平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

35 / 163
034:その後の色々そのに(副題:内緒のクリーニング)

「ねぇ浅見君。大人しくするってどういう意味か知ってる?」

「あ、はい。えぇと――」

「どういう意味か知ってる?」

「いや、だから」

「どういう意味か知ってる?」

「お願いだから喋らせてくれませんかねぇっ!!?」

 

 酔っぱらった小五郎さんをタクシーに乗せて、見送った三秒後には包囲されてました。

 由美さん、なんでノリノリで交通課の方々引き連れてきちゃったんですか……他の人から見ればどう考えても俺、取り押さえられる直前の逃亡犯じゃないですか。……あれ? 間違ってなくない?

 

「……ねぇ、浅見君」

 

 越水がカーテンを閉めて、ベッドの端にちょこんと腰をかける。

 

「僕達の事を考えて、相談役の所に保護をお願いしてくれたのは分かってる。ありがとうね?」

「……越水?」

 

 あれ? スタンガンの一撃くらいは来ると思ってたけど……あれ?

 

「でもさ、もうちょっと僕達に――僕に頼ってくれても良かったんじゃない?」

「……おいっ」

 

 一瞬、何かで手の甲を刺されたのかと思った。だが違う。その感触の正体は、ひんやりとした七槻の指だった。

 

「うん、知ってた。そういう意味では、安室さんや瑞紀ちゃんを頼りにしてるっていうのは。実際正しいと思う。荒事が関わりそうな事件であればあるほど、あの二人は頼りになる。僕が浅見君の立場でもそうするよ」

 

 手の甲に伝わる冷たさが、点から面になる。不思議と顔が動かせないが、理解できる。越水が、俺の手の甲に自分の手を這わせている。

 おかしい。様子がいつもの七槻と違う。

 気が付いたら、もう片方にも越水の手が添えられている。そこまで考えて、ようやく今の状況に気が付いた。

 

「七槻、お前――!」

 

 気が付いたら、七槻が完全に自分の動きを封じていた。俺の上に乗る事で。

 

「ねぇ、浅見君。答えてくれないかな?」

 

 顔を見て、俺は何も言えなくなった。――そりゃそうだ、この状況で何か言える奴がいるなら俺はそいつを勇者と呼んでやる。

 

 

――涙を流す女に勝てる男なんて、そうそういねぇだろうさ。

 

 

「僕、そんなに頼りないかな?」

「……七槻」

 

 違う、そうじゃないんだ。反射的に七槻の顔に手を伸ばそうとしたが、不思議と手は動かなかった。

 俺の手を撫でるようにしていた動きが止まり、指と指が絡み合う。

 その手が少しずつ上へと伸びていき、それと同時に少しずつ七槻の顔が近づいてくる。

 思わず目を閉じながら、今言わなきゃいけない言葉を探して、口にする。

 

「七槻……ごめん。俺が悪かった、でも――」

 

 手を七槻の背中に回そうとする。だが、動かせない。

 手首に感じる冷たい感触。こころなしか先ほどよりも強く、そして痛く感じる。

 

「……おい」

「ねぇ、答えてよ。僕、頼りないかな?」

「――その前に、俺が聞きたいんだが」

 

 手首を――ほとんど身動きのできなくなった両手首を動かすと、『ジャラッ』という金属音がする。

 ベッドの金属部分――ではない。もちろん。

 

「なに? 僕に何が出来るか? そうだね、今まで推理力には自信があったんだけど最近じゃあ安室さんに――」

「誰がんなこと聞いてんだくらぁっ!」

 

 ガシャガシャと音をたてて、自分の両手を拘束している『手錠』の存在を強調するが、七槻は俺に乗っかったまま平然とした顔で言葉を続ける。おい、今ポケットに隠したの目薬か? 目薬だよな!? 

 

「てっめこの野郎!! 完全に拘束するために芝居打ちやがったな!?」

「撃たれて刺されて抉られて銃弾掠めたのにさっそく抜けだしてる奴に発言権があると思ってるの!?」

「馬鹿野郎! 撃たれて抉られて銃弾掠めたんだ! ジャケットのおかげで『刺された』のはノーカンだノーカン!」

「ちょっとでも肌に傷が付いて血が出たんなら刺されたでいいんだよ!」

 

 どうにかコイツをどかそうと足をバタバタさせるが、腰の上に乗っているために攻撃が一切届かないちくしょう。

 

「ほら、暴れない。傷口開くよ?」

「てめぇがどきゃ済む事だろうが! や、その前に手錠外してくださいお願いします! 所長命令ですだよ!?」

「副所長権限で却下」

「ガッデム!」

 

 このやろう、ここ最近で一番いい笑顔してやがる! なんて女だ! 俺はただ怪我を無視して病院抜けて暴れ回ってちょっとまた怪我した後でもう一度病院抜け出しただけじゃないか!!

 

「ま、いい機会だから身体をしっかり休めておきなよ」

「拘束された状態でか!?」

「仕事の方は僕達でやっておくからさ」

「うぉぃっ!?」

 

 あ、ダメだ。こいつマジで俺をここに監禁するつもりでいやがる。

 お巡りさん助けてお巡りさん! ……あぁ、いるよねお巡りさん。多分すぐ外に。

 

 越水は、引き攣っているのだろう俺の顔を携帯のカメラでパシャっと撮ると、満面の笑顔でその出来を確認して――

 

「と、いうわけで所長。後の事は我々に任せてゆっくり療養をしててね?」

「良し分かった。きっかり療養取ってやるからこれを! 手錠を外してくれ! さっきからトイレ行きたくてしゃーねーんだ!! せめて鍵おいていってくれ!」

「…………ふーん」

 

 そういうと越水は、『わかったわかった、ちょっと待ってね』と言って立ちあがるとベッドから離れ、カーテンを開け、そしてドアを開けて笑顔で手を振り、そしてそのまま鍵をかけていったのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――鍵寄越せっつったんだよ誰が掛けていけっつったんだオラァ!!?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 多分、今頃ドアの向こうで浅見君は騒いでいるだろうが、ここまでくれば音は聞こえない。防音対策はしっかりしている部屋だ。ウチの事務所とほぼ同レベルの防音、盗聴対策をしている特別室。そう簡単に声が漏れる事はないだろう。

 

(さて、手錠の近くに隠したナースコールのスイッチにいつ頃気付くかな?)

 

 緊急事態の時はともかく、普段の彼は変な所でおっちょこちょいだからひょっとしたら気が付かないままかも……まぁ、それはそれでいいか。

 

「…………ふふっ」

 

 懐から、さっきまで録音機能をONにしていた携帯を取り出し、耳に当てて再生を始める。

 

 

 

――『……七槻』

 

 

 

――『七槻……ごめん』

 

 

 

 思わずと言った様子で彼の口から出た、自分の名前。

 罪悪感のせいか、弱弱しいが確かに『七槻』と呼んでいる。

 

「~~~~♪」

 

 特に深い意味はないが、その音声データにロックを掛けて、ファイル名を編集して日付をタイトルにする。

 そのままストラップの紐を指にかけて、くるくると宙で回しながら病院の出口へと向かう。今日はここしばらく溜まってた仕事の整理をしなければいけないから事務所に泊まろう。外に小沼博士と穂奈美さん達が車を止めて待ってくれている。

 これからとっても忙しい夜になるが――良い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご覧ください。あれが、浅見様を完全に監禁、その後上機嫌で鼻歌を歌いながら立ち去る我らが副所長の勇姿ですわ」

 

 半分スキップになりかかっている越水の後ろ姿を物陰から見つめる複数の姿があった。

 事務員兼調査員のふなちに、主力調査員の安室、瀬戸の三人だ。

 

「安室様、瀬戸様。……ご感想は?」

 

「そうですね……とりあえず、副所長には……」

「ぜ、絶対に逆らわないようにします」

 

 順々にそう答える安室と瀬戸。その回答に、それが正解だと言わんばかりに『うんうん』と頷いているふなち。

 揃って引き攣った笑みを浮かべている三人の探偵は、微かに金属をぶつける音と『トイレ~』とか『カメラを~』などといった微妙な声が漏れてくる病室のドアを開けるかどうか僅かに悩み――結局、そのまま静かに病院を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 沈みかかった太陽が、堤無津川に紅いイルミネーションをかけていく。

 その河原を、一人の男が息を切らしながら走っている。

 その男――白鳥は、いつものスーツではなく、めったに着ないジャージ姿だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 

 かれこれ5時間程、ほとんど休まずに白鳥は走っていた。

 非番の日だから、時間は気にしなくていい。たまに水を口に含みながら、限界まで足を前へ前へと踏み出していた。

 

「あれ? 白鳥刑事じゃないですか」

 

 ふと足を止めて、夕日が川に反射する光景を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。

 誰だと思い白鳥が後ろを向くと、よく知っている顔がそこにいた。

 最近よく一緒に仕事やプライベートで一緒になる男の子が立ち上げた探偵事務所。その調査員の一人で、スタントマンが舌を巻く程の運転技能を持つ男――アンドレ=キャメルだ。

 

「キャメルさん……あなたも走っているんですか?」

 

 キャメルも、白鳥と同じようにジャージ姿だ。額の汗を、首にかけているタオルで拭い、白鳥の傍へと歩いてくる。

 

「えぇ、トレーニングは向こうにいた頃からの日課でして……特に、ウチの事務所は思いがけない仕事が多いので気が抜けなくて……」

 

 ハハッと笑うキャメルの身体を、白鳥は観察していた。ガッシリした身体付き、太い腕に足。しっかりと鍛えられていることが良く分かる。

 そうでなくても、キャメルが格闘術に長けているのは先日の一件で白鳥は知っていた。

 

「そういう白鳥刑事こそ、トレーニングですか? 千葉刑事から、今日は非番だと聞いていましたが……」

「えぇ、ちょっと鍛え直そうと思って……しかし、日頃の訓練があるとはいえ、それだけだと徐々に鈍るものですね……」

 

 その様子にキャメルは疑問を持った。普段からトレーニングをする人間だと、大体の限界を知っているモノだ。それがあからさまなオーバーワークをしている事に気が付いたからだ。

 

「無計画で身体に負荷を掛けるのは逆効果ですよ?」

「えぇ、そうですね。本当に……今まで何をやっていたのか……」

「……白鳥刑事?」

 

 白鳥は、既に限界まで走っていたのか、その場に腰を下ろした。

 キャメルも、なんとなくその隣に腰を下す。

 

「どうかされたんですか?」

「……先日の一件で、自分の無力さを痛感したんですよ」

 

 先日のトランプに纏わる一連の事件。その最後の時に、結局自分は何の力にもなれなかった。そう白鳥は痛感していた。

 ヘリが墜落しかかった辻の一件は、浅見透という名探偵の思考を頼っただけだった。

 最後の時――その浅見透が人質になった時も、毛利小五郎と彼――浅見透の部下の人達が解決した。

 怪我をしていた目暮警部は仕方ないにせよ……一切負傷をしていなかった自分が何もできなかった。

 あの時銃を構えた時も、震えが止まらない自分の手を見て、自分が撃てない事を白鳥は自覚していた。

 

「……犯人が分からなかった事……ですか?」

 

 キャメルは、経験則――自分の経験から、少々無神経だと思いつつも突っ込んで聞いてみた。そっちの方が良いだろうと思った。

 

「えぇ、まぁ……平たく言うとそうですね。それに……」

 

 白鳥は、水分補給用に買ってきていたミネラルウォーターのペットボトルを取り出しキャップを開ける。

 だが、それを口に付ける様子はない。そのまま川の水面を眺めたまま、言葉を続ける。

 

「あの時、瀬戸さんが僕の拳銃を奪い取った時に……少しだけ僕は――ホッとしてしまったんです」

 

 その時の感情を思い出したのか、白鳥は苦虫を噛み潰したような顔をした。そして水を飲もうとしたが、まるで飲むことが罪だと言うように額に更に皺をよせ、結局飲まないままキャップを閉めた。

 

「責任、行動、そして結果。それが自分の手から離れて他人の手に渡った。そう思って……」

「白鳥刑事……」

 

 刑事として何も出来なかった事に責任を感じているのか、あるいは歳の離れた友人のために何も出来なかったことを悔いているのか……。そこまで話した白鳥は、大きくため息をつく。

 

「僕が警察官を目指したのは、ある女の子との思い出を追い掛けたのが理由でした。……桜の花は警察の花、正義の花。そういって笑いかけてくれた女の子の事が忘れられずに、ここまで……ですが――」

 

「――今の僕は、正義という言葉がふさわしい男なんですかね?」

 

 別に答えを求めていたというわけではない。自問自答という言葉が最も合うだろう。

 キャメルには、白鳥になんと声をかければいいか分からず、しばらく揃って水面を見つめていた。

 

「……自分も、失敗したことがあります。大きな失敗を。……それこそ仲間の、そして人の命にかかわる事でです」

 

 しばらくしてから、キャメルが口を開く。キャメルの顔も先ほどの白鳥の様に、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「胃が痛いなんてものじゃありませんでした。幸い、犠牲者は出ませんでしたが任務は失敗。……そのせいで、今もある人物は危険な状態にあると思われます」

 

 キャメルの痛恨のミス。ある意味で、アンドレ=キャメルという男が今、浅見探偵事務所にいる原因と言えるミスだった。

 

「その失態をなんとか償いたい。そう思って、私は日本に来ました」

「? それで、どうしてあの探偵事務所に?」

「え? あ、あぁ、それはえーと……じ、事件などを調べるのならば、あの探偵事務所が一番妥当だと思ったんですよ」

 

 ハッハハハと、誤魔化すように笑うキャメルに白鳥は首をかしげたが、特に追究せずに「そうだったんですか」と一応納得したようだ。

 

「自分は、今も足掻き続けています。あの時の失態を背負って……」

 

 引き攣った笑いをひっこめたキャメルは、真っ直ぐに白鳥の顔を見る。

 

「白鳥さん。貴方もそうするべきだと、勝手ながら思います。本当に誰かを失う前に。ただ、がむしゃらに――今の様に」

「…………」

 

 白鳥は、その言葉を聞いて目を見開く――訳でもなく、その言葉を予想していたように少し笑って頷いていた。

 その横顔を見てキャメルは、ほっとしたように息を吐いて、

 

「ただ、やはりオーバーワークはオススメしません。良かったら、簡単なメニューで良ければ作りましょうか?」

「是非、お願いします」

 

 事務所で一番の新参者というのもあって、キャメルと白鳥はあまり話した事がなかった。

 知り合いの刑事、知り合いの探偵という間柄だった。だが、今日こうして言葉を交わしてよかったと、互いに思っていた。いい友人になれると、そう感じていたのだ。

 

「どうです? 先日安室さんに教えてもらったんですが、この近くに安くて美味い定食屋があるらしいです」

「いいですねぇ。喜んで、ご一緒させていただきます」

 

 そうして立ち上がったジャージ姿の大人二人は、その後も雑談を続けながら、夕焼けに染まる河を背に、肩を揃えて立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「んで? 結局狙撃手って誰だったの? 名探偵の浅見透さん!」

「すみません、とりあえずパリパリ音が鳴ってるその靴どうにしてくれませんか? あとお前の猫撫で声って鳥肌立つから止め――あ、ごめんなさいごめんなさい俺が悪かった! 悪かったから靴のダイヤルを一段階上げるのやめてくんない!?」

 

 先日、俺の尊厳をガリガリと削ってくれたあの一夜から数日が経った。もう本当に……もうちょっとでもっとヤバくなる所だった。カメラのデータも消してもらったし――

 

 一応今はある程度自由を許され、こうして外の庭でコナンと話している。

 

「と、とりあえず順番に話すんだけどさ――」

 

 そっから俺は、見舞いに来ていたコナン(凶器所持)に色々と説明した。

 ヘリの一件の後、白鳥刑事からの情報を頼りに動こうとした時に狙撃手っぽい個人的最重要参考人こと諸星さんと遭遇。

 そっからなんやかんやで囮作戦を決行。敵がいるという前提で狙撃する場所を限定させて、その場所目掛けてカウンタースナイプというとっても効果的な作戦を――おいホームズ、なんで靴をさらにいじった?

 

「つまり、ワトソン君の言い分をまとめると……会ったばかりで、しかもこの日本で狙撃銃を所持している超不審人物を勘を頼りに信じて背中を任せた――って事でいいんだよね?」

「…………おっと、そろそろ部屋に戻らないとまた監禁コースだ。それじゃあコナン! 詳しい説明はまた今どぇっぱぁあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、そいつはどんな奴だったんだよ?」

「待って、ちょっと待って。まずはおれの首が真っ直ぐになるかどうかゆっくり試した後にして。いやマジで」

 

 すでに十分痛いが、それ以上に首を伸ばすのが怖い。非常に怖い。本人はちゃんと手加減したって言っているが嘘だ、絶対嘘だ。だったらなんで威力を強めたんだよ。そもそもサッカーボール持参の時点でやる気満々じゃねーか。

 

「ま、まぁ恐らく大丈夫じゃろうて。それで浅見君。その諸星という人はそれから連絡を?」

 

 今では場所を移動して、駐車場で待っていた阿笠博士の車の中に移動していた。このちびっこホームズ、マジで俺への制裁のために庭まで来ていたのかこの野郎。

 

「一度だけ向こうから。『後日詳しい話をしよう。連絡はこっちからする』っていうメールが来たな」

「まぁ、だろうな。狙撃銃を持っているような人物なら、今も狙撃事件の捜査を続けている警察を警戒して当然。今、浅見さんはふなちの要請で警察が張り付いているから……」

「あぁ、おかげでナースコールの時も検温の時も食事の時も、看護婦さんと刑事がセットで来るんだけど……」

「ハ、ハハ……ある意味愛されてんじゃねーか」

「おめーまで安室さんみてーな事言ってんじゃねーよ」

 

 最近は千葉刑事と佐藤さんがよくよく張り付いてくれる。他の刑事も大勢来るが……特に最近ではキャメルさんと一緒に白鳥刑事が来てくれる。

 

「まぁ、こっちから連絡すりゃあ多分取れると思う。とりあえず、退院したらこっそり飯にでも誘って詳しい話を聞こうと思うんだけど。さっき言った通り、向こうも話があるみたいだし」

「……博士。浅見さんのサングラス、確かそっちの音を俺のメガネに送ることができるよな?」

「ん? おぉ、可能じゃ。眼鏡のつるの先にイヤホンを付けられるようにしておる。それで浅見君のサングラスが拾った音を転送する事ができるぞぃ」

 

 そうだな、それが一番良いだろう。うかつにコナンを前に出すわけにもいかない。コナンが言うとおりまだ怪しいと言えば怪しい人物だ。

 個人的には、怪しすぎて実は味方サイド。あるいは中間の第三者っていうポジションっぽいんだが……これ言ったら頭の心配されるか、今度こそ話に聞く大木をへし折ったレベルのキックを喰らうかもしれん。

 

「……問題の狙撃手の方は?」

「あぁ、安室さんが調べたら、諸星さんが言った通りの建物に血痕があったよ。それを追っていったら、海に続いていたらしい」

「……逃げられたか」

「いや、それなんだけど……」

 

 ちょっと重要な事なので、念のために周辺を見回す。

 こちらに注意を払っている奴はいない。

 そっと後部座席から身を乗り出して、助手席のコナンの耳元に口を近づける。

 

「一応捕まえたらしい。警察の――公安が」

「……はぁっ!?」

 

 おいこら傍で叫ぶんじゃない。しっ!

 

「あぁ、この間、風見さんっていう人が来て状況を教えてくれたんだ。あの近くで、打ち上げられていた男を確保したって」

「……本当に公安の人だったのか?」

「あぁ、多分。高木刑事が敬礼してたのがチラッと見えたし。――まぁ、ともかくだ」

 

 んんっ、と咳払いをして後を続ける。

 

「この話は他の面子は知らない……っていうか話しちゃいけないってことだからよろしく頼む」

「あ、あぁ、それで? なにか分かったのか?」

「全然。今の所、意識が戻らなくてずっとベッドの上ってことだ。どこにいるのかはさすがに教えてくれなかったけど……」

「そっか……」

 

 加えて、仮に何か分かったとしてもあの風見という刑事が教えてくれるかどうかは疑問だ。

 俺に対して高圧的というか威圧的というか――

 

(なんだか敵視されているような気がしたな、あの人)

 

 正直、話していてあまり楽しい相手ではなかった。今までの警察関係者が余りにフレンドリー過ぎるだけかもしれないけど。

 えらく言葉の一つ一つが皮肉めいていて、やたらめったら『一般人の貴方は~』『一般人なのだから~』って一般人という所を強調されていた。いや、本当に話してて肩凝った……。

 

(まぁ、それでも守ってくれていたのは間違いないみたいだけど……)

 

 以前水無さんが見せてくれたファイルで、公安が米花町で動いていたのは知っていた。

 コナンではないが、俺も正直本物の公安の人かどうか不安だったので、さりげなく

 

『いつもありがとうございます』

 

 と言ったら一瞬だけ動揺した。その後『さて、何のことでしょう?』なんて嘯いていたが……。

 

「ともあれ、今回俺はほとんど足引っ張っただけだったわ。悪かったな、コナン」

 

 いや本当に。せいぜい俺が『本来の流れ』から被害を減らせた所があるとしたら、多分最後の爆弾だけだろう。

 

「バーロー、浅見さんが探偵事務所で人を集めていたから犠牲が少なかったんだよ。ヘリの時もそうだし、奈々さんが襲われた時も瀬戸さんがいなかったらどうなっていたことか……」

「……そうかな?」

「そーだよ」

「……ふむ」

 

 コナンからの視点であからさまに足を引っ張ったと言う事はないのか。

 最後の時とかは完全にしくったと思ったんだが……。

 

(まぁ……終わりよければすべてよし、か)

 

 

 




今回のゲスト!

○風見 裕也

映画『純黒の悪夢』に登場した安室さんの部下。作中でも描写した通り公安の人間です。

今週のサンデーに乗っていた彼は違うんでしょうか? 髪型が違うようですが帽子かけてますし……
というかコナンは原作でもどんどんキャラが増えていきますねぇ(汗)
単行本買わないと、例の和葉のライバル(?)っぽい人の事件見逃してて分かんないんですよねぇ……例の新しい先生の件も(汗)

次回からスキップモード! 出したいキャラが多くて困る!!(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。