平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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159:裏切り者

『というわけでですね、こっちもそろそろ動こうと思うんですよ怜奈さん』

「ええ、聞いているわ」

 

 ここ最近の自分の頭痛の種が、妙に明るい声で専用の電話にかけてきた。

 危険信号だ。それは分かる。

 

 伊達にこの人の形をした混沌が世に出た時から付き合ってきたわけではない。

 理屈では必要だけどそれはそれとして死人が出てもおかしくない綱渡りを、「よろしく」の一言で投げつけるときの声だ。

 

「安心して。今度こそ合衆国は、状況が許す限りでの君との協調路線へと舵を取ることに決定したわ」

『ハワード・ロックウッドの遺産の切り取り合戦はここまでと?』

「というより、扱いこなすのもそうだけど揃って維持するのが難しいと判断したのよ」

『そういうのは合衆国の財界の方がお得意なのでは?』

「……色々関わりたくない面が出てきたらしいわ」

『……泥棒のおじさん絡みだってのは知ってたけどやっぱ訳ありかぁ。あんにゃろう……』

 

 自分も詳しい事は知らされていない。つまりそういう立場にないわけだが、泥棒のおじさん――あのルパン三世絡みだとは聞いていない。

 

 そういう中に平然と割り入っていけるこの子の怪物っぷりは相変わらずだ。

 CIA内部で密かに『人間災害』と呼称されるだけはある。

 

『まぁいい。とりあえずはそっちとまともに交渉終わらせられてよかった。またハードネゴシエートされても困る』

「手を出した覚えはないけど?」

『あの蜘蛛連中にこっちの主要人物暗殺を依頼してたのアメリカさんでしょ。カリオストロで襲われた時に大統領にカマかけたら声にちょっと変化ありましたよ』

「…………」

『ま、その件もあってお礼を言っておきます』

「あら、どういうことかしら?」

『途中からあからさまに七槻やふなち達がターゲットから外されたんで、周囲の民間人に手を出すのは直接の関与がなくても危険とか、そういった感じの報告をしつこく上げてくれた誰かさんがいたんじゃないんですかね?』

 

 ニコニコと透がそう言うけど、上申するに決まっている。

 もし家族と言う枷が無くなったら、この子は表・裏どちらも無秩序にかき回すに決まっている。

 

 越水七槻並びに中居芙奈子の誘拐計画が上がった時は、それを潰すのにどれだけ苦労したか。

 

『その礼ってわけじゃないけど、例の東欧諸国一部兵器の近代化改修の案件はそちらの要求を呑む。ロシアとの調整もこっちで受け持つよ。……かーわーりーに』

 

 来た。

 やっかいごとだ。

 

『ちょっと例の組織の動きを教えてくれない?』

「私も、今の組織の動きは全く掴めていないわ。せいぜい、貴方の言うクソロン毛がちょっとしたペナルティとして日本国内の構成員の引き締めをやらされているってことくらい」

『? なにかあったの?』

「まぁ、ちょっとね」

 

 正確に言うと組織にとってはちょっとではない。が――

 まぁ、この子にとっては些細な問題なのだろう。

 少なくとも戦争の火種や、大国が亡ぶ一因にはやや遠いものがある。

 

「こちらの組織と、ピスコや他の犯罪組織との抗争が始まったのよ。あの老人が、組織の簡単な情報を世界中にばら撒いたから……」

『おぉう……よく分かんねぇけどよっぽど枡山さん怒らせる真似したのか、あのクソロン毛』

「おかげで裏の世界はちょっとしたパニックよ」

『……あの人が国内にそれほど根を張ってなくて助かった』

 

 そうね。日本人としてはいいでしょうね。

 逆にアメリカはじめヨーロッパや諸外国では、銃撃戦の数が5倍から10倍になっているのだけれども!

 

『ちなみに他の組織ってのは?』

「色々よ、色々。ヨーロッパのシンジケートにイタリナのモルガーナ、ネオ・ヒムラー……アメリカだと手配中のブラッディ・エンジェルスにどこからか雇われた傭兵に……もう大混乱よ」

『……それでまだ組織として安定してるとは……わかっちゃいたけど黒の組織もやべぇな』

 

 電話の向こうから深い溜息が聞こえた。

 

『んーーー。まぁわかった。本当は組織のちょっとした攪乱(かくらん)を依頼しようと思ってたんだけど今回はいいや。『水無怜奈』への依頼も怪しまれない程度に減らすから、そっちの身の安全の確保を最優先で』

「ええ、そうしてもらえると助かるわ」

『怜奈さん個人のいざという時の資金として一千万円入った口座を用意しておく。組織にもCIAにもバレたくない緊急時に使ってくれ。枡山さんならともかく他組織との抗争なら、なにがどう響くか分からんしね』

「口座番号と暗証番号は?」

『後で二重に暗号化したメールを送るからそれで確認して。こっちの符丁と乱数表は覚えてる?』

「ええ」

『OK。引き出せなかったり、あるいは足りないかもしれないと思ったのならすぐに連絡をくれ。二千万円までは連絡もらってすぐに追加で用意できる。三,四日ほど準備期間もらえればさらに二千万』

 

 こういう細かい気配りが、迂闊に関係を切れない所だ。

 瑛ちゃんの事も含めて、万が一に備えてあれこれ用意してくれる。

 いざというときのために、すでに脱出計画やセーフハウスも多数用意してくれている。

 瑛ちゃんを逃がす用意も、守る用意も。

 

「ごめんなさい透、本当にありがとう。瑛ちゃんのことも含めて、正直すごく助かってるわ」

『いーのいーの、で、その代わりにちょっと欲しい情報があるんだけど』

「なに?」

 

 

 

『組織内部の案件で一つ、キール(・・・)に確認したいことがある』

 

 

 

『ひょっとして、そちらの組織ってもう常盤財閥に関与してたりする?』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

〇9月2日

 

 朝からメアリーやジョドーと延々悩んでいる。

 というのも、すんげぇ対応に困る依頼が来たからだ。

 

 ここまで対応に困る依頼も珍しい。

 うーん、どうしようか。

 

 本気でやるなら裏工作があれこれ必要なんだけど……あと警察内部での暗躍、あるいは公安に泥被ってもらうか……。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬ。

 

 

 

〇9月3日

 

 とりあえずまだ余裕はあるようなので後回し。

 メアリーとジョドーが色々手を考えてくれるようだ。

 

 にしてもメアリー、最近すごく砕けて来たけどやっぱオンオフの出来る人ですわ。

 仕事モードに入ると容赦なく脛やら尻を蹴り飛ばして来る。

 

 あれ? 仕事?

 

 まぁともかく、裏仕事は任せろという事なので表に専念する。

 シンシアさんの件は今の所前向きだ。

 イエス・ノーの話ではなく待遇、条件のすり合わせか。

 

 断れば一生塀の中って可能性が高い中でキチンとすり合わせが出来るって時点で、能力は信頼できる。

 素質があって向上心があって油断したら食おうとしてくる。パーフェクト。

 

 もし俺の下についてくれることを是とするなら、直属でカゲ一個小隊くらい預けていいかもしれん。

 

 

 

〇9月5日

 

 今、例の組織の内部にいる協力者は怜奈さんだけだ。

 そしてやっぱりそこがネックになっている。

 

 以前ジョドーが組織内部への潜入工作計画を立てていたのだが、その時は足場固めに全リソース使いたくて待ったかけたんだけど……うむぅ、判断は間違ってなかったと思うけど、もしあの時こうしてれば――っていう変な後悔がある。

 

 ともあれ、枡山さんが動いているなら今がチャンスだ。

 例の案件も含めて、そろそろ黒の組織への対策を進めてもいい段階かもしれない。

 

 

 

〇9月6日

 

 なんか面倒な所から微妙すぎるレベルの圧力がかけられている。

 調査した所、出元は大木(おおき)岩松(いわまつ)だった。西多摩市市議の。随分前にマリーさんに執拗に警護依頼出した挙句に『いくらで寝るんだ?』とか馬鹿な事抜かしてきたエロ親父じゃねぇか!!

 

 こんなんでも市議会議員とか笑えねぇ。

 というかマジでなんで仕掛けてきた?

 思い当たる節がまったくねぇ。

 

 俺が岩松と今絡んでいる接点があるとすれば、常盤財閥か。

 美緒さんがえらい強引に進めているツインタワービルの案件、確かあのエロ親父があれこれ裏で手を回していたハズ。

 裏取りまではしてないけど、建築関連の強引な条約改正を考えると賄賂とかもあったんだろう。

 だけど、それにウチは当然関わってないし……。

 

 ……他になんかあるのか?

 とりあえず、調べさせよう。

 

 にしても、西多摩市とはなんか変な因縁あるなぁ。

 

 

 

〇9月7日

 

 美緒さんとは確かにここ最近、事業やらなんやらで会う事多かったし食事もしたしちょっと二人で会うこともあったさ。うん、美緒さんの部屋で二人で酒飲むこともあったさ。

 あったけどお前それで嫉妬してしょーもない実力行使ってマジかよ。

 ちょっとでも俺の足引っ張ってやろうとしたってお前それでよく市議会議員になれたな。

 ……いや、だからなれたのか。

 

 ついでにマリーさんの時の逆恨みも入ってたんだろうな。

 

 いかん、ちょっとマジで眩暈がしてきた。

 普段ならちょっとした反撃企てる所だけど、今それどころじゃねぇんだよなぁ。

 あんのクソ親父、今日の所は見逃してやるが覚えておけよ。

 

 ……いや、その前にほどほどにしとけよ?

 小五郎さんみたいになんだかんだ一線保ってるスケベ親父は8割見逃されるだろうけど、マジで手出しするタイプのエロ野郎は死亡フラグだぞこの世界。

 

 ちゃんと合意取りなさいよね……。

 美緒さんもうんざりしてたんだから……この前部屋に呼ばれて飲んだ時は愚痴止まらなかったんだぜ、アンタの。

 あの人のせいでもあるんだけどさ。

 

 こう、何ていうんだろう。

 美緒さん、強引な手段を使う割に脇が甘い所あると思う。

 

 この間も、高名な日本画の先生の絵を買い占めてから高値で売りつけてたんだよなぁ。

 それって色んな方向のヘイト買うから悪手だと思うんだけどなぁ。

 しかも、この間酔いが回った美緒さんがポロッと溢してたけど、その人自分の日本画の師匠とか言ってたし……。

 大丈夫かね。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 今の浅見探偵事務所が動く仕事というのは基本的に二つ。

 対応に当たる警察官に大量の殉職者が出かねない大きな事件・案件への捜査、介入と、政治的な問題で表に出せない事件の解決と言うか調整、あるいはそのための関係機関のバランサー役だ。

 

 稼ぎ的にはこれで8割近くになるのだが、仕事の内容的には偶然出くわす一文にもならん事件の解決が仕事の5割っておかしいと思うんですよ、俺は。

 

 いやまぁ、ちゃんとした依頼の仕事に行って依頼人死んでた時に比べれば万倍マシなんだけどさ。

 そういう時ってなんかこう――してやられた! って気持ちになって悔しさが凄まじい事になる。

 

「というわけでですね安室さん……。以前アイデアだけ出して都内だけで試験運用するつもりだった交番と一体化させたコンビニなんですが、都もそうなんですがその他道府県の一部からすんごい誘致が来ておりまして……」

「警察官の数が変わるわけではないのにですか?」

「まぁ……警察官と同時に、ウチで訓練受けた相談員も常駐することになりますし……なにより治安維持に関して明るいニュースをちょっとでもって所でしょう」

「治安に関わるニュースがそもそもないことが一番の明るいニュースなんですがね」

「いや、まったく……」

 

 ここ最近、恩田さんとセットであちこち回ることの多かった安室さんも、行政から警察から上げられてくる検挙率やら未決率を知っちゃってるから一緒に頭を悩ませる組に入っている。

 

 うんうん、こうやってこっち側の問題に真面目な対処考えているんならやっぱ大丈夫だろう。

 白――というよりノット黒確定。

 

 出来ることならば公安に裏取りしたいんだけど、ここで風見さんにカマかけて情報引き出すと、こちらの推理通りであってもなくても遺恨を残しかねない。

 

 それはノー。断じてノー。

 風見さんみたいな愛されキャラの雰囲気が変わった日にはやべぇ事件の前触れか、それとは違うやべぇフラグが立つ日だから可能な限り避けるべき。

 

「所長、越水さんの調査会社の拡大はどうなっています? いえ、一応先の月末報告会で聞いてはいるのですが……」

「自治体から急かされている、いわゆる都市部が最優先。それに加えて札幌支社と博多支社を急がせているけど……さすがに本社みたいに警察のバックアップに入れる程には……」

「まぁ、そこまでいくと最低でも山猫レベルの人員が……せめて各支部に10から15人くらいは欲しいですからね」

「うん」

 

 人員に当てがない訳でもないんだけど、そういうのは大抵東欧やカリオストロの守りについてもらってるんよなぁ。

 

「安室さんは部長職についてもなんだかんだ現場出てますよね。現場対応に当たっている警察官の様子はどうです?」

「……全員もれなく瀕死、かな。殺人や強盗で忙しい一課はもちろん、詐欺や横領、最近だと通貨偽造も増えて二課の人員もボロボロに。他の課も同様ですね」

「……そういや青子ちゃんが、この前お父さんが点滴受けたとか言ってたな」

「あぁ、先日新しくアルバイトに入った女の子ですよね。話してましたよ、お父さんの元気がないからキッドに現れてほしいとか」

 

 おぉう、そんなレベルか。

 確か青子ちゃん、大のキッド嫌いだったハズなのに。

 

「家で中森警部がボヤいていたそうです。キッドの犯行は難解だけれど悪質な物を感じなくて元気が出るとか」

「……警部」

 

 いかん、目頭が熱くなってきた。

 青子ちゃんの了解取って、また家にお邪魔するか。

 ついでにおかゆセットみたいな、胃に優しい非常食を補給しにいこう。

 本当は良くないけど、なんとか裏で警察の面々にも補給しておきたいんだけどな。

 

 最近じゃあ銃撃戦も増えてるから、せめて警視庁のパトカー一式をウチの装備並みに改修してやりたい。

 せめて防弾仕様にして車やそのドアが盾として使えるレベルには……。

 

 この間の都内の強盗騒ぎとか、それで銃弾がドア抜いちゃって千葉刑事が被弾したらしいからな。

 

「……そうだ所長。仕事用の所長の専用車、改修が完了したと先ほど小沼博士と話していたんですが、報告は上がってますか?」

「あぁ、阿笠博士から上がってる」

「……まだどこにも販売されていない次世代高級車の改造機とは……メディアが嫌な騒ぎ方しませんか?」

「今はまだないけどその先に絶対登場する車っていうのが、なんかピンと来てね。で、それを仕入れて阿笠博士たちに改造頼んでたのさ」

 

 営業の人が見せてくれた資料見てデザインが気に入ったからってのもあるけど。

 報告も十分。自衛隊に頼んでロケットランチャー含めた実弾しこたまぶち込んでもらったけど中のマネキンは無傷だったし普通に走れて、ちょっとした整備で完全に元通り。

 パーフェクトだよ博士。

 

「車としての防弾性は当然、ノアズアークとのリンクに指揮車としての通信設備もあるし電子戦も可能。探偵事務所のフラッグカーとして申し分ないです。強いていうなら燃費だけどこればっかりはおいおい改修を重ねて――」

「所長、探偵事務所に防弾とか電子戦といった言葉は普通使われないってご存じですか?」

 

 ハハッ、ナイスジョーク。

 そういうものがないと、普段から周辺で動きまわってる各国諜報機関の動きに対応できないし、突発的に起こった銃火器犯罪やらに対処できないじゃない。

 だから俺とか安室さん始め正規所員の皆は、巻き込まれた民間人の盾になってるじゃん。何度も何度も。

 だから毎回毎回公安や政府の動きを調べてるスパイに欺瞞情報流したりする防諜作戦展開してるんじゃない。

 

 ねぇ、安室さん?

 薄々同意してますよね安室さん?

 ねぇってば。

 

 …………。

 

 目を泳がせるんじゃない。

 

 何度も一緒に銃弾の雨を潜り抜けて体に穴空けまくってきた仲じゃない、んもう。

 

 ……いや穴空いたの俺だけだったわ。安室さんはあの弾幕の中で無傷だったわ。

 やっぱ超人はモノが違うわ。

 

「あー、それでですね」

「なにか他の人間に言いにくい仕事があるんだろう?」

 

 おっと、兄貴モードに入ったか。

 …………。

 うーん……。

 まぁ……よし。――よしとしよう。

 

「そんなとこです。えらくやっかいな話で……」

「だろうな。執事たちを使って盗聴関係が決してないように念入りにクリーニングしていたようだし?」

 

 ……。うん。

 盗聴を意味するハンドサインを送ってみると、迷わずOKサインを出してきた。

 

「というわけで、一仕事お願いしたいんですよ。ねぇ」

 

 

 

――バーボンに。

 

 

 

 一か八か、札を切る。

 安室さんは涼しい顔のまま、

 

「どうしたんです? まさかここまでしてこっそり飲みの誘いですか?」

「んや、普通にそのまんまの……うん、安室さんが今思った通りの意味」

 

 もう、ここで安室さんを完全にこちら側に引き抜こう。

 このままズルズル謎の存在のまんまにしておくと、味方かどうか確認するための妙な事件だかトラブルが発生して長引いた挙句に余計な回り道することになるんだ。主にコナン主導で。

 それ自体はいいんだがよくない。

 なんのために俺が頑張ってるんだかわかんなくなっちまう。

 

 つじつま合わせのシナリオは後で考えればいい。

 大事なのは、ここで俺が撃ちまくられようが刺されまくろうが一歩進むことだ。

 

 毒はまぁ……アレで。

 例のアポトキシンとやらはわからんけど、どうも今の俺は毒効かんっぽいしなぁ。

 

「組織内部にもう人は入れてある」

 

 まぁ、玲奈さんことキールのことだけど。

 

「ただ、今回俺が打ちたい手には足りない。幹部クラスの助けがいる」

「よく分からないな。仮に僕がその……なんだ、組織? の幹部だとして、僕にどうして欲しいんだい?」

「いやぁ、実はですね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おぉう、安室さんが頭抱えてらっしゃる。

 ……いや、よくよく考えると――考えなくてもこれいつも通りの光景だな。

 

「その話をよくここで俺に振ったな」

「まだ時間に猶予があるしと色々タイミング考えていたんですけど、これ以上考えていてもズルズル引きずるだけかと思いまして。はい」

 

 はい。

 

 黒づくめの幹部なのは確定だけどほぼグレーよりの白だし、ここで明かしておけば少なくとも今回は動かざるを得なくなるだろうし。

 まぁ、あの、ちょうどいいかなぁって。

 

「公安――というか風見刑事にはこれから協力を要請するので、その後細かい所を詰めていけたらと」

「……事情は分かった。……確認するが、ここの防諜体制は」

「ジョドーの腕前を信じていますよ」

「忠誠心に関しては?」

「聞くまでもないでしょ」

 

 例の組織の目的は分からないところが多いけど、生産的な連中ではない。

 そういう意味でジョドーの目的から最も遠い組織だ。

 仮に裏切るつもりだったとしても、この情報を売る相手としては一切旨味がない。

 

 それに周囲にジョドー達の気配は感じない。

 完全に人払いを済ませているのは間違いない。 

 

「で、どうします? 俺の事も含めて組織に話します?」

「そうしたら今の大混乱状態に、さらにお前の全戦力が投下されるんだろう? これ以上日本を引っ掻き回さないでくれ」

 

 本気で困ってる様子がおかしくて笑ってたら頭はたかれた。

 痛いて。

 

「……透」

「はい」

「僕は……ある犯罪組織の幹部だ」

「知ってます」

「君の敵だ」

「知ってます」

「ここの情報を組織に流していた」

「知ってます」

 

 ほとんどが重要度がそこまでじゃない情報ばっかってところまで含めて玲奈さん経由で確認済みです。

 

「時によっては裏切る事もある」

「知ってます」

 

 変なタイミングで裏切り躊躇って、安室さんが組織の連中の粛清対象とかになっちゃう方が怖いんでバッチ来いです。

 一応こっちも許容範囲は常々言っているから問題ないですよね? 調整できますよね?

 七槻たちや高校生組、子供たちに手を出さなきゃ問題ないんで。

 

 遠野さん達新入りも含めてやってる俺たちの訓練の意味は、本当の意味で最古参の安室さんが一番知っているでしょ。

 

 知識面の座学や実技にくわえて、顔に水ぶっかけられながら筋トレ10セットとか海風吹きすさぶ浜辺で海水ぶっかけまくってひたすら耐える訓練とか、吹雪の雪山を緊急用GPS含めた10kg近いフル装備背負って歩いたのや、ナイフ一本で湿地帯を横断したのはなんのためかと。

 

 いざ起こるだろう想定外の事態において単独でも慌てずに、最低でも他メンバーが到着するまでの時間稼ぎができるようになるための訓練じゃないですか。

 

 一番の新入りで閉所恐怖症の弱点持ってる遠野さんでも、仮に安室さんが裏切って何か仕掛けても無抵抗でやられるような新米探偵じゃあとっくにないんですよ。

 

 なぜか訓練全部に自主参加して全部クリアしてる真君?

 うん。

 

 まぁ、そんな人もいるよね!

 

「……透」

「はい」

「それでも俺を頼るのか」

「真っ先に思いついたのが安室さんだったんで」

 

 玲奈さんは完全に利害が一致しているわけではないし、基本的にこっちサイドに引きずり込んではいるけど不安要素がないわけではない。

 赤井さんがいても、死んだことになっているあの人を派手に使うわけにはいかないし。

 

 うん、最古参ってことも含めて安室さんしかいねーわ。

 

 おぉう、もはや見慣れた深いため息。

 

「それで?」

「はい」

「俺の役割は、公安と協力しての裏工作だな?」

「そうです」

 

 

 

 

「ちょーっと、組織から抜け出したいとおっしゃる方が、ウチに泣きついてきてるので……」

 

 




作中に出てきた組織名は基本的にルパン三世シリーズに出てきたそういう組織で御座います。


浅見透専用の社用車のイメージはルパン三世part4(あるいはイタリアン・ゲーム)にてニクスが乗っていた車、調べたらBMWi8という事でしたので、この世界にはまだ存在しない、企画とデザインのみの車を阿笠博士を始めとするチートの力で実現させた上で魔改造した――という形にしました。
そして人工知能ノアズアーク装備、というかリンクしています。



ナイトライダーでは断じてない。
ないったらない。


なお、今回の登場人物は大体が劇場版キャラですので折を見てまとめてやります。
一応、スケベ親父は随分前……世紀末の魔術師編の始まり辺りの小ネタでちょいと登場


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