平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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本日? 2度目の更新です。うだうだやってたら出来てしまった。


039:再起

「――最近瑞紀ちゃんが俺の傍を離れないんだけどこれってそういう意味なのかな? どう思うコナン?」

「まず目を洗って耳も洗って、それで脳みそ洗ってみたら?」

「よし表出ろ、決闘だこら」

「いいぜ、PK勝負な」

「……お前が両足禁止なら」

「PKだって言ってんだろーが」

 

 時期的に例の連絡の取れなくなった息子さんと母親の仲を取り持った辺りからだろうか。

 あの辺りから仕事の時は大抵瑞紀ちゃんと組む事が増えた。そうでない時も、『所長は一人で行動するべきじゃないです! 色んな意味で!』ということだ。え、なに、俺またなにかやらかした? それか、やらかしそうだと思われてんの?

 

「自分でそういう風に思うってことはそーゆーことなんじゃない?」

 

 後、最近コナンが毒を吐く事が多くて悲しくなる。

 

「この野郎、せっかく他の所員に黙ってこっそりデータ作ってきたって言うのに」

「わぁい! ありがとう浅見にーちゃん!」

「……コナン、今度恩田先輩と一緒に瑞紀ちゃんの講習受ける? 今演技の訓練やってんだけど」

「うっせ」

 

 微妙に拗ねたが、まぁいつも通りだ。とりあえず本題に入ろうと、徹夜でまとめた資料をコナンに渡す。

 

「捜索願が出されたり、連絡が付かなくなったプログラマーやSEのリストだ。もっとも、方向性の様なものは見えない。まぁ、全部が全部組織のモノってわけじゃないだろうから当然か」

「まぁ、だよなぁ……。例の『テキーラ』がプログラマーリストを狙っていたから、そこから何か分かるんじゃないかと思ったけど……」

「ふむ……やっぱり色々と足りないか」

 

 時間を進める条件は大きく分けて二つ。組織の事件を解決することと、そして当然だがコナンの身体が元に戻ることだ。前者は恐らく、ゲームでいうフラグがいくつか立たないと無理だろう。これに関しては何がキーになるか分からないので静観。何がフラグか分かれば手元に置いてキープしたり、探偵事務所という強みを使って監視しておくんだが……。

 

「薬学に強い人間が欲しいなぁ……」

 

 これは以前から考えていた事だ。以前コナンが工藤新一に戻り、服部平次と推理対決した時には……なんだっけ? パイカル? とかいう中国酒を飲んで元に戻ったと聞いている。つまり、その酒の成分などを解析すれば身体が戻る薬を作れるんじゃないだろうか?

 

(とはいえ、筋を考えると組織を倒す直前、あるいはその後に元に戻ると考えるべき。……難しいな)

 

 もっとも、そういう人材も確保しておいて損はないだろう。というか、以前初穂さんを雇った際にもそういう人材を探してはいたんだが……特に面白いと思える人物がおらず断念。

 小沼博士くらい突き抜けているか、技能的にキャメルさんや安室さんの様に高い水準でバランスが取れているか、あるいは初穂さんみたいに私欲の人がいればいいんだが……。

 

(と、いうか。工藤新一の身体を小さくしたのが薬なら、重要人物の中に絶対にいるよな。薬学に長けた人物)

 

 阿笠博士は発明家だから違う。……うん、やっぱり周囲に気を張っておこう。自分がこの世界でどういう立ち位置かは知らないけど、こうしてループに気付いて動いてしまっている以上、変化は必ず起こる。あるいは、認識できていないだけですでに――

 

「ともあれ、当初の予定通り動く……それでいいんだな?」

「あぁ。って言っても、危ないのはそっちだよ?」

「ほとんど接点がないコナンが動くとバレやすいだろ。子供の姿だからって……いや、むしろ子供だからこそ目立つかもしれねぇ」

 

 懐から取りだしたのは、指紋なども拭き取った上で性能もかなり上げてもらった――盗聴器。

 

「俺を狙ったのはあの時のサングラスの男でほぼ間違いない」

「なら、あの人もなんらかの形で関わっていると見ていいよね?」

 

 

 

「アナウンサーの……水無怜奈さん」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

――人生……急に変わってしまったなぁ……。

 

 学校は既に休みに入っていて、仕事も入っていない完全な休日。色々と教えてくれる瀬戸さんの教え通り、左利きの訓練をしながら、昨日仕事帰りにコンビニで買った雑誌を読んでいる。

 記事の内容は――浅見探偵事務所。少し前ならば『ここの所長、ウチの学校の後輩なんだぜ』っていう話だった。それが今は……『自分がその一員なんだよ』っていう話題に出来る。とても自分から話題にする気は起きないが。

 

(安室さんやマリーさん、透――いやいや、所長の仕事を実際に見てると、とてもそんなこと言えない……)

 

 自分と同じく入ったばかりという沖矢さんですら、観察力と推理力、場合によっては体術を駆使して犯人を追いつめる――まさしく名探偵という存在だ。

 彼だけではない。あの細い身体で、犯人を容易く取り押さえたり、武装解除したりする瀬戸さん。

 女性だが、格闘術では恐らく事務所内でもトップに入るマリーさん。

 いや、ここまではいい。まだ理解できる。

 ショックだったのは、同じ大学――大げさかもしれないが、同じ世界にいると思っていた人達。

 

 浅見と同じ後輩の越水七槻。ちょっと気難しいけど美人だと知られていた彼女は、私服からスーツに着替えた時、大学生から名探偵へ、浅見と絡んでいる女の子は、彼を補佐する副所長と変わっていた。

 

 中居芙奈子――こちらは可愛いけど変わっている先輩と有名な人だった。そんな彼女は事務所に入れば、エキセントリックな発言は同じだが書類を捌き、電卓を叩く事務員。そして事が起これば、スーツに着替えて現場や依頼人の元に急行する立派な調査員。

 

 なにより……浅見透。色んな学生とつるむことはあっても、深く入ることはない。人によっては潤滑油なんてあだ名をこっそり付けてあざ笑われていた男。何度か大規模な合コンで見たことがある程度の男。

 正直に疑問だ。きっとあだ名をつけたりした奴は嫉妬か何かでそんなあだ名を付けたんじゃないかと思う。

 スーツに身を包み、サングラスを掛けて夜の街を歩く一つ下の男は、大学で見たどんな男より――格好良く見えた。

 

(この間の誘拐事件の時も、人質に怪我をさせずにあっさり犯人を捕まえたって瀬戸さん嬉しそうに話してたからなぁ……)

 

「俺、あの事務所にいていいのかな……」

 

 後輩に有名な探偵がいて、しかも事務所を開いていると聞いて妄想をする事はあった。自分がそこに所属して、その所長よりも活躍して世間に注目される。そんな馬鹿げた妄想――本当に馬鹿げていた。甘かった。

 

「……よし」

 

 左手で延々雑誌の内容をノートに書き写す作業を止め、買っておいたペットボトルのコーヒーを飲んで喉の渇きを潤す。

 

「キャメルさんが教えてくれたビルの階段……挑戦してみますか」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

7月30日

 

 うん、月末は仕事を調整して全力で事務を片付ける。効率が上がったこともあって仕事量も収入も増えたのは嬉しいんだけどね。おかげで所員全員にボーナスもキチンと渡せるし……。今度機会があれば旅行でも考えておくか。……出来れば小五郎さんの所や少年探偵団も連れて行きたいけど……。

 

 最近事務所では恩田さんが人気だ。キャメルさんと安室さんがすっごい気に入っていると言うのもあるが、特に技能を持っていない所に色々と教え込んだためか、皆さん揃って『使いやすい』と評判だ。

 本人が何か手伝えないかと、下のレストランでもホールと簡単な調理補助を手伝っているらしい。……俺たちには内緒にしておくようにと飯盛さんに言っていたらしい。しかも無給で、と。

 本人曰く、これも訓練だからと言っていたらしいがそういうわけにはいかない。

 こっそり飯盛さんに、彼の給料分を渡している。……正直、言い方は悪いが虚言癖のような所があったので少し不安だったのだが、恩田さんも言い方は悪いがいい拾い物だった。

 

 プライベートでは最近初穂さんがウチによく遊びに来る。酒持参で。さすが悪党、よく分かっている。

 最初は七槻やふなちも素に驚いていたようだが、今では割と馴染んでいる。

 一番意外だったのは、もっとも初穂さんと馬が合ったのが桜子ちゃんだったという事だ。強気な初穂さんと相性がいいのか、割といい友人関係を築いている様子。

 

 酔っぱらった桜子ちゃん可愛いし、初穂さんが持って来る酒は美味いし、ふなちと七槻も色っぽくなるしでパーフェクトだ。

 

 

 

7月31日

 

 今日盗聴器を設置してきた。指もコーティングしていたから恐らく問題ない。

 狙撃した奴は未だに起きないらしいし、情報は手に入らない。普通の人間なら待っていれば起きると考えるのだろうが、進まない一年を知っている俺としては別の可能性を考えざるを得ない。要するに、フラグが立っていないために起きないのではないか、と。

 狙撃なんて特殊な技能を持っていて、且つ腕もいい。間違いなくストーリーに関わる人間と見ていいだろうし。……そうなると関わりそうなのはやはり行動を共にしていた怜奈さん。多方面からのアクションが鍵になるのなら、その場合主人公のコナン、あるいは優秀な安室さんやマリーさん、昴さん辺りが怪しいが……。

 まぁ、とりあえず待ちだ。いつでもリアクションが取れるように用意しておかなくては。

 

 

 

8月1日

 

 夏美さんがお菓子作って事務所に遊びに来てくれた。すっげーテンション上がった。

 青蘭さんがお酒を持って家に来てくれた。際どいチャイナドレスで。テンションが跳ね上がった。

 その後初穂さんが耳元でぼそっと『美人局~』『ハニートラップ~』『騙して悪いが~』とか囁いた。泣いた。

 その後七槻が酔いつぶれた。ただでさえ暑い夏がさらに暑い。今も現在進行形で離れない。

 こりゃ今日は4人で雑魚寝だな。

 

 

8月3日

 

 免許取ってからバイクほとんど乗ってなかったので久々に転がしてみる。

 とりあえず街中を走り回ってから適当に止めてショッピング。いい機会だしと本屋に行ったら高木刑事にあった。最近色々と話せてなかったし、暇だからとしばらく立ち話をしていたら佐藤刑事が来た。色々察した。――ごめん、高木さん。邪魔した。

 付き合っているという訳ではなかったようで、俺がさりげなく席を外そうとしたら『二人より三人の方が楽しいじゃない』という佐藤刑事のトドメの一撃が飛んできた。もうこうなったらと思って、たまたま目が合ってしまった白鳥さん(隠密行動中)と、確か非番だったはずと三池さんを召喚。5人でついさっきまで遊び回ってきましたとさ。

 

 そうそう、三池さんは桜子ちゃんと小学校からの友達だったらしく、今日は二人ともウチに泊まっております。ヤバい、楓を外しても女性率が高すぎる。

 

 

 

8月5日

 

 今更だけど、最近浅見家の朝は早い。楓と一緒にラジオ体操に参加しているからだ。

 桜子ちゃんには朝食の用意はこっちでトーストとスープくらい用意するからと断ったのだが、『楓ちゃんもいますししっかり作らせていただきます!』と更に早起きしている。本当にいい子だよねぇ……。

 最近ではたまに秘書というか付き人のような仕事をさせてしまっているし、マジで申し訳ない。若松さんは喜んでいる様だけど。

 

 桜子ちゃんが言うには、家でもたまに話題に出しているらしい。『浅見君や服部君の様な息子がいればよかったのに、なんでウチのはダメなんだろう』とのこと。止めてください若松さん、思わぬ所から刺されそうなフラグを建てるのは。っていうか平次君を知っていたんですね。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(……降谷さん)

 

 公安警察の一員。安室透――もとい、降谷零の部下である風見は例の組織の幹部『カルバドス』を監視しながら思案していた。

 

(いくらなんでも、浅見透を気にかけ過ぎている)

 

 例の狙撃事件の時はまだ分かる。だが、あの事件以降あの男……いや、その周辺の安全確保にリソースを割き過ぎている。少なくとも風見と風見に近い人間はそう考えていた。

 優秀な事は認める。状況によっては公安以上に動けるかもしれない環境を整えた手腕は素晴らしい。

 だが……その状況を作りだしたのは組織幹部として安室透が接触した事から始まっている。

 いや、それに加えて奴の周りには怪しい人物が多すぎる。我々にとって敵である可能性が十分ある男だ。だというのに……降谷零は、隠し切れないほどの全幅の信頼を浅見透にかけている。

 

(噂では、警察学校時代の友人に異常なまでに似ていると聞くが……)

 

 浅見透は危険だ。敵だった場合、いったいどれだけの脅威になるのか想像が出来ない。降谷零という上司の能力はよく知っているし、信頼もしている。だが同時に、現状の様子では万が一ではあるが足元を掬われかねない。

 

(……浅見透。奴の事を詳しく調べる必要がある)

 

 当然、すでに公安で調べている。怪しい所は見つからなかった。だが、唯一引っかかるのは――彼の両親が死んだ後、孤児院に入った直後にある空白の三か月。彼が行方をくらました期間だ。小さい子供だった事も含めて、たった三か月がどうしたと思うが……。

 

(分かっている。分かっているんだ…………これは、この嫌な感じは――)

 

 口に出すのも憚られるような、どうしようもない感情だと。だが、それでも……いや、だからこそ、

 

「浅見透。奴は……警戒しなければならないんだ……」

 

 二人しかいない空間。一人は寝たきりだ。だから、返事は返ってこない。

 

 

 

 

 

 ――『奇遇だな。同意見だ』

 

 

 

 

 

 ……ハズだった。

 

 

「っ! 貴様――」

 

 

 口を開くはずのない男に向けて、とっさに風見は銃を抜こうとする、抜こうとした。だが、それよりも早く、男の――カルバドスの指が喉に食い込んだ。

 

「……が……っ…………あぁああっ!!」

 

 寝たきりだったとは思えない程強い力だ。振りほどけない。その後風見はジタバタもがくが、徐々に弱まり、そして――『どさっ』という音と共に、地面に崩れ落ちた。

 

「…………すまない。僅かにずれていた様だ。苦しめてしまった」

 

 別に殺したわけではない。殺す暇もない。バタバタとやかましい足音が近づいてくるのを認識したカルバドスは、素早く風見の銃を奪う。威嚇用だったのか、こうして奪われることを想定していたのか、弾は一発しか入っていない。

 

「――十分だ」

 

 その一発しか撃てない拳銃を握り締め、浅見透を撃ち抜いた男、そしてシルバーブレットと互いをスコープで狙った男……カルバドスは静かに、そして完全にベッドから起き上がった。

 

 

 


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