平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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046:そして事態が膨れ上がる。(なお、引き金引いたのは実質某所長)

 今でも覚えている。その後ろ姿を。

 今でも焼き付いている。その憎々しい銀の長髪を。

 今でも、憎悪している。その鋭い――深緑の鋭い眼を……っ!

 

 

「――ジン……っ!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「それで奴らは始末したのか、ピスコ?」

「いいや、まだだ。彼らには尋ねたい事があるだろう? 特にお前はな……ジン」

 

 老人――ピスコは、いつもとまったく変わらない静かな笑みを浮かべて訪ねて来た客人を迎え入れた。

 

「まぁ、話は応接間でしようじゃないか」

 

 そう言ってピスコは家の中へと入っていく。当然、ジンとウォッカが後に続き、最後にピスコの後ろにいた男がドアを閉めてから追う。

 

「それにしても、まさかあのカルバドスが裏切るなんて……嫌いじゃなかったんですがね、アイツの事……」

「…………」

「あ、あぁいや、情け心とかじゃなくてですね。その……すいやせん、兄貴」

 

 歩きながら、二人いる客人のうちの大柄な方――ウォッカが、わずかにしんみりとした感情を込めた口調でそういうが、ジンに一睨みされると委縮して黙ってしまった。

 

「問題は『女』の方だ。一度は見逃してやったが、やはりこうなったか。疑わしきは罰するべきだった」

 

 ジンは言葉こそ後悔するような事を言うが、その口調はどこか楽しげですらある。

 ウォッカもピスコも別に何も言わない。ジンという男がそういう人間だと、その場にいる全員が認識していると言う事だ。

 

「ふむ……まぁ、詳しい話は中でしようじゃないか、ジン。……『妹』の方の処遇も含めて、な」

「――最初から、目的はそれだったのだろう? ピスコ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(これでいい、計画通りだ)

 

 ジンはとっくに気が付いているようだが、私の一番の目的はあの娘を――シェリーと呼ばれる優秀な研究者を手元に置く事にある。組織の中で重要視される彼女を手にする事は、そのまま組織での発言力に繋がる。

 そのためには、まずシェリー自身の発言力・立場を落とさなければならない。そこで目を付けたのが、彼女の姉――宮野明美だ。ジンは最初から、あのFBI捜査官、赤井秀一と繋がりを持つ明美君を適当な理由を付けて殺そうとしていたが、それではシェリーに無用な反発心を植え付けてしまう。それではダメだ。彼女には組織に、なにより私の役に立ってもらわなくてはならない。

 

 一番確実なのは、彼女の生殺与奪の権利をこの手に握る事だ。それも、あからさまにそれを掲げるような高圧的なものではなく、出来れば彼女が自主的に協力してくれるような体制が望ましい。――まぁ、そこに、多少の猜疑心が混ざろうとも……問題はないだろう。

 

「……しかし、残念だよ。明美君が公安に利用されるとはな」

 

 あの時、宮野明美はカルバドスを助けようと行動を起こした。理由は――いくつか推定できるが……まぁ、どうでもいい。大切なのは、宮野明美というキーがタイミングよく自分の目の前に落ちてくれた事だ。

 

「ふん、だからさっさと始末してしまえばよかったんだ」

「そう言うな、ジン。宮野夫妻とはそれなりに親交があったんだ。紙屑のように捨てる訳にもいくまい」

 

 今は、という言葉が頭に付くが。

 そう、今はまだ、今はまだ駄目だ。死ぬのならば、せめてシェリーを働かせる理由となって死んでもらいたい。理想を言えば、事故死してくれるのが一番……それに浅見透やその仲間が関わってくれればさらに良いのだが……まぁ、贅沢は言えまい。

 変に話を作るのも悪手だろう。シェリーは優秀な研究者というだけあって、中々に頭がキレると聞く。

 

(……まずは違う研究施設を用意せねばなるまい。浅見透に嗅ぎつけられた場所など、いつ警察や奴自身に踏み込まれんとも限らん。職員も処分せねば……)

 

 そしてもう一つ。再び組織における発言力を取り戻すには、なによりも足りない物がある。

 チェスでいうポーン、将棋でなら歩。切り捨てるのは容易いが、同時に相手がどれほど強い駒でも場さえ整えてやれば討ち取ることができる力を併せ持つ――便利な捨て駒。

 当初は、キールを『例の件』で追いこみ、組織に献上。そのまま彼女と組んでいたカルバドスを『監視』の名目で手元に置くつもりだった。

 

(だが、もう彼女は私の手元から逃れられまい。父の死を乗り越えた奴でも……いや、奴だからこそ弟を、本堂瑛祐を容易く見捨てる事は出来ないだろう)

 

 場合によっては弟の方も利用できると思い、浅見透への不信感を植え付けておいたが……おそらく、そう長くは持つまい。挙げてくる報告からも、当初感じた憎悪と嫌悪の熱が徐々に失われているように見える。

 あの事務所にいる人間の一人―― 瀬戸瑞紀という女に青臭い感情を寄せているのも大きく影響しているだろう。

 

 瀬戸瑞紀という存在を利用して、浅見透と本堂瑛祐の仲を決定的に裂く事も出来なくはない。が、それには時間がかかりすぎる。少なくとも優先順位は低い。後々、楽しめそうな事ではあるが――。

 

(何はともあれ、本堂瑛祐を遊ばせておくのもそろそろおしまいだ)

 

 先ほど、アイリッシュに子飼いの兵数名を付けて身柄の確保に向かわせた。おそらく、カンパニー……『CIA』の人間が多少はついているかもしれないが、決して数は多くないはずだ。

 いや、ひょっとしたら想定している数よりもさらに少ないかもしれん。そもそも連中が本堂瑛祐を重視していたのならば、この街には決して近づける事はなかったろう。

 

(キール――水無怜奈、それに加えて意外と頭のキレる本堂瑛祐。この二人を捨てられる駒として活用し、得た利を私やアイリッシュ達が使わせてもらう)

 

 そして、相応の――あまり好きな言葉ではないが、自身の派閥を再構成した時。その時こそ――

 

 

 喉元に喰らいつく。奴の、私が認めたもっともやっかいな麒麟児――浅見透の、その喉元に。

 そして、その時出来る事ならば……手元に奴を――

 

(……いかん。事が回り始めて、柄にもなく気が急いているな……)

 

 最優先はシェリーの身柄の確保、次にキールと本堂瑛祐の身柄を掌中に。まずはここまでだ。

 余計な事を考えるな。必要以上に欲を出せば、あの男は必ずそこを突いてくる。

 

――ザ、ザザ……ッ

 

 

『ピスコ、聞こえますか。アイリッシュです』

 

 気を落ちつけるために深呼吸をした所、耳につけていたインカムに通信が入る。腹心の部下といえる存在からのだ。

 本堂瑛祐の確保成功の報告だろう。ようやく来たか。そう思い、返答しようと――

 

『不味い事になりました。本堂瑛祐を確保しようとしたところ、既にキュラソーが張り付いています。しかも、カンパニーの奴らと交戦しています』

 

 

 

―― …………何?

 

 

 

 

『どうしましょう、ピスコ。本堂瑛祐は、鈴木財閥の令嬢達と一緒です。下手な確保は難しいかと――』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 キュラソー。ラムの側近がどうして本堂瑛祐の所にいる。奴の『今の任務』としては、浅見透の近くにいなくてはならないはず。それが――どうして……。

 

(いや、それはいい。問題は既にあの女がカンパニーと関わっていると言う事だ。どう言う事だ、早すぎる!)

 

 アイリッシュは、共に来ていた部下たちを情報収集に走らせ、止めている車の後部座席で思考を走らせる。

 

 確かに、ピスコの計画内でも、本堂瑛祐にキュラソーが興味を持つ可能性は十分に想定していた。それはいい。想定していたのだし、いくらでも対策はあった。だが、それは疑念を持つ、あるいは軽い接触というレベルのものだ。まさかCIAと直接やり合うとは……。

 

 本堂瑛祐を囲んでいたCIAの人員。その最も外側にいる奴を、キュラソーが強襲した。

 監視員としての役目を果たしていた人員からの連絡が途絶えた事で異常事態を察したのだろう。

 CIAと思わしき人員は半分がそのまま本堂瑛祐に張り付き、残りは襲撃者を探しに出た。

 

 こういう工作に長けた奴の事だ。そもそも顔すら見せずに倒しているだろうし、向かってくるCIA職員を一人でも多く生け捕りにするつもりだろう。

 

(……キールは恐らく、仲間に弟の保護を頼もうとしたはずだ。だが、CIAは迂闊に動く訳にはいかず、軽い監視に留めていた)

 

 それに、CIAは少しずつ人員を減らしていた。これをピスコは、CIAが水無怜奈――いや、ピスコの推理が正しければ本堂か。奴と、その弟を切り捨て始めたと見ていた。おそらく、それは正しいだろう。

 キールは気取られまいとしているようが、日に日に憔悴していくその顔色は、どれだけ化粧で隠そうとしても隠せるものではない。

 

(まずは宮野明美の件を片付けてから、その時のCIAの様子に合わせてキールを取り込むつもりだったが……)

 

 CIAを頼りに出来なくなれば奴が頼るのは、頼れるのは実質浅見探偵事務所のみ。弟を守れるのはアソコくらいだろう。その時に、その弟がピスコの掌中にあれば――

 ピスコは、キールに関しては手に入ればいいという程度に見ている。

 つい先ほど指示を仰いだが、無理はせずに、確保が無理だと思ったのならばすぐに帰還せよというものだ。あぁ、多分そうするのが正しい。手に入らないのならば、すぐに切り捨ててピスコ自身の手柄にするべきだ。

 キールというCIAのNOCと、その弟の確保。手柄としては申し分ない。キュラソーにみすみす渡すのは惜しいくらいに。

 

 とはいえ、無理はピスコが言うように不要。キュラソーがCIA相手に暴れている内に退かせてもらおう。一人でいるならばともかく、鈴木財閥の令嬢と一緒となればかっさらうだけでも面倒な事になる。

 CIAもそう簡単に吐くとは思えない。つまり、時間的な猶予はまだある。仮にタイムオーバーとなっても、こちらが失う物は無い。

 運転席の部下に、車を発進させるように伝えよう。事の顛末は部下からの報告で十分だろう。

 

――コン、コン。

 

 そう算段を立てていた時に、窓が軽くノックされた。誰だ? 部下でないのは間違いない。警戒しながらドアを開けると、眼鏡をかけて神経質そうな雰囲気を漂わせた、なぜか首に包帯を巻いているスーツ姿の男が立っていた。

 

「すみません、警察の者ですが……少しよろしいですか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『安静にしておくように、と伝えておくようにと……』

 

 浅見透からの言伝は、たった一言だった。とても重く、のしかかる。

 

(悔しいが……何も言い返せない)

 

 FBIの力を借りた様だが、それでもあの男がいたからこそコードネーム・カルバドスを捕まえられた事には違いない。それに対して自分は、仲間内で完全に囲み安心していた所を逃げられてしまった。おまけに拳銃を奪われる始末だ。上司の降谷さんが取り成してくれなかったら、さらに重い処分を受けていたハズだ。

 

 浅見透。多くの技能を持ち、部下からも信頼されている降谷零という有能な公安警察官が信頼を預ける……一般人。そうだ、一般人なのだ、あの男は。それが――

 

(分かっている。俺は……浅見透に劣等感を抱いている)

 

 僅か20歳で、連続爆弾魔を追いつめた行動力。狙撃により怪我を負い、だが、一切恐れず事件解決のために躊躇わず動いた胆力、行動力。なにより、自分たちの上司はもちろん、多くの癖がありながらも一流の人材の信望を受け、そして使いこなす統率力を身に付けている――まさしく、逸材と呼ぶにふさわしい存在。

 今回も、自分ではなくあの男がいれば……。

 

(……今は、余計な事を考えている場合じゃない)

 

 考えれば考えるほど、ドツボにはまりそうだ。今は仕事に集中しなければならない。

 降谷さんからの命令は、二手に分かれての捜査だ。

 片方は、近隣の製薬会社や工場、それに大学の研究所などの極秘調査。これは違う班が請け負っている。

 そして自分達風見班は……

 

(本堂瑛祐の身辺の洗い直し、及び監視か……)

 

 この少年に目を付けたのも、聞けばあの男の一言が決め手になったという事だが……

 

(――くそ、余計な事を考えるなっ)

 

 とにかく、彼の周辺から目を離すなということだ。それも、気付かれないように注意して。

 今は五人体制で彼の周辺を固めているが、特に異常はない。毛利小五郎の娘と、鈴木財閥の令嬢と共に……この方向からして、浅見探偵事務所に向かうつもりだろう。ここしばらくは浅見探偵事務所というよりは、あのマジシャンの舞台を見に行っているようだが。

 

 周辺を見渡して、ふと違和感を感じた。こう、浮いていると表現すればいいのか。ある一台のワゴンが目に止まったのだ。なんてことはない、ごく普通のワゴン車だがその後部座席はスモークが貼られている。……まぁ、よくある事といえばそうなのだが……。

 

(念のため、確認しておくか)

 

 そして公安警察官、風見裕也は――その車の窓を叩いた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「では副所長、今日一日お疲れさまでした」

「ごめんなさい、安室さん。わざわざ送ってもらって……」

「いえいえ、今日はドタバタしましたから……仲居さんも、もうちょっとしたら戻ってくると思います」

 

 先ほど、白鳥刑事から連絡があった。仲居さんや恩田君達が例の『キラ』というダイイングメッセージの事件を無事に解決したらしい。

 しかし……『また名探偵が一人増えたんだね』とはどういうことだ? 恩田君か鳥羽さんの事だと思うが、ニュアンスが少し違うような……。

 ともあれ、これから白鳥刑事の車で戻ってくるらしい。まずは警視庁で事情聴取を受けてからという事だが……。

 

 越水七槻は無事に家に帰りついた。中北楓も、週末という事で王三郎氏の家に例の少年探偵団の面子と共に泊ると聞いている。念のために公安の部下を付けているため大丈夫だろう。

 ここにも当然護衛は付けているし、そもそも今現在のこの家の防犯レベルは素晴らしい代物だ。透が狙撃されたのを機に全てを一新し、窓も壁も防弾仕様。重火器でも多少は持ちこたえられ、最新鋭の防犯センサーを配備しているここに侵入するのは至難の業だろう。例え潜入に特化したキュラソーでも、だ。

 

「……安室さん」

「なんですか?」

 

 一度、運転席にいる自分に一礼してそのまま家に入るかと思っていた越水さんが、もう一度声をかけてきた。

 

「――浅見君を……どうか、よろしくお願いします」

 

 もう一度、『安室透』に深く頭を下げた彼女は、今度こそ振り向かずに家の中へと入っていった。

 ……気のせいでなければ、振り向くその瞬間、歯を食いしばった様な固い表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「――いい人ですよねぇ、副所長は」

「ですねぇ」

 

 事前に連絡をしておいたキャメルさんが、いつの間にか助手席側のドアの外に立っている。近くのファストフードで買い物をしてきたのだろう紙袋を抱えている。

 

「淑女って言うのはああいう人の事を言うんですかね……」

 

 キャメルさんがしみじみとした様子でそう呟く。ひょっとしたら、頭の中で誰かと比較しているのだろうか?

 

「おや、ひょっとしてキャメルさんは副所長に好意を?」

「いえいえ、違いますよ。なにより、私も馬に蹴られたくはありません」

「確かに」

 

 互いに軽く笑う。それに、互いをあれだけ上手く扱いこなせるのはあの二人くらいのものだろう。……いや、あの三人と言うべきか――今の所は。

 

「それで、キャメルさん。周囲の様子は?」

「これと言って怪しい影はありませんでした。車も特になし。マスコミの追手や張り込みも一切ありません」

「上々ですね」

「えぇ」

 

 キャメルさんは助手席にその大柄な体をねじ込み、抱えていた紙袋を膝の上に置いてドアを閉める。

 

「で、所長はやっぱり?」

「えぇ、メールが来ましたよ。そして瑞紀さんも今日はお休み。彼女から紹介された沖矢さんも同じくお休み。ついでに――」

「まだあるんですか?」

「えぇ、江戸川コナンくん。今日は皆で紅葉御殿にお泊りする所を、彼だけ断ったそうです」

「……このタイミングで、ですか」

「えぇ、このタイミングで」

 

 本当はそれに加えてキュラソーの事もメールにあったが、彼女は所長命令で本堂瑛祐に張り付いているハズ。念のために、復帰を希望した風見と現場慣れした部下に彼の周りを固めさせている。

 なにより、ひょっとしたら赤井の仲間かもしれないアンドレ=キャメルを必要以上にあの女に関わらせるわけにはいかない。変な所で変な情報が流れる可能性は1%でも下げておきたい。

 

 そのアンドレ=キャメルは江戸川コナンという名前が出た瞬間に顔を引き攣らせ、そして大きいため息を吐いた。

 

「厄介な事になってますね」

「なってますね、間違いなく」

 

 紙袋の中から、キャメルさんが薄紙に包まれたハンバーガーを取りだす。それを受け取り、紙を適当に剥がしてかぶりつく。キャメルさんも同じ物を食べ始めている。初めて会った時から思っていたが、どんなものでも美味しそうに食べる人だ。ひょっとしたら千葉刑事と気が合うかもしれない。

 

「所長からの指示は何か来てます?」

「副所長とふなちさん、要するに浅見家の皆の安全を確保。で、その後は各々の判断に任せるそうです」

「相変わらずアバウトな指示ですね」

「僕達らしいじゃないですか」

 

 ファストフードのいい所は、すぐに食べ終えてしまえる所だ。これから何かを始める時には最適と言える。すぐに包む物が無くなってしまったソースだらけの包み紙を軽く畳んで、紙袋の中に放り込む。

 

「『これだけ能力がある人間達で、お手手つないで横一列の仕事なんてナンセンスですよ。個々がベストを尽くして結果として問題を解決できればそれでいいのさ』」

 

 キュラソーや鳥羽初穂、恩田遼平という今のメンツが揃った時の彼の言葉を、口調も真似て言ってみる。

 どうやら結構似ていたようだ、キャメルさんは笑って『そっくりですねぇ!』と褒めてくれた。

 

「あの時は、所長も無茶苦茶な事を言うなと思っていましたが……実際、我々の動きの基本になっていますからね」

 

 我らが所長の言っている事は本当に滅茶苦茶過ぎるのだ。『お前ら好き勝手やっていいよ。責任は俺が持つから』と言っているのに等しい。半端な人間では、とても組織は回らないだろう。

 だが、責任問題も後始末も、本当にどうにかしてくれると思わせてくれるのが彼だ。どうにかしてしまうのも。

 そして、それに応えたいと思ってしまったのが我々だ。

 

 少なくとも俺は。多分――ここにいる二人は。

 

「さて、キャメルさん。そろそろ、その無茶苦茶な所長に手を貸しに行きましょうか」

「えぇ――行きましょうっ」

 

 

 

 

 

 

 




浅見「いやだって主要人物候補の動きを阻害して無限ループとか怖いし……」


次回はキュラソーの描写から一気に進……めばいいなぁ。

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