『それで瑛祐君。彼らの動きはどうかね?』
本堂瑛祐が携帯を掛けた先は、本来ならば一介の高校生が気軽に掛ける事など出来ない相手、―― 一大企業の会長の携帯電話だった。
「はい。最近では不動産王、片寄王三郎の養子を自宅で保護しているようです」
『ほう……。あの片寄氏を……面白い方向に手を伸ばしていくな、彼は』
「……その養子、楓ちゃんを狙ったのは浅見探偵事務所の人間の仕業でしょうか?」
瑛祐は、あるいはその可能性があると考えていた。
元々片寄王三郎は有名な不動産王。自宅である紅葉屋敷の事も含めて、名前は聞いた事ある人間は多いだろう。探偵事務所という、情報を扱う場所ならば、より詳細な情報を得ている可能性は十分以上にあり得る。
『なるほど、確かにその可能性はある。片寄氏が可愛がっていた養子が彼らの手の内にある。それを下地に片寄氏の莫大な財産を手に入れる用意を整えたのかもしれん。やはり、彼らは警戒せねばならんようだ』
浅見探偵事務所。姉さん――いや、姉さんの振りをしている奴と繋がっている可能性の高い連中。
ただ単に水無怜奈に会いたいと言っても、何の肩書も持たない自分にはとうてい不可能。だったら、可能性が少しでもある所を当たるしかない。そんな折に――
『なんにせよ、情報が必要だ。ゆっくり、少しずつ、だが確実に事を進める必要がある。――分かるね? 瑛祐君』
「――はい」
(ようやく見つけた可能性だ。なんとしても見つけてやる……っ)
(瑛海姉さんの手掛かりをっ!)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「珍しい組み合わせになりましたね。我々三人での調査なんて」
「はい、こういう事件の本格的な調査は初めてになるので、どうかよろしくお願いします」
今日は俺と昴さん、そして鳥羽さんの三人で長野まで足を伸ばしている。とある家出人の捜索依頼を受けて調査をしていった結果、長野で偽名を使って歓楽街で働いているようだ。もう一度確認したうえで、依頼人に資料を送付、その後来てもらって再確認という形になるだろう。
ここまで言えば分かると思うが、その仕事はもうほとんど終わっている。では調査とは一体なんなのか。
OK。誰にでも分かるように説明しよう。
俺たちの後ろには泣き崩れたり混乱して騒いでいる人達が何人かいる。
そして前には、頭から血を流して倒れた女の人がいる。ピクリとも動かない。
すでに鳥羽さんが脈が止まっているのを確認している。
お分かりいただけましたか? ――そう、またである。
(……コナンの死神補正が俺たちに伝染しているんじゃなかろうか)
本人が聞いたら、また靴のダイヤルをいじり出しそうな事を考えながら、とりあえずどうしようか考える。――まずは保存だな。
探偵稼業の必須アイテムとしてカメラは常に持っている。コナンや元検死官の槍田さんから現場保存のやり方は徹底的に教わっているし、そもそもそれなりに経験がある。長野県には刑事の知り合いはいないから少し揉めるだろう。
……小田切さんも基本的に俺たちが事件に関わる事を良しとはしない人だし、そもそも探偵が刑事に協力しろなんて言えるはずがない。
――とりあえず、可能な限り情報を集めて警察の人間に提供。後は静観というのが正しい判断だろう。昴さんは録音機を持っているから、より正確な情報提供出来るだろうし……。
「俺は現場を保存します。昴さんと初穂さんは、皆さんを別室にお連れして話を聞いておいてください」
「分かりました。それでは皆さんこちらに……初穂さん」
「えぇ。――皆さん落ちついてください! 浅見探偵事務所の者です! すぐに警察が来ますので――」
とりあえずこれでいいだろう。昴さん一人だと全員を見張ることが出来ないし、補佐としてはベストだろう。死体を見ても取り乱さなかった時点で、俺の鳥羽さんへの評価は鰻登り。推理力は分からないけど、補佐としてはかなりベストな人材を拾ったんじゃないだろうか。
さて、とりあえず写真を全部取って現場を状態を確保したら俺も調査に加わ――
「なるほど、見事な手際。さすがは、あらゆる難事件を解決してきた精鋭集団。お噂はかねがね……」
――はい?
妙に落ち着いて、且つもったいぶった様な言い回しをする男――三十代前半くらいかだろうか? が後ろに立っていた。なんだろう、小五郎さんとは違う、細く整えられた口髭と、鋭さと柔らかさを合わせたようなつり目が印象的な人だ。
彼は自分と同じように手袋をはめようとしている。そして、その手袋をしっかりとはめた後、内ポケットに手を入れ――
「申し遅れました。姓は諸伏、名は高明、あだ名は名前の音読みで――コウメイ」
内ポケットから取り出したのは、警察手帳だった。階級は警部と書かれている。
「長野県警新野署に所属する者です」
そして、どこか自信満々な微笑を見て、俺もまた静かにこう思うのだった。
(――また、えらくキャラの濃い刑事が出てきたなぁ……)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
6月25日
長野への出張から無事に帰宅。また面白い刑事さんと知り合って来た。いやぁ、すごい人だわ諸伏警部。最近周辺に有能な人が増えていると言う事は、また事態が大きく動く前兆と見ていいのかな。
ちょっとした資料作製のために立ち寄った図書館で殺人事件が発生。その時たまたま現場に居合わせたのが新野署の警部さんだった。名前は諸伏高明。前述したとおり、すごく有能な刑事さんだ。
昴さんと高明さんだけで実質解決。
犯人は逃げようとしたけど、鳥羽さんが本をネクタイで縛って掴みをつけた物で犯人の顔をフルスイング。一撃で昏倒していた。いやぁ、大人しそうな顔でその実アグレッシブとかいいギャップだね。俺の中での鳥羽さんの評価は右肩上がりである。来月から給料跳ね上げよう。この人逃がしちゃいけないわ。
その後元々の依頼だった家出人捜索をしっかりと終えた後、諸伏警部と仲良くなって(特に昴さんとは馬が合ったようだ)携帯の電話番号とメールを交換してきました。
俺達が出ている間に、安室さんとマリーさん、越水の三人は企業への脅迫状を解決。こっちは未然にテロを防いだらしい。いやぁ、本当に皆頼もしい。
6月26日
久々に青蘭さんとデートしてきた。つっても主に美術館や博物館めぐりだったけど……いやでも楽しかったなぁ。やはりロマノフ王朝を主にしているとはいえ歴史の研究者。日本や中国の歴史にも詳しく、非常に楽しかった。一通り回った後はレストランで食事をして、その後は瑞紀ちゃんがこの間教えてくれた『ブルー・パロット』というプールバー(柚嬉ちゃんの店とは違う)で飲んで来た。
一番の予想外だったのは、別れ際に向こうからキスしてくれたことだろうか。
正直、今もすっごいドキドキしている。
6月28日
楓が少年探偵団に入ったらしい。いっつもコナンの傍にくっついていてズルい! って話を歩美ちゃんから愚痴られた。早いよ小学生、怖いよ小学生。夕飯の時に桜子ちゃんと七槻で、最近の子は進んでるよね!? って話で盛り上がった。最近では桜子ちゃんも結構ここにいる事が増えた。若松社長からこっちの仕事を重視するように言われたらしい。なんで? って今日聞いたら、
『あれほど危なっかしい男は見たことがない。しっかり見張ってやってくれ』
ということらしい。待って、待って若松社長。貴方は俺をなんだと思ってるんですか。危なっかしいって言っても死ぬような事態は可能な限り全力で避けてますって。手足はともかく。
書いてて思いだしたけど、そういえば楓ちゃんにもこの一週間で怒られてるなぁ……。銃とか爆弾関係の事件に関わった後に『今日くらいは大人しくしてなさいっ!』って怒鳴られる。ちなみにその後ろには大抵七槻と桜子ちゃんが腕を組んで立っている。どう考えても勝てません。
そうそう、楓ちゃんは今日は博士の家に泊まっている。阿笠博士が皆でカレーパーティーをやろうと企画してくれたのだ。本当に面倒見のいい人だよなぁ、博士。
今日は仕事が終わってから小沼博士も行くと言っていたし、途中入った報告だと買い出し途中にマリーさんも一緒になったらしい。最近マリーさんは少年探偵団とよく一緒にいると楓から聞いている。
ふむ、あの感じから子供は苦手だと思っていたが――なんだかんだで意外と相性がいいのだろうか?
6月30日
やっべぇ、ちょっと浮かれてた。遊びすぎた。人が増えて安心してたけど月末はやっぱり地獄でした。まぁ、無事終わったけどさ。今日はマリーさんや昴さん、鳥羽さんといった新人さん達の歓迎会をキチンとした形でやっていなかったというわけで下のレストランでちょっと豪華な食事を。瑞紀ちゃんのマジックショーと一緒に、紫音さんがヴァイオリンで盛り上げてくれた。今までこういう事をしたことはなかったのだが、紫音さんが自分から提案してくれた。紫音さんも最近ではよく話しかけてくれる。今日なんてレアな笑顔を見せてくれて思わず惚れかかった。その直後にふなちに股間蹴りあげられたけど。
あぁ、そうだ。来月からはふなちもまた家に戻る事になった。
色々あって、マリーさんも事務所に住む事になったため、今住んでる女性達の護衛としては十分すぎるという事になった。というか、安室さんも事務所に住む事になったし、防犯という意味では非常に安心できる。
そういう意味合いを込めて『ありがとうございます!』って安室さんにいったら『君という奴は本当に……』って言われながら頭全力で掴まれた。解せぬ。
7月5日
大学の先輩が毛利小五郎のコスプレをしていた件について。いや本当にびびった。恩田先輩なにしてんすか。
おばあちゃん相手に『お待たせしました、毛利小五郎です』なんて言ってる所に出くわしたから、一緒にいたふなちと佐藤刑事と一緒に締めあげたのは絶対に間違ってない。そのおばあちゃんに怒られたけどさ。
問い詰めたところ、おばあちゃんは恩田先輩の小学校時代の先生だったらしい。
それがなんで毛利小五郎を名乗る事になったのか非常に謎だが、まぁ心配して様子を見に行っていたということらしい。佐藤刑事も、他人の名を騙るだけでは一応罪にはならないらしく、悪意もなかったという事でこっそり叱るだけで済ませた。が、問題はおばあちゃん。目の前でドタバタやったから説明をしないわけにはいかず、かといって先輩を突き放す真似も憚られた。
別に単純に真実を突きつけても良かったが、それもなんだか後味が悪かった。
鳥羽さんが、想定を超えて単独でも動けるくらい優秀だったし、もう一人雇うのも悪くない。
と、いうわけで。偽物の名探偵を本物の探偵にしてきました。安室さん、キャメルさん。がっつりしごいちゃってください。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ひぃ……はぁ……っ」
以前白鳥刑事と走った河原で、安室さんと一緒に新入りの若い男を走らせている。
「もうちょっと頑張りましょう! あと2キロ走ったら休憩です!」
「に、2キロ……っ……」
「なぁに、すぐに慣れますよ。慣れてきたら今度は階段を全力で上り下りする訓練ですね」
「ちょ……っ……!?」
所長が新しい人員を連れてくると言った時は、一体何事かと思った。基本的に所長はいつも、一芸をもった人間を募集していた。自分の時は現場の経験を、鳥羽さんは医療関係の経験を求めての求人で入った。沖矢さんやマリーさんは、主力人員の推薦で雇用した人員だ。
(……所長が連れてくる人員にしては……普通、ですよね?)
要するに、気にかかっているのはそこだった。浅見探偵事務所の人員は全員なんらかの一芸を持っている。だからこそ、全員が最前線で活躍できる訳だが――
「この事務所でやっていけるのかって顔をしてますね、キャメルさん」
「安室さん……えぇ、まぁ……」
一緒に彼の訓練に付き合っている安室さんは、いつも通りの笑顔だ。不安や懸念などどこにもない。そう言うように。
「確かに、彼の能力は現状きわめて低い。ですが、それはあくまで現状。だから所長から、こうして彼の訓練を頼まれた訳ですし」
まぁ、確かに今、彼は一生懸命訓練を受けている。大学生活も送りながら、体力作りに所長や副所長が色々な技術を教えている。なぜか、所長が教える時はコナン君も一緒にいるが……。
「それになにより――キャメルさん、所長が連れて来た人間が普通だと本当に思いますか?」
「思いません。あり得ません」
色々と不安な所は確かにあるが、所長が連れて来た人間というのはある意味で信頼できる要素でもある。
そうだ、信頼できる要素ではあるんだが――
「……予想外の方向にぶっ飛んでいたりしませんよね?」
「…………きっと、多分、いや――覚悟だけはしておこうか」
もはや息も絶え絶えになりながらも、必死に足を動かしている新人の死にそうな顔を見ながら、二人の探偵は彼に聞こえないようにため息を吐いた。彼に向けてではなく――ここにはいない、とびっきりぶっ飛んでいる所長に向けて。
まずはキャラ紹介。
○諸伏高明(35)
※初登場回
アニメ:File558-561
コミック:65巻File8-11,66巻File1
『赤い壁』シリーズにて登場した長野県警の刑事の一人。この時点では所轄の刑事でしたが、次に登場した時は県警本部に復活していました。
同じ長野県警の大和敢助とはライバル関係にありますが、いい幼馴染でもあるようです。長野県警が出てくる事件は大体二人の内のどちらかが容疑者になる気がします。
というか長野県警は優秀な人間多いけど闇も深い気がする。
落ちついた話し方で、故事成語を引用するのが癖ですが、これを再現するのが難しい。なぜか? 作者の教養不足。
個人的に、『漆黒の追跡者』には大和刑事と一緒に出てきてほしかったですね。まだ出てなかったかもしれませんがww
○恩田遼平(21)
アニメ:File661-662
小五郎さんはいい人(前後編)
コミック75巻:File3-5
割と最近の人なので、覚えている人も多いのでは? 二代目『偽』毛利小五郎でございます。尚、初代は悪人ヅラな上に速攻で死んだ模様。
昔の恩師の様子を見に行くために毛利小五郎になりきるという謎のウルトラCを決めてくれた大学生。男性キャラですっごい好きなキャラ。この話の構成を考えていた時に、この男は絶対に引っ張ってこようと決めていたキャラですw
ふなちと違い、100%コナンに頼りっきりの推理でしたが、アニメでは声優さんの名演技もあり(外見だけは)名探偵になっておりました……最後以外は(汗)
明日辺りに、リクエストに答えて事務所の人間をまとめた物を乗せます。
今回で事務所の面子は完成といって良いでしょう。
……あ、新出先生(?)を勧誘したいなんて、考えてないんだからね!!?
まぁ、真面目にどうにか設定作って、小咄用のキャラをストックの場みたいなものは欲しいと考えています。