平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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040:考察と疑惑、そして反撃の一手(無意識)

8月7日

 

 安室さんと一緒に仕事をしていたら、スーツ姿のいかつい男が来た。安室さん抜きで話がしたいという事なので席を外してもらったら、なんと公安の人だった。俺を撃った男が逃げ出したらしい。おい、おい。

 

 風見さんも負傷、ついでに拳銃も取られている。別にいいけどさ。拳銃ならジャケットだけでも対応できるからいいけどさ。むしろ後遺症などが残る様な怪我をしていないかどうか不安だけど……。

 とりあえずその公安の人に『風見さんに安静にしておくようにお伝えください』って言っておいた。

 なんかすっごい顔で、『手厳しいですね』って言われたけど、あれどういう意味だったんだろう?

 

 

 

8月8日

 

 とりあえずしばらくの間は家を出ることにした。七槻に問い詰められました。うん、分かってたけどね。今回は安室さんがフォローしてくれた。

 で、最低限の荷物を持って安室さんの運転でとりあえずの避難場所――工藤新一の家へと向かった。

 入り口で例の女王様系女子高生が待っていた。待っていたっていうか待ち構えていたというか……なんで?

 あと安室さん、「君という奴はどこまで……」とか言われても心当たりがない物には答えられません。あと未だ名前くらいしか知らない女子高生が、今工藤の家を歩き回っている訳だけど……これ、コナンに報告しないと不味いよね?

 すっごい電話かけたくない。そもそも携帯の着信履歴がスッゴイ事になっていて携帯開きたくない。

 

 

 

8月9日

 

「私に出来るのはここまで、あとは頑張りなさい」と言って彼女は出て行った。待って、せめて何をしたのか説明してから行ってよ。様子を見に来た瑞紀ちゃん顔引き攣ってたじゃん。付いて来ていた瑛祐君すっごい睨んでたじゃん。コナンから「おめー、人の家で何やってんだ」って怒られたじゃん。

 いや、無許可で泊めたのは悪かったけど俺もどうしようもなかったんだって。あの子多分寝ずに俺の横で本か何か読んでたから。

 良いから寝てなさいとベッドに半分押さえつけられた直後、なんか急にスッゴイ眠気が襲ってきたおかげでほとんど覚えてない。呪文みたいな何言ってるか分かんない声だけは覚えてる。

 で、目を覚ましたら頭撫でてくれてた。――これ誰にも話せないな。意味不明過ぎるし、下手したら俺変態さんだわ。

 

 

 

8月10日

 

 安室さんが一緒に住む事になった。君は大分緊張感が足りないとか言われましても……敵が来る事が分かっていて、そして現在地のアテも付けられないなら防御を整えて迎え撃つしかないじゃないかと俺なりの意見を言ったら頭抱えられた。解せぬ。

 どうでもいいけど、朝「じゃあ仕事に行ってくるよ。食事は冷蔵庫の中に作ってあるから」って言われる生活ってヒモっぽくてなんか涙出そう。

 という愚痴を初穂さんにしたら爆笑された。おのれ。

 

 

 

8月11日

 

 いくらなんでもおかしい。動きがなさすぎる。余りに動きがないから見晴らしのいい所や人気のない所を歩いてみて誘い出そうとしたんだけど何もない。諸星さんの携帯に『今日一日囮になるのでヨロ』ってメール送っていたから、仮に敵が動いていたら教えてくれると思うんだけど……。

 

 で、工藤の家に戻ったら玄関にコナンがいた。足がパリパリ鳴ってた。そして吹っ飛ばされた。

 

 

 

8月12日

 

 安室さんと現状を話し合った。いくらなんでも動きがなさすぎるという事。囮になってみたけど特に動きは無し。尾行されてたり監視されている気配もほとんどなし。(一部マスコミは除く)

 例の狙撃手、例えば完全な雇われだったんじゃなかろうか。あるいはもっと上の人間に切り捨てられたか。

 なんにせよ、狙撃技能持ちの強敵が起きたっていうことは話が進んだと言うことだ。問題は何がきっかけなのか……単純に時間なのか、あるいは水無怜奈を調べ始めたからか、他にあるとすれば、

 

 

≪次のページに続いている≫

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 カルバドスに逃げられた日から浅見君の周辺には警護を付けてある。副所長やふなちさんを始めとする、浅見家の人間にもだ。むしろ、そっちの方を重視している。もし、カルバドスが赤井の事を組織の人間に話していたのならば、とっくに幹部が集結しているはずだ。赤井抹殺は組織の悲願でもある。

 だが、その様な気配はない。ひょっとしたら俺が疑われているという可能性もあるが、それでも完全に動きを隠せる訳ではない。

 現に、赤井に対する重要な戦力になり得るキュラソーに動きがないのがその証拠。

 念には念を入れて家を移動したが――

 

(分かってはいたが……彼にはある種の二面性がある……)

 

 カルバドスが逃走したという知らせを受け、負傷した風見に代わって違う人員を使って彼にその事を伝えてもらったが、自分を狙撃した人間が逃げたと聞いても彼はまったくと言っていいほどいつもと変わらない。それどころか意味ありげな、そしてどこか挑戦的な笑みを浮かべていた。

 自分の身辺の事など一切聞かず、負傷した風見を心配していた。やや挑戦的だったが、それは仕方あるまい、もしこれが一般人ならパニックになってもおかしくなかった。

 

「で、安室さん。とりあえずこうして家を移したんですけど……越水達に付いていてくれませんか? って言いたかったんですけど」

「その副所長達から、貴方から基本目を離すなと言われていまして」

「……うん、知ってた」

 

 なぜか彼から離れない白猫の源之助を肩に乗せたまま膝を抱える彼は、とても普段の様子と重ならない。刃物を振り回されようが、銃弾が飛んで来ようが笑って全てを乗り越えていく姿とは、とてもとても……。

 

「しかし、このタイミングで狙撃手が逃走ですか……」

 

 相変わらず膝を抱えたままだが、顔は真剣な物へと変わっていく。心なしか、肩に乗っている源之助まで真面目な顔をしているように見える。

 さぁ、ここからだ。俺が知りたいのは、彼がどのような意見を出すか。

 キャメルさんと昴さんの三人と、以前こんな話題で盛り上がった事がある。『所長には、いったいどのように物事が見えているんだろう?』という話題で。

 

 アンドレ=キャメルはこう言った。『まるで、結果だけを掴み取っているかのような思考だ』と。

 沖矢昴はそれに対して同意した上で、『彼の強い好奇心が、我々とは違う視野を作りだしているんでしょう』と言う。

 二人とも、きっと合っている。俺もそう思う。だが、もう一つ。彼の行動が最も活発になる時は――自分や身内に危機が迫った時。選べるのならば守勢よりも、攻勢を迷わず選ぶバイタリティ。

 

(彼の最大の武器は多分、頭脳でも勘でも体術でも、あの早撃ちでもない。生存本能とでも言うべきものじゃないかな)

 

 それも守り続けて生きるのではなく、外敵を倒して生きようとするタイプの。

 だからこそ、あの時間違いなく警戒していたキュラソーを懐に入れた。そうとしか考えられない。

 現に、そのおかげで異変が起これば察知できる状態にはなっている。

 

(さぁ、浅見君。君はここからどういう意見を出すんだ?)

 

「――日売テレビの怜奈さん、水無怜奈さんは最近どうですか? それと瑛祐君も」

「あぁ。水無さんは特に異常はないと思うよ。最近、事務所には来てないけどね。瑛祐君は……そうだね、君が仕事を休んで外出を控えるようになってからは回数が少し減ったかな?」

 

 まぁ、ふらっと来て瑞紀さんや恩田君と話している様だけど。

 

「――そうですか。……あぁ、そうだ。ちょっと話は変わるんですけど」

「? なんだい?」

 

 

 

「薬の研究をしている人に心当たり、あります? マッドサイエンティストと呼ばれているような人なら尚更いいんですが」

「…………」

「? 安室さん?」

 

 

 

 

 

 

―― 本当に、一生かかっても理解できない気がするよ。

 

 

 

 

 

 

―― 浅見君。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見透が事務所に来なくなったか。拠点まで変えて……なるほどなるほど」

 

 本堂瑛祐からの報告に目を通して、ピスコは満足げに頷いた。

 バーボンの証言だけでは信用できないが、キュラソーの報告も交えて見ると奴の人柄が見えてくる。

 

「奴は、背を見せる事は恐らくしないだろう。あるとすれば、撤退ではなく後退」

 

 周囲の人間への、万が一の被害を警戒したのだろう。そして、それはそのまま奴が警戒せざるを得ない事態が起こったということだろう。考えられるのは――

 

(カルバドス、貴様だとすれば。……やはり生きているのか)

 

 動きを見る限り、浅見透ではない。他の人間、あるいは組織が奴を捕らえていたと見る方が自然だ。そして、その組織が浅見透と繋がっている。でなければ、逃げたという情報は手に入らない。

 そのような事をするとすれば……

 

(もしカルバドスが生きていて、そして何者かの手から逃げ切ったとするならば――来る。ここに。何らかの情報を手に――)

 

 それが有用な物であるのに越したことはないが、まぁそこはどちらでもいい。あればいい程度に考えておけばいいだろう。問題は――

 

(……もう一個、使い捨てられる手駒を揃えておくか。どう転んだとしても、私にとって上手く使える存在)

 

 身近にいる人間は全て使う。そうしてこれまで伸し上がってきた。そう、これまで――そしてこれからも。

 

(奴も少しずつ、我々の喉元に近づいている。あの会社に目を付けるとは……)

 

 念には念をと、得意先以外の外部連絡をチェックしていて正解だった。今時珍しい公衆電話からの電話が一つあり、それを調べてみたらあの男が引っかかった。一見裏のない普通の仕事の電話だったが、あの男の場合、仕事の対象があそこにいたから選んだという可能性がある。目的はまだ掴めないが……ひょっとしたら。

 

「……掴んでいるのか? 『出来そこない』の存在を――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

8月13日

 

 昨日の安室さんとの話し合いは、実はコナンも聞いていた。俺のサングラスの機能を使って、音声をアイツに送信していた。本人が参加してもよかったのだが、今回は話が話なだけに、子供の参加は止められる可能性があると言う事でこっそり聞く事になった。本人は隣の阿笠博士の所で聞いていた。

 

 しかし、動こうとした瞬間にこれである。今まではなんとなく状況を察したのだろう七槻達の意見を元に動いていたが、こうなってはしょうがないよね。冗談抜きで千日手になったらアウトだもん。

 

 ってな訳で、コナンをバックアップ役にして水無さんに接触してきた。

 水無さんに例の男性の行方を改めて聞いてみたけどやっぱりというか情報は無し。まぁ、そういうだろうなぁ……。盗聴器の方でも今の所成果はないし――どうしよう?

 

 むしろ、逆にこっちが質問されてしまった。この間事務所に、眼鏡を掛けた高校生が来ていたけど新人かしら?っていう話だ。……瑛祐君の事だよね? 最近よくうちに遊びに来る放っておけないドジッ子ですって言ったら微妙な顔をしていたけど……やっぱり水無怜奈と本堂瑛祐は関係あるって考えていいのだろうか? まだ情報が足りない。薬学者の方は一旦置いて、一か八かこっちサイドの情報収集に力を入れてみよう。

 

 




今週のサンデーで、文字通り平成のワトソン(ある意味明治の?)が登場しててなんだか後ろめたい気分になってしまいましたwwww

万が一ストーリー的に平成のワトソンってワードが出てきても突っ走るつもりではありますが……w

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