平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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032:決着

「――っ……ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 これまでにも、浅見さんが危ない目に遭う事は何度もあった。俺と浅見さんが初めて一緒に解決した森谷帝二の事件の時は俺を庇って吹っ飛ばされた。それからしばらくして今度は組織の奴らが仕掛けた証拠隠滅のための爆弾に巻き込まれ、そして探偵事務所を始めさせられてからは次々に凶悪犯と向き合ってきた。

 刃物を振り回す相手はもちろん、拳銃や猟銃を持っている相手だっていた。

 そんな事件の数々をあの人は、あの事務所にいる優秀な人員と一緒にくぐり抜けてきた。

 怪我をすることだってあったが、いつだってあの人は笑っていた。

 

 初めて、そう、初めて聞いた。あの人の絶叫を。

 初めて見た。あの人が激痛で顔を苦悶に歪める姿を。

 

「――さ、沢木……さん?」

 

 おっちゃんが、信じられないという様子で声を出す。いつもの声じゃない。本当に力の抜けた、か細い声だ。

 いや、声が出ただけおっちゃんはまだ現状が分かっているほうかもしれない。

 他の皆は何が起こっているのか全く理解できてない。

 いや、その中の二人――瑞紀さんとキャメルさんを除いてだ。

 特に瑞紀さんは、それこそ人を殺せそうな目で沢木さんを睨みつけている。

 普段のほんわかとした雰囲気はどこにもなく、隙を見せ次第飛びかからんばかりの怒気を全身から発してだ。

 

「……これから私達の推理ショーを……って思っていたのに、まさか先手を打たれるとは思ってませんでしたよ。沢木さん」

 

 瑞紀さんは、ユラリと背筋を伸ばす。沢木さん――いや、沢木公平を睨みつけたまま。

 隙を見せ次第、恐らく投げつけるのだろうトランプをさり気なく手の中に隠して。

 

「クックックック……やっぱりお前らは気づいていたんだな? いつだ……いつから気づいていた!」

 

 人の良い顔をしていた沢木さんが、今では人が変わった様な凄まじい顔をしている。

 笑っているにもかかわらず、まるでこの世の全てに絶望し、憎んでいるような顔だ。

 

「コナン君の記憶力の良さのおかげですよ。コナン君が阿笠博士が襲われた時の様子を詳しく覚えてくれてたから分かったんです。犯人は村上丈じゃないってね」

「そう、阿笠博士を襲った犯人も、奈々さんを襲った犯人も両方――右利きだったからね」

 

 瑞紀さんの後に続けるように、俺も口を開く。少しでも浅見さんへの注意を引くように。隙が出来れば――隙を作れば……っ!

 

「白鳥刑事が見せてくれた写真では村上丈は左利きだった。もし村上丈が犯人ならば、当然ボウガンだって左手で撃っていたはずだからね!」

 

 少し自分を奮い立たせる意味でも、強い口調でそう言う。

 刺さっていた場所を考えると、すぐに止血しないと危険だ。

 恐らく浅見さんも、立っているのが精いっぱいだろう。さっきから反応が一切ない。無意識の下、気力だけで立っているのだろう。

 くそ――っ! 待ってろ浅見さん……今助けるっ!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「…………さすがと……言ったところか……っ」

 

 思わず手をついた壁に、血の手形が付く。

 大丈夫、グローブはしているから指紋などは出ない。もっとも、捕まってしまえばそれまでだが……。

 朦朧とする意識でそんなしょうもない事を考えながら、カルバドスは階段を降りていく。

 

(……出来る事なら、ピスコに対しての発言権を得ておきたいと欲張ったのが俺のミス、か)

 

 赤井の狙撃は見事なものだった。的確に右手を撃ち抜き、こちらの戦力を奪っていった。

 一応ライフルは海に落としはしたが、逃げ切らなければ意味がない。

 あの建物からここまで少し距離がある。ここにたどり着くまでには多少は時間がかかるだろう。

 それまでに脱出しなければ……。

 

(……とはいえ、一つしかない出入り口は間違いなく危険だ。俺ならなんらかの手を打つ……)

 

 赤井は間違いなく、俺を生かして捕らえようと考えている。

 FBIは組織の情報を必要としている。そして赤井個人としても内部の情報は知りたい所だろう。

 どこまでが真実かは知らないが、組織内部に親しい人間を残してきたという話がある。女だと言う話だが……。

 とにかく、コードネーム持ちの人間の身柄は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 

 階段を一段一段踏み締めるたびに、今すぐ拳銃を引き抜き自分の頭を吹き飛ばしたい欲求にかられる。

 いや、本来ならばそうするべきだ。決して知られてはならない、組織の一員として。

 だが――

 

(キール……)

 

 あの女を放っておくわけにはいかない。そう強く感じていた。

 あの女はなにかを背負っているのだろう。それも、とびっきりやっかいな何かを。そしてそれを俺たち仲間に言えない。

 個人的な事かとも思ったが、それなら尚更あの時浅見探偵事務所の戸を叩かなかったのが気にかかる。

 我々のターゲットになり得る男の力を借りたくなかったというのも考えられるが……。

 

(薄々は分かっていた。あの女、多分――)

 

 裏切っているのだろう。以前、ベルモットが組織内部にNOC―― 一般民間人を装い行動する工作員が入り込んでいるらしいと言っていた。恐らくはあの女……あるいは他にも……。

 

(……関わる理由はない。ないのだが……)

 

 アイツを問い詰めなければならない。それが組織の人間として取るべき行動だが――そういう気が一切起こらない。

 

「……馬鹿な事をしているな……俺は……」

 

 細かい事は後で考えよう。今はなんとかして脱出しなければ――。

 かといって出入り口は使えない。

 ならば……残る道は……

 

「海……か。賭けだな」

 

 ――賭けるものは、自分の命。頼るのは……自分の体力と悪運。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――沢木さん。貴方の目的は、村上丈による毛利小五郎への復讐……というフェイクの下で、小山内 奈々、旭 勝義、そして辻 弘樹の三人を殺害することだった。そうだよね?」

「どこで情報を手に入れたかは知らないけど、村上丈がトランプ賭博に関わっていた事や、毛利探偵に捕まえられた事を知って利用しようとした」

 

 コナン君と瑞紀ちゃんが、何かを言っているのがぼんやりとした頭に入ってくる。

 詳しい内容はよく分からない。ただあの人が……沢木さんが犯人だというのだけは分かっていた。

 

(……お父さん……)

 

 力が入らない私を支えてくれているお父さんの腕が、細かく震えているのが伝わる。

 視界がぼやけてよく見えないが、口元が小さく動いている様な気がする。

 

(そうだよね……信じられないよね……)

 

 お母さんと喧嘩したあのレストランで、古い友人だと言っていた。

 きっと、お母さんと、そしてあの人との楽しかった思い出はいくらでもあるだろう。それが……。

 

「その通りだよ。アイツが仮出所した日に、毛利探偵事務所を訪ねて来た村上とたまたま会ってね……」

「――おっちゃんが麻雀で事務所を空にしてた日か」

「あぁ。初めは恨んでいたが、今はただあの時の事を謝りたいなどと言っていたなぁ……その時思いついたのさ。この男を利用して、そこにいる小山内 奈々! 仁科 稔! 今頃そこらへんを漂っている旭 勝義! そして……辻 弘樹――っ! 奴らを殺す計画をなぁっ!!」

 

 お父さんとお母さんとそんなに親しかった人が……どうして?

 

「…………蘭」

 

 いつの間にか、お父さんの腕の震えが止まっていた。

 首に少し力を込めてお父さんの顔を見上げようとしたら、その前にお父さんが近くの壁に私の背を預けるようにそっと私を下ろした。

 

「ちょっとだ。ちょっとの間だけ……一人で頑張れるか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 所長さんは顔を俯かせたまま動かない。唯一動きがあるのは、荒い呼吸のために上下する肩だけ。

 

(くそっ……! 俺とした事が油断してたぜ。まさかいきなり襲いかかってくるとは……)

 

 村上丈の犯行に見せかけていることから、あの沢木って男は犯罪者の汚名から逃げようとしていると俺たちは考えた。

 だから、全員の安全を確認してから所長さんと一緒に相手を制圧しようとガキンチョと打ちあわせていたのだが……

 

『瑞紀さん、トランプで相手のナイフを撃ち落とせる?』

 

 推理の話で時間を稼ぎながら隙を狙っているが、状況は不味くなる一方だ。

 合間にガキンチョが俺にそう提案してきたが――

 

『……近づけば―――ううん、ダメ。ここじゃあ風の影響を強く受ける。正確に狙った所に当てるのは難しいわ』

 

 沢木の奴は、ナイフの切っ先を所長さんの首筋にピッタリ付けている。呼吸のたびに僅かに傷ついているのか、首元に少し血がにじんでいるのが見える。あの切っ先がもう数ミリ食い込めば……食い込んでしまったら……っ

 

(――所長さん!)

 

「い、いい加減にしろ沢木公平! 浅見君を放せ! さもないと撃つぞぉ!」

「面白いじゃないか! 撃てるものなら撃ってみろぉ!!」

 

 所長さんがよく一緒に遊んでいる刑事の一人――白鳥さんが撃鉄を上げて銃口を沢木に向ける。

 だが、その手は恐怖か緊張か不慣れなのか、震えている。……だめだ、そんなんじゃ所長さんに当たっちまう。それが分かっているのだろう、沢木の奴も全く銃を恐れていない。

 

(せめて――せめていつものトランプ銃があれば……っ!)

 

 怪盗キッドとして使い慣れたあの銃ならば、綺麗に当ててナイフを落とすことも可能かもしれないが、『瀬戸瑞紀』はそれを持ち歩いていない。特に、今回はガキンチョと行動を共にするため、万が一に備えてアジトに置いてきていた。

 

(どうする――どうすれば所長さんを救える!?)

 

 白鳥さんの拳銃を奪い取って自分が使おうかとも一瞬思ったが、自分は実銃を撃った経験はない。不慣れな物を使って精密射撃を行うのは不可能だ。せめて、誰か拳銃を使う事に慣れてる人がいれば――

 

 

 

――それに、仮に銃を持っていたとしても私は毛利君と違ってそっちの腕はからっきしダメでなぁ……

 

 

 

 ふと脳裏をよぎったのは、あの病院で目暮警部と話した時の会話。

 

 

 

――警視庁でも一位、二位を争う腕前だったんだよ。

 

 

 

(毛利さん!)

 

 頭の中身を瀬戸瑞紀から『キッド』へと変えていく。舞台はここ、観客は所長さんにナイフを突きつけているクソ野郎。そして自分の近くにいる人間。今注目されているのは自分とガキンチョという探偵役の二人と犯人の奴。どうやって視線を逸らせるか……。

 

「もう……もう止めてくれ、沢木さん」

 

 そんな時、俺たちの後ろから声が上がる。

 

「この間英理と飯を食いに行った時、俺の話を聞いていたんなら知ってるはずだ。アンタが刃物突き付けている奴ぁ、娘が――蘭が兄貴の様に慕ってる奴だ」

 

 体力を消耗した蘭ちゃんを抱きかかえていた毛利さんが、いつの間にか立ちあがっていた。

 さっきまで動揺していた毛利さんは、今は覚悟を決めた目をしている。

 

「ソイツ、頭は切れるハズなのに馬鹿でなぁ……。女見かけりゃ鼻の下伸ばすし、それで蘭や七槻ちゃんに説教くらってショボくれて……」

 

 一歩、また一歩、毛利さんが――眠りの小五郎が足を前に運んでいく。

 今なら、俺から注意が離れている。この隙に――っ!

 

「そんでまた俺が飲みに誘えば、懲りもせずについてきて……また俺と一緒に蘭に怒られる。そんな事の繰り返しばっかやってる……大馬鹿野郎だ」

 

 ガキンチョもこれをチャンスと見たのか、沢木から見えない所で腕時計をイジっている。

 

「蘭も、そんなやり取りをなんだかんだで楽しんでるのか、浅見がウチに来る時は楽しそうでなぁ……」

 

 俺が沢木から離れるのとは逆に、ガキンチョは少しずつ間合いを詰めていく。

 あの腕時計の仕掛けは近づかなきゃ出来ないものなのか、他に狙いがあるのか……。ともかく俺は目当ての場所にどうにか意識されずに辿りつけたようだ。――銃を下ろして、それでも隙を窺っている白鳥刑事の近くに。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 自分が浅見さんの代わりに人質になって、近寄った隙に麻酔銃で眠らせる。俺が思いついた作戦だ。

 時計型麻酔銃の存在をおっちゃんや目暮警部達に知られる可能性があるが、そんなの二の次だ。

 なんとしても浅見さんを助けないと――っ!

 

 最初は瑞紀さんにナイフを叩き落としてもらおうかと思っていたが、それは難しかった。それに、仮に瑞紀さんがどうにかナイフを叩き落とせたとしても、確保する間に浅見さんに危害を加える可能性が高い。普段だったら浅見さん自身が倒しているんだろうが、体力を消耗しきっていて、かつ撃たれた傷を抉られた今、意識があるのかどうかも怪しい。ここで更に傷を抉られたら、出血だって不味い。すでに包帯には真っ赤な楕円が広がり、包帯が吸い切れない血液が滴となって地面に滴っていく。

 

(くそ! 時間がねぇ……っ!)

 

 まだ沢木さんには理性がある。本当にヤケクソというのなら、とっくに浅見さんの首にナイフが突き立てられているはずだ。

 あの人はまだ、逃げる事を考えている。それなら浅見さんより俺の方が人質に適していると判断するはずだ。そう思い、沢木さんに子供の演技で声を掛けようとした時に――

 

「もう……もう止めてくれ、沢木さん」

 

 おっちゃんが動いた。

 後ろを全然見ていなかったが、いつの間にか蘭を安全な所に置いて、ゆっくりこちらに向かってきている。沢木さんもおっちゃんに気を取られている。

 おっちゃんは、沢木さんに向けて言っているのか、あるいは自分でこれまでの事を確認するかの様に浅見さんとの思い出を口にしながら歩いてくる。

 

 

「――浅見が蘭の兄貴分なら……なぁ、俺にとっちゃ息子ってことになるだろ」

 

 

 

「なぁ、沢木さん。――なんでだっ!!!?」

 

 

 

「なんで俺の友達が! 俺の息子を殺そうとしている光景なんて見せつけられなきゃいけないんだ!」

 

 

 ――おっちゃん……っ

 

 おっちゃんが浅見さんと仲が良いのはよく知っていた。

 浅見さんは事務所を開いてから、おっちゃんの事務所に何度も足を運んでいた。

 浅見さん自身は『同業との繋がりっていう下心ありきの訪問』なんて言っていたが、おっちゃんは毎週浅見さんと飲みに行くのを楽しみにしていた。初めて会った時こそ険悪だったけど……やっぱりおっちゃんと浅見さんは――

 

「知った事かっ! コイツが探偵なんてやって、私の邪魔をするのが悪いんだよ……」

 

 沢木さんには、おっちゃんの言葉は届かない。多分頭にあるのは――

 

「さぁ、コイツの首をかっ斬られたくなかったら小山内奈々をその銃で撃て!」

 

 やっぱりそうだ。今回、一番の原因となった奈々さんは殺せず、理由こそ分からないがかなり殺意をもっていたであろう辻さんも殺せなかった。

 この人の殺意のきっかけは味覚障害だろう。

 瑞紀さんに配ってもらったミネラルウォーターに、あの人の物にだけ塩を入れたのに気がつかなかったから間違いない。

 味覚障害には様々な原因があるが、おそらくこの人の場合は事故の後遺症、そしてストレス。

 奈々さんが車でひき逃げをしてしまったと言っていたその相手が恐らく沢木さんだ。そして詳しくは分からないが、ストレスの原因となったのが辻さんたちなのだろう。――多分、殺害の邪魔をし続けた浅見探偵事務所……その代表の浅見さんにも……。

 

「――白鳥! 銃をよこせ!」

「……っ! 何を言ってるんですか……貴方には渡せませんよ!」

 

 焦れたのかおっちゃんがそう叫ぶが、白鳥刑事は眉に皺をよせて断る。昔のおっちゃんの話を知っているから、不信感があるのだろう。

 だけど、これじゃあ状況はどんどん悪くなるばっかりだ。どうすれば……どうすれば……っ!

 

「はいはい、とりあえずそんなに力んでいると、暴発しちゃいますよ?」

「――え、瀬戸さん!?」

 

 いつの間にか、瑞紀さんが白鳥刑事の隣に立っていた。

 瑞紀さんは、さっきまでの緊張した声ではなく、あのレストランでマジックを披露する時の様な笑みを浮かべている。

 瑞紀さんは、胸ポケットから白いハンカチーフを取り出してそれを白鳥さんの手元にかけた。

 白鳥刑事はいつの間にか隣に来ていた瑞紀さんに驚いて動きが固まってしまう。そして瑞紀さんはハンカチーフに手を掛け、『スリー……トゥー……』とカウントを始める。

 

「瀬戸さん、何を――!?」

「ワン……ゼロッ!」

 

 白鳥さんの驚く声をよそに、瑞紀さんがハンカチーフを取り払う。すると、そこにあった拳銃が姿を消していた。

 

「……なっ!?」

 

 握っていたはずの拳銃が無くなり、白鳥刑事は唖然としている。そして瑞紀さんはおっちゃんの方を向いて、自分の脇腹のあたりを叩いて見せる。

 それに気がついたおっちゃんは、自分の脇腹の辺り――内ポケットをまさぐる。そしてそこから取り出したのは、先ほどまで白鳥刑事の手にあった拳銃だ。

 

「……毛利探偵、後は――」

「あぁ、お前んトコの所長は任せろ」

 

 慌てておっちゃんを止めようと白鳥刑事が慌てるが、瑞紀さんが肩に手を置いて止めている。

 そしておっちゃんは瑞紀さんの言葉に軽く答え――銃を構えた。

 

「浅見ぃっ!!」

 

 おっちゃんが叫んで呼びかける。聞こえているかどうかはわからない。だが――

 

「俺を信じろ……っ!!」

 

 わずか――ほんのわずかに顔が上がった浅見さんが、ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべた……気がした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 やべぇ、少し眠って痛たたたたたたたたっ!

 いやちげぇよ! 思い出した! 沢木ってソムリエが犯人だと気づいた瞬間に傷口思いっきり抉られたんだ。ついでに刺された。いや刺さってないけど。防弾・防刃チョッキのおかげで思いっきり食い込んだだけで済んだ。いや、少しチクッてきたけどそれだけ。

 阿笠、小沼両博士には今度お礼をしておこう。ついでにこのチョッキ、警視庁に売り込んでみようかな……。

 

 それにしてもこのソムリエ野郎、思いっきり傷口を抉りやがって……激痛のおかげで意識が少しハッキリしてきた事には礼を言うけど、後できっちり豚箱に叩きこんでやる。

 とりあえず顔を動かさずに状況を把握する。キャメルさんがいつでも飛びかかれるように待機していて、コナンは後ろ手でなにか――多分麻酔銃を起動させてんだろう。瑞紀ちゃんは白鳥刑事の肩を掴んでいる。なんで?

 他の面子は――

 

「浅見ぃっ!!」

 

 はいなんでしょう?

 

 とっさに目線を声の方向に向けると――小五郎さんが真っ直ぐ俺に向けて銃を構えていた。

 

 視界がボヤけてはっきりとした狙いは見えないけど、この状況ならば恐らく後ろのソムリエだろう。

 犯人と探偵――主人公ではないが主要人物の対峙。これがクライマックスだろう。本来ならコナンか蘭ちゃんのどっちかがいそうなポジションに自分がいるわけだが……。そうだよ、これどう見てもヒロインのポジションじゃん。何が悲しくて激痛で意識朦朧としながら野郎に密着されてナイフ突きつけられなければならんのだ。せめて青蘭さんとか怜奈さんみたいな美女でお願いします。

 

 ……ヤバい、馬鹿な思考でどうにか意識保たせようと思ったけど限界だわ。

 

「俺を信じろ……っ!!」

 

 当然じゃないですか。主要人物というのもありますけど、こういうガチな時の小五郎さんは本気で頼りにしています。

 そしてこのクライマックスの綺麗な構図。恐れる理由が一つもない。綺麗にナイフ、あるいは腕に当ててその後確保という流れか。

 立っているのが精いっぱいで、上手く取り押さえられる自信はない。コナンとキャメルさんに頼るしかない。俺に出来る事は、さらに犯人に捕まるとかいうポカを防ぐためにさっさと距離を取るくらいだ。

 

 残った気力を全部費やして足に力を込める。少し体勢を左に傾けて、小五郎さんがナイフを狙いやすい様にする。そしてOKという意味を込めて、小五郎さんに向けて軽く笑ってやった。

 

 意図は伝わったのだろう。飲んだくれてる時のだらしない顔ではなく、少しニヒルな笑いを浮かべると小五郎さんは銃を構え直す。そして、引き金に指をかけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺の脚に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………え、そっち?

 

 

 

 

 

 

 




相変わらずの難産。
次回は後日談という形でこの後の出来事を色んな人の視点から描いていこうと思います。

以前あと二人ほど事務所に入れたいと言ってましたが、作中のモブから二人という意味でした(汗)

Q本編で重要だった人は? A:関わらない理由がない。

Q:事務所外で登場させたい人物はどれくらい?? A:多数。

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