平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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161:鴉、飛ぶ

「つーわけで、内緒の出張するからツインタワービルのオープンセレモニーは初穂、頼むわ」

「あん? ボスの内緒の出張はともかく、ツインタワービルの完成は春先になる予定じゃなかったっけ?」

「どうも色々無理したみたいでね……」

「……あの美人社長、ちょいと自己顕示欲が強すぎないかね」

「いや、どっちかっていうとアレだ。仕事と言う名の趣味をドンドン先に進めたいタイプでしょ」

「そりゃそれで厄介だねぇ」

 

 亀倉さんが、面白いそば粉が入ったと言うので初穂とご馳走になりながら、今後の事を話し合っていた。

 

「セレモニーで気を付ける事は?」

「んー……。いつも通り身辺に気を付けておいて。さっきも言ったけど色々無茶したみたいだからね」

「恨みも買ったか?」

「それと欲ボケ……いや、色ボケした奴を集めちまってる」

「ん?」

 

 初穂は何気に麺食いだ。

 閻魔大王ラーメンがもはや名物となっている小倉を始め、うどんに蕎麦、パスタとあれこれ食い歩いている。

 

 その初穂からして、亀倉さんの蕎麦は合格だったんだろう。

 良かった、せっかく一緒に飯食うなら美味い物を食べてほしかった。

 仕事の話をしながらの食事なんてシチュなら猶更だ。

 

「岩松市議が関係している」

「あぁ、マリーやら遠野に嫌な目を向けてたクソ親父かい」

「……待って、遠野さんも?」

「安心しな、余計な事言われる前に下げたさ。……ただ、代わりにマリーにゃちょっと嫌な思いさせたね」

「……あんにゃろう、マジで」

 

 その上で中途半端な攻撃してきたのか。

 バレないように報復しておこう。

 

「まぁ、あのエロ親父が今のウチに手を出せるとは思えないけど、うっとうしい事をしてくる可能性がある」

「まぁ、キャメルがいりゃ大丈夫だろう。誉め言葉にゃならんだろうから口にはしないけど、ああいう強面(こわもて)が控えてくれてると、それだけで助かる。安室さんや沖矢みたいな色男じゃもうちょい手間取るからね」

 

 キャメルさん、次の昇給に色付けるわ。初穂も。

 いや、初穂が助かるって言うならマジなんだろう。

 女捨ててる女だけど、それでも女性という性別で足を引っ張られる事もやはりあるのだろう。

 

「ついでに美緒さんの事も気を付けておいてくれ。あれ、多分どっかで恨み買ってるだろうから」

「……ボス」

「ん?」

「さっきの出張の話もそうだけど、女には気を付けなよ」

「今度の出張は女絡んでないんだけどなぁ」

「あぁ、それじゃドンパチかい。帰国した時のために病院の検査用意させておくよ」

 

 そそ。さすが初穂だ、話が早い。

 

「遊びはともかく、あんまり女に手を出しちゃいないのは知ってるさ。ただ……ほら、最近メディアは下世話な方向に話を持ってきたがる」

「……怜奈さん関係の話は本当にうざかったな」

「一応カゲやツテを辿って調べてみたけど、スキャンダルのでっちあげ狙いの介入はなかったよ。……いや、テレビ屋はボスのスキャンダル欲しがってるけどさ」

 

 ちくしょう……。株もっと買って圧力……かけるのもなんだかなぁ。

 やっぱ自前の局を持って、後は適度にあしらいながら付き合いを続けるのが正解か?

 

「ちなみにメディア連中、今度は毛利の嬢ちゃんとか真純、紅子との噂作ろうとしてるよ」

 

 そば湯吹きそうになった。

 

「あの馬鹿共! 俺を殺す気か!?」

「全くさね。真純や紅子はともかく、本当にんな事になったら毛利の旦那がボスを投げ飛ばしに来るね」

 

 ちげーよ! 飛んで来るの背負い投げじゃなくてサッカーボール!

 そこそこの大木へし折るレベルの!!

 

「潰せ。意味なく高校生を大衆の玩具にしようとするなんざ敵対行為でしかない」

「だろうね。当然手配してるよ。ただ、そうなるとまーたボスのお相手を探し出すよ。アイツらは」

「思春期の恋愛脳かよ……」

「そういう連中が多くて、注目を引くのが簡単だからじゃないか?」

 

 うへぇ。

 

 ……いやそういえばそうか。園子ちゃんは言わずもがな、蘭ちゃんもそういう話好きだったわ。

 

 うっへぇ。

 

 これまでの印象の貯金があったから青蘭さんの事は、悲恋というか宿命の対決みたいな扱いになっている――ノアズアーク事件の結果、それが補強されたからそっちにしばらく食いついてくれると思ってたんだけどなぁ。

 

「もういっそ、本当に遊びまわってみたらどうだい? ボスがこの間気に入ってた娘みたいにスキャンダル作りまくったら、かえって武器になるさね」

「いやアイツは別格だろ。レベッカの事言ってんだと思うけど」

 

 欧州方面の事業展開で知り合った、イタリアはサンマリノの名家ロッセリーニ家の現当主……にしては若いよなぁ。いや俺よりちょっと年上なんだけど。

 

 こう、わんぱく小僧がそのまんま美女になった感じだ。

 アレでイタリア有数のホテルグループ率いてんだからすげぇわ。

 

「アイツには、ロッセリーニ家っていう積み重なって来た物が後ろにあるからな。やんちゃやってもイタリアに愛されている。俺みたいな新興勢力がやっちゃダメでしょ」

 

 いや、アイツ本当によくやるわ。

 スキャンダル自分からリークするか? 普通。

 しかも目的とくになしで。

 攪乱とかなら俺もやるけどさ。

 

「いっそ七槻かふなちの嬢ちゃんと婚約でもしたらどうだい?」

「そしたらメディアが今まで以上にアイツら玩具にし始めるだろ」

 

 ちょっと前まで桜子ちゃんが危なかったし、ジュニアアイドルに似ている志保――灰原に付きまとってた連中もいる。

 仲良くする必要はある連中だけど油断したら駄目な連中だ。

 

「不倫とかならまだしも、女が絡んだだけのなんちゃってスキャンダルで転ぶ会社じゃなくなったんだ。ただ、変な所で足引っ張られないように気を付けな」

「あー……うん、気を付けるよ」

「特にボスは、仕事上行先や行動を公に出来ない事がちょいちょいあるからね」

「マジですまん。出来るだけ早く潰して帰る」

 

 志保も協力するって言ってくれたし――やけにあっさり同意したのが引っかかるけど、後はカリオストロの時と同じく、コソコソ動いていただけそうなものは全部いただくだけだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ママも行くんだ? 透兄(とおにい)の出張に」

「ああ。……行先を告げられないのはすまない。だが、これはうかつに口外できる話ではない」

「いーっていーって! 一応探偵を自称してるんだ。守秘義務も含めて情報の扱いがどれだけ大事かは分かってるよ」

 

 表向きはカゲの一員として、その実態は他でもない浅見透直属の諜報員。浅見透が最も頼りにするワイルドカードであるメアリーは、セーフハウスで同居人――他ならぬ娘と、出発する前の夜を過ごしていた。

 

「というか、ママこそ大丈夫かい? 透兄の行先なんて銃弾飛びまくって爆発しまくってフッヒャー! みたいな所だろう?」

「真っ先に思いつくのがそういう所になるのか」

「なるよ。だって透兄だよ?」

「……いや……まぁ……」

 

 実際当たっているのだから上手く反論できず、そもそも自分も全く同じことを言うだろうと思っていたメアリーは口ごもり、

 

「……そうだな、そうなるか」

 

 メアリーは世良の言葉に頭が痛くなるのを感じていたが、それを受け入れ懐から得物をゆっくり抜く。

 今は弾丸が込められていないが、場合によっては使う事になる彼女の武器――拳銃だ。

 

「真純、そこのシートを取ってくれ。念のために整備しておきたい」

「毎朝やっているじゃないか。今朝だって」

「武器だからな。念には念を入れておきたい」

 

 珍しく、メアリーは少し緊張している。

 

 これまでも最低限の緊張は常に持っていた。

 プロフェッショナルとして、自分のパフォーマンスを引き出す程度の緊張感を持つ様コントロールはしてきていたが、あのロシア事変の時のようにそれを超える緊張が滲み出ていた。

 

「……真純」

「なに?」

「私達が帰って来てからの話になるだろうが……浅見透の監視――いや、観察と分析のために、本国からある外交官が来る」

「外交官?」

「ああ。ジャスティン・パーソンという男だ。おそらく、事務所員にも接触を図るだろうが……」

 

 薄いゴムの手袋をはめてから手早く銃を分解し、部品を一つ一つ磨きながら、メアリーは続ける。

 

「いいか、お前はあまり近づくな。浅見透や恩田遼平がいない時は特にだ」

「気を付けろって事?」

「そうだ。うかつな挑発も止めておけ」

「……ひょっとして、同僚?」

 

 一通り掃除を終え、組み立てる前に一息ついて真純に向き直る。

 

「想像に任せる。が、少々やっかいな男だ」

「どういう人なのさ、それ」

「……そうだな、人格面などは問題ない。だが――」

 

 メアリーは、この身体になってからは音声でしかやり取りしていない同僚の事を思い返す。

 

「調査方法や危機対策、それに有事に於いての戦闘技能などは……そうだな」

 

 家族と言う地雷を踏むと暴走する辺りといい、組織運営能力を除けば、その男は浅見透と瓜二つといえるのかもしれない。

 

「浅見透の上位互換だと思え」

「そんな化け物がいるの!?」

 

 驚愕する娘を尻目に、銃の組み立てを始めながら続ける。

 

「以前、透自身からアイツの能力についてある程度聞いたことがある。詳細は話せんが、奴と透は極めて近い能力を持っている」

 

 そういえば地雷まで同じだったな、とメアリーは静かに思う。

 

「だからまぁ……気をつけろ。普通にしていれば無害だが、それでも警戒に値する男だ」

「……ママの事はよく知らない、で通した方がいい?」

「そうしておけ」

 

 銃を組み上げた少女は、薬室をチェックした後で構えて見せる。

 本来ならばもっとも似つかわしくない外見であるにも拘わらず、その雰囲気の鋭さは手にした拳銃に違和感を覚えさせない。

 

 真純が以前から見る、メアリーという女の姿だ。

 

「……ママはさ」

「なんだ?」

「透兄といる時はもっとこう……ママっぽいよね」

「……言いたいことはなんとなく分かるが、もう少し言葉を探せ」

 

 メアリーがずっと、父の役目も負って自分に接していたことを真純は知っていた。

 だからこそ、メアリーが自分以外の人間がいる所で女言葉を使ったことに、真純は密かに驚愕していた。

 

「……あの男と接していると、秀一がもう一人増えた気がしてどうも、な」

 

 諜報員としての顔が僅かに薄れ、メアリーは溜息を吐く。

 

「真純」

「なに?」

「あの馬鹿は必ず連れて帰る。仮に仕事が失敗したとしても、首根っこを引っ張って連れて帰る」

「そもそも、透兄が失敗するイメージが湧かないけど……うん」

「そうしたら、お前の口で『お帰り』と言ってやれ」

 

 

 

「あの男は家族に飢えている。お前からもそう言われれば、今度こそキチンと療養するだろうさ」

「ママ、ナチュラルに透兄がボロボロになるって決めつけてるね?」

 

 

 

 

 

「というかさぁ」

「なんだ」

「『いってらっしゃい』も『おかえりなさい』も、ママが言った方が透兄喜ぶと思うけどなぁ」

 

 

 

 

 

「馬鹿者、見ればわかるだろう。私にその資格はない」

 

 

 

 

 

「ないんだよ……真純」

 




地味に自分が愛用している動画配信サイト『Hulu』
劇場版コナンのスポンサーというか提携というか……エンドクレジットにデカデカ出ているのでと使っているのですが、なぜかルパン三世、スペシャルの新しいものが一部ないのは理解できるが『Part4』がないのです。

だから真面目に、ニクスが出てきた時は凄く驚いた
ルパンワールドにこの能力持ちいたのかよと

そんなん知ったら出すしかないじゃない(自己弁護)

というわけで、今回の劇場版あさみん&灰原、またもやあとがきに行ってもらいます

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