平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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1日でこれだけ書こうと思えば書けるもんなんだ……(汗)

感想でしばしば言われていた探偵事務所の様子などを別キャラ視点で書いてみました。
ノリと勢いで書いた作品でもあるので深く気にしないで頂けると幸いです(汗)


015:幕間 ―探偵事務所の日常―

 事の顛末を話すと、ベルモットは車の助手席で上機嫌に笑い転げていた。

 

「それで……貴方達のせっかくの休暇を潰した殺人事件も解決というわけ?」

「えぇ。まったく、あの事務所にいる人員の能力は侮れないモノです。越水七槻、中居芙奈子。……二人とも素晴らしい探偵です」

 

 普通ならば、この女にこんなに親しい人間の話はしないのだが……。自分も迂闊なことをしているという自覚はある。だが同時に、この女は浅見透を敵になる可能性がある人間として見ていない気がする。論理的な根拠は一つもないが、割と合っている気がするのだ。

 この女が事務所に送ってきた花束の中に、アクセントとしてアゲラタムという花が添えられていた。

 この花は日本では育ちにくく、冬前に枯れてしまうので、園芸用に改良されたものを春ごろに蒔き夏ごろに開花する小さな花――要するに生花店で普通に注文しても、まず花束には使われない花だ。アゲラタム。ギリシャ語で『老い知らず』という意味の花だ。そして、その花言葉は――『信頼』。

 

(彼女は一体、彼の何を信頼しているのか……あるいは、何に対して信頼を求めているのか……)

 

 この一月、彼の部下として働いているが、本当に彼は興味が尽きない。

 あの『スコーピオン』と対決した夜。あの暗闇の中での正確な投擲。

 一撃目で拳銃を狙って武器を奪い、二撃目で利き足を正確に攻撃して勢いが落ちた所に真っ直ぐ突き抜けての攻撃。最後の詰めは甘かったが……いや、そもそも評価すべきはそこじゃない。あのブレーカーが落ちる前に見せた異常なまでの勘の良さ。あそこで暗闇に対してあんなに早く暗順応をするなんて、そういった訓練を受けていたからとしか思えない。キールから聞いた、カルバドスの話がそれを裏付けている。

 加えて、徐々にだが彼は影響力を強めていっている。事務所を開業してから広がっていく人脈、彼自身の有能さ、なにより見え隠れする鈴木財閥との関係。中には鈴木次郎吉相談役の隠し子、隠し孫なのではないかという噂も広まりつつある。

 浅見透の両親が亡くなっていて、それより前の血縁がハッキリしないのが手伝っているのだろう。まぁ、あくまで噂。せいぜいほんのささやかな悪口のスパイス程度に終わるのがオチだろう。

 

(両親がいないから……かな)

 

 彼が小学4年生の時に両親が事故で他界。以後、引き取る親戚もおらず施設に預けられている。一時期行方不明の期間があるのが気になるが……。

 

「ベルモット、貴女が彼を赤井に似ていると評した理由がよく分かりましたよ。性格、言動、その他もろもろ、赤井と彼は全く似ていない。けど――」

 

 あの得体の知れなさは確かに、と思う。

 

「一緒に仕事をしていてどう?」

「そうですね……まだ二十歳とは思えないくらいに有能だというのは間違いないですね」

「探偵として……かしら?」

「いいえ、探偵としては……まぁ、優秀な方とは言えますが、越水さんの方が優秀でしょう」

「へぇ?」

「ですが、助手――サポートとしては掛け値なしに優秀なんですよね……」

 

 異常なまでの勘の良さ、観察力、行動力、構築しつつある人脈と、それを使う手腕。

 残念なことに単独では答えにたどり着く所まで行かないが――誰か一人。一人、推理力を持つ人間が傍にいれば、あっという間に事件が解けてしまう。先日のナイトバロン事件の時も、居合わせた毛利探偵や自分達探偵事務所の面々を使って、的確に情報を集めたのは間違いなく彼の功績だ。

 空手の達人である蘭さんの攻撃を、犯人らしき人物が全てかわしたという話が入って来た時も、彼は動じずに多方面から事件を見ていた。

 

「楽なんですよね、一緒に仕事をしていても……一緒に酒を飲んでいても……。それに、後数年経験を積めば、それこそ本当の名探偵になりますよ、彼」

「あら、本当に彼を買っているのね」

「えぇ、それはもう――貴方と同じですよ、ベルモット」

 

 今ベルモットは、あの時自分が撮った写真を見ている。事務所の面々や、途中合流した毛利探偵たちの写真……さすがに遺体の写真は警察に提出したが、捜査中に撮ったのも入っている。彼女が興味を示したのが少々意外だったが……よくよく考えれば浅見君にはかなり執着を見せていた。

 

「……ねぇ、バーボン?」

「なんですか?」

「この写真、いえ、他にもいくつか焼き増ししてもらえないかしら?」

「……本当に珍しいですね。別にかまいませんよ?」

「フフ、ありがとう」

 

 彼女が指定した写真を横目で確認する。

 

「えぇ、この子もすごい優秀な子でしたね。実質、彼と浅見君で事件を解いた様なものです」

 

 写真に写っていたのは、二人の男――いや、男が一人と少年が一人、というのが正しいだろうか。

 我らが浅見探偵事務所の所長、浅見透と、毛利探偵事務所の居候、江戸川コナン君。

 あの事件を解くきっかけとなった壊れた万年筆を見て、二人して――悪戯小僧の様な不敵な笑みを浮かべているその写真をベルモットはじっと、宝物を見るような目で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「おはようございます所長。さっそくですが、こちらが緊急性の高い御依頼になります」

「ありがとう、穂奈美さん」

「所長、お茶はこちらに」

「美奈穂さんもありがとう。……これは安室さんに頼んで、これは俺、こっちは越水……よし。ふなちー、これお願ーい」

「はい、かしこまりました! いつも通り、毛利探偵事務所に紹介しておけばいいんですね?」

「こっちで向こうにFAXで書類を送っておくから、スケジュール調整は任せるよ。向こうがだめだったら……そうだな、ダメだったら槍田さんの所当たってみて」

「はい、それでは行ってきます!」

 

 下笠さん達が来てからは本当にふなちさんも元気になった。最近では毛利探偵事務所や他の探偵さんとの連絡や調整を主な仕事にしている。普段はエキセントリックな彼女だけど、やっぱり優秀なんだよなぁ。

 

 元気に事務所を出ていくふなちさんを眺めながら、僕は自分のデスクにつく。

 奥の所長席には浅見君が座って、その肩には源之助が座っている。

 傍には下笠――今日は穂奈美さんかな? が控えていて、お茶やお菓子を出している。僕やふなちさんの席はもちろん、今日は昼からこっちにくるという安室さんにはまだ出されていないが、事務所に来た瞬間に美味しいお茶とお菓子を出してくれるんだろう。

 美奈穂さんは接客用の備品を確認したり、テーブルをしっかりと磨き上げている。

 

 今日もいつも通りの事務所だ。――いや、安室さんがいないから、完全にいつも通りってわけじゃないか。

 

「あ、そうだ。今日は少年探偵団も来る日じゃん。穂奈美さん――」

 

 壁に掛けられたスケジュールボードを見て、浅見君が声を上げると、すぐに穂奈美さんが内容を察して返答する。

 

「はい、すでに皆様の分のランチボックスは用意してあります。それと、少年探偵団の皆様に手伝っていただく仕事……警視庁のこども防犯キャンペーンへの協力ですね。こちらは、私達が車で送迎いたします」

「悪いね。前もって御両親にはパンフで説明しておいたけど……。もう一度こっちで電話しておくか」

「所長、探偵団員のご自宅の電話番号はこちらになります」

「ん」

 

 もうすぐ7月も終わる。浅見君がスコーピオンの事件に巻き込まれてからドタバタする形で開業することになった探偵業だけど、どうにかこうにか順調な流れになってきた。空いている金食い虫の2階のテナントをどうするかが問題なわけだが……浅見君が相談役と昨日、飲みながら話したらしいけど、ここを手放すことは許さないらしい。

 ……浅見君の適性を見るためかな? ただ広いだけのテナントは、言ってみれば真っ白いキャンバスの様なものだ。元々探偵の助手だった浅見君に探偵事務所以外にどんな絵が描けるのかを試すつもりなんだろうか?

 まぁ、今月の締め日に計算をして、予算案をある程度考えてからの形になるんだろうけど……

 

「浅見君、新しい人員はどうする? 今は夏休みだからいいけど、このままじゃ学校始まった途端にまたあの地獄になっちゃうよ?」

「そこだよ、そこなんだよ……。マジでどうすっかねー」

 

 浅見君も悩んでいるんだろう。何枚か履歴書が郵送で届いているのは知っているが、彼にはピンと来なかったらしい。最近では、あの江戸川君も仕事を手伝ってくれているが……これ、児童労働にならないよね?

 いや、そもそも彼と浅見君で仕事に行けば二回に一回は殺人事件とか誘拐事件だし……本当にこれ問題にならないよね? 

 ま、まぁ……おかげで浅見探偵事務所も名が売れて、今では毛利小五郎と人気を二分する名探偵扱いである。ここ最近は雑誌やテレビの取材も多くなっている。本来は断りたいところだが、テレビ局の関係者はウチのお得意様でもあって、断れない。この間なんて、とうとう安室さんや私までテレビに出てしまった。安室さんも「まいりましたね」なんて苦笑いをしていた。……私も変な風に映ってなければいいけど……。

 

「そういえば安室さん、またスカウトされてたね。今度はCMに出てみないかって」

「おのれイケメンめ! 絶対に許さん!!」

「……安室さんが辞めるなんて言い出したら」

「足にすがりついてでも止めます」

「だよねー」

 

 今も正直、安室さんのことは疑っているけど……。ここまで真摯に浅見君を支えてくれているのは間違いなく彼だ。……ちょっと悔しいけど、多分浅見君も彼を必要としている。

 

(それと……江戸川君)

 

 事件に関われば関わるほど、彼の特異性が露わになる。いくらなんでも小学生にしては優秀すぎる。

 浅見君と安室さん、そして江戸川君の三人がそろった時に殺人が起きた時なんて、すごく安心して見ていられる。これは今日中に解決するなと考えてしまうだろう――本当に解いてしまう辺りが頼もしすぎて性質が悪い。

 ついこの間は、偶然誘拐事件に遭遇したが酷い物だった。娘を誘拐された父親が、病院に入院していたある男を殺すように脅迫されていた事件があったが、江戸川君と安室さんが気付いた時点でもう犯人は詰んでいたと言っていい。

 父親の監視役だった二人は安室さんと浅見君が瞬く間に制圧。近くのデパートの屋上で人質と一緒にいた女は、江戸川君のよく分からない威力のシュートで吹っ飛ばされていた。

 思わず合掌してしまったのは、割と正しい反応なのではないだろうか。

 

 あれ? 考えてみればあのシュートもおかしいよね。地上から屋上まであの威力のシュートなんて子供には……いやいや人には出せないよね? あれ? 江戸川君ってあの年でもう人間辞めてる?

 

「どしたの越水? 変な顔して」

「あ、うぅん、なんでもない」

「…………なぉぅ?」

 

 浅見君と、最近ではこの事務所のマスコットになりつつある源之助が僕の顔を覗き込んでいる。

 拾った当初は毛が伸び放題でボッサボサの白猫が、今ではトリミングしてすごいスマートな猫になっている。事務所にいる時はよく肩に乗っているから、雑誌の記者も面白がってその時の写真を良く使っている。

 雑誌かぁ……。ほんの数ヶ月前までは、こんな生活になるなんて思ってもみなかったな。

 

「ま、予定通り週末には四国に行けるだろ。さすがに他の面子は動かせないけど……ま、俺とお前の二人ならどうにかなるだろ」

「うん…………」

 

 そうだ、そのこともある。なんとしても、解かなきゃいけない謎。

 でも、その謎を解いた時に……僕は……

 

「越水、お前本当に大丈夫か? 顔色ワリィぞ」

「……うん、大丈夫。さ! 今日も仕事頑張ろう!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あ、浅見さん、いらっしゃい」

 

 夜の九時を回った頃に、事務所のドアがノックされた。この時間にお客さんが来ることは少ない。でも、ここ最近は週1でこの時間にいつも来る人がいる。新一の助手で、今は一探偵事務所の所長でもある浅見さんだ。

 

「おー、浅見ー」

 

 お父さんはソファに寝そべって、飲みかけの缶ビールを掲げて浅見さんを迎える。もう、行儀が悪いんだから!

 

「お、もう始めてましたか名探偵。どうです? ウチの職員がちょっとしたツマミを作ってくれたんですが」

「おぉ! あの双子のメイドか! あの二人の料理は美味いからなー! おう、そこに座れ浅見! 蘭ちゃん、ビール持ってきてちょーだい!」

「もう、お父さんっ……! すみません浅見さん、いつも」

 

 ここ最近、こっちが暇な時を見計らって仕事を持ってきてくれてる人なのに!

 

「あー、それじゃあ蘭ちゃん、これを冷蔵庫に入れておいて」

「本当にすみません、浅見さん」

 

 ここ最近は浅見さんがビールを持ってきて、入れ替えるようにこちらがビールをお渡ししている。

 ……本当に、今度何かお返ししないといけない。浅見探偵事務所の人達にはお世話になりっぱなしだ。事件の時も、コナン君が電話をして浅見さんに知恵を借りてる時もあるし、事件で困った時に居合わせた安室さんにも助けてもらっている。

 本当にどうやってお返ししよう。

 私が頭を悩ませている事になんてまるで気付かず、お父さんは浅見さんとビールで乾杯している。

 あ、いつの間にかコナン君も浅見さんの横でジュース飲んでる。もうっ!

 

「あ、蘭ちゃんもよかったらどうぞ。今日は美奈穂さんが作ったマリネです。サーモンとキノコ類がさっぱりしてて美味しいですよ? そこそこ量も多いですし」

「すみません、それじゃあお言葉に甘えて――」

 

 わぁ、本当に美味しい! 下笠さんとはあの伊豆の事件の後も何度か会ったけど、本当に料理が上手なんだ。越水さんにふなちさんも上手だったけど……。

 

「そういえば浅見さん、今日も仕事を紹介していただいてありがとうございました」

「あー、いえ。こちらも手が足りていないので、毛利探偵が受けてくれてこちらとしても助かりました」

 

 なんというか……同じ探偵事務所のトップでこうも違いが出るのかと思う。

 お父さんは確かに名探偵だけど、普段の姿を見ると浅見さんの方が立派な探偵に見える。向こうの調査員の安室さんや越水さんもすごい推理力で、この2か月でズバズバ事件を解決している。

 

「お、そういや浅見。あの綺麗なねーちゃんとは最近どうなんでぃ? もう振られたかー?」

「ふっはっは! 残念ですが小五郎さん、まだまだ縁は切れてませんよ。今度も食事に行く約束を取り付けています」

「かーっ! 本当にうまいことやりやがって、こいつぅ!!」

「? 浅見さん、誰とご飯食べるの?」

 

 コナン君が不思議そうな顔で聞く。うん、誰のことだろう? 話の流れからして越水さんでもふなちさんでもないよね?

 

「あぁ、そうか、コナンとは面識なかったっけ。浦思青蘭さんっていう中国からきた学者さん。ロマノフ王朝を主に研究している人だよ」

「ロマノフって……じゃあ、あのスコーピオンの事件で?」

「あぁ、七月の初めくらいにウチの事務所を訪ねて――話を聞きたいってね。あの後、展示会は中止になったからな……。展示される予定だった美術品のいくつかの話を聞きたいってなってな。そっからちょくちょく飯に行ったり、美術館に行ったりしてるんだ」

「ふーん……」

「はっはっは! 浅見、女は大事にしとけよ! いざとなると、女は怖いからなー!」

 

 へぇ、浅見さんモテるんだ。この間もアナウンサーの水無怜奈に似た人と歩いてたし……。

 そんな軽い人には見えないけど……越水さん、大丈夫かな。

 

「そういやコナン。少年探偵団、今日は大丈夫だった? 一応穂奈美さんから報告はもらったけど」

「あぁ、大丈夫大丈夫。ポスター用の写真撮影がメインだったし、その後地域企画課の人と――」

 

 本当に幅広くやっている事務所だ。園子から聞いた話だと、次郎吉さんが浅見さんの事務所が新聞に載る度に切り取って額に入れているらしい。本当に浅見さんを気に入っているんだろう。――逆に、相談役の道楽のおこぼれをもらった男って悪く言う人もいるらしいけど……園子のお父さん、お母さんも浅見さんに興味を持ち始めたらしいし、本当にすごい。

 気に入っていると言えば、最近はコナン君ともすごい仲がいい。江戸川君って呼んでいたのが、いつの間にかコナンって呼び捨てにしてるし、コナン君もよく浅見さんにくっついて仕事をお手伝いしている。まるで、本当の兄弟みたいだ。

 

「――て感じだったよ」

「……なるほどなー。穂奈美さんからも聞いてたけど、地域企画課の大沼さん、少年探偵団を気に入っててな。また変な頼みごとするかもしれないから、その時は頼むわ」

「わかった。あいつらも、変に事件に関わったりするよりこういうちょっとした仕事の方がいいだろうし」

「だよなー。あ、そうだ、阿笠博士にまたちょっと依頼したい事があるんだけど――」

 

 浅見さんと話す時、人目がある時はコナン君も丁寧な言葉を使おうとしているが、ふと気を抜いたら、まるで長く連れ添った友人のように話している。今がそうだ。

 

(本当に、仲良しなんだから……)

 

 お父さんに茶々を入れられ、浅見さんがお酒を勧めて、コナン君が呆れた目でそれを見ている。

 ここ最近は本当に良く見る流れだ。なんだか家族みたいな光景で、少しだけ焼きもちを焼いてしまいそうになる――と思ったら、まるで空気を察したように浅見さんが私に話を振ってくる。

 本当に、敵わない。

 

(……私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかなぁ……)

 

 お父さんがいて、私がいて、コナン君と浅見さんがいて……ここに、お母さんがいれば。

 

(そうだ、お父さんとお母さんの仲を取り持つの、今度浅見さんに相談してみよう!)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「今日は僕に用がある人が多いですね……どうかしましたか? 水無怜奈さん」

 

 ベルモットと別れたあと、昼から事務所入りして仕事を終えた時に、電話がかかってきた。

 キール……水無怜奈からだ。

 

「貴方の口から聞きたかったのよ。浅見君について、ね」

「貴方もですか……。今日はベルモットからもその話を聞かれたのですが……なんでも、もうすぐ一度向こうに戻らなければならないので、浅見君の話を聞いておきたいと」

 

 ベルモットの名前を出した瞬間、後部座席からわずかに衣ずれの音がした。

 

「……女は怖い。そうは思いませんか? カルバドス」

 

 

――チャキッ

 

 

「……その口を閉じてやろうか。――バーボン」

「ちょっと、カルバドス! バーボンも止めて!」

「すみません、ちょっとからかってみたくなって……」

 

 キールが間に入ったおかげで、後ろから感じる殺気が薄れていく。

 あのスコーピオンの事件以来、カルバドスは浅見透をより強く意識しているとは聞いていたが……ここまでとは――

 

「カルバドス。一応仲間として忠告しておきます。常に冷静でいないと足元をすくわれますよ……彼なら、尚更。――浅見透、今は敵じゃあありませんが……今回彼は、財閥という大きな力を味方につけました。もし彼と敵対する日が来るとしたら、その時はより大きな力を率いているでしょう」

 

 これは間違いないと確信している。彼が一体どのような仕事を重視するかで、彼が何を求めているのかは推理できる。目先の金ならば単純に効率のいい仕事を、人脈ならば高名な依頼人を優先するように、大体の流れというモノが見えてくる。

 では、彼は? 浅見透の目指す物は?

 

(おそらく、最終的に目指す物は……巨大な情報網、あるいはそれ以上の何か)

 

 彼は基本、キャパ以上の仕事は受けないか後回しにしているが、警察関係の依頼はどんな小さな物でも必ず受けている。今日もそうだ。厳密には彼が受けたわけじゃないが、少年探偵団を説得して警察の地域課の仕事を手伝わせた。それも、ほぼ無料に近い形で。警察との間に友好関係を築こうとするのはおかしくないが、彼の場合は相当重視しているのが分かる。後は病院関係者や、テレビ局関係者――特に報道関係者は、水無怜奈であるキールを通じてこまめに顔つなぎをしている。鈴木財閥からの依頼も当然受けているが、傍で見ていてそこまで熱意はない様に思える。

 

(報道、マスコミ関係から始まり、警察や病院。それも特定の部署などではなく全体的に……彼は、何かを調べるための環境を整えようとしていると見ていいだろう)

 

 政治絡みの依頼はまだないが、もしこれから先そのような依頼を受けた時に彼がどう動くのか、今からすでに興味を惹かれてしょうがない。

 

(そして、もう一つ気になるのは……彼がどんな依頼を受けていても必ず優先するもの――)

 

 『彼』から電話があった時は必ずそっちを優先していた。どんなことがあっても、だ。

 さすがに全てを放り投げるわけではないが、張り込みなどの拘束される仕事の時は、常に自分や越水さんを傍において、『彼』から電話があった時はこちらに任せて、浅見透は必ず彼の元へと駆け付けている。――本当に、なにがあっても……

 

(……江戸川コナン君……か)

 

「本当に……当分は退屈しないで済みそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おっと忘れてた、名前だけの登場ですが新キャラ紹介!

○槍田 郁美(そうだいくみ) 29歳
File219 集められた名探偵! 工藤新一vs怪盗キッド
30巻file4-7

名前だけなら劇場版にも実は出ている、名探偵の一人。元検死官の美人さんです。
元検死官らしく、ルミノール等の検死に使う薬品を常に持っているという鑑識みたいな活躍をした人です。
この人とか、同時に登場した茂木さんとかもっと出番あってもいいキャラだと思うんだけどなぁ……。
この世界では、7月の間に一度出くわして連絡を取り合っているという事になっております。

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