの時間がなかった事に加え、彼は――

 

(ごめん、浅見さん。また頼る形になってる――)

 

 後で謝ろう。何度でも。面倒なことにしちまったって。本当に、悪い事しちまった。

 

(借りは絶対に返すぜ、浅見さん。この爆弾事件を解決してからな)

 

 浅見さんが起きた時にまた話を聞くため、警部達は空き病室に控えている。戻ろう。きっと犯人から電話はまた来る。今度は爆発させねぇ! 犯人は絶対に捕まえる!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 おぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉ……身体の節々が痛ぇぇぇぇぇえぇぇ…………っ

 

 

 あれだよ。俺、今度の連休とかフルに使ってバイクの免許速攻で取ってくるわ。今までちょっとした足代わりで原付乗ってたけど、あれだね。時代は小回りより速さだわ。後ろから死神が追ってくるどころか、後ろに死神乗せるシチュが増えるってんなら尚更。

 もうちょいだけ早く到着すりゃ、上手い事爆弾を川に沈めて伏せるなりなんなりできたと思うけど、結局爆風に吹き飛ばされてしまった。とっさに飛んできた江戸川の身体をキャッチしたのは自分でもファインプレーだったと自負できる物だったが、記憶がそこから曖昧に終わっている。

 江戸川抱えたまま吹きとばされて地面をゴロゴロ転がって……どうなったんだっけ?

 まぁ、部屋の様子とかから、自分がいるのがどこかの病院だということが分かっているから、とりあえずは問題ない。

 頭が包帯でグルグル巻きになっている? うん、手足が残って意識がハッキリしてるんなら安い安い。

 一番の問題は……

 

「ねぇ。僕、君に無茶しないようにって言ったよね? ついこの間言ったばっかりだよね?」

「いえ、あの……今回は不可抗力でして……」

「――――は?」

「……すみません。なんでもないです」

 

 誰か助けて。

 もうね、ブチ切れてる。今まででトップ5に入るほどのブチ切れモードだわ。どうしよう。

 

「浅見様! お目覚めになったとお聞きしまし――」

 

 ガララっ! と音を立てて入って来たのは、いつも通りにキャリーバッグを引きずっている友人の姿。

 ナイスだ、ふなち! そのままこの空気をいつものノリでなんとかしてく――

 

「――――失礼いたしました。どうぞ、ごゆっくり」

 

 ふなちてめぇ! こんな時だけ空気読んでんじゃねぇっ!!!!

 

 越水のジト目でやばいと思ったのだろう。即座にドアの向こうへと退避していくふなちの背中に思わず手を伸ばすが、その手は越水に掴まれてしまった。ちくせう。

 

「……あ、あのー、越水さん?」

「で、いつから?」

「はひ?」

 

 ずいっ。と越水が身を乗り出して来る。や、越水さん、質問の意味がよく分からないんですが。

 

「いつから、探偵の助手なんて始めてたの?」

「へ? それは――」

 

 この前の事件からってこの間――。そう言いかけた口が、越水の続けた言葉で止まってしまう。

 

 

 

 

「――工藤新一の助手をやってたなんて、聞いたことないよ!!?」

 

 

 

 

 うん。――――うん?

 

 What's? ごめん、なんだって?

 

「あの警部さんと毛利探偵が、江戸川くんから聞き出してたよ! 今回、君が爆弾抱えて走り回る羽目になったのは、工藤新一への挑戦を、代理として君が受けるしかなかったんだって!!」

 

 江戸川ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

 いや、確かにあの時『お前』の助手ってつもりで名乗りを上げたんだから間違ってないし、多分仕方なかったんだろうけど、こう、俺が起きた時に備えて何かメッセージとか――伏線残しててくれてもいいんじゃない!!?

 違うんです越水さん! 隠し事をしていたんじゃないんです! 隠し事がいきなり生えてきたんです!

 

「じょ、助手って言っても……あ、あれだよ? ちょっとした頼まれごととか、調べ物くらいで……」

「で? そのちょっとした頼まれごとには、爆弾魔との対決なんてものも含まれてるの?」

「…………いえ、あの、気がついた時にはもう時間がなくてですね」

 

 爆弾というゴミをダイナミック不法投棄しに行っている間に江戸川から事件の顛末は聞いている。江戸川も多分事件に関する事実こそ喋ったものの、俺に関してはふわーっとしたくらいしか話していない。と、思う。

 確定しているのは、俺が工藤新一の助手だと思われている事。そして、いま江戸川がここにいないっていうことは、ここにいられないって事。

 警部達に話を聞かれているのか? それとも――犯人から電話が来たのか?

 

「――話は後で。今は情報が欲しい。今度こそ、(話せる範囲の事を確認してから、出来るだけ)きちんと全部話す。……もうちょっとだけ、待ってくれないか?」

 

 まっすぐ、越水の目を見つめてそう言う。決して誤魔化そうとかそういう意図はない。ただ考える時間が欲しいだけで――

 

「辻褄合わせる時間を稼ごうとしてる目だよね。それ」

 

 オゥ、バレテーラ。

 

 越水は、じと~~~っという擬音がしそうなジト目でこちらをしばらく睨むが、やがて肩を落として深~~いため息を吐くと、

 

「とりあえず、車いす借りてくるからじっとしてなよ」

「へ?」

「事件の情報を聞きたいんでしょう?……君の無茶はちょっとやそっとじゃ止まりそうにないからね。捜査に協力するのはいいけど、僕とふなちさんで監視しておいた方がいいみたい」

「は、はい……。え、でも車いすは?」

「身体も色々打ったみたいだし、念のために借りてくるよ」

 

 すっごい気を使われている。どうしよう、すっごく胸が苦しい。

 

「……越水さん、もうそろそろ落ち着いてくれないでしょうか? ほら一人称がもうずっと『僕』に戻って――」

 

 越水は元々自分の事を『僕』と呼んでいて、今では基本『私』だが、興奮している時とかだが、一人称が戻るのだ。……今のように。

 

「――誰のせいだと思ってるの?」

「……大変、申し訳ございません」

「ふなちさん! 車いす借りてくるから、ここで浅見君見張っててっ!!」

 

 越水が小さな声で叫ぶという微妙な技能を発揮する。その声に反応して扉の陰からふなちが飛びだし、

 

「はい、了解いたしました!」

 

 おい、ふなち。思いっきり尻に敷かれてんぞ。……俺もだけどさ。

 

『逆らえるわけないでしょう!? あんな激おこな越水様、久々に見ましたわ!!』

『だよねー』

『あの目はあれですわ、もう浅見様に首輪とリードを付けかねない勢いでした!』

『犬かよ、俺は……』

『まったくですわ。飼い主の目を避けて悪戯するなら猫でしょうに……っ!』

『いやそのつっこみはおかしい。というか――おい、なんで俺が越水に飼われている事前提になってるんだよ』

 

――そういや……あの白猫、大丈夫かな?

 

 爆風で吹き飛ばされた時、江戸川と一緒に抱えていた記憶が……あるようなないような……

 互いに小さな声でボソボソ呟いて話している。まだ外の方から気配はしない。越水が来るまでまだ時間がかかりそうだ。

 

「ふなち、刑事や江戸川達はどこにいるか分かるか?」

「確か、どこかの空いてる個室を借りて待機しているようですわ。部屋は越水様がご存じのようですが……」

「越水が?」

「えぇ、起きたら知らせてほしいと目暮様から言われておりましたので……」

 

 ん? アイツ、さっきそんな事言ってなかったけど……

 

「――多分、本当は目暮様にお伝えするつもりはなかったのではないでしょうか」

「へ?」

「浅見様が寝ている間の話ですが、江戸川様から事情を全てお聞きになってから、もう一度江戸川様にお声かけをして……すごく真剣に情報を集めておりましたわ。警察の方や、毛利様以上に」

「…………アイツ、まさか――」

「多分、工藤様や浅見様に代わって追うつもりだったのではないでしょうか。犯人を」

「…………」

「そして、目暮様たちにはまだ起きないと言い張って、事が終わるまで浅見様が事件に関わるのを防ごうとしていたのではないかと……」

 

 この間の一件からなんとなく分かっていたことだが、アイツは探偵行為……探偵を疎んでいる節がある。

 アイツ自身、元探偵だったというが、少なくとも大学に入ってからそういった活動はしていないはず。

 

(一度、話を聞くべきかな……)

 

 なんにせよ、今はこの爆弾事件――というより、江戸川との事をどうにかしよう。このままじゃ不味いことになる。

さて、どうにか越水達をまいて、アイツと合流せにゃ……

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『よくあの爆弾を防いだな。だが、もう子供の時間は終わりだ。工藤を出せ! いるのだろう!? 工藤新一は!!』

 

 やはり電話が来た。今度は完全に本当の俺を――工藤新一を名指ししてきた。即座におっちゃんがスピーカーボタンを押して、音をその場の全員が聞けるようにした。

 

「あぁ、そうだ。子供の時間は終わって、ここからは――大人の時間だ! 俺が相手になってやる!!」

 

 啖呵を切ったおっちゃんに同意するように、その場にいる目暮警部をはじめとした警察関係者が強く頷いている。

 

『誰だお前は、工藤新一を出せと言ったはずだ!!』

「あぁ! あの探偵坊主なら、自分の助手に全部任せてここにいねぇんだよ! こっからは、この名探偵、毛利小五郎が相手になってやる!」

『助手……なるほど、そういうことか。ならば、その助手はどうしたのかね? まさか、先ほどの爆発で、怖くなってリタイヤかな?』

 

 ふざけんな! 

 周りの目を気にせず、そう叫びたい衝動を抑える。感情を我慢するのが、これほどにも難しいことだと思わなかった。

 あの人は――浅見透という男は、偶然そこに居合わせたにも関わらずすばやい行動で事態を最小の被害に抑えた男だ。こんな卑劣な奴に、馬鹿にされていい男じゃねぇ!

 

 

「ふざけんなぁっ!」

 

 まるで俺の感情を代弁するかのように、おっちゃんが叫ぶ。

 

「確かにアイツはリタイヤだ! でもなぁ、逃げたわけじゃねぇ!」

 

 あぁ、そうだぜおっちゃん。

 だから、負けられねェ。なんとしても、これ以上の爆発を防がなきゃならねぇ。

 おっちゃんが、電話の向こうにいる誰かに再び啖呵を切ろうとした瞬間――

 

 

 

 

 

 

――誰がリタイヤなんですか。毛利探偵?

 

 

 

 

 

 

 

 病室が一瞬、水を打ったように静まりかえった。

 まだそれほど聞いたことのない、だが、耳に残る声。

 ガラッ、と言う音と共に部屋に入って来たのは、奴自身の友人――越水七槻が押す車いすに乗った、

 

 

「お久しぶりです、目暮警部。毛利探偵も……」

「あ、浅見君!!」

「お前っ! 怪我はいいのか!?」

 

 警部とおっちゃんが驚きの声を上げるが、浅見さんはそんな声をモノともせず、テーブルの上に置かれている携帯電話を睨みつける。

 

「お待たせしました。先日寝不足だったので、ついつい寝坊をしてしまいまして……さぁ、用意しているのでしょう? 第3幕を。まさか、さっきみたいな子供だましではないでしょうね?」

 

 浅見さんは、怪我なんて意にも介さないといった様子で、電話の向こうの相手を挑発する。

 長い付き合いで予想していたのだろう、後ろに控えている越水さんと中居さんは頭を抱えて『やっぱり……』とつぶやいている。

 

『貴様は――! そうか、工藤新一の助手……なるほど、そういうことか』

 

――ん?

 

『いいだろう、浅見透。お前を正式にゲームの挑戦者として認めてやる』

 

――なんだ、なにか違和感が? まさか……

 

 とっさに浅見さんの方を向くと――浅見さんもどうやら感じたようだ。僅かに首をかしげて……そして、にやぁぁっと笑いだした。

 あぁ、そうだ。きっと電話の相手は――。だが、どうして?

 

『一度しか言わないからよく聞け。東都環状線に、5つの爆弾を仕掛けた』

 

「な……っ!」

 

 目暮警部やおっちゃん達が絶句する。浅見の後ろにいる二人も顔を驚愕に染めている。浅見さん自身は、まるで予想していたかのように、静かに携帯を見つめている。

 

 

『その爆弾は、午後四時を過ぎてから、時速60キロ未満で走行した時に、爆発する。日没までに解除できなかった場合も同様だ』

 

『そうだな……一つだけヒントをやろう。工藤の助手に、毛利名探偵。爆弾を仕掛けたのは、××の×だ』

 

 ××の×……?

 

『×の所には漢字が一字ずつ入る。それでは……頑張ってくれたまえよ、毛利名探偵、そして工藤新一の助手君?』

 

 変声機で変えられた声は、そういうと通話を切り、残されたのは『ツー、ツー』という音だけ。

 

 いくらなんでも悪戯――ただの脅しなのでは? おっちゃんが恐る恐ると言った様子でそう言うが、目暮警部はそうは思わないと否定した。俺も同意見だ。しかし……

 

「まずは、本庁に連絡を入れなければ……っ!」

 

 目暮警部が電話をかけに、病室の外へと出て、刑事二人――佐藤、高木刑事の二人も一度浅見の方を見てから後に続く。残されたのは阿笠博士とおっちゃん、そして――浅見さんと浅見さんの友人達だ。

 

「おい、浅見! 工藤新一は――あの探偵小僧はどこにいるんだ!? お前、助手なんだろう!!」

 

 おっちゃんが、浅見に掴みかからん勢いでそう言うが、浅見さんに答えられるわけがない。いや、居場所は知っている。ここだ。ここにいるんだが……。

 

「工藤新一の居場所については後で、今は爆弾について考えましょう」

 

 浅見さんは、静かにそう言ってくれた。後ろの越水さんも頷いている。――かなり頭の切れる女性だ。さっき、自分に色々質問していた時も、かなり鋭い所まで突っ込んでいたし……多分だけど、浅見さんが動いたのは二つ目の爆弾からだともう分かってるんじゃないか? 工藤新一とのつながりが分からないから確信が持てないだけで……

 

「場所は東都環状線のどこかに5か所。タイムリミットは日没まで――」

「気になるのは、その爆弾が速度に反応するって言う所だね。加えて、日没までっていうタイムリミット」

 

 浅見さんが独り言のように状況を繰り返すと、越水さんが気になった点を追って口にする。

 

「つまり……爆弾を解除するまで列車を止めるわけにはいかないと言う訳ですわね? ……となると、タイムリミットなど関係なしに急がなければ、閉じ込められたままの乗客の皆さまがどのような行動に出るか想像もつきませんわ」

 

 そして中居さん。あまり話したことはないが、越水さん同様、頭の回転はかなり早いようだ。

 

「お、お前ら、コイツの友達の――」

「はい。越水と中居です。一方的ですみませんが、今回の事件、僕達も協力させていただきます」

 

 友人が巻き込まれていますし。そう言って越水さんは浅見さんに視線をやるが――なんでジト目?

 そうこうしている間に、阿笠博士がこっそりとこっちにやってきた。

 

「お、おい、新一。彼が、その?」

「あぁ。俺の正体に気付いて、かつ、なぜか何も言わずに協力してくれるとっても怪しい――ワトソンさ」

 

 大丈夫なのか? と、阿笠博士は少しうろたえながら聞いてくるが……なぜか、すんなりと信じられる。少なくとも、アイツからバラす事はないだろうって。さて――

 

「江戸川君、なにか思いついた事はないか?」

 

 浅見さんがこっちに話を振ってきてくれた。ありがたいが……

 

「いや、今の所は何も……」

「……やっぱり、ヒントを解くしかねぇか」

「そんなヒントが当てになるか! お前らはじっとしてろよ!? 俺は目暮警部と行く!!」

 

 おっちゃんはそういうと、病室を飛び出して行ってしまった。 

 

「わざわざ挑戦を叩きつけるほどプライドの高い犯人、か。偽のヒントをわざわざ出すとは思えないけど……」

 

 越水さんの言うとおりだ。俺が――多分浅見さんも気づいているだろう人物なら、そんな真似はしないと思う。だけど――やはり、問題はそのヒントだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに時間が経った。だけど、いい案がまだ思い浮かばない。

 場所を浅見さんの病室に移し、博士が持ってきたテレビで事件の情報を得ながら考えている。

 

「行き詰ったときはあれだ。ブレインストーミングでも試してみるか」

 

 浅見さんはそう言って越水さん達に目配せをすると、二人がそれぞれ、ペンと紙を用意する。

 

「漢字二文字……キーワードは東都環状線。電車、乗客、荷物、車体、線路――」

「踏切、終点、始発、電灯、えー他には……」

 

 そして、それぞれが思い思いに意見を思いついたままに喋り出す。

 確か、正誤を問わずに意見を出し合う会議なんかの技法だったか。

 そうして書きあげた漢字二文字のキーワードの一覧を、ベッドの横にあるサイドテーブルの上に置く。越水さん達がそれを囲むように立つので、自分も浅見さんの横に立って覗き込む。

 

「じゃ、ま、とりあえずここから考えていこうか」

 

 越水さんが音頭を取り、三人はとりあえず出したキーワードを元に一個ずつ考えていく。

 

「ふむ……爆弾だけというならともかく、速度が関係するのならば乗客や荷物の線は薄いのではないでしょうか」

「うーん、断定まで出来ないから△で。一番怪しいのは車体だけど……」

「そういや、前に映画でそんなの見たことあったな。センサー付きの爆弾を車に仕掛けるやつ」

 

 そうだ、俺も最初は『車体の下』だと思ったけど……。気になるのは――

 

「タイムリミットが日没っていうのも気になるね」

「あぁ、江戸川君もそこが気になったんだね?」

「うん、夕方までっていうんなら、2番目の爆弾のように、タイマーを設定すればいいだけの話だよね? わざわざ日没って言ったってことは――」

「ひょっとして、仕掛けに何か関係があるのでしょうか?」

 

 中居さんが思いついたようにそう言った。確かに、そう考えるのは筋は通っている。

 

「日没……日が暮れると爆発。光?」

 

 浅見さんが続けて、ぼやく様にそう言う。本当に当たり前の連想ゲームだが、何かが引っかかった。

 そうだ光。日光。日光がなくなった時に爆発する。逆に言えば、日光がある間は爆発しない。

 

「そうか……っ」

「そういうことか!」

 

 越水さんも気がついた様だ。そう、爆弾が仕掛けられていたのは――っ!

 

「すぐに目暮警部に電話を! 爆弾は――線路の間に仕掛けられている!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、この江戸川コナン君の推理力と発想力は小学生のものじゃない。僕と同じ……いや、前のパーティーの時や、どこまで本当か分からないけど浅見君と一緒に爆弾の処理に動いていた事も考えると、下手をすると僕よりも優秀かもしれない。

 

「越水様、目暮様へのお電話は?」

「うん、大丈夫。きちんと聞いてくれたよ。今ちょうど東都鉄道の総合指令室にいるらしくてね。これから対応するって」

「そうですか……後は、お二人の推理が合っていて、爆発しない事を祈るだけですわね」

「うん、そうだね……」

 

 気にしすぎかもしれないが、やはりあの子供とは一度話をしたほうがいいだろう。 

 あの子自身についてもそうだけど、同時に工藤新一についても。

 今回、あの警部さん。目暮警部がすんなり話を信じてくれたのは、大なり小なり、浅見君が『工藤新一』に関わっているという事が作用したのだと思う。子供の江戸川君はもちろん、私だけの言葉では届かなかったかもしれない。一緒に考えていた中に、工藤新一の助手がいたから……。

 

「? あれ、そういえば浅見君は?」

「はえ? 先ほど、越水様が目暮警部へお電話をされに公衆電話の方へ行った後、越水様にお伝えすることがあると……あれ?」

「なに、それ、聞いてないんだけど」

 

 私が電話をした公衆電話は、ナースセンターの近く。エレベーターに行くなら見えるはず……いや、階段の方なら死角!

 

「江戸川君に阿笠さんは!?」

 

 そうだ、部屋に戻ってきてすぐに聞くべきだったけど、あの二人も姿が見えない。

 

「そ、その時に浅見様の車いすを押して行ったので……てっきり、越水様の所に行かれたのかと……」

 

 や、やられた――っ!

 

 咄嗟に窓に駆け寄り、外を――駐車場の方を見ると、黄色いビートルに乗り込む見慣れた背中が……っ!

 

「越水……様?」

 

 今から降りて車に乗っても多分間に合わない。しまった、まさかこの期に及んで逃げるなんて!

 

「ねぇ、ふなちさん」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

「……あの大馬鹿野郎、どうしてくれようか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「阿笠博士、協力ありがとうございます」

「い、いや、それはいいんじゃが……よかったのかのぅ? きっと、君の連れの女の子は今頃カンカンじゃろうて」

「まぁ……覚悟の上です。事が済めば折檻でも軟禁でも大人しく受け入れますよ」

 

 ははっ。蘭もそうだけど、女は怖えからなー。

 

 爆弾の位置を特定した後、越水さんに目暮警部への連絡を任せている間に、俺と阿笠博士は浅見さんがこっそり耳打ちした作戦で病院を抜け出た。

 

――こっそり抜け出したい。力を貸してくれ。

 

 浅見さんがどうしてそんな事を言ったのか。……なんとなく、分かる気がする。

 

「俺が、工藤新一の助手って事にしてしまったから?」

「――きっかけだよ、それは。結局のところ、くっそ上から目線で姿隠して馬鹿やってる奴に、その場のノリで喧嘩売ってしまった俺が原因だ」

 

 犯人に名指しで挑戦者に認定された今、あの二人と距離を置いておきたかったのだろう。

 危険が及ばないように。そして多分、越水さんよりも先に犯人を捕まえるために。

 

「まぁ、とにかく情報を集めねーとアイツを追いつめ切れねぇ。まずはそっから始めよう」

 

 浅見さんの口ぶりからして、やっぱり犯人はもう『あの人』だと目星を付けているようだ。だからこそ、浅見も……

 

「それで新一。まずはどこへ向かえばいいんじゃ?」

 

 そうだな。気になる事はいくつかあるけど……。

 

「博士、米花駅からちょっと離れた所にある児童公園に向かってくれ」

「児童公園? なんでまたそんな所に?」

「……あの爆弾が一度止まった所か」

「ああ、やっぱりそこがどうしても気にかかるんだ」

 

 浅見さんと爆弾を捨てに行っている時、確かにあの辺で一度爆弾が止まった。

 

「なるほど、犯人が遠隔操作でわざと止めたと考えておるのか?」

「いや、わからねぇ。ただ、もしそうならば、犯人があそこで爆発させたくなかった理由があるはずだ」

「……おい、ついでに工藤新一として思いつくことはねぇのか?」

「工藤新一として?」

 

 浅見さんは、頭をかきむしりながら、

 

「今回の事件。発端は工藤新一に挑戦の電話が来た所からスタートしてる。愉快犯とか、目立ちたいって理由なら、実態はともかく、今一番名前を売りだしている名探偵に挑戦を叩きつけるだろう? 消えた名探偵よりさ」

「……あぁ、そうだな。そうか、そっちも調べなきゃならねぇな……」

 

 浅見さんは俺のぼやきを聞くと、少し考え込んで……

 

「警察に、工藤新一として電話をかけるのはどうだ?」

「ん?」

「公園付近の捜査をそっちがやっている間に、俺が助手として本庁に行こう。事前に工藤新一から、助手を向かわせるって言ってな。で、資料を見させてもらって、アイツに関わってそうな、怪しいと思ったのを可能な限りピックアップしておく。そっちは公園に一区切り付いたら博士の車で本庁に、んで一緒に洗い直す」

 

 なるほど……。それはいいかもしれない。もし向こうの方で動きがあれば、警官も工藤新一の助手に教えてくれるだろうし、当然浅見さんも即座に連絡をくれる……よし。

 

「乗った。一応こっちも、児童公園でなにか気になった事があったら、メールや画像でそっちに送っていく。いい?」

「問題ない。そっちも蘭さんの事があるだろう? 今日中に片を付けるぞ」

「あぁっ!」

 

 博士がアクセルを踏み込み、ビートルは速度を上げてあの公園に――現場へと向かっていく。

 探偵とその助手を乗せて、だ。

 

 

 

 




次で摩天楼を終わらせてサクサク行きたいな……
はやく組織の連中だしたいw

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