平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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026:【速報】ふなち、早くも説得を諦め、所長の無事を祈っている模様

 

 

「はぁ……水が美味しい。どうにか逃げ切ったか」

「蘭さん、本気で所長を気絶させるつもりでしたね」

「命を狙っていましたって言われても納得できるわ。ちくしょう、コナンと瑞紀ちゃんとは話しておきたい事があったんだけど……」

 

 ヘリコプターは無事に帝丹小学校の校庭に着陸。念のために呼んでおいた救急車に辻さんを乗せて、こっそり皆から離れようとした時、妙に嫌な予感がしてその場を飛びのいた。その瞬間――空を斬る音と共に尖った拳が俺がいた所を貫いたのだ。

 

「お願いだからじっとしていてくださいって言われてもなぁ。あんな殺気籠らせた目で睨まれたら逃げたくなるよ」

「痛くはしませんという言葉とも矛盾していましたね」

「あれだろ、痛みを感じる前に落としますって意味だったんだろ」

「……あぁ……」

 

 とっさにキャメルさんと一緒に車に飛び乗ってギリギリの所で逃げ切れた。怒ってはいるだろうなぁと思っていたけどあんなにブチ切れていたとは……片がついたら土下座しに行こう……。

 ともあれ、そんなこんなで今はファミレスにて一息入れている次第だ。おろ? 着信?

 

「? メールですか?」

「あぁ、白鳥刑事から……。目暮警部や蘭ちゃんに隠れてこっそり情報流してくれたわ」

「いい人ですねぇ」

「……佐藤と高木の両名が絡まなければな」

「? 何かあるんですか?」

「…………キャメルさん、今度一緒に警視庁に行かない?」

「丁重にお断りいたします」

 

 こやつ、ノータイムで断りやがった。

 危険というか厄介事を察知する勘がだいぶ鍛えられているようだ。所長として嬉しい限り……。よし、今度行く時は安室さんにキャメルさんの確保をお願いしよう。俺一人であのテンションはキツイし。

 

 ともあれ……なるほど、目薬に仕掛けがしてあったのか。……こりゃあますます村上とかいう奴じゃねぇな。妃先生の時もそうだけど、細かい所まで知りすぎている。となると、そいつの知り合いの中にいるっぽいけど……。誰だ? いや、そもそも俺は犯人と会っていない可能性がある。主人公はあくまでコナンで、そして恐らく本来の重大なサブキャラは小五郎さんだろう。村上の件といい妃さんが狙われたことといい、少なくともこの事件の中では重要なポジションにいると見ていいんじゃないかな。

 となると、コナンと小五郎さんがこれまで辿った道筋の中に犯人がいる可能性が高い。……とはいえ、二人に怪しい奴は誰がいますか? って聞いてもピンとこねーだろうし……。

 そもそも毛利さんは俺に動くなって言ってきそうだ。さっきは蘭ちゃんが問答無用で襲いかかってきたから呆気に取られていたようだけど……。あぁ、自業自得とはいえ胃が痛い……。

 

「とりあえず何か頼もう、腹に何か入れておかないと持たないわ」

「ですね、さすがに私もお腹が空きました……。カレーにしようかな」

「俺が奢るんです。好きな物頼んでいいですよ?」

「いえいえ、ここのカレーライスが絶品なんですよ。先日給料を頂いた時は、ついついここでレトルトの物を買い溜めしてしまって」

 

 え、そんなに美味いの? ここのカレー?

 とりあえず頼んでみて、味が普通だったら休日にキャメルさん連れてグルメ食べ歩きツアーを企画しておこう。そうしよう。さて……さすがにビールは拙いよな。…………いや、一杯くらいなら。

 

「おや? 久しぶりじゃないか、浅見君」

 

 そんな時、いきなり後ろから声をかけられた。目線だけ動かしてそっちを確認すると――

 

「……諸星さん?」

「少し遅めのランチかな?」

「えぇ、まぁ、そんな所です」

 

 いつも会う時は手に何も着けていなかったが、今は皮の手袋を着けている。以前も被っていたニット帽に黒いジャケット、そしてワンショルダーの肩ヒモをつけた、かなり大きなケースを背負っている。

 いつものあの薄い笑みを浮かべて、特になにも言わずじっとこちらの様子をうかがっている彼に、俺は口を開いた。

 

 

「先ほどこの店を出ていった家族。子供が持っていたおもちゃは?」

「仮面ヤイバーの小さなフィギュア。塗装が色褪せていたから、おそらくあの子の私物だろう」

「母親が付けていた指輪はいくつ?」

「二つ。結婚指輪と、恐らくは何かの記念か、小さなアメジストがついた指輪をネックレスに通してつけていた」

「俺の後ろ側、端っこのテーブルの客の数は?」

「4人。母親、祖母、そして子供二人。子供は男の子と女の子だ」

 

「……諸星大は偽名?」

「ああ」

「本名は?」

「それは答えられないな」

「…………なるほど」

 

 俺の質問に、ほぼノータイムですらすらと答えていく。観察力半端ねぇな。俺が分かった事以上の事まで答えていってる。ついでにと名前の事も聞いてみたけど、まさか正直に答えてくれるとは思わなかった。

 ん? あぁ、そういえば諸星さんが狙撃犯かもって話したっけか。キャメルさん微妙に顔が引きつってるけど……。

 ともあれ、これだけ観察力が高い人だ。他の能力も結構――いやかなり高いと見るべきだろう。んでもって本当に俺を撃った犯人で、かつ殺す気があるのならばとっくにここで撃っているハズ。というより姿を見せる必要はないはず……少なくとも今すぐ命のやり取りをする相手ではない、と。あ、忘れてた。

 

「あぁ、そうだ。これが最後の質問なんだけど――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(な、なんで赤井さんがここに……。それに所長もなんであんなことを聞いて――)

 

 誰かが所長の所に来ているなと思って、注意をメニューからその人物にやった時――どういう顔をすればいいのか真剣に悩んでしまった。自分の本来の上司が――赤井秀一がそこに立っていた。

 それだけでも内心いっぱいいっぱいだったのに、今度は所長が赤井さんに色々な質問をしていく。

 先ほど出て行った家族についての質問はともかく、その後赤井さんの偽名については……赤井さんも堂々と答えてしまうし……。

 

(わ、私はどうするのが正解なんだろう……何も知らないふりをして……いやでも赤井さんの誤解を解かないと――)

 

「あぁ、そうだ。これが最後の質問なんだけど――」

 

 自分が葛藤している間に、所長が赤井さんに最後の質問と切り出してきた。この質問が終わったら、一緒に食事でもと誘って……いやいや、奢ってもらうのにそんな事を言い出すのは不自然だ。どうすれば――

 

 

「諸星さん、650m離れた所からライフルで人を撃てます?」

 

 

(…………え)

 

 

「あぁ、可能だとも」

 

 

(あ、赤井さん!!?)

 

 そ、そんな質問に答えたら! 所長は貴方を疑っているんで……そうか、それを知らないんだ。自分がもっと早く報告しておけば――

 

「……キャメルさん。席を詰めてもらえますか?」

 

 所長は自分にそう指示をすると、さっきまで自分が見ていたメニューを手に取り、そして赤井さんに差しだす。そして――

 

「ここの飯はそこそこ美味いらしいですよ。そちらの彼が言うにはカレーが絶品だとか」

「ほう?」

 

 赤井さんは、面白がるような目でこちらを見てくる。いや、赤井さんそれどころじゃないんですってば――

 

「ここは俺がご馳走しますから、なんでも好きな物をどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「――長丁場になりそうですし」

「……ふっ。なるほど……ではお言葉に甘えよう」

 

 そして赤井さんは自分の隣に座りメニューに目を通している。……気のせいでなければ、少し楽しそうだ。テーブルを挟んでいる所長も。

 

(……なにがどうなっているんだ……)

 

 元々赤井さんの考えは読めた試しがない。後になってから『こういうことだったのか』と納得できるが、それまでは全く分からない。

 所長――浅見透もよく似ている。所長もどうしてその答えにたどり着くのか分からないが、気が付いたら重要な証拠を見つけたり、真実に辿りついたりしている。人に対しての観察力――人を見る目というべきか――に関しては、あのずば抜けて優秀な安室さんですら『理解するのを諦めた』と匙を投げるほどだ。

 確実に分かる事といえば、二人とも信じられないほどに優秀だという事だけだ。

 

 よく分からないが、……本当によく分からないが今の所二人は意気投合している――様に見える。

 なら、深く考えても仕方ない。これ以上考えると胃が痛くなりそうだ。いや、痛い。所長の言葉を信じるのなら長丁場になるという。そんな時にこんなコンディションでは参ってしまう。そうだ、これは自己防衛というものだ。

 

「お待たせいたしました。ご注文は何になさいますか?」

「…………カレーライス。サラダセットで」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「君がわざわざ訪ねてくるとは……一体、どういう風の吹き回しかね? バーボン」

「いえ、最近貴方とお会いしていなかったので、いい機会ですし親交を深めようかと……」

「ほう? 独断専行の多い君にしては殊勝な心がけじゃないか。まぁ、確かに君とは最近会えてなかったな」

 

 組織の重鎮にして、『あの方』の側近――ピスコ。安室の目から見れば成金趣味にしか見えない応接室で、彼はその老獪な男を相手にしていた。

 

「いつもあの事務所の仕事にかかりきっているおかげで、中々会えないからねぇ」

「えぇ、事務所も盛況でして、自然に抜けるのが難しくなってしまっています」

「ふむ、余裕がないくらいに仕事を入れているのか……浅見透という男、話に聞く程有能ではないようだな」

「ハハ、おっしゃる通りで、おかげで苦労しています。……マスコミにも注目されていますし、本当に予想外の事ばかりです」

 

 見た目は質素だが、かなり座り心地のいいソファに腰をかけたまま安室は笑みを浮かべたまま雑談に興じている。――その内心は別にして、だが。

 

「そういえば、今現在の浅見透の動きが不透明だが、どうなっているのかね?」

「えぇ、それが……つい先日の話ですが銃撃に遭い……一応マスコミには混乱を防ぐようにと伏せていますが、彼は入院しています」

「ふむ? なるほどなるほど……腐っても有名な探偵事務所。恨みだけはたくさん買っていると……どうかね、バーボン。そろそろ彼には見切りをつけてこちらに戻ってきては? 君には大きな仕事を任せたいと思っている」

「それは魅力的な提案ですが……申し訳ございません、まだやり残している事が残っておりまして」

 

 差し出されたお茶に口をつけた安室は、至極残念だという風に首を振りながらそう言う。

 

「やり残している事?」

「あの事務所は警察とのつながりが非常に強いので、今の内にやっておきたいことがたくさんあるんですよ」

「ほう……具体的には?」

「そこは、仕掛けが終わってからの楽しみという事で……」

「くっくっ、相変わらずの秘密主義か」

 

 ピスコは、老獪な笑みを浮かべたまま安室との雑談を続けている。

 安室が最も嫌いな笑みだ。静かに己の顔に張り付け、その下を見せない仮面の笑み。

 実質、社会に出る――いや、誰かと関わる以上誰もが持つ物だが……質が――匂いが違うと言えばいいだろうか? 安室に取っては鼻につく物だった。

 

「どうかねバーボン? 君のコードネームには合わないが、なかなか質の良いワインが手に入ったんだ。よければ一杯?」

「――是非」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(バーボン。才気に溢れる麒麟児だが――まだまだ若い)

 

 先ほどまで彼が座っていた席。そこに残された空のワイングラスを眺めて、ピスコは静かに先ほどの短い会話を思い返していた。

 

(会話としては、私の言葉を肯定して浅見透をけなしていた。が、ただの雑談にしても、報告にしても過剰すぎる肯定。……組織への忠誠は知らんが、彼の気持ちはあの探偵事務所にかなり傾いていると見ていいだろう)

 

 彼に馳走したワインはまだ残っている。自分のグラスにそれを注いで、少し口に含む。程良い酸味と風味が、頭の動きをなめらかにしてくれるのだ。

 

 今回バーボンが自分の元を訪ねてきたのは、大方あの狙撃が組織の命令だったのかどうかの確認だろう。普段ならばぶれることのない体幹が僅かに乱れていた。恐らくカルバドスに命じたあの狙撃から、ほとんど休みを取らずに動き回っているのだろう。それだけで、バーボンが浅見透をどれだけ大事にしているかが透けて見える。

 

(あの麒麟児をそこまで突き動かす、もう一人の麒麟児。こちらは能力ではバーボンに劣るが、こと話術と交渉においてはなかなかどうして……。)

 

 長く生きた分、多くの人間を見てきたという自負はある。だが、浅見透のような男は初めて目にする。

 言葉では説明できないが、あえて一語でそれを表すとすれば――矛盾。天真爛漫にほとんど飾らず、あるがままに振舞う――だが強かな男。自分にとって欲しい物をかっさらっていくあの才能は……なるほど、鈴木次郎吉が手元に置く訳だ。

 あれは凡人に好まれ、良くも悪くも才人の注意を引き続ける男だ。それがあの事務所の多様な人材を集め、広がり続ける人脈を形成している。やっかいだ。実にやっかいだ。

 

(さて、出来る事ならば麒麟児達の勢いは削いでおきたい。いずれは大きな邪魔になるだろうあの事務所自体も……すでに私の持っていたルートもいくつか削られてしまった。これ以上被害が大きくなることは防ぎたい)

 

 だが、その手段をどうするか。今日の様子によってはバーボンというカードを切ろうと思っていたが、あの様子だと殺した振りをして匿う可能性がありそうだ。理想を言えば、バーボンにその行動を起こさせ、あの男を匿わせた後で現場を抑えるというのがベストなのだが……。

 

(奴はベルモットとつながりがある。噂ではベルモットもあの男を気に入っているとか……。可能性は低いが浅見透を救うために、あるいはあの女狐までが動くやもしれん)

 

 そうなると少々面倒なことになる。ただでさえあの女は厄介なのだ。

 

(さて、最善となる一手。どの駒を、どこに打つべきか)

 

 時間はまだある。焦る必要などどこにもない。

 今はこの程良く冷えたワインを楽しむ事にしよう。

 傍に控えている女性に注ぎ終えて空になったボトルを渡す。

 

「そのうち、君にも動いてもらうよ? 明美君」

「…………はい」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「アクアクリスタル? 聞き覚えがある名前ですが……」

「あぁ、でしょうね。ここ最近ニュースでやってたから」

「ニュース……あぁ、思い出しました。確か今度新しくオープンする海洋娯楽施設の名前でしたね」

「そのニュースなら俺も見たな。旭勝義という実業家が主導しているとか……。なるほど、『旭』か。確かに九が名前に含まれているな」

 

 新たに加わった諸星さん(仮名、もとい、偽名)も含めて三人でファミレスで食事を取って、これまでの流れを説明している時に、白鳥刑事からメールが来た。

 小五郎さんの友人で『8』が名前に入っているというソムリエさんの家に行っている時に、旭さんの名前が出たらしい。その『8』の人――沢木 公平さんという人も招待されていたという事で、旭さんが待つアクアクリスタルに向かうそうだ。……『8』と『9』が名前に入っている人が揃う。……揃うのはそれだけか? 襲われた人間は今の所、目暮警部、妃さん、阿笠博士、俺――は、とりあえず除いて辻さんの4人。長編小説なら前後編に分かれていてもそろそろ最後の山場に来るんじゃないかな? ……って、さすがにそれだけだと断定できないか。

 

(森谷の時は、コナン――工藤の誕生日っていう明確なフラグがあったから想定しやすかったけど……)

 

 なんにせよ、これで現場に数字が入っている人間が揃えばラストステージと見ていいんじゃなかろうか? ……そうだな、あれだけデカい施設が舞台になるというのも十分なフラグだろう。

 

「さて、これからどう動く? 名探偵」

「やめてくださいよ諸星さん。話してて分かりますけど、推理力も観察力も貴方の方が確実に上ですよ」

「そうかな? 君は、俺とは違う視点で見ている様に伺える。俺が気にする所と、君が気にする所は随分と違うからね」

「ははは……」

 

 やっべぇ、この人の観察力マジぱねぇ。今まで自分の視点を気づかれないようにフェイントかけたり視線誘導するのは大体容疑者がいる時だけだったけど、これからはもっと注意したほうがいいかもしれない。

 

「ともあれ……諸星さん、どう思う?」

「そうだな。君が推理した通り、犯人は被害者の候補となっている人間の中にいる可能性は十分にあると思う」

 

 とりあえず、白鳥刑事から教えてもらった話をまとめると、主に新しい登場人物は名前に数字が入った人ばかりということ。その線で捜査しているから当たり前だが。

 

 辻さんの時から、コナンも白鳥刑事と一緒に行動しているらしいから、手に入った情報も基本的には同じはず。その前の時の情報が少し気になるが……今は置いておこう。

 そうなると、犯人になり得る人物は狙われている数字が入った人間と見ていいだろう。

 

「そうなると、犯人は9から先の人物の中に紛れているということでしょうか?」

「ふむ……今まで狙われて命を取り留めた人間はどうだ?」

「カモフラージュでわざと、ですか? ……俺からの視点で言えばないですね」

 

 ほとんどが知り合い――加えていわゆる主要人物っぽいからというのが理由だが……理由づけが難しい。辻さんは死亡する確率が高いものだったし、全米オープンには参加できなくなっているから除外してもいいと自信を持って言えるが……。

 恐らく、俺が内心困っているのをなんとなく察したんだろう諸星さんがニヤッと笑っている。いつぞやの安室さんを思い出したぞこの野郎。

 

「そうか……君がそう言うのならば、それでいいんじゃないのかな? ところで」

「?」

「ずっと気になっていたんだが、その腕はどうしたんだ?」

「あぁ、撃たれました」

 

 そういうと諸星さんはすっげー面白そうに声をあげて笑いだした。なんでやねん。

 そしてキャメルさんは頭を抱えていた。なんでやねん。

 

「そうか、撃たれたか。それは大変だったな」

「いや全く。こうして撃たれたのは初めてですけど……まぁ、貴重な体験でした」

 

 実際撃たれると、最初は全く痛くないんだな。いや、俺がボーっと油断していたせいもあっただろうけど。気が付いたら痛み――というか熱が一気に来る。あの感覚は正直忘れられそうにない。

 悪くない体験だ。遅かれ早かれ銃持った相手と相対することもあるだろうし、今にして思うと――うん、本当にいい経験だった。

 だからなんで諸星さん楽しそうなん? 俺が撃たれたのがそんなに楽しいかこの野郎。

 

「……君は、俺が撃ったと思っているのだろう?」

「今は違いますが……えぇ、まぁ、重要参考人といったところでしょうか。……今だから分かりますけど、諸星さん、常に高所からの視界なんかを気にしていますよね。それに、手に大型の銃を扱い慣れた人特有の型が付いていますし」

「ほう、さすがだな。手の型で分かるとは……ライフルを扱う人間を見たことあるのか?」

「たまに……基本はいつも拳銃使う人でした」

「だろうな。ついでに言うなら早撃ちが得意のようだが?」

 

 そういう諸星さんは、今度は俺の手を見て頷いている。うん、貴方なら分かりますよね。

 

「まぁ、そんな所です。――さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

 さて、とりあえず腹ごしらえはおしまいだ。……ビール飲めなかったけどしょうがない。

 諸星さんは例のケースを背負う態勢に入っている。キャメルさんも車の鍵を取り出して、やる気満々といったところだ。

 

「行き先はアクアクリスタルでいいのか?」

「えぇ、さっさと序幕は引いちゃいましょう」

 

 

 

 

「この事件が終わった時が、本幕が開く時です」

 

 

 

 

 




やっぱり組織の人間出すと筆が進みますわwww

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