(これは……どういう事だ?)
あの浅見透が気にかけた男――本堂瑛祐。
今は毛利小五郎の娘の蘭、そして鈴木財閥令嬢の鈴木園子と共に街を回っている少年の跡を付けながら、思わず言葉を漏らしてしまう。
あの男が気にした人物、事象には高い確率で何かがある。一事務所とはいえ、決して侮れない組織を率いる男の言葉だ。そのため、よっぽどの事情があるのではないかと考えるのは自然な話だろう。当然、彼を発見した時にその周辺を調べるのは当然だ。その結果――
(……複数の人間が彼ら――多分彼を尾行している。勢力としては恐らく……二つか?)
どちらもそれなりに訓練を受けてはいるが細かい仕草、マニュアル化されているのだろう部分の差異から大体の当たりは付けられる。
問題は――
(日本人が主体の方は警察――もしかしたら公安か? まぁ、こちらはいい。……一番の問題はもう片方)
東洋人に見える人間を揃えているが……良く見れば分かる。全員、日本人ではない。
(それにあの動きは……。極限までシステム化された尾行。予備・補佐の置き方、車を1,2……3台以上配備するやり方)
もう間違いない。以前、一度潜入した事があるから間違えようがない――CIAだ。
(CIAがなぜ、一介の男子高校生に監視を付ける?)
鈴木財閥の令嬢が目当ての可能性もあるが、この物々しさはどちらかといえば『護衛』に近い。
日本の財閥である鈴木の令嬢を守る理由はCIAにはないだろう。毛利蘭も同様。
ならばなおさら、一介の男子高校生でしかない本堂瑛祐を守る理由も見当たらないが――
(……浅見透が目を付けた男の周辺に、CIAがいる。無関係と断言していいはずもない)
突発的な調査等のために常備している、探偵事務所から支給された手袋をはめる。
当然指紋は残らない。それに加えてこの手袋の素材は非常に薄く、かつ丈夫に出来ているため仕事に使いやすい。サバイバルキットといい、こういった小道具に関してのレベルの高さには舌を巻く。あの浅見透が、小沼や阿笠といった技術者に色々と作らせていると聞くが――
「さて、まずは離れた所にいる奴から――色々と吐いてもらおうか、CIA」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「へー、じゃあ浅見探偵は、事務所を設立する気なんてなかったんですか?」
「うん、七槻さんからそう聞いてるよ?」
「あぁ、それ安室さんから聞いた聞いた! 伯父さまが一方的に設立しちゃって、後で安室さんからそれを聞かされた時に膝から崩れ落ちたって」
「へ、へー……」
聞けば聞く程、浅見透という人物が分からなくなる。
探偵という情報を集められる立場を利用し、何か悪事を企んでいる人間だと考えていた。今でもその疑いは全くと言っていい程晴れていない。彼の周辺の環境が、この短い時間で整い過ぎているというのが理由の一つだが……。
(……鈴木次郎吉を始めとする経済界の重鎮、小田切敏郎や服部平蔵という警察幹部、そしてマスコミ方面では――)
水無怜奈。日売テレビの看板アナウンサー。
そして、瑛海姉さんの顔をした『誰か』。
あの女が、浅見透に力を貸している。どれだけ思考をめぐらしても、彼が怪しく見えてしまうのはこれのせいだ。これがある限り、僕はあの人を疑い続けるだろう。
「でも、意外でしたね。こう、なんていうか……浅見探偵っていつも自信満々で、何をするのも先陣を切っていくイメージでしたけど」
「そりゃ、アンタが名探偵になる前のあの人知らないからよん。今みたいにテレビや雑誌に出るようになる前は、髪も伸ばしっぱなしでもっさりしてて、『冴えない男』を地で行く人だったのに……ちっ、今思うと惜しい事したわね」
「もう、園子ったら……」
割と本気っぽい舌打ちをする園子さんを、蘭さんがたしなめる。
当初は浅見探偵との繋がりを考えて接触した二人だけど、今ではいい友人だ。
「あの事務所、今では美形、美人の集まりですからね。この間マリーさんがボヤいていました。ファンレターまで来るようになって鬱陶しいって」
「あぁ、あのクールビューティー……。なんていうか、たまに怖い話し方するからアタシ苦手かも……」
「そう? あの人、子供達のお世話を良くしてるからいい人だと思うよ? 特に歩美ちゃんは懐いて『お姉ちゃん』って呼んでるし」
「マジで? 想像できないんだけど……」
マリーさん。あの事務所にいる人間の中でとんでもなく強い女性だ。前にあの事務所の格闘訓練を見学させてもらった時に、安室探偵とすごい格闘戦を繰り広げた女性で、今では主力調査員の一人に数えられている。
「そういえば、この間仲居探偵と一緒にいる所を見ましたよ。どうにも、仲居探偵が振りまわしていたようでしたけど……」
「は、はは……」
「……あのクールビューティも、天然オタク娘には勝てないって訳ね」
なんにせよ、やっぱり浅見探偵については調べていかないといけない。
全ての始まりとも言える人物。浅見探偵が注目される理由になった、今は姿を見せない彼の『本当の相棒』――工藤新一の事から……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうしてこうなったんだろう」
思わず口にしてしまった現状への疑問に、いつもなら突っ込みを入れてくる所長もマジシャンもUFO研究家も今はいない。
……これは本当にどうしよう。
結果、今回白鳥刑事に同行したのは、自分と初穂さん、そしてふなちの三人。そう、三人だ。『事務所員』は。
「――ふざけているわね。まさか私の目の前で、ここまでオカルトを……魔術を虚仮にしてくれるお馬鹿さんがいるなんて」
事務所員ではない同行者が、一人いたのだ。
その人物は瑞紀さんの知り合いのようで、蘭さん達とは違う高校に通う女の子で――そして、なぜかウチの所長と謎の繋がりがある女子高生だ。ウチの所長、あんだけ綺麗所侍らせておいて更に手を広げやがった。
小泉紅子。
なんでも所長の様子を見に来たとの事。白鳥刑事が話をしていた時にちょうど現れ、『オカルトと言う事ならば、私が力になれるかもしれないわよ?』という一言で同行する事になった。
そして関係者が集まっていると言う事で、オカルト漫画家――
問題は到着してから。到着し、白鳥刑事がノックをする。すると当然、中から人が出てくる。それが黒フードの怪しげな集団だった辺りから、僅かに機嫌が悪かった気がする。
いや、まだましな方だったろうか。その後、この集まりが一年前に事故死した
なんやかんやで降霊術に参加した時にはすでに凄まじいオーラを出していた。勝手にろうそくがはじけ飛んだり、皿が落ちて割れたり、儀式が行われた部屋中に奇妙でおどろおどろしい女の声が響き渡ったトリック――インチキを、ふなちと共に凄まじい勢いで解いていった時あたりからドSモード全開だ。
『こんなちゃちなトリックを用いるようでは、貴方の想像力もしれた物。とても漫画には期待できないわね』
とか、
『そもそも魔法陣の描き方から、周囲を囲うアイテムの配置、果ては呪文まで……何から何まで意味も法則もないじゃない。それでオカルトに一家言があるだなんて、私なら恥ずかしくて言えないわ』
と、煽る煽る。白鳥刑事が顔を引き攣らせる程だ。ふなちの必死のフォローなどなんのその。あの瞬間、間違いなく魔女がその場に降臨していた。言葉で人を落とす魔女だ。
ともあれ降霊の儀式は終わり、詳しい話は次の日に聞くと言う事でその日は解散。空いてる部屋に泊めてもらい……そして事件は起こった。
「――デタラメなオカルト屋敷にインチキ降霊術の時点で頭にキテたのに、よりによってよみがえった幽霊による殺人!?」
そして、その死体を発見する理由となったのが、その歌倉晶子の携帯からその場にいる全員に送られてきたメール。
『 我、ここに復活す キラ 』
という内容の物だった。
直後、例の漫画家も同じく密室と化した自室で毒を飲んで死んでいるのが発見された。
参加者の中でも熱狂的なファンクラブ会長など、『キラちゃんがよみがえったんだぁ♪』なんて浮かれて喜んでいるが――
「魔術を馬鹿にしてるの!? えぇっ!!?」
「滅相もございません紅子さん! いえ、紅子様!!」
所長に教えず、こっそり通っていた可愛い娘がいる店を教えるから……浅見所長、今すぐここに来てこのお嬢様を宥めてほしい、全力で。それはもう全力で。
なにやら背後から『ゴゴゴゴゴ』と効果音が聞こえてきそうな重圧感を発しながら、たまたま近くにいた自分の襟首を掴みあがぁ―――っ!!!!!
「どうなのよ!」
「こ、小泉様落ち付いてくださいまし! 恩田様の首がキマっておりますわ! 死ぬ、死んじゃいますから!!」
「……微妙に頸動脈から外れてるから無駄に苦しみますね。もうちょっとこっちを締めれば――」
「初穂様ーーーーーっ!!!!!!」
ふなちが必死に宥めてくれる。やっぱりいい奴だ。そして初穂さんが丁寧な口調のまま煽ってくる。やっぱり悪い奴だ。瀬戸さんの演技指導を受ける度に、この人から感じる違和感が日に日に強くなっていた。それに気が付かれたのか、最近扱いが酷い気がする。
ちくしょう、所長とはえらく扱いが違うじゃねぇか、この悪女め。
「貴方達、浅見透の部下というのならば、当然こういう事件に対しての知識は人一倍あるのでしょう? ――力を貸しなさい」
「どこの誰だか知らないけど、この小泉紅子の目の前で魔術を愚弄する真似など、決して許すわけにはいかないわ――――!!」
心霊探偵小泉紅子の誕生である。
本当は先日の投下の時に後ろに付けたかった話ですが、ジンニキの出番を最後にしたくて切った部分でござる。
さて、アニオリキャラが色々出ましたが今回はキャラではなく、事件の紹介を。
自分イチオシのアニオリストーリーです。
☆アニメ603-605話「降霊会W密室事件」
アニオリでは珍しい3話連続放送の事件。その分トリックもよく練られていましたね。
基本コナンのアニオリで繰り返し見るのは気楽に見れる話が多いのですが、ガッツリ見る時はこの作品が一番ですね。
何気に7年前の作品になるのかぁ……
時が流れるのは早いなぁ……。あれ、頬に水滴が……