平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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感想返せてない(汗) こ、今度こそかならず……出来るといいなぁ
いまさらですが、『疲労胃ン』という当て字を生み出したこの作品ってなんなんですかね?(汗)


024:それぞれの捜査網

 さて、寝ていた二人は次郎吉さんに任せて来たけど、これからどうしよう。とりあえず真っ青な顔で必死に追いかけてくる看護師さんやら張り込んでた刑事達は撒いたけど……。あーくそ、腕が重い。これ外しちゃだめかな。

 一応いつものスーツに着替えたけど、腕だけは不格好な物になっている。ワイシャツもそっちだけハサミ入れて腕まくりして誤魔化してるし……今度また新しい奴買わなきゃ。

 

(まずはどこから手をつけるかねぇ……)

 

 安室さんと合流したうえでコナンと合流するのがベストなんだが、コナンの奴、さっき一度顔見せた時に真っ青な顔だったからなぁ。腕とかの事を色々聞いた後で、フラフラっと出て行っちまって。なんか責任感じてるっぽいし……アイツの言う組織の人間に撃たれたと考えているんだろう。

 

(とはいえ、少なくともあのトランプ野郎は別件だろう。例の組織ならわざわざ証拠残したりしねーし。なら撃った奴が組織の人間か? そうなると俺を殺さなかった理由が分からねぇ……生かしておく理由なんてないだろうに……)

 

 今の所、事務所の人間には被害が出ていない。まぁ、まだ一日しか経っていないから機会を窺がっているだけかもしれないが……とりあえず所長であるという意味でも俺が狙われているという仮定で行動しよう。

 一つ考えていたことが、俺達がいくつか潰した妙な密輸ルートが、例の組織の物だったんじゃないかという物だ。ただこれなら、組織の手の早さからとっくにもう皆殺されている気がする。……が、それらを辿ればどこか一つにたどり着く可能性は高い気がする。

 ……うん、やっぱ出来そこないの名探偵は一人じゃ答えにたどり着けません。ってな訳で――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 自分の『本来の上司』に、彼が撃たれた事やそれによって事務所の人間がどのように動いているかの報告メールを打っている時にかかってきた一本の電話。その電話によって呼び出され……今自分は車を運転して街中を走っている。

 

「いやキャメルさん本当にありがとうございました。安室さんとかに頼むとその場で確保されそうだったんで……」

 

 いや、貴方撃たれたばっかりですよね? 病院から出てて大丈夫なんですか? あと、なんで後部座席で身を低くしているんですか? ……隠れてますよね? 誰かから隠れてますよね?

 

「いや、ほら狙撃されたばっかりなんで姿を見せるのも拙いかと思って」

「……確か、副所長と中居さんが一緒だったと思いますが」

「あぁ、鈴木相談役に引き取ってもらったよ。あの人なら確実に守ってくれるだろうし」

「す、鈴木相談役!? い、いいんですか、そんな大物を顎で――」

「次郎吉さんもあの二人は気に入ってくれてるし、動いてくれるって言うんなら遠慮なく使わせてもらうさ。それで、事件の方はどうなっている? 聞いた話だと安室さんと小五郎さんがすっげーピリピリしてるってことだけど」

 

 そういえば、毛利探偵もすごく所長の事を気にされていた様子だ。警察の人に「こいつを頼む」と言ってそのまま自分も捜査に向かわれたようだし……。あれ? ということは所長、警察も撒いて来たのか?

 

「え、えぇ。今警察では『村上 丈』という男を重要参考人として追っているようです」

「村上丈?」

「はい、なんでも毛利探偵が刑事時代に捕まえた男らしく、カード賭博のディーラーだったとか」

「カード賭博……トランプからそこにたどり着いたのか」

「はい。先日仮出所したばかりで、今目暮警部達が行方を追っています」

 

 警察からの情報がすぐに集まるのがこの探偵事務所の一番の特色かもしれない。よく事務所に来る若い刑事達はもちろん、あの恰幅の良い警部も色々と教えてくれる。本当に、変わった探偵事務所だ。

 

 そのまま、事件は毛利探偵に近い人間を狙っているのではないか、所長を狙撃した共犯者は未だ手掛かりが掴めていないこと。10年前、毛利探偵が村上を捕まえた時に何かあったらしい事など、自分が聞いた限りの事は全て伝えた。

 

 バックミラーで後ろを確認すると、所長の浅見透はじーっと考え込んでいる。自分を狙撃したのが村上かどうか考えているのだろうか。そのまましばらく運転していると、後ろからボソリと……だが妙に確信した声がした。

 

 

「――違うな」

 

 

 という、妙に説得力を含んだ、たった一言が――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 キャメルさんから聞いた情報を纏めるとこうだ。犯人と思われている男――村上丈は、10年前に毛利探偵に逮捕されたという恨みがあり、仮出所として外に出た今、自分の商売道具だったトランプになぞって13から逆順に小五郎さんに関係がある、名前に数字が入った人間を襲っていると。

 うん、まぁツッコミ所がいくつかあるのも含めて、こういう時は得てして一番最初に疑われた人間は犯人じゃない。仮に犯人だとしても裏で操っている人間がいたり、他にも意図しない犯人がいたりする物だ。参考にする事はあっても、ほぼミスリードと判断していいだろう。

 その考えが口から出ていたのか、キャメルさんが慌てた様子で「ち、違うんですか!?」と聞いてくる。

 前を見なさい、前を。せっかく苦労して看護師や佐藤さん達から逃げて来たんだから、ここでパクられたら病院に逆戻りだ。あの人なんでか泣きそうな顔で追ってくるから超悪いことした気分になってしまう……。

 

「そもそも、本当に小五郎さんが狙いならば本人を直接狙えばいい。それを抜きにしても、目暮警部や妃先生は理解できるが阿笠博士を狙ったのが解せねェ。蘭ちゃんならつながりあるけど、小五郎さんにはないだろ?」

「た、確かにっ! じゃあ……一体誰が!?」

「さすがにそこまでは……ただ、一つヒントがあるとすれば」

「あ、あるとすれば?」

「……妃先生の好物を知っていたってのが引っかかるな」

 

 小五郎さんと妃先生の共通の知り合いってのが容疑者の中にいりゃあドンピシャ……だと思う。安室さんかコナンが同じ答えならほぼ確信できるんだけど……。

 

「あのー」

「? なにか?」

「犯人が村上丈ではないかもしれないというのは分かりましたが……所長を撃った人間は、誰なんでしょう?」

「……一応気になってる人がいるにはいるんだけど」

「い、いるんですか!?」

「ん、まぁ……。こればっかりは完全な勘なんだけど……」

「だ、誰なんです!!?」

 

 今、俺が知っている人間でそれっぽいイメージを持っているのは二人いるが、妙に気になっているのは――

 

「諸星――諸星大って男なんだけどおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!????」

 

 ちょっとキャメルさんやい! なんでいきなりハンドル切った!? 顔が引きつってる上に真っ青だけど腹でも壊したの!!? ちょ、前! 前!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――ええ、やっぱりそうなりましたか。すみません佐藤刑事、お手間をかけさせてしまって」

『こちらこそ、ごめんなさい。なんとか捕まえようと思ったんだけど撒かれてしまって……本当にごめんなさい』

「いえ、浅見君が本気になると誰にも止められませんから……」

『……そんな所ばかりそっくりなのね、彼。アイツと……』

「……えぇ、困ったものですよね」

『本当にね。……すぐに所轄に応援を出して探してもらうわ』

「いえ、それは不要です。先ほども言いましたが、もうこうなったら止められませんから……。それより、出来る事ならば捜査の状況を流してほしいですね」

『……そのちゃっかりした所、浅見君と同じね。さすがはトオル・ブラザーズの兄貴分かしら?』

 

 電話の向こうで佐藤刑事が笑いながらそう言うが……少しだけ涙ぐんでいるような気がする。

 

 

――やはり、重ね合わせているか……アイツと……。

 

 

『本当はだめだけど、状況が動けばすぐにそっちに連絡するわ。……目暮警部には内緒ね? それと――』

「分かっています。こちらも何か掴め次第情報を送ります」

『ついでに今度奢りなさい。もちろん払いは浅見君でね! それじゃ、また後で!!』

 

 向こうも急いでいるのだろう、そこまで言うと一方的に切られてしまった。……まぁ、当たり前だが。

 さて、問題はここからだ。警察が動き出す前に狙撃場所を特定したが、650mとそこそこの距離だ。少なくとも狙撃の訓練を受けた人間であることは間違いない。

 

(まさか、赤井が? ……いや)

 

 可能性があるとすれば、浅見君が『組織』の重要人物だと推測して威嚇を兼ねて撃ったという場合だが……この日本で、それも人を撃つという事をアイツがするだろうか?

 いや、正直あの男ならばやりかねないと思う。……俺は、だが。

 

(先入観を捨てろ……。今だけは全部忘れろ……っ!)

 

 優先順位を忘れてはいけない。浅見君を狙った奴を燻りだし、その背後を確認しなければならない。万が一、組織が動いている場合は……。

 

(いざという時は別の戸籍を用意する準備も整っている)

 

 守らなければという思いがある。公安の一員としてだけではない。……口調も性格も違う癖に、顔やたまに出る言葉が自分の友を思い出させる彼を――いや、それだけじゃない。そうだ、さっき佐藤刑事も言っていたじゃないか――

 

「弟分を守るのも……兄貴分の役目といった所か」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(――ったく、紅子が言った通り、死亡フラグだらけの男ってことか)

 

 瀬戸瑞紀――の格好をしたまま、俺はあのやっかいなガキンチョと一緒に動いていた。

 動いている、といっても、今は人のいない毛利探偵事務所で事件を見直しているが……。

 あの青子にちょっと似てる蘭って子は今病院に向かっている。うちの所長のお見舞いだそうだ。俺とガキンチョも誘われたんだが、こいつは断って事務所に残っている。……なんか釈然としねーな。

 

「それでコナン君。次の10の人に心当たりは?」

「……10、つまりは『とお』って事で浅見さんが狙われたんじゃないかっていう意見が警察内では出てるみたいだけど……」

「トランプが置かれていなかった。それに、状況を聞く限りバイクの犯人がコナン君に追いかけられたのは予想外だったはず。わざわざ狙撃手を配置できるわけがない」

 

 それにしても、このガキンチョいつもに比べて余裕も元気もねーな。……所長さんが心配だからか? まるで兄貴みてーに懐いてる感じだったから仕方ねーっちゃあ仕方ねーが……大丈夫か? 蘭ちゃんもかなりまいっているようだし……。

 

「狙撃事件の方はウチのエースが調べているから大丈夫ですよ。私たちはこっちの方を解決しましょう! こっちは、最悪あと10人の人間が狙われているんですから、放っておくわけにもいきませんし!」

 

 あー、ちくしょう。本当なら俺も安室さんと動きたかったけど、安室さんからこっちの捜査を手伝ってほしいってメール来てたしなぁ。多分、副所長さんとふなちにも同じような内容で送ってんだろうけど……。

 

(どこのどいつか知らねぇけど……俺の職場に手を出したツケはしっかり払ってもらうぞ……)

 

 ぶっちゃけた話――あの職場は理想の職場だ。仕事もやりがいがあるし、そうでなくても今では下のステージがある。料理や酒に注意を向けてる客が、俺の一挙一動に注目しだすあの瞬間の高揚感。瀬戸瑞紀の時は違う視線も感じるが……。小さな舞台、仕掛けも何もないから、行うのはテーブルマジック。レストランだから当然動物は使わない。制限がある中でどうやって奥の席の客にも分かるように、派手に、大胆に、だが新鮮さを失わないようにと創意工夫を重ねていく日々。とても充実している日々だ。

 

(きっかけは紅子。与えてくれたのは所長さんだ)

 

 恩は返さないといけねぇよな。所長さんは……何かあっちゃあ酒呑むし、美人や可愛い娘を見かけたらヘタレの癖に声かけて、副所長の愚痴を俺とふなちで聞くことになって、酒に付き合わされて、呑んでないのを気づかれないように中身減らすのに苦労して……俺に面倒事を持ってくる人だ。だけど……だけど――

 

(まぁ、今だけは平成のルパンではなく平成のジム・バーネットってことで――)

 

 どっちの事件も解決してやるさ。また、事務所の面子と……ついでにこのガキンチョに、とびっきりのマジックを見せてやるために。

 まずはガキンチョを元気づける所から始めるか――

 

――プルル! プルル! プルル!

 

 そう考えていたら、ガキンチョの携帯が鳴りだした。ガキンチョは、「誰だよこんな時に……っ」とぼやきながら画面を確認して、慌てて通話ボタンを押す。一瞬だけ名前が見えたが、どうやら蘭ちゃんのようだ。二、三言葉を交わしてからしばらく黙ったままのガキンチョだが、唐突に――

 

 

「――えええっ!!? あ、浅見さんが病院から脱走したぁっ!!!!!!!!??」

 

 

 

 

 

 ……せめて抜け出したって言ってやれよ、ガキンチョ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「どうしようキャメルさん。なんか俺、この事件が終わったら正座どころかボッコボコにされる予感がしてきました。色んな人に」

「じゃあ病院に帰りましょうよ!? 撃たれたばっかりなんですよ!!?」

「大丈夫大丈夫。弾は貫通してるから」

「どちらにしろ腕に穴が開いてるじゃないですかぁ……」

 

 えぇい、デカい図体で泣きそうな声を出すんじゃない。

 

「とりあえず、どう動くべきかなぁ……。人を当たるか、そうでない所に目をつけるか……」

「……その、あk――諸星大という方が犯人だと思っているんですか?」

「あー、どうなんだろう?」

 

 単純にそれっぽい――つまり、狙撃仕様かどうかはともかく、ライフルを使っていると思った人で思いついたのが諸星さんだった。もう一人は水無さんと一緒にいた人……ただ、あの人の手は良く分からなかったな……どっちかっていうと猟師とかそっち系な感じがしたけど。

 まぁ、あくまで目星だ。

 

「正直、実行犯よりも理由の方を明らかにしたいかな?」

「理由……ですか」

「恨みだったら恨みで、逆恨みなのか正当な物なのか。浅見探偵事務所に向けてのものか、浅見透に向けてのものなのか。そこを明らかにしねぇとちょっと安心できねぇな」

 

 前にコナンから聞いた話だが、しっかりしたスナイパーライフルを素人が使って当てられるのは、銃の性能にもよるが300~400程だと聞いた覚えがある。そうなると、650という距離で成功させた今回の狙撃犯は訓練を受けたプロだという事になる。

 となると、やはり今回の狙撃は俺を殺すつもりはなかったんじゃないかと考えても――いいよね? いいよね?

 

「……あくまで俺の考えだけど、やっぱり今回は脅しだったと思うんだよね」

 

 狙撃に関わるような人間に喧嘩を売った覚えはない。そのプロは誰かに雇われたと考えるのが自然だろう。つまり、雇うような金とコネを持っている人間となる。

 

「入ってみて驚きましたが、この事務所はいろんな所を対象にした依頼が来ますから……」

「そりゃしゃーない。人員は優秀だから自然と仕事のレベルも上がっていくし、次郎吉さんによる無茶ぶりが来る時もあったしね」

「いや、この間の潜入捜査もそうですけど……ここ、本当に探偵事務所なんですよね?」

「安心してくれ、盗聴、防諜態勢は完璧だから。相談役が今の内に壁とか床、窓ガラスまで対策入れてくれるし、ネットの方も独自の――」

「本当に探偵事務所なんですよね!!?」

 

 だからそうだと言ってるじゃない。看板に堂々と探偵事務所と書いているでしょうが。

 

「ま、その話はさておき……」

 

 相手に今殺す気がないなら、手を打つ時間はまだあるってことだ。とりあえず、詰めれる所から詰めていくか。

 

「さて、どうにかコナンと連絡を取らねーと……」

 

 

 

 

 

 


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